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アルメル辺境王

なんやかんや色々やらかしてくれるティムニートは、リズベル女王にある提案をすることになる。辺境に新たな属国を造り出すと言う、自分の食事情改善に。有能なメイドを雇うためグレータドラゴン討伐してみたり、とんでもない献上品送ってみたり。大切な家臣の為貴族と決闘したりと。大騒ぎであった。

辺境のいち貴族だったティムニート子爵が起こした。様々な出来事の中で、歴史上世界の運命を変える重大なターニングポイントを上げるとすれば、やはりリズベル女王陛下との謁見の場で行われた一幕であろうか……、その後に行われた会談によって、歴史が変わった。いや動き出した瞬間。衝撃を持って、人々は語り継ぐことになる。



その日……、人々は、一目辺境の英雄を見ようと集まっていた。豪奢な馬車が城門を抜けて、大通りを走って来た。その後に見事な戦馬に乗った若者と、それに従う二人の従者。1人は巨人である。するとあの青年が噂の英雄……、人々はこの日見せ物を見に来ていた気分だ。所詮は片田舎の貴族が、ちょっと部下に恵まれて、ちょっと運がよくて、ちょっとなんか上手いこと魔族を退けた。そんな認識である。擁するに娯楽を提供してくれたのだ。声援くらいしてやるよ。そんなところであろうか、



大通りをしばらく進むと。町の中に湖があるのに気付いた。正確には小さな湖の中程にある島に。城が建てられており。湖の畔にグルリ取り囲むように街が出来たと言った方がよいか。ここから見る限りは、城のある島に。四方から橋が作られており、正門に当たる橋の上には。関所があった。途中まで進むと止められ。一度衛兵から取り調べを受け、武器を申告する仕組みだ。

「この剣は珍しい材質のようですな」

鞘から抜いた刀身は、真っ黒だったので興味を抱いた衛兵が訪ねてきた。

「竜鱗の剣ですよ」

貴族であっても武器の携帯は制限されている。だいたいは飾り剣、護身用のナイフを携帯していた。しかしここまで実用的でありながら、最高峰の剣だと知って、驚きのあまり剣を落としそうになっていた。貴族が持つには珍しい物ではないが、まさか伯爵になろうとする者が、それほどの業物を携帯してるのか、思わず唸る。

「さぞかし高価なのでしょうな」

やっかみを持って、再び訪ねていた。

「いやそれの素材は、自分で狩ったので記念に作らせたんですよ。たいした物ではないさ」

朗らかに。さらりととんでも無いこと言い出した若い貴族に。ばか正直に聞くのは流石に馬鹿馬鹿しいと思うが、手を見れば普段から剣の鍛練をしてることがわかった。近衛兵は少しだけこの変わった貴族に好意を抱いた。

「武器は封印させて頂きます。携帯は許可いたしますが、魔法によって城内では引き抜くことが出来なくなります。しかし城から出れば封印は勝手に切れて、札は剥がれ落ちますのでご安心下さい」

「わかった説明ありがとう」

今度は違った驚きを覚えた。所詮は近衛兵と言っても。元は平民である。王都で暮らす貴族の多くは、平民上がりの近衛兵など。場合によれば、人間扱いされないこともあった。近衛兵はこの職業について13年目のベテランだ。しかし今までたかだか近衛兵に。丁寧に対して、礼を述べた貴族を初めて見たと思った。それは従う二人の従者、使用人も同じで、とても好感がもてた対応だったと言う。実はこうした声はティムニートが訪れた場所、全てで聞こえていた。

特に貴族と毎日付き合わなければならない城付きのメイド、料理人、使用人、城の維持に欠かせない人々こそ。ティムニートに好感を抱いた。例えばこんな話がある。ティムニートの世話をするよう命じられたメイドは、不安で不安で仕方ない思いで、ティムニートと目通り、三人の使用人を紹介されて、とても驚いたと言う、

「二月ほどお世話になりますねえーとリノンだったね」

「はっはい旦那様……。そのよろしくお願いいたします」

まさか貴族様からお願いされるなんて思わず。目を白黒させていた。

「君にお願いがあるんだが聞いてくれるかな」やはり来たか、身構えたリノンは、そばかすと焦げ茶色の癖髪を木製のバレットと、城勤めメイドを示す。麻の青と白の布で覆い頭巾のような出で立ち、ふんわりとした薄い同色の仕事着の上から。真っ白い前掛けをしていた。

「実はぼくの使用人達に。メイドの仕事を教えてやって欲しいんだよ……」

「はっ……」戸惑い目をしばたかせるリノンに。ちょっと困った顔をして、三人の身の上から話。屋敷の仕事もかなり危ういこと。

「出来れば失敗した料理、辛い、苦い以外の料理が出来るとさらに嬉しいかな」

チラリ、まだ幼さが抜けない少女を見るから、リノンも見ていると、顔が真っ赤になっていた。

「わっ、私だって5回に一回は、卵焼き焦がしませんよ!」

「コディーそれは流石にどうかと思うよ」

リノンは思わず突っ込みたかったタイミングで、貴族がそれも伯爵様になられた方が、突っ込みをいれていた。微妙な感動を覚えた。

「だってだって、コディーはずっとギルドのお仕事手伝ってたもん」

「あ~はいはい。偉かったね」

「むっティム様おざなりです~」

可愛らしい反論に。何時ものことなのか、はいはいと宥める。何だかそんな使用人と主の姿は新鮮で、とても驚きと親しみを若い貴族に抱いた。

「私でお役にたてることなら。喜んで」



三人を連れて、メイド長に相談すると。だったら別館の掃除と。ティム様の料理は貴女が作って、それを手伝うという形にした。その間リノンはお城の仕事は免除された。さらにリノンも三人と一緒にしばらく主であるティムニートが寝泊まりする客間の隣で、過ごすことになった。



リノンが抱いた最初印象は、可愛らしい妹のようなコディー、美人お姉さんマリアード、底抜け明るい少女リディーである。リノンはしばらく。おっちょこちょいコディーの世話に追われながら、珍しい髪色の二人と親しくさせてもらい。女の子とは思えない怪力と。粗野な一面に戸惑うことになった。



