表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/25

職人犬、第四部隊の「華火」大作戦(第四部隊副隊長ハスキー 視点)

「爆発ばかりで飽きました」




 それは演習場で子犬隊プッピーズが、仮想敵りゅうじんを模した巨大な張りぼてを倒した時でした。


 リーゼロッテ女王陛下が、ぽつりとおっしゃったのです。

 「男の子は好きなのでしょうけど。ただ物を壊すのを見ても、面白くありません」と。


 犬人の耳はどんな告げ口も悪口も、ご主人様のどんな愚痴も逃しません。

 特にマラミュート隊長は愕然として、アーモンドの目を見開いておりました。


 確かに男の子は、爆発が大好きですけど!


 元第五部隊隊長の白い悪魔マルチーズに先導され、あの駄犬を連れてトコトコと去っていくご主人様を、我ら第四部隊はしっぽを萎ませて見送るしかなかったのです。




 女王陛下が去った後、真顔(当社比)のマラミュート隊長が突然言い出しました。


「ハスキー。女の子に受ける爆発って何だ」

「女の子に受ける、ですか……?」


 これでも我々は、職人犬オタク

 自分の好きなことしか興味がないので、全くもってモテません。

 なので、女の子と付き合ったことのある隊員はとても少ないのです。 

 私とマラミュート隊長は、もういい年なのですがね。


 隣にいたビーグル主任技官とダックスフンド技官に視線を向けると、必死に首を振っています。


「女子受けなんて分かりませんよ! 分かったら僕らはとうに人生の春ですよ! 彼女が欲しいですよ!」

「女になんて受けなくたって。ぼくらにゃあ、穴掘りがあるじゃないですかっ」

「やめてダックスフンド! そんな青春嫌だ!」


 つまり、アイデアはない、と。

 他の隊員も困った顔をしています。


 マラミュート隊長は足元に並べられた、戦車の砲弾を取り上げ、導火線をリボンにして結びました。


「どうだ?」

「どうだって……」

「女の子が喜ぶだろう?」


 ああもうダメだ。

 私はそう思いました。




 こんな時には、あの方に聞くしかありません。

 王宮の第一食堂の片隅。

 私は今日の定食とっておきの風船プリンを差し上げ、高貴な方に頭を下げました。

 風船プリンとは、小さな風船の中にプリンが入っていて、フォークで破ると真ん丸プリンがころりと出てくる、とても犬心を刺激する人気のプリンです。


「女の子が喜ぶ爆発ですか?」

「はい。貴方なら分かると思いまして」


 手にした真ん丸プリンを、優雅な手つきで一瞬で食べてしまった彼は言います。

 

「そんなことをしなくても、いつも女性たちが私を喜ばせようとされるので分かりませんね」


 聞いた自分が馬鹿でした。

 というかモテすぎだ、ボルゾイ。もげろ。プリン返せ。




 私は新しい無線機の実験をしていました。


「あーあーあーマイクテスマイクス。女の子受けの爆発プリーズテステス」

「爆発ってナンデスカー、マイクテスマイクテス」

「実はーかくかくしかじかーテステス」

「ならば簡単でしょうテステス。—————色を付ければいいのですよ」

「色?」


 マイクの先のグレイハウンド隊長が教えてくださいます。

 どうやら、爆発した時に火に色を持たせればいいのだと。

 綺麗な火なら、女子受けも悪くないはずとも。


「帝国の通信用に作られた技術だよ。炎色反応を利用して色を付けられると、結構綺麗でね」

  

 そして、帝国のスクラップ記事とフィルムを送ってくださいました。


 さすがは暗号のプロで、個人的に世界中に現地記者スパイを置いているグレイハウンド隊長!

 最初から彼に聞けば良かったのです。

 うっかり「女の子向け」という響きに怯え、相談する相手を間違えました。


 通信用の技術といっても、火薬を利用した技術。

 早速マラミュート隊長に相談に行きました。


 こっそり隊長室で大司祭と料理長に怒られそうな「ワンコスターラーメン(子供大好きジャンクフード)」を啜っていた隊長が、口端に麺をくっ付けながら興奮して言います。


「ハスキー。グレイハウンド。君たち天才だね」




 そうと決まればさっそく開発です!

