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権力の光と影

憧れの女性エリシアと婚約を済ませた。ティムニートは、王都に呼ばれ。バーザル伯爵と供に向かうことになった。しかし一方では、貴族会が牙を剥き始める。果たしてティムは無事にエリシアを守ることが……、

辺境守備隊が単独で、巨大要塞攻略に着手した頃のある日の夕刻。



魔族の大規模進行が、王都の民も知ることになって、現実を帯びていた。何せ国軍が地上に現れた巨大要塞攻略に。出撃するはずであった……、

はずであったと言うのは未だに王都の外に。国軍が止まっていて、準備は何もかも遅延してしまい。行軍が遅れていた。このまま辺境守備隊壊滅かと。民達が噂していたのだ。

「やはり……最近めきめき頭角表してる。子爵様を亡きものにしたい。前王弟派の謀略だへか?」

「多分な、何でも近隣の貴族や領主から奴隷を民に戻したり。辺境に城塞都市を作ったり頑張ってたんだがな……」

心情では、子爵様を応援する民は実のところ多い。奴隷を使ってるのも貴族連中だけだからだ。確かに人間とは見た目が違ったり、違う部分がある者もいたが、民レベルではまだ偏見は少ない。



王の間、叔父のラキナードは焦れてイライラとしながら日々を過ごしていた。どうにも国軍の出発が遅れてることを。リズベルが何とも思っていない様子なのだ。流石に疑念を抱いた。

「陛下どうして、ラルバルト侯爵を将軍に据えて下さらぬのだ?」

(そうすれば……。全て上手く行くと言うのに)

軍事の指揮権を自分たちが手に入れたら、もはやリズベルなどもはや傀儡とできるものを……。愚かにも自分たちを蔑ろにしたリズベル女王派を。力で押さえ付けれるチャンスと考えたのだ。「何を言っておられますか叔父上?、既に決は出ております。命も下しました。それでも動かぬのなら。それは官僚達に何かしら後ろ暗い思惑があるか、我が命を軽んじた者が暗躍しているからでしょうね」

きっぱり切り捨てるような言葉。ラキナードの顔がひきつる。

「そうそうラルバルト侯爵ですが、色々証拠が見付かってましてね。近々貴族裁判を行うつもりです。とてもではありませんが、指揮権なんて与えられませんので」

不敵とさえ思える笑み。凛としていて風格を感じていた。今までどこか甘いところがあった女王からは、信じられない変化であった。よろり立ち眩みのようによろけていた。

(ばかな私が小娘に気圧されだと……)

強く感じた圧力に、ラキナードは僅かながら怯えを覚えた。まさか私まで迫って……、

(しまった……)

顔が歪んだ。ようやく自分たちこそが、危険な罠の上に立っていたことに。ようやく気付いたのだ。

(些か腹立たしいが、素直にブラーゼルを行かせるしかないか……)

だが既に遅すぎたこと。まだ気付いてないラキナードは、右腕だったラルバルト侯爵を切り捨てれば、まだ復権出来る時間は得られる。自分なら大丈夫だとそう思っていた。翌朝の一報を聞くまでは……、



ラキナードは、いやラルバルト侯爵は、辺境にいる子爵を侮っていた。全てを失い……。国賊の烙印が押されて、ようやく理解する。



翌朝。リズベルが朗報を受けとったが、その日虫の知らせか、侍女が急を知らせる前に女王は目覚めていた。

「陛下」

「入りなさい」来訪を告げた相手は、ブラーゼル伯爵であった。

「仕度をします。客室で待たせなさい」

「承知しました」

内々の相談する場所が、女王の居住に幾つかあって、人に聞かれたくない話をしたいときは客室。歓談する場合は貴賓室。あまり長く居たくない場合。貴族会のメンバー、軍部、官僚と目処おる時に執務室と分けられていた。しばらくして二人の侍女が入って来て、着替えを手伝わせる。