三人の面倒を見るようになって、3日が過ぎた頃か、毎日の日課である掃除の仕方。お茶のいれ方、朝食の準備を終えて。自分たちの朝食、休憩、それから洗濯である。城勤めのメイドは、その他客間のベッドメーク、部屋の掃除、呼ばれればお茶の用意、街のお使いとあるが、それらが無い時間は、城の維持に欠かせない。様々な部屋の掃除をする。年に二度大仕事なのが、図書室の掃除である。当時の本は希少で、高価な物が多く、虫食いとカビは大敵だった。だから年に二度の天気がよい日、図書室の掃除を行うのだ。三人は城勤めのメイドの大変さに。顔をひきつらせた。ある日コディーは自分のことを話してた。流石にそれは無いなとリノンに呆れられた。

「よくそれで伯爵様の使用人が勤まりましたね」

「う~ん。改めて説明されると。私らもそう思った」

リディーが照れ臭そうに頭をかいた。3日前に知ったが、二人は戦奴隷として、ティムニート様に献上されたと。あっけらかん笑って言われた時は、流石に絶句していた。それから自分たち以外にも奴隷をもらい受け、みんな身分を回復させてあげてから。自立できるようにしてくれたこと。また自分たちが魔族で、一族をティムニート様が救ってくれた話や。お礼に使用人になったこと赤裸々に話してくれたからか、三人とはすっかり打ち解けて自分のことも話した。リノンは大きな海沿いにある。サムルーフの町で生まれた。家は小さな商家を営み。主に乾物を扱っているので、稼ぎは多くない。家族は6人で、上に兄が二人、姉が一人いて、自分は末っ子で、今の年齢には家から出されたこと。両親はリノンの性格から城勤めのメイドが合ってるからと。伝を使って今の仕事に就いた。

「ふえ~大変だったんですね」朗らかに笑うコディーだが、彼女は両親をモンスターに殺されて、大変苦労してきたことを。エリシアと紹介された。ティム様の婚約者まさかエルフとは思わなかった。でも優しく美しい方で、直ぐに打ち解けた。そこで聞かされたのがコディーのこと。

「ねねえリノンさんて、他のお屋敷で働かないかって言われたらどうする?」何の脈絡もなく。コディーに聞かれるまでもなく。メイドにはよくある事だから、

「そうね」

少し考えてみた。城勤めも悪くは無いが、正直なところ貴族の相手は面倒臭い。でも変な貴族様の元じゃなければ、

「まともな貴族様の屋敷で、お給金良かったら考えるかな」

素直に答えていた。まさかそれがあんなことになるとは、この時のリノンは思いもしなかった。



ティムニートが、城に登城した日に戻る。正装に着替え。式典で使われる大広間に通されたティムは、カムイ、オリーアを従者に引き連れ。控えていた。流石は大国の城である。カムイが立っても十分に高い天井。美しく維持された天井画に息を飲んでいたら、バーザル伯爵が笑って説明をしてくれた。

「この白の大聖堂はな、国に多大な貢献をした貴族を招く。特別な場所でな、今まで使われたのは三度だけだ。最後に使われたのはラギナード公爵が養子になった時だよ」

「それはまた……」

微妙な顔をした。まあ仕方あるまいと肩を竦めるバーザル元伯の少し後ろに控えた時。まるで舞台裏で覗いてたようなタイミングで、

「ドルマリア女王陛下リスベル様ご来場」きらびやかな鎧、飾り剣を腰に吊るした儀上兵が、舞台俳優よろしく。良い声で呼ばわる。



既に左右には、有力貴族、王族、国の重鎮たるそうそうな顔ぶれが並び、皆バーザル伯爵の後ろに控える。若者と二人の従者を食い入るように見ていた。顔をしかめたのは内務大臣、宮廷を預かる宮内の二人、貴族会の面々である。何故この場に卑しい巨人族を連れて来たのかと、不満の気持ちを抱いた。

「何を考えているティムニート伯爵!、女王陛下の御膳である。卑しい巨人族を直ちに外に出すがよい!」

女王が儀式開始を告げる前に。貴族会のメンバーで、末席の子爵席の発言に、内心でよく言った!、喜悦の笑みで行く末を見る貴族と。内心若き貴族がどんな反応するのか、興味深く見ていた。さてこうなると発言をした子爵は後々叱責され。謹慎を申し付けされるのだが、この場にいた貴族会のメンバーは、その間被る金くらい支援してやろう。上機嫌であった。

「陛下、発言よろしいでしょうか」

言われなき叱責を受けながら、真っ先に何かしらの発言をするでもなく。若き貴族は真っ直ぐ女王を伺い敬っていた。

「ティムニート伯爵の発言を認めましょう」

きちんと立場を立てた上で、ゆっくりと立ち上がり発言した男を見た。

「ぼくはティムニートと申します。今言われなき家臣への暴言。陛下の許しを得ずに発言された方。名前を聞きたく思います」実に堂々として、宮廷の仕来たりに則った。見事な受け答えである。宮廷を仕切る宮内は、驚きを浮かべた。「わっ、私はキルクアーシス子爵である」

声を裏返しながら貴族は体面を持って答えた。「ではお聞き致します。此方に控える我が家臣、魔族の要塞を破壊した。国軍の失態を上回る功績を示した者。更にぼくの権限で、東の村地方領主に任じております。大切な家臣を名指しで、卑しいと言われましたね。それはぼくを卑しいと名指ししたと同義である。わかってのことですよね?」すうっと目が細められ。周りの者たちも旗色が悪くなったと気付いた。

「女王陛下、この場合の解決法がありましたね。ぼくティムニート伯爵は、キルクアーシス子爵に決闘を申し込みます。ご了承下さい」

深く女王に一礼した見事な立ち振舞い。とても粗など見付からず言葉を無くした。貴族からすればたかが巨人ごとき。そこまで目くじらを立てるとは……、予想外の焦りを覚えたのだ。

「ちなみにキルクアーシス子爵、カムイは暴竜の黒を殴り飛ばして、歯を砕く程の戦士、またぼくも暴竜を仕留めた腕前を持ちます」

今度こそ空気が変わった。

「ティムニート伯爵……、今の発言。真なのですか?」

「はい、それを証明するのに陛下に献上品がございます。この場でよろしければ、運ばせますが?」

「良いでしょう、許します」式典も忘れ。リスベルは少し興奮していた。なんだか面白そうな事が起こる。そんな予感を覚えた。



しばらくして……。二人の赤髪、浅黒い肌をしたメイドが、幾つかの品々を携え。大聖堂に現れた。

「この2つを陛下に」

儀上兵に渡した。



一同が見守るなか、絹の布を剥がすと。一つ目には鱗が、それも一枚が手のひらよりも大きな物が、10枚は載っていた。もう一つは、赤黒い綺麗な石を加工したペンダントだった。