 実験室に集まり、第四部隊で犬知恵を出し合って進めていきます。


 我々の目の前にあるのは、第五部隊に頼んで盗み出してもらった帝国の通信用の火薬です。

 ゴロゴロと転がるそれは、丸い玉の中に火薬が詰め込まれているようです。

 フィルムを見る限りでは色は黄色と青緑が主体。混ぜられたのはナトリウムと銅でしょうか。


 試しに小さく丸めた火薬に、金属の粉を混ぜると色が付くのを確認しました。


「どこまで爆発していいの?」

「そりゃあ大きければ大きいほど、綺麗じゃない?」

「ワンコスターラーメンにリーゼロッテ様味が出たらしいぜ」

「どうせ爆発して飛び散るなら、綺麗な放物線を描いたほうがいいよね」

「骨の形にしたいなあ」

「最近入ったシープドックちゃん可愛いよな」

「色って何色が作れるのさ」


 話が色々飛んでいますが、皆の手元は動いています。

 脱線しながらも、大きな紙にさまざまな理論が落書きされ、試作用の設計図が次々と作られていきます。


「ちゃんと打ち上げてから爆発するの? 打ち上げた瞬間にその場で爆発しない?」

「微量の調節は砲弾の職人にお願いするか」

「力学的に考えて、爆発する範囲を押さえた方がいいよね」

「俺、アイドル犬シールチョコでレア出した。握手券も入ってた」


「「何?」」


 完全に、全員の手が止まりました。

 ある問題発言を起こした犬に注目が集まります。


「まじで? なんでお前が当てられるんだ?」

「ウラヤマ! なんだよ、それ。おれ100000ワンコ使っても出なかったんだぞ!?」

「ハイデガー秘書官に教わったんだよ。レアガチャには法則があるとな」

「すげえ! 流石は陛下の義兄だったことがある!」

「あの人半端ないよねえ。おれ、弟子入りしようかな」

「止めとけ止めとけ、あの人は生粋のギャンブラーだ。半端ない悪運を真似しようとしたら身を亡ぼすぞ」


 わんわんわんわんと、今、第四部隊開発部は完全にアイドル犬で頭がいっぱいです。

 これは完全なる脱線です。

 

「皆さん、仕事をしましょう。アイドルよりも陛下ですよ!」

「「そうだった! アイドルよりも陛下が可愛い!」」

「笑うとしっぽが丸まるほど怖いけど!」


 そうそう。






 ようやく試作品が出来たので、子犬隊の連中に頼んで試し打ちです。

 

 発射を担当するのは、何度も戦車を奪われたことがある上に、第五部隊のお仕置きを受けてもピンピンしている不死身の隊員二人。

  

 一人はバケツ一杯の試作品を抱えて、一人は演習場の真ん中に発射台をセットします。 


「ご主人様のためならー」

「えーんやーこーらー」


 一人のへちゃむくれで愛嬌のある隊員が、発射台の中に試作品を入れ。 

 もう一人の大きな瞳が特徴の小柄な隊員が、携帯発火装置で点火。


 そしてドカンと……。

 はい、失敗ました。


 何度やっても上手に高く飛びません。

 だんだん不死身のはずの二人が煤だらけになってきました。


 設計図を作った連中も頭を抱えます。


 しかし、そんなことではくじけない。

 我々は、楽しいこと(だけ)はとことん追求する第四部隊!

 いざ、プロジェクトわんこです! 