しばし待たされたブラーゼルはずっとうろうろしていたのか、客室に入ってきたリズベルを見て、高揚してる様子に、全てを悟る。

「ティムニート……是非とも目通りしなくては」

年相応の笑みを浮かべた女王に、ブラーゼルも心躍らせながら。しっかりと頷いていた。

「ブラーゼル!。国賊ラルバルト、ラキナード叔父上を捕縛、投獄を命じます!」

「拝命致しました」



王都の郊外に屋敷を持ってるラルバルトは。慌てる使用人に起こされ顔をしかめた。

「いったい何事だ!」

「だっ旦那様」「動くなラルバルト侯爵」

いきなり国軍に急襲されたため。訳も分からず捕まり。まるで罪人のような扱いに終始喚き続けた。

同様に。若い愛人としとねを供にしていたところ。捕縛されたラギナード公爵は。人知れず王家の地下牢に投獄された。内務大臣、宮内のラキナード派の重鎮二人が、その事を知ったのは、会議の場であった。

「しっしかし陛下。ラキナード様は陛下の叔父ですぞ」

理由を知らなかった二人は、女王が癇癪でも起こした。そう思っていた。

「いいえ何を言っておられるか!。国賊には妥当ですな」

何と財務大臣、濃務大臣がその通りと認めたではないか、今まで中立を守り、のらりくらりしていた二人の言葉とは思えず。困惑していると。遅れてきたブラーゼルから、

「皆様お待たせ致しました。父バーゼルより朗報が届き。報告書をまとめましたのでご覧下さい」訳も分からず困惑しながら。渡された報告書を読み進める二人の目は、驚愕に見開かれた。

「よって国を危険にさらしただけでなく。自分勝手な振る舞いによって。国軍の行軍を邪魔した官僚を全て責任を追わせ追放とし。王族でありながら国賊と通じた罪でラギナード公爵を捕縛、牢獄に繋ぐは当然のことです」

これには二人も頷かずにはいられない。これが守備隊壊滅ならば、何とか言い訳も出来るが、不名誉にも守備隊だけで魔族に勝ってしまった。すると自動的にドルマリア連邦の力を示せる機会をみすみす。ラキナード公爵、ラルバルト侯爵のせいでダメにされたのだ。国賊と謗られても結果。自業自得であった。二人は渋々後ろ楯の排斥に同意した。

結果から言えば女王派の勝利、これによりティムニートの名声は、確実の物となっていた。此度の功績によってティムニートを伯爵に任命することが正式に決まった。よって式典を王宮で開くと大々的に発表した。

人々は、突如辺境に現れた英雄の話に夢中になって、憶測と噂を楽しんだ。



魔族の要塞攻略から半月後……、バーゼル伯爵と供に王都に向かう日。ティムは護衛として、オリーアとカムイを、バーゼル伯の勧めで三人の使用人、コディー、リディー、マリアード、婚約者エリシアを同行させての移動となった。ティムは愛馬パラウエイに乗っていた、カムイは徒歩にて、辺境騎士団から護衛の兵20に守られての行軍。暴竜を討伐したことは、当事者と二人の側近だけに知らせた。ティムは見事な働きをした。14人に暴竜の鱗を一枚を報奨で与えた。俗に竜鱗は高価である。古竜ほどではないが、暴竜しかも黒となるとかなりの値段が付けられ。ちょっとした屋敷を買うことすら可能であった。更にアスマンには竜鱗で作った弓を、カムイには竜の皮と自身がへし折った牙を加工したグローブが贈られ。一部鱗を売ったお金から、守備隊全員にかなりの報償金が出された。さらに命を失った家族にも慰労金の名目で多額の金が与えられた。ティムニートは先日ホディーアン砦村に赴き、地方領バルメデと娘のエリシアを交えて、話し合いの場を設けた。この時ようやくティムニートは自分がいる場所が、ワールドの中ではなく。現実の過去だった事を知った。