「鱗は解りますがこれは……」「へっ陛下。それは竜の宝珠ですぞ!」

宮廷の仕来たりや、宝飾品について造形が深い宮内の進言に。ハッと息を飲んで、改めてペンダントの宝石、宝珠に触れると、微かに強い魔力を感じていた。暴竜の鱗は時々出回ることがある。黒となるとそれなりの値段で取引されていた。しかし世界中を探しても竜の宝珠は僅かに二点あって。何れも大国の秘宝として厳重に保管されていた。

「流石に砕けていたので、大きな物を使って、献上用にペンダントにしてみました。それと細工ですがそれぼくが作った物です」

再び驚きのことを言われた。

「これをティム伯爵が……、見事な腕前ですね」

「ありがとうございます陛下」これはカムイ、オリーアも驚いていた。この場で唯一事前に知らされていたバーザル伯は、達観した顔で、愚かな貴族達を見回していた。

「一つ聞きたいが、良いかティムニート」「はい陛下、ティムとお呼び下さい。何でしょうか?」

周りの驚きなどどうでも良さそうな態度である。些か嘘くさい話に。怪訝な顔を隠さず。強い眼差しを向けていた。

「貴殿は、竜殺しをしたと言う、しかし私はそれを知らぬ。いつ、どこで暴竜は現れ。倒したと言うたのだ?」

至極真っ当な陛下の言葉に、竜鱗。宝珠に浮かれていた皆はハッとしていた。瞬く間に集まる視線を受けて、

「ああ~あいつですか、魔族の要塞を破壊しに行った時ですよ。なんか司令官ぽいのが呼び出したんで、倒しました」

実にあっけらかんと言いやがった。この場にいた皆の心情は、

『はあああああああ~』

『聞いてないよ!』

『マジかよ』

『何言ってやがりくそ餓鬼』

である。流石に気持ちと認識がついて来なかったので、リズベルは目頭をもみしだきながら。もしかして色々大切なところ。抜け落ちてない。そう感じた女王は、後日改めて魔族の要塞と、魔物の数。そしてレベルを知って青ざめることになるが、かなり先の話で、とりあえず竜鱗は暴竜かは分からないが、『鑑定』スキル持ちの官僚に調べさせたところ、高位のドラゴンの物と結果を聞いて、とりあえず献上品としては破格だと結論を出した。忘れ去られているが、後日子爵と決闘がなされた。子爵は部下を連れてきたが、瞬く間にぼこぼこにされて。泣きながら土下座して、許しをこうたのは内緒の話だ。



数日後……、改めて内々に式典が執り行われた。何故かタカ派の宮内が同席を願い。ティムニートにある願いを申し込んでいた。



宮内、宮廷執行官バウエル・エドロフは、宮廷に携わる祭事に携わる重鎮である。エドロフ家は代々有能な官僚を多く輩出した。名家の次男であった。家名にあるエドロフ地方は、北東の山間部にあって、距離はあるが、滅ぼされた小国ゼネガルに領土は隣接していた。さて本来ならばハーピィが飛来して、少なくない被害がでそうだが、この地には危険な竜が住みつき、村が一つ、バウエルの兄と祖父が上位竜。グーレタドラゴンに殺されたと言う話だった。

「ティム殿。恥ずかしながら、前王は竜を放置なさり私は、絶望して権力にすがり、失う恐怖のまま、手を汚してまいりました」



余談だが、初老に差し掛かるバウエルには、二人の子供がいた。子供を思うと……。所領の町に住まわせることも。民を救うことも出来ず。権力に依存したのだと告白した。この事は女王には内緒である。式典の後に内々で話された。「バウエルさん、一つお願いがあります。それを叶えてくれるなら、微力ながらドラゴン退治引き受けましょう」

「真かティムニート殿!?」

「はい、流石に今日明日には行けませんから、三日後。陛下から頼まれた形で、向かいたいと思います」



翌日リズベル女王陛下に謁見を賜り、バウエル宮内に頼まれたドラゴン退治のこと伝えると。「まっまさか国内にドラゴンが……」

宰相は知っていたのか、苦い顔をしていた。

ティムはそこでリズベルに。なんか~貴族会が信じてくれないからさ~てな理由を上げて、

「エドロフ地方にいる。グーレタドラゴン狩ってきたいと思いますね」

あっけらかんと。呆れた理由で竜退治に出ると言う、最早言葉に窮した。



そして後日。リスベル陛下から、行くなら兵を貸すと言われたので、仕方なく20程の弓兵を借り受け、グーレタドラゴン討伐に向かった。


バウエルに聞いた話だと。領土の町近くの山に住み着いてること。雷のブレスを放つ個体だと教えられた。

問題の強さだが、一応上位ドラコンに数えられれるが、下位ドラゴンよりは強く、上位では足りないそんなレベルの竜である。しかし普通は岩山を一撃で砕く噛み付き。ワイバーンクラスならば、ブレス一発で倒す力はあった。

「オリーアが頼りだ。頼んだよ」

「はいティム様おまかせ下さい!」

残念ながらカムイでは活躍出来ない場所。崩れやすい岩山に住んでいるため。カムイは砲撃による支援を頼んでいて、直接グーレタドラゴンと相対するのは、ティムとオリーアの二人だけだ。そう聞いて流石にバウエルどころか、女王も心配してしまった結果が。兵を連れてくことだ。周りの心情としては、この子大丈夫かしらである。

しかし二人の従者。オリーアもカムイも別段心配はしていなかった。ティムが出来ないことは、今まで一度として言われないこと。身に染みて理解したからだ。



5日後。突然現れた一軍に、町の管理を任せられていた町長は驚き、リーダーらしき若い騎士がグーレタドラゴン討伐を女王陛下から頼まれた告げると。それは驚き歓待してくれたのは言うまでもない。