 なんだか頭の中に野太い声の女性が歌う、カッコいいバックミュージックが流れてきました。






 グレイハウンド隊長に情報を頂き、コーギー隊長に機密情報を盗んでいただき、セントバーナード隊長に女性の好む意匠を教えていただき。ボルゾイ隊長からはプリンを奪い返そうとして失敗し。

 半端ない火薬を消費した頃、私たちの試みは思わぬ方向からストップがかかったのです。


 会計局です。

 ボスは、元第二部隊のアリ・フォン・ボクサー卿です。

 気品はあるのですが、にじみ出る武闘派オーラが怖いです。

 

「最近お前ら、火薬の消費量が激しすぎる。演習のやり過ぎだ、少し減らせ」


 文官服の袖をまくり、逞しいムキムキの腕を見せつけた闘犬が、私とマラミュート隊長の前に仁王立ちしておりました。

 突きつけられた項目では、すでに年間予算の火薬を全て使ってしまいます。

 言い訳はできません。私は観念して事情を説明しました。


 するとボクサー卿は目を輝かせて「なんだ、そりゃ! 面白すぎるな。どうせ陛下は「みんなで見たいです」と言われるだろうから、イベントにしようぜ」

 

 予算を下さったのは良かったのですが、彼はどんどんと企画を進め、「再来月までに完成しろ。そうしなければ噛み殺す」と勝手に締め切りまで決めてしまったのです!


 これが文系管理職の横暴!

 お披露目日を勝手に決めて、無理やり開発させるそのブラックさ! 

 我々の休暇は!? 休憩時間は!? 睡眠時間は!? 


「好きでやっているのだろう? なら結果を出しな」


 勘弁してください!

 職人犬オタクは好きなことは死ぬほどやりますが、押し付けられたものは死ぬほど嫌います!

 とはいえ、陛下に喜んでいただきたいのも本当。ボクサー卿の牙が怖いのも本当。

 我々は必死に開発いたしました。


 しかしどうしても、てっぺんまで上がってから爆発しない。

 途中で爆発しては、不死身の二人を吹っ飛ばしていきます。






 ある日私は大きな丸い試作品を持ち、うんうんと唸りながら、ちょくちょく相談する職人のところに行った帰り際。

 極甘飲料を求めカフェに立ち寄りました。


 芳しくない結果に更に頭を悩ませてテラス席に座り、なんとなく犬になってテーブルの上で試作品の玉を前足でころころ転がしていると、「おや、ハスキー卿」と色気のある嫌な声がしました。


 私の風船プリンをただ食いした、ムカつくモテ男。ボルゾイです。

 案の定、美女を連れていました。


 ————相手は隊長だから呼び捨てはダメだって?

 どうでもいいのですよ。顔の良いリア充なんて滅びればいい。


 彼は、女性に巨大風船プリンを注文してもらい……普通逆だろうに……殺意が膨れ上がります。

 しかしまた風船プリンとは。相当お気に召している様子。

 ウエイターが運んできた子供の顔ほどもあるプリンが、ぼよんぼよんと皿の上で転がります。


 彼は「おっと座り心地が悪いですね」とプリンをフォークで優雅に射止めました。

 そして「しっかり底を安定させてから出して欲しいものです」と言い、ぷっちんと割って食べ始めたのです。


 は!


 私は思わず前足の下にある試作品を見下ろしました。

 問題は玉ではなく、発射台だったのでは? 

 ようやく爆発時の安定性の問題だと気が付いたのです。

 

 ボルゾイには全く感謝しませんがね。




「当日は晴れるといいなあ」


 私は、カフェを出て、試作品を抱え空を見上げたのです。


 え? 街中で持ち歩くなって? 

 そんなの第四部隊にとっては関係ないですから。 







 そうしてこうして当日の夜。

 祈りが通じて、素敵な星空となりました。


 火薬という都合上。民家の少ない、大きな川沿いで行うことになります。

 イベント名は「ケンネル王国華火はなび祭り」。

 あの試作品たちは、『華火』という名に決まりました。


 突然の企画だったので招待制にしましたが、噂を聞いた国民が、ちらほらとシートを持って集まってきます。遠くからでも見える特徴上、屋根の上で待っている者も。


 お昼に試作品を見たことのある女王陛下は、とても楽しみにされております。

 丘の上には特別席が用意され、駄犬を寝かせたまま、お夜食を食べています。


 周囲の警備は厳重にされていますが、見たいものは空のパフォーマンス。

 何も問題はありません。


(川上にいるリーゼロッテ様の香りが、夜風に乗って川下の私たちに流されてくるというのもいいものです)