「嘘だ……そんな筈は」

鋭い痛みを感じて、頭を押さえた瞬間。頭が割れるような強烈な痛みにのたうちまう、

「グッ……ガア」

「ティム様」

「ティム殿!」二人が慌てふためく中で、ようやく記憶が戻っていく。



━━ぼくの名前はティムニート。


━━失礼します。

我が村が生んだ英雄のエリシアさんが、校長先生で、ぼくのクラス教官。



━━話は担当官から聞いてるわね?。

はい。嬉しそうに答えたぼくは、妖精の……、失った全てのピースが揃い。ティムニートは、ワールド時間三年の被験者だったこと思い出した。

「ぼくはワールドから帰還して……、宿舎で寝ていると」

人の気配がして薄く目を開けた瞬間。強力な眠りの魔法を受け。昏倒したこと。微かに男達が話していたこと思い出した。

「ぼくは事故に巻き込まれ……」

すうっと痛みが引いた途端。自分がどんな立場で、どれ程危険なことしてきたか理解した。

「ぼく、ぼくは大勢の人を……」

バチン、いきなりほほが張られた。つっとした痛みに。我を忘れそうになっていたティムは、涙を流しながら。真っ直ぐティムを見つめる姿に。ハッと息を飲んでいた。

「ティム様、私は知っておりました。いいえ父も未来から事故で来られたこと。バーゼル伯爵も知っております。安心して下さいとは申しませんただ。ティム様は言ったじゃありませんか、辺境に現れたアルメルは、私と結婚したと」予想外な話から。またもや違う方向で、とても気になる事を娘が口にした。

「いやあれは英雄アルメルが……」

今度は優しくパチン。頬を挟むように叩き、怒った顔をしていた……、

「エリシアさん……」

「ティム様はわかっていません!。わっ私はティム様が仰る英雄に恋した訳じゃありませんから」

「えっ……えっえ。うえ~」

「何ですか今の驚き方は、ティム様はあれですか、わっ私が奥さんじゃ不満なんですか」

今の驚きを勘違いしたエリシアが、途端に不機嫌そうにじろりと睨んだ。

「いやいやいや全然。これっぽっちも不満はありません」

「本当に?」

「勿論です。エリシアさんみたいな……」

真っ赤になって照れたティムに。エリシアはよろしいと偉そうに頷いていた。「おやおやこれはあれかな。娘を嫁にやる父親になれるのか」バルメデの呟きに二人ハッとして、お互い顔を合わせ。みるみる真っ赤になっていた。

「二人は相思相愛のようだね。じゃ仕方ないか」

嬉しそうに笑っていた。後日正式にエリシアと婚約したことが知らされ。大いに皆を驚かせた。



「エリシアさん、ぼくと結婚して下さい」

まさか自分が憧れの女性にプロポーズする日が来るとは思わず。大いに照れた。

「はい喜んで」竜の宝珠と呼ばれる物が、上位竜にはあって、それを3つに分けて、一つからペアリングを。一つをペンダントに。最後の一つを竜鱗の剣を作らせ。柄の中に埋め込ませた。これこそアルメルの秘宝と呼ばれる物で、現在は城塞都市レディナスの美術館にレプリカが、本物はエリシアさんが保管していると言われていた。

色々なことに時間がとられようやく王都に向かう日が訪れた。「アルキメデスさん。申し訳ありませんがしばらくお願いします」

ぎこちないながら、両足で歩いてきたアルキメデスは、慣れない義足に苦心していた。

「はいお任せを」

秘書の五人。新しく内官見習いになった三人に見送られ。王都に向かう、



辺境から王都まで、20日の行程を予定していた。一向はバーゼル伯爵の計らいで、伯爵専用の馬車に便乗。婚約者エリシア、使用人コディー、リディー、マリアードが同席を許されていた。なぜ伯爵が四人を同席させたかと言うと。婚約者と噂されるエリシアと妾と呼ばれてる二人の魔族に興味が沸いたのだ。

「皆からみたティムはどんな人物かね、ここだけの話にしておく。是非聞かせてくれんかね」この先ティムニートはドルマリア連邦にとって重要人物である。どのような人物か素直なところが聞きたかったのだ。すると揃ってハーフエルフのエリシアを見て、

「お父さん公認なんだよね~。エリシアさん♪」とても嬉しそうにコディーが説明してくれた。バルメデに挨拶に行ったティムは、娘のこと頼まれたと話てくれたのだ。

「……なるほどの~」

多少問題はあるが、側室とするなら問題はないか、いや仮に正妻にしても。今までの功績から言って、問題なく許される気はした。

「そちらの二人はどうかね?」密偵に調べさせたところ、鉄血族と深い繋がりが出来たことまで、突き止めていたが、何故か商業ギルドの護衛だけをさせてると聞いて、不思議に思っていた。だったら二人と話す機会がある今なら。聞けると思ったのだ。