翌朝、連邦の兵を引き連れたティムの正体を後日聞いて、それはそれは町長は驚くことになった。流石に町でも自分の正体を隠し。兵と同じ部屋で寝泊るティムの行動が、兵にとって奇異に映った。そこで弓兵隊長ルノは、従者の1人オリーアに話し掛けたのは自然の流れであった。

「少しいいだろうか、俺はルノ弓兵の隊長を勤めている」

初日にオリーアと挨拶をしていたが、改めて自己紹介から始める。

「覚えている。俺はオリーア、ティム様の家臣を勤めさせてもらっている」

オリーアのまとう、武人特有の空気は、人によって怖いと思わせるが、ルノには馴染みやすいものだ。

「こうして色々噂があるかただ。変わった貴族だとは聞いていた、しかし自分の正体を隠して、我々と寝泊まりした行動は、正直なところ物好きだと思ってな」色々と困惑してる。言葉の端々や。ルノの態度と表情から察していた。

「まあ~うん、ティム様の人となりを知れば誰もが最初戸惑うからな。驚くのは仕方がない。家臣の自分たちとて、今でも驚かされる」

しみじみ苦労が忍ばれる呟きである。まあ~そうだろうな、半分同意しつつ。オリーアの顔は実に誇らしげで、主を信頼してることがわかった。それはそれとして。兵の命を預かる者としては、聞きたいことがあった。それを質問としてぶつけた。

「正直兵を連れてく理由はないと。俺は思っていた。恐らくティム様1人、カムイ殿お一人でも十分にグーレタドラゴンなら倒せるからな」

ルノの期待した答えとは、ある意味違っていた。

「あのさあ~、あんたそれ、マジで言ってるのか?」「ああ、ティム様は竜殺しのアビリティを持ちでな。それとカムイ殿のエキストラスキルを使えば難しくない」

いささか信じられない話ではあったが、竜殺しのアビリティは、わりかし有名なので、この話を終えることにした。なんだか色々疲れたルノはとりあえず部下達には、危なくなったら貴族を担いで逃げるとだけ説明した。



草木の一本すら生えなくなった山。落ちくぼんだ窪地の奥に。巨体を横たえた竜がいた。

グルルルル。威嚇の喉なりを上げた竜は、長い眠りから目覚める。そして再びこの地の支配者たる王は、無数の敵意を感じ。力ある巨体を起こした。

愚かな人間が……、懲りもせず餌になりに来たと。戦いを告げる咆哮を上げた。「弓構え、矢をつがえ、放て」

起き上がった黄色い肌のグーレタドラゴンに向けて、矢が次々と放たれ。放射線を描きグーレタドラゴンに当たる。しかし高い防御力によって簡単に弾かれていた。

「ちっ、やっぱり効きやがらねえ」

舌打ちしたルノが見た先に。悠然と馬に乗ってグーレタドラゴンを見る貴族の姿であった。

(やばいあの馬鹿貴族、怖くて惚けてやがるか……)

少なくない知識から、今なら逃げれる。兵を預かる身として判断に迫られていた。

「カムイ砲撃用意」

さっと腕を上げて恐怖に震えてると思ってた青年が、落ち着いた声で命じた。弓兵がいる谷から少し離れた下に。馬車があって、荷台に置いてある箱には、人の頭程の鉄球が入っていた。それを黒いグローブを嵌めた手で掴み。エキストラスキル『大地の王』を発動。アビリティ・インパクトフォームに変わったカムイは、肌が真っ赤になって。身体が二回り大きくなっていた。ポロリ矢を落としたルノ、

「弓兵隊長の右上、放て」

「ウオオオオオオオ、そいや!」

ブオン、極限まで身体をひねり、全身を使った投球ホームから放たれた鋼鉄の球は、轟音を残して、ルノ達の上を抜けた。その際焦げ臭い匂いがして、次にドガン、岩山に突き刺さり。盛大に岩を破壊した様を見て、ルノの背にだらだら汗が流れた。「もう頭2つ分右」ティムニートの砲撃修正が二度程行われた。流石にグーレタドラゴンも。身に危険を及ぼす者がいると。弓兵を睨んだ。

(おいおいおい、まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか)

膨れ上がる喉。それを見た瞬間。死んだと思った。多分兵も思った筈だ。自分たちは囮にされたと。絶望的な状況だった。辺り一面を閃光が走る。凄まじい轟音と爆風にさらされた弓兵は、あわや小高い丘から転げ落ちそうになっていた。

「チキショー女も知らず死ねるかよ!」

どうにか耐え……、ん、耐えた?、違和感を覚えたルノは、ペタペタ自分の身体に触れていた。

「いっ生きて……」

辺りを見回せば、爆風で転んで、怪我をした部下は何人かいたが、みな軽症である。ホッとしたと同時に怪訝な思いを抱いた。それはグーレタドラゴンも同じで、外したと思ったのか、再びブレスの体制をとって、再び雷のブレスが放たれた。今度は顔を覆って、どうにか立っていられたルノは、ブレスが迫ったと思った瞬間。なにやら黒い膜のようなものによって、雷のブレスが無効化されたことに気付いた。

「これは、魔法か……」

ハッとしてティムニートを見ると、両手を上げて大丈夫だからとそのような言葉が、微かに聞こえていた。

「ええ~ともしかして、俺達は安全なのか」

信じられない思いで、呟いた。するとだんだん訳も分から気持ちが起こる。笑いが込み上げて来たのだ。



結局グーレタドラゴンが、退治されて行く様子を。バカ笑いしながらルノは見ていた。



三投目まで外したカムイだが、次の四投目は、二度のブレスを防がれ、唖然としていたグーレタドラゴンの肩に当たり、バキバキバキバキ、肩が砕ける異音を響かせながら、どうとグーレタドラゴンが倒れた。

その時ティムニートが愛馬パラウエイを駆って走り出すと。手に二本の針のような細い槍。スピアニードルを構えて。突撃した。ルノは今まで何度も騎兵の突撃を見てきたが、見ていたのに、