 指令席を作った川べりの一角では、双眼鏡をもって指示を出す私。


 マラミュート隊長は、顔は動きませんが瞳が嬉しそうな陛下の様子にとてもご機嫌で、いつもなら隠れて食べているジャンクフード「わんこチョコヌガー」を、朝から堂々とボリボリ食べています。


 ……最近お腹が、駄犬化してきたような気がするのは気のせいではないでしょう。

 しかし、「駄犬みたいに~」はこの国最大の侮辱なので、あえては言いません。



 

 華火はわんこ足形になるものから、大輪型、放射線型、ロケット型、滝型と百発ほど作りました。

 手持ち華火もいくつか作り、一部を陛下に進呈しています。

 残念ながら色の研究はさほど進まず、五種類の色で勝負をすることになりましたが、まずまずです。


 火薬に慣れた子犬隊の連中を中心に構成した、発射班は発射台をすでに設置。

 後は始まりの時間を待つだけになりました。






 しかし……。

 思わぬ事態が起きたのです。

 

 特に、我々の心理面で。




「やだあ、ブルさん。そんなところで触らないで」

「いいじゃないか。華火を見ながら綺麗な君と一緒にいたいのだよ」


「見て、星が素敵よ、テリーさん。二人で見られるなんて感動かもぉ」

「君の方が素敵だよ」


『ずっと私を持っていてね』

『ああ、絶対に君のしっぽを離さないよ』


 集まってきたのはカップル、カップル、バカップル。


 当初子供連れの家族を想定していた私たちが驚くほど、はるかに多いカップルの数。

 全く予想外の出来事でした。


 少しだけ着飾ったカップルたちが、華火という華やかなイベントと星空を狙って、川辺でいちゃいちゃしにやってきたのです!




 これには、準備をしていた第四部隊の隊員たちが愕然とします。


 トランシーバーからは、打ち上げ班からの質問が来ました。

「打ち上げる方向を、あの動く恋愛狂わいせつやろうたちに向けていいですか」と。


 マラミュート隊長は戸惑っています。

 何が起きているのか理解できず、更に機嫌がすっかり降下している隊員たちに何と言ったらいいか分からずオロオロしています。

 

 そして厚顔無恥なる彼らは、「この機会にプロポーズして押し倒したいから、プロポーズの瞬間に打ち上げてくれ」という注文まで付けてきたのです!


 ベタベタとした我々に対する度重なる当てつけに、とうとう、隊員の一人が発狂しました。


「雨降り犬はどこだ!」

「雨降り犬、雨乞いをしろ!」


 犬人にそんなものは居ません。

 ただ、ますます深まるフラストレーションに、このままでは華火の打ち上げが失敗しそうです。

 

 すでに雰囲気を盛り上げるために、楽団が丘の上で、ノリの良い音楽を奏でています。

 イライラと明るい音楽、そしてイチャイチャという脳内の音が、我々の頭を混乱させていきます。


 そこに、最大のストレスがやってきました。




「やあ、ハスキー卿。ここ空いているか?」


 大モテ野郎、ボルゾイです。

 またしても違う美少女が、彼の腕にまとわりついています。

 どうしても一緒に見にきて欲しいと、引っ張られてきたとか。


「本当は、女王陛下の椅子の下に隠れるはずだったのだけど。マルチーズに取られてしまってね。仕方ないから帰ろうとしたら、ここに連れて来られて」


 仕方ないだと……?

 第四部隊の視線が集中する、ボルゾイにぞっこんの彼女。

 そのお目目ぱっちりの檄マブの美少女は、よく見ればアイドル犬シリーズのモデルをしているクリスティーナ・トイ・プードルちゃん!