するとどうだ……。二人は元々戦奴隷だったこと。自由にしてもらった上で、血の欲望を押さえる。一族に必要な血を増やせる錠剤を安く提供してくれた上に、定職を与えられたことに。一族含め自分たちは感謝していること。出来れば妾でもいいみたいな本音まで、赤裸々に語ってくれた。

「なるほどの~、魔族である鉄血族が、奴隷になる理由が、ようやく分かった気がしたよ。それにしてもあまり知られていない秘密じゃと思うが、ティムはどうやって秘密を知ったのだろうな。ますます興味深いな」

話を聞けば聞くほど。普段の見た目とは大違いである。

「皆も心得て欲しい。この先ティムは我が国を背負う、それほどの男になって貰いたのじゃよ……」

バーゼル伯爵の本音を聞いて、エリシアは複雑そうに。鉄血族の二人は不思議そうな顔をしていた。コディーだけは今一理解していないようだが……、バーゼルは思う、一度魔族を退けたが。ドルマリア連邦の役割はそれゆえに大きくなっていた。それが不安なのだ。周りからの期待と言う名の重圧に。がんじがらめにならなければよいがと懸念を抱いていた。

(問題は、貴族どもじゃな、何事もなく王都に着けばよいが……)

女王陛下や我々にも何かしらの方策が必要である。

それはドルマリア連邦とて同じであった。




一方その頃王都では、リズベル女王陛下が、叔父を追い落とし。取り敢えずの政権を貴族にも受理させた。やはりと言うか……、好意的に受けとる貴族は少ない。あくまでも表面上は従うことにした。と言う方が相応しい、特に貴族会のタカ派の7人は、強い敵意を持って、新しい伯爵ティムニートを排斥しようと画策していた。好都合なことに。王都に来ると言うではないか。ならば懐に入れて毒殺。または金を詰んでの暗殺。失態を晒すなら糾弾して、力を削ぐのもよい。

ドルマリア連邦には、三つの侯爵家、五つの伯爵家、10人の子爵、それ以外に王家と姻戚のある公爵家が二つあって、公爵家を筆頭に。12人の貴族会メンバーが選ばれていた。王族のラギナード公爵は貴族会に選ばれることは無い。貴族会とは名家の生粋貴族から選ばれるからだ。しかし今回のことでラギナード公爵の失脚。貴族会筆頭のランバルトの死刑が確定していて、娘のラタニーニャが当座の当主となることが決まった。そうなるとまだ若いラタニーニャでは貴族会の1人にするには相応しくない。ならばと白羽の矢が立ったのが、ラギナード元王弟を養子にした。フランデーズ公爵家夫人を選んだ。理由は貴族としてリズベル女王、若い成り上がり貴族ティムニートに泥を浴びせられたからであった。投獄された夫ラギナード公爵に替わり、当家の主となった公爵夫人レディオーサは、舞踏会の花と呼ばれた美しい女性だった。新たに貴族会の一員となったレディオーサは、早速タカ派の6人と連絡を取り合い。バーザル伯爵が連れてくる。憎き相手ティムニートのこと調べ始める。

「なんと愚かな男かしら……、美しいと知られてるエルフと婚姻を結んだことからも」

やはり若い男は、下半身で物事を考えるのかと侮蔑した。

「それでしたら。政敵にはなりませんわね……」

困ったことでは無いが、なんとなく釈然としなかった。そもそも大手柄を上げた下位の子爵が、何故権力を放棄する真似をするのか、まるで理解出来なかったのだ。

「まあいいですわ、彼方から馬脚を著してくれるなら。好都合だしね」

プックリした唇に小指を這わせ。危険な暗い目をしていた。何よりもその程度で済ませるつもりはなかったのだ。

……しかしこの時。辺境守備隊が、領主が暴竜を倒したことを知っていたら。また違った毎になっていた筈である。フランディース公爵家には、代々公爵家に仕える特殊なもの達がいた。普段は夫人の身の回りの世話をするメイド、主人に仕える執事、庭師、お抱えの料理番、フランディース公爵家には、ハウスマンと呼ばれる人間がいた。彼等は総じて暗殺、毒殺に精通した。いわゆるお庭番と呼ばれる存在である。