グアアアアアア、悲鳴を上げたので、身を震わせ慌てて見ると。いつの間にかグーレタドラゴンの膝を。ティムが貫いてた後で、

「嘘だろ……、あんな槍でグーレタドラゴンの皮膚を貫けるのかよ。それよりも今の見えなかった……」

やや呆然と呟いていた。痛みに呻くグーレタドラゴン。いつの間にか迫ったオリーアが、喉を執拗に切りつける。何度も何度も。危ない場面はあった。起き上がろうとしたグーレタドラゴン。ティムは再び馬を駆って一陣の風となり。もう片方の足に。ニードルスピアを突き刺して離脱。

ドウと倒れたグーレタドラゴンは、悲痛の咆哮を上げた。

グルルルル……、



両足を貫かれたため最早立ち上がることが出来なくなっていた。弱々しい噛みつきをかわし、オリーアは弱い雷のブレスを、至近距離から浴びていた。

「ぐう!、負けぬ俺は負けぬ、ウオオオオオオ!」

遂に馬が倒れたため、オリーアは足を引きずりながら、噛みついて来た口の中に飛び込み。渾身の一撃が柔らかなグーレタドラゴンの脳髄まで貫き命を奪っていた。

「はっはっ……」

満身創痍であった。身体中火傷と無数の怪我に呻くオリーア、

「見事だオリーア、お前こそぼくの誇りだ」

「はい、……ありがとうございますティム様……」

倒れる落ちたオリーアを、ティムが抱き止め。急いで地面に寝かせると。慣れた手つきで診察を済ませ。応急措置に回復魔法を使われていた。それを見たルノは、やはり先ほどのブレスから守ってくれたのは、ティムだと理解した。



オリーアのこと応急措置をしたとはいえ。治療が必要である。ルノの部下に頼み、砲撃用の球を積み込んでいた馬車に乗せて、急ぎ村まで向かわせた。ついでにドラゴンを解体するため馬車と、人足を募ること、無事グーレタドラゴンを討伐したこと町長に伝えさせた。



4日後。治療が必要なオリーアを静養させることになったので。村長に幾重にも頼むと。

「お任せ下さい騎士様」

恩人の一人として、快く引き受けてくれたのは言うまでもない。



10日後、無事グーレタドラゴン討伐を見事達成させたティムニートに対する。貴族と民衆の態度が一変する。特に態度を露骨に変えたのが、宮内バウエルであった。



すっかり毒気が抜け落ちた穏やかな顔立ち。存在感が薄まり、穏やかなしゃべり方にになって。周りを驚かせていた。

……後日。バウエルは有力貴族。女王達に対して中立を表明した。



ある日のこと。女王陛下に呼び出された宮内は。先日行われたグーレタドラゴン討伐の顛末を聞かれていた。バウエルは語る。ティムニートの元を訪れて。頼みを聞いてもらった日のことを……。

「陛下私は、あの願いを聞き届けグーレタドラゴンを討って城に帰った日に。ティム殿の頼みを聞いて、なんだか権力に依存するのが、馬鹿馬鹿しくなったのです」

周りの者たちが言ってた通りで、バウエルの様子がすっかり変わっていた。

「詳しい話を、聞いてもよろしいですかバウエル」

興味はあるが、経験上貴族の願いとはろくなものはない。だから宰相が嫌な顔をしたのも仕方がない。

「ええ構いません、別に内緒にする必要すらない願いでしたから」


「それでバウエル、ティムの願いとはどの様な?」



あの日バウエルは、久しぶりにティムニートと再会していた。一応報告を受けていたが、本人から話を聞いて安心したかったのだ。

「あっバウエルさん、約束を果たしました。お願いを叶えて下さい」

やはり腐っても貴族だと、妙安心感を持って頷いていた。

「バウエルさんは、ぼくが三人の使用人を連れてるのは知ってますよね」

無論知っていた。婚約者のエルフを伴ってることも。

「ぼく付になったメイドのリノンにお願いして、みんなに仕事を教わってるのですが……」

実になさけなさそうな顔をして、三人が料理を苦手としてること。焦げた料理は流石に嫌だから。リノンを雇えないかとそんな些細な願いで。ポカ~んとティムを見てしまっていた。

「ティム殿……、願いとは本当にそのようなことで宜しいのか」

あの日バウエルが思った疑問を。グランディス宰相も口にした。

「私は……、あの方の言葉を聞いて、我が身を恥じました」バウエルは優しい笑みを浮かべ、先日帰ったティムニートを惜しむように言葉をつぐむ。

「当たり前です。民が苦しんでると聞いて、損得で動くのは貴族とは呼べませんよ」

いい笑顔で笑い。自信に満ちた横顔を見た瞬間。胸を突かれた気がした。そんなバウエルの心情を知ってか、今となっては判らないが、

「あっそうだバウエルさん、大切な良民の無事を嬉しく思うなら。酒と豪華なつまみを運ばせてください。領主自らね」

頭を下げて、お願いされて。バウエルはハンマーでどつかれた衝撃を受けていた。

余談だが。町長には領主様から、切に竜退治を頼まれたこと。

「それとドラゴンの部位は、町のために使ってくださいね」若い騎士が去った数日後。領主様のご子息が、祝いの酒と珍味を大量に馬車に乗せて現れたので。遺恨はあるが、民は謝意を受け入れたと言う。



後日領主から町長に、みんなが感謝している腕のたつ若い騎士様が、実は伯爵の爵位を与えられた貴族であったこと。辺境で名を上げた英雄と呼ばれた人物と知って、大層驚いたと言う、

「まあ~そんな、気に入ったメイドを雇うため。ドラゴン退治をですか……」

それを聞いたバウエルも。さぞや度肝を抜かれただろうと納得していた。陛下を見れば、とても驚かれた様子である。

「それはそうと陛下。先日ティムニートの申し出ですが、色々と検討した結果。属国として認める方が良いと我々は判断しました」


グーレタドラゴン討伐の報告をしたティムニートは、後日宰相と女王陛下二人に。内密な話がある申し出て、会談の場を設けた。女王としては国内の平和に貢献したので、褒美も考えてのことだった。