 空気を読まないマラミュート隊長が「そろそろ点火してもいい?」と聞いてくるので、

「その前に我々はすることがあります」と断りました。


 幽鬼のように集まってくる、職人犬うらみのおたく

 いつの間にか、ボルゾイを囲んで円を狭めていきました。 


 おや、という顔をしている彼の足元が、いきなり陥没!

 胴長犬のビーグル主任技官が、自力で地下に穴を掘って彼だけを転がしたのです。


「今だ! 雨乞いだ! 犬身御供で雨乞いの儀式だ!」


 第四部隊ひもてのそうくつは、全力のうらみを持って、犬人の力比べ序列十位を抱え込み、持ち上げ、「死ね! リア充!」と川に放り込んだのです。

 立ち上がる水しぶき。

 

 女王陛下は「大丈夫ですか?」と心配されておりましたが、そんなもの無用です。

 よく見ると奴は全く焦っていない。

 それが余計にムカつきます。 

 

 ようやく川の中から高貴犬が「ひどいなあ、この服高かったのに。私が買ったわけではないけれど」と立ち上がると、なぜかカップルの片割れ—————女性たちが黄色い悲鳴を上げます。


「やだ! ボルゾイ様が水に濡れている! セクシー!」

「水も滴る良い男って、本当にいたのね……素敵」

「やっぱり美青年って、いいわあ」

「ちょっと、リリーちゃん!?」


 途端にバカップルたちの雰囲気が一気に冷めました。


 まあ、女だって美青年アイドルで目の保養はしたいですよね。

 アイドル犬が好きな男たちもここにいますし。




 水から上がったボルゾイが女性たちに、

 「やあ、ごめん。良い夜なのに邪魔をしちゃったよね」と、

 とても寂しそうに、儚く微笑んで、

 「あえて」二人称を抜かして挨拶をし、

 月夜に消えていきました。


 慌てて追いかけるアイドル犬。




 これが問題です。

 カップルの片割れは、脳内で抜かされた二人称に、自分の名前を当てはめました。


『私が他の男と一緒にいるから寂しかったのでは』


 などと、勝手に妄想を始めたのです。

 隣の男性との会話もイチャイチャも楽しめなくなり、「ボルゾイ様に申し訳ない」気持ちになる女性たち。

 突然カップルたちの雰囲気がぶち壊しになりました。


 ついでに子連れのお母さんたちもいらんことに「ボルゾイ様に申し訳ない」という顔をしていますが、子守に忙しいお父さんたちはそれどころではありません。幸いですね。


 おとなしくなる観客に、呆然とする我が第四部隊ひもてーず

 

「いい加減始めろ。陛下のお休みの時間を遅くする気か!」と宰相に怒られて私たちは慌てて打ち上げました。




 赤・青・黄色・緑の火薬の華が舞い、夜空を覆いつくしました。

 時々変化球を付けて足跡の形にすると、お子様と陛下の歓声が上がります。


 色とりどりの夜空の華。

 火薬だって、使い方次第でこんなに人の心を打つものが作れる。

 その美しい世界を、感慨深く見守ったのです。


 最後には、取って置きの白と紫の大華火。

 巨大な爆発音と共に、見ている人々から「陛下ぁー!」との声が上がりました。


(今まで兵器ばかり作っていたけれど、これからは子供である陛下が楽しんでくださるものを、作ってもいいよな)


 夜空の華と陛下の歓声に、私はそう、心に決めたのです。






 —————後日、第一食堂の定食にバケツプリンが付いた日。


 私はばったりと、ムカつく美青年に出くわしました。

 噂では、そのヒラヒラ服。アイドル犬の貢ぎ物とか。


 どんな噂を流されても気にしない彼は、すれ違い様に、


「風船プリン分は返したから。感謝しているならそのバケツをくれてもいいよ」


 と言って、去って行ったのです。 

 



 思わず後ろを振り向きましたが、彼の姿はもうありませんでした。


 ……本当に、意外です。

 もしかしたら、プリン限定かもしれないですが。




 —————もちろんバケツプリンはかすめ取られないよう、一番先に食べましたよ。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