「ティムニート。改めてグーレタドラゴン討伐ありがとうございました」

「陛下、何度もお礼なんて要りません。それに褒美はバウエル宮内からもらってますので、国からの褒美も不要にお願いします」

先手をとって、きっぱり面倒な式典を断っていていた。

「まあ~、それは残念ですわね」

プックリと頬を膨らませたリズベル。あまり表立って言わないが女王陛下は、大層な目立ちたがりである。式典では毎回気合いを入れて着飾るのが大好きだと公言していた。

「ティムニート殿、内々にしますゆえ。バウエル様から貰われた褒美とは何でしょうかな?」

眉を上げて、神経質そうに聞いていた。

「それは……、申し訳ありません宰相殿。我が屋敷の恥を公言する事になりますので、ぼくの口からは言えませんが、ただバウエルさんから聞くのはアリですよ」

煙に巻いていた。あの男が聞いて、素直に教えてくれるかは微妙なところである。宰相は苦虫を噛み締めた顔をしていた。

「それはさておき陛下。これからするぼくの提案と、宰相にはそれが我が国にどういった流れを生むか、まずは聞いてからお考え下さいませ」ティムニートの提案とはこんな感じである。



ティムニートの所領する辺境の東。巨人族の村があるその先は、盗賊村と奴隷商人の町があって、いわゆる犯罪の温床となってる。貴族会社の闇が、辺境に広がっていたのだ。問題は、その先にある町や村に向かうには。危険な魔物が住まう闇の森が広がっていて。ここを通らなくてはならないことだ。ティムニートの領地からでは、海岸線の町と隔てられていて、交易もほとんど不可能な状況だった。領内には西の沼地が難所になっていて、他の地方と交易しにくいことが、辺境で生きる厳しさを与えていた。かと言えば所領の南西側は、古戦場跡が広がっていて、死者の迷宮、亡者の峠と呼ばれるアンデットモンスターの宝庫であり。これら危険地帯の管理をする代わり。自分に公国と言う形で、辺境に建国することを認めさせる内容だった。前置きして、冒険者を誘致して、国内では迫害を受けてる様々な種族を受け入れること、仕事を与えると言うもの。

「国として、冒険者が手に入れた発掘品を買い取り『鑑定』してから貴族方に売り付けたりすれば、財源の一部に組み入れるつもりで」

また材木の加工。石材の加工出来る職人を増やしていること。それを交易品と出来ることや。鍛冶職人、人間の土木建築家も育ててるので、公国の仕事として受けれると聞いて。非常に魅力を感じた。

これぞリズベル達が求めていた。一つの方策であった。

「これにはもう一つ利点があります。冒険者には連邦の兵士にも参加して頂きたい」

「それは……、どういった理由なのかねティム」「おや、グランディス宰相は気が付きませんでしたか?」

逆に問われてしまい、再び眉をひそめる。いくつか理由を上げて説明されれば、もはや反論は出来なかった。ティムニートが掲げた理由とは。ずばり兵士の質の向上である。これはその時にわかったが、

「申し上げ難いのですが……」

辺境の守備隊と連邦軍の兵では、実力が数段下がると言われたのだ。

「正直にいいますと。この間の弓兵が精鋭だと聞いて失望しました、何故ならうちの兵を隊長クラスが率いればと付けますが、グレータドラゴンであれば。倒せますよ」信じられないことを言われたのだ。流石に信じられなかった宰相グランディスは、ティムニートに同行させた弓兵隊長ルノを後日呼び出して、詳しい話を聞くことにした。「お恥ずかしい話なんですが、直前まで、ティム様を連れて逃げることばかり考えてました」深く恥じ入る様子から、ルノが真実を語ってること。またティムが嘘をいった可能性が限り無く低いこと意味していた。

「正直……私達はお荷物でした。最初にティム様の従者オリーアさんから言われたのですが……」

もう一人の従者カムイ、そしてティムニート1人で、グレータドラゴンならば倒す実力があること。ドラゴンブレスで死を覚悟した時。魔法で助けてもらったこと。瀕死のオリーアを回復魔法で応急措置されたことを話してくれた。

(これは想像以上に大変な事態やもしれない)ようやく自国の危機を。正しく把握したのだ。

「……これはティム殿からの提案なのですが……」

辺境の地域をティムニートに任せる属国とする可能性が高いこと。連邦軍の兵に冒険者となって、腕を磨くことが。この先魔族と戦うのに必要なことだと語った。



この70年。連邦軍は魔物とまともに戦ったことがなかった。地方のことと領主に任せっきりだったのだ。頼みの巨兵もずっと使わずにいた。そう……練度も何もかも足りないと、ようやく気付いた。

「グランディス様。どうか俺達に行かせて下さい!。俺ティム様の元でもっと強くなりたいです。そして連邦を守れるそんな兵士になりたい」

青臭い気持ちだが、こうした兵士が……、ハタリと気付いた。

(ティム殿はまさか、その為に兵士を……)

もしもそうならば、何とも恐ろしい男だと唾を飲み込んでいた。



帰郷数日前。新しい伯爵ティムニート様のお世話を任せられたリノンは、おちょこちょいの少女コディー、元戦奴隷ノー天気少女リディー、主のティム様限定で、ちょっとエロチックなマリアードの三人と。掃除の仕方から料理、お茶のいれ方とリノンに手伝って貰いながら。この二月で随分ましになっていた。「後数日でみんな帰るのか……」

と。少しずつ悲しい気持ちになっていた。仕事にも身が入らず。上の空だったリノンを心配して、コディーがお茶とティム様のお土産を持って、二人で過ごしている時。やはり寂しさが募り、ポロポロ泣き出していた。

「どっどうしたんですかリノンさん」

慌てるコディーには、済まないけど……。何だか泣きたくなってしばらく泣いていた。

「えへへ何だかゴメンね」

いっぱい泣いたらすっきりしていた。どうにか笑うことが出来た。

「いいえ大丈夫です。泣きたい時もありますから」

そうだった……。コディーは両親を……、

「ありがとうコディーちゃん、ずっとみんなと一緒だったから……」あれ……、きょとんとした顔のコディーは首を傾げていた。

「あ~あ、私もティム様の使用人だったらな」

愚痴っても仕方ないのだが……。

「あれれリノンさんは、私達と一緒に働くことになったんですよ~。ティム様が言ってました」

「へえ……、えええええー!」驚きの声を上げた日の夕方。



メイド長に呼ばれたので、付いてくと。随分上の階まで連れて来られたので、驚いていた。

「リノン貴女を呼ばれたのは、この国の重鎮バウエル様です」

「ふぇえええー」

何か粗相をしたかと。真っ青になっていた。やはりこうなったかと深々嘆息して、バウエル様を恨んだ。

「安心なさい。貴女が粗相した訳じゃないそうだから大丈夫よ。詳しい話は聞いてないけど。噂では悪い話ではないみたいよ」メイド長を同席させることを告げられていたので、男女の関係を持つような御無体なことをしない。言われたような物だ。

「入りなさい」

「失礼します」

豪奢で広い執務室。様々な高価な品が飾られていて、緊張するメイド長、リノンにソファーに座るよう薦めた。

「わざわざ済まないね。一度君の顔を見てみたくてなリノン君。メイド長に無理を言ったなありがとう」

にっこり微笑む初老の重鎮に、きょとんとしたリノンだった。


メイド長を交えて。ティムニート伯爵のお願いを引き受けないかと。提案である。目に一杯涙を浮かべて、リノンは2つ返事で提案を受け入れていた。メイド長は良かったわね。がんばるのよ。激励してくれた。そうなると引っ越しである。みんなと一緒に帰れると思ったら。急に元気になっていた。大急ぎで荷物をまとめ。可能な限り顔馴染みのみんなに挨拶してくと。みんなからおめでとうと言われた。またまた泣いたが、胸に優しい温かさが灯っていた。



帰郷当日……、女王陛下のお心使いで、王家で使わなくなった馬車をもらい受けた。帰りは護衛に。しばらく冒険者として修行をする。ルノと希望者15人を引き連れ。一向は出発した。



豪奢な馬車に初めて乗り込むリノンは、こんなクッションの効いた席に座っていいのかと緊張していた。するとしばらくして実は四人も緊張してると言われて、思わず笑っていた。馬車の中は広く。護衛も乗り込める造りになっていた。最大10名がゆったり座れ。後ろに別の馬車をくっ付けることで、走る小さな部屋。それが王家の馬車である。



出発少し前……、ルノ達と目通ったティムは、ルノを見掛けると朗らかに笑い肩を叩いて感激してくれた。それから一人一人と挨拶をかわした。装備はみな革の鎧に。ほとんどの者が中古の武器を手にしていた。修行と言っても国が援助してくれる筈もなく。今は失業者である。唯一の救いはティム達の護衛が仕事になること。食事付きの仕事を依頼された形だ。

「みんなさんは今からいつか戻る日まで、連邦の兵士だったプライドを捨て、冒険者として腕を磨いて、生き抜いて下さい」貴族とは思えない砕けた口調に。些か戸惑いながらも。覚悟の上だ。揃って頷いた。

「オリーア」

「はいティム様」

怪我から復帰したオリーアを見て、ルノは笑みを深めた、残りの者は緊張していたが。

「これからしばらくオリーアの元で、皆さんは野営の仕方や、護衛任務について教えてもらって下さい」

まるでオリーアに丸投げのように聞こえたが、これはオリーアにとっても勉強になることだと考えたのだ。

「承知しました。まず馬車を扱える者は」四人いたので、ニ交代の二台の馬車を走らせれると安堵したのだ。最悪はオリーアと、ティムが御者の真似事をすることになってた。

「ねえオリーアついでだがらさ。御者の訓練をさせたらどうかな」

なるほど確かに悪くない。城塞都市レディナスまで、一月近くあるのだ。多少なり扱えるようになれば儲け物だ。弓が使えるルノには、馬にも乗れると聞いてもう二人と。周囲の見張りに回ってもらうことにして。出発した。



王都から帰りは、モンスターが住む闇の森を避けて、海側の街道を使う。来るときよりも6日ほど余計に日数を擁するが、サムルーフの町に寄るからと聞いて、ルノ達は疑問をもたず。貴族の気まぐれかと納得した。



最初の町まで2日で到着すると。そこそこ値段が高い宿に止まると聞いて、さすがに疑問を抱いた。なぜわざわざ宿に。自分たちならわかるが、貴族がと思っていたら。なんと服装まで質素な物に着替えていた。

「ああ~ようやく面倒ごとが終わった~。だから帰る時は、おもいっきり羽を伸ばすんだよ」そう言うと貴族らしくなく穏やかに笑っていた。

「オリーアはい」

「これは……」結構な額を渡され訝しげな顔をした。

オリーアに皆を連れて、飲みに行くように言うと。護衛のみんなが歓声を上げていた。

「あのなオリーアさんよ、伯爵行っちゃうが良いのかよ?」

ルノは護衛は良いのかと聞くと。少し考えてから小声で、

「お前はいいかな、ティム様付きの赤髪のメイドが二人いるだろ?」

「ああ~綺麗なメイドさんですね」

これに微妙な表情をしていた。「あの子ら元戦奴でな、近戦闘だったら俺でも勝てない」

「!?……それはまた」

(それに……カムイを先に帰らせたのは恐らく)

同僚に窮屈な思いをさせたお詫びと。何か頼んだのではないかと考えていた。改めて最初の町までの2日間のこと思い出しながら。元連邦兵達を見ていた。冒険者になって腕を磨きたいと思った15人は意欲的だった。野営にも慣れていた。また初級攻撃魔法が使える者や、薬草に詳しい者、ちょっと鍛えればスキル持ちになれそうな、将来有望な者が多かった。町に着いて、皆を連れて酒を飲みに行かせたのも。オリーアがみんなと仲良くなれる早い手段であること。働いた後はこうした楽しみがあると伝えるのが狙いだと、感心しながら理解していた。だから心配するルノにだけ、二人のメイドが元戦奴だったと教え、安心させていた。さすが元隊長職に着いていただけはあって、目端は利くし。周りをよく見ていた。頭も良いようで、腕もこの中では一つ抜けていた。ティム様もルノを気にかけてる様子から、才能があると見込み。出来れば新しく冒険者になった者のまとめ役になって欲しいなと。何かと話すようにした。すると直ぐに此方の思惑を察したルノは、酒場で初めてのことに戸惑い。不満や不安を聞いてやりながら、そうしたちょっとしたことオリーアに伺い。幾つか約束したり、ティム様にお願いするといった方法を提示して、ひとまず多少は生活の不安はあるが、期待もあるとわかったのは収穫だった。



翌朝。ティム様に報告すると。ルノを呼んで、しばらく話してから、当面の生活費をレディナスに到着したとき支援すると約束する。ルノはティムの約束を皆に話して、ようやく安堵した様子で、護衛の仕事にも身が入ったようだった。



それから2つの町を通り、王都を出て15日目。順調に旅は進み。海の見える町に到着していた。

「うわあ~懐かしいです」

海を見て、目を輝かせるリノン。

「あのキラキラしたのが全部水ですか……、信じられません」

初めて見たコディーや、北方の村で暮らしていたリディー、マリアードは一度見てるので、驚きは少なかった。

「私も初めて見ました♪」

コディーと一緒にはしゃぐエリシア。ティムの顔にも笑顔が浮かぶ。この頃になると護衛の元兵たちもだいぶなれてきて、同じような笑みがあった。

「今回2日は町で休むから、今日までの給金を渡す。好きなように使いなさい」雇い主のこうした優しさは、護衛任務をすると時々あった。朝だけ皆の分食事を頼み。昼は外で食べて、夜はオリーアに金を渡してあるので、皆を飲みに連れて行くのが恒例になっていた。

「荷を下ろしたら。海を見に行こうか」

コディーとエリシアが食い付き、直ぐにでも行きたいと甘えるコディーを連れて、三人には留守番を頼み、少し出かけることにした。

「あっティム様、スッゴクいい臭いします」

浜辺の側で、漁師が釣った魚やイカ焼き、香ばしい臭いに誘われて、幾つか購入、並んで食べた。

「んしい!」

ニシンの串焼を頬張り、嬉しそうに報告。エリシアに世話をしてもらう姿は、仲の良い姉妹である。ずっとはしゃいでいたコディーは、日が沈むまで海を見ていて、いつの間にか寝ていしまった。仕方なくコディーを背負い歩いてると。

「ティム様」

寄り添うように空いていた右手を掴み。幸せそうに笑うエリシアと供にそのまま宿に戻る。



翌日。旅に必要な食料、水、野営に必要な物を購入して、夕方までに泊まってる宿に届けるように言付けた。ルノは貴族が食料の買い付けをと非常に驚かれたが、これから辺境を国とするのに。海の町がどんな品を扱い、また民が必要と思ってるのを知ることが大切だと教えると。目を丸くして、何回かついて来るようになった。ルノと一緒に商店を周り、噂話や武器屋を覗いてから宿に戻る。


翌朝、海の見える町を出で、サムルーフの町に着いたのは3日後である。リノンが町を出たのが15の時で、三年ぶりの帰郷となった。一度正装に着替えたティム。リノンには城で着ていたメイド服に。三人とエリシアにも同様に着替えさせた。ルノとオリーアを同行させ。リノンの実家に向かった。



リノンの実家は、祖父の代から乾物を商う商家で、小さいながら堅実な商いをする。サムルーフでもわりと有名なお店だった。リノンの案内で、お店に行くと。

「いっらしゃいお決まり……、リノン、お前リノンか!」

店主でリノンの兄が、笑みを持って妹との再会を喜んだ。

「どうしたんだ久しぶりじゃないか。そちらは……」

「えーとあのね」店の前ではと言うことになり、ティムだけお邪魔することにした。



兄にこちらの伯爵家のメイド頭として、スカウトされたこと。こうして無事な姿をみせるように言ってくれた伯爵様が、わざわざ寄って下さったこと。リノンは嬉しそうに話した。

「伯爵様!。お気遣いありがとうございます。妹のことどうかよろしくお願いいたします」

深々と例を言われ、リノンには良い兄弟がいると笑みを深めた。それから幾つか話をする内に。

「うん、そうだな試しに乾物を幾つか買っていこう、辺境では海の物を食べる機会はないから、ちょうどいいね」

何れくらいの乾物を商ってるか話を聞いて、一通り購入。お土産にした。

「リノンぼくは先に帰るから。今日、明日は実家でゆっくりするといいよ」

「はい!、ありがとうございますティム様」

待っていたオリーア達と供に宿に戻る。



その日オリーアはルノから、リノンとなぜあの店に行ったのか聞かれ。あの商店がリノンの実家で、ティムがわざわざ遠回りして、リノンを家族に会わせるためサムルーフに来たと聞いて。本当に驚いた顔をしていた。仲間の元兵にもリノンがいないからどうしたと聞かれたルノは、難しい顔をしながら、仲間にあらましを語り、皆複雑そうな顔をして見合わせていた。



翌朝、ルノが馬車を用意していると。リノンが姪っ子や兄にらしき人と戻って来て、何故かお願いされた。そしてリノンを見送りに来たのは家族だけでなく。近所の人達もいて。とても照れ臭そうにしていた。こうした当たり前の新たな門出を総出で見送る。そんな姿を初めて目にしたルノは、胸中に温かな気持ちが溢れて来ることに戸惑う。

「ティム様、妹のことお願いします!」

何度も頭を下げる兄を労い。貴族とは思えない行動をした。固い握手をして、サムルーフの町を後にする。



ここから内陸部に進路を変更する、辺境の城塞都市レディナスに向かうまで、少し危険を置かした行程を踏むことになった。


8日あまりほとんど野宿をして。闇の森に入りモンスターと戦いながら。ようやく見つけた小さな村をティムは避けていた。何故と疑問に思っていたら。

「あれが盗賊村ザイン、入ったが最後身ぐるみ剥がされ、女達は売られ、男は皆殺しにされる」

「うっ……あれが」

顔をひきつらせたルノや護衛達を叱咤激励して、数日後に見えた町をも避けた理由を聞きながら、ようやく城塞都市レディナスに到着した。実に4ヶ月近い外出であった。


町では、噂を聞きつけ沢山の人が集まっていた。連邦からティムニートに対して、辺境公国アルメル建国と、公王になることを正式に認める辞令が知らされていて、色々な意味で民は驚かされていた。留守居の司政官アルキメディスは、カムイから渡された手紙を読んで、卒倒しかけたのはここだけの話として。属国とは言え。まだ20代そこそこの若者が、あれよあれよと言う間に。一国の王、辺境王になることを認められたのだ。騒ぎにならない方が、どうかしてる気がする。

無事リノンをメイド長にスカウト出来て、辺境に戻る間にも色々な出来事があった。15人の元連邦兵達、その中にあの英雄を見つけて、少し興奮気味のティムニートは、それとなくオーリアに重用させるようにしていた。また同じ物語で背徳の魔王でした。

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