「コールマンいる?」

囁くような問いかけと同時にノックがされた。「入りなさい」「失礼します」一切の感情が抜け落ちた。無表情の男が一礼する。

「何か策はあるかしら?」

「辺境から王都に向かうには、3つの危険地帯を通ります。まずは腕試しに都合のよい山賊達がおります……」

大金を持った成り上がり貴族が、美しい奴隷を連れてると噂を流してある。そう聞いて、ニッコリ喜悦の笑みを浮かべていた。

「あらあら悪い執事ね~。よくてよ非常に良いわ。もしもうまく行ったら。女達を買うからと話を付けなさい」

「承知いたしました」

恭しく一礼して、何事もなかったように無表情に。ただ主の願いを叶える使用人。それがハウスマンと呼ばれる存在である。



バーザル伯爵の馬車は順調に進み。その日の夕方には最初の町に到着していた。大きさとしては普通だが、レディナスの商業ギルドと交易が盛んで、領主のボートジア男爵とも書簡の上で、仲良くさせてもらっていた。「おおボートジア久しいな」

「これはバーザル様、お代わりないようで何よりですな」

温厚そうな感じのよい貴族であった。ラディアさん達商人のネットワークからも。厳格だが良政を敷くまともな領主である。今回はバーザル伯爵の意向で、あまりよい噂を聞かない領主を避けることを事前に聞いていた。ティムとしてはいずれ排除する相手である。本人を目にすることは、好都合なのだが、バーザルもそこは察しっており。行きでは騒動を起こさないようにと釘を刺され。

「ダメなんですか?」「分からんでも無いが……」

苦笑するに止めていた。護衛に巨人がいることは伝えてある。カムイには悪いが道中馬小屋か牛小屋で寝泊まりすることになっていた。そこは事前に話して許してもらった。

「えーと」

一瞬目を泳がせる男爵に。くすり小さく微笑みながら。愛馬をカムイに任せ握手を求めた。

「お会いするのははじめまして、ティムニートですボートジア男爵」

ニッコリ人好きする笑みを見て、少しだけ安堵した顔をしていた。

「良かった。そちらの怖そうな青年じゃなくて」

お茶目にウインク、思わずオリーアを振り返り。主従はプッと笑っていた。

「彼はぼくの家臣で、オリーアと申します」

「おお~貴方があのオリーア殿か、よろしくね」「あっはあ、よろしくお願いします」

困惑した様子に。また楽しそうに笑うボートジア男爵。どうやら笑い上戸の人物らしいな。

それぞれ紹介を済ませ。屋敷にお邪魔した。若い奥様と二人の娘さんが手伝ったとはしゃぐ様子に癒されながら。

その日は夜遅くまで心ばかりの宴席を楽しみ。翌朝。次の町に向かい出発する。


結局その日は、次の町まで少し距離があるので、何事もなく過ぎて、平原の途中で野営することになった。この時カムイの建築家の才能を発揮、料理に必要なかまどを瞬く間に作ってみせた。また近場に水がないと言うのでエリシアが、精霊魔法で水を用意したり。オリーアが立派な角の牡鹿を仕留め。豪勢な夕食となった。

『主殿よいか』

パラウエイの世話をしていると思念で話し掛けてきた。

『どうかしたのか?』

『先ほどコディーとエリシアが向かった方に。悪意を持ったもの達が向かっている。急がれよ』

この時パラウエイの鞍を外し。ニードルスピアをオリーアに渡して、手入れを頼んであった。手元には真新しい竜鱗の剣だけである。

『案内を頼めるか』

『承知』

馬に鞍を着けていないとかなり騎乗が難しくなる。しかしティムは慣れた様子で裸馬に乗り。また乗りこなしてみせた。


時間は少し戻る。コールマンは密かにボートジア領の近くで山賊頭と会っていた。

「へえ~噂の英雄様がたんまりと金をな」

酒臭い息を撒き散らし。連れてるエルフを誘拐してくれれば、たんまりと金をだすそう持ちかけたのだ。

「へえ~英雄様はエルフを情婦にしてるか、へへへ一度は抱きたいと思ってたんだ。味見した後でも構わねえか?」

「構いません、生きてさえいれば」

無表情に淡々と話すコールマンに。些か気味悪く思いながら。にたり黄色く変色した歯を剥き出しに。嬉しそうに笑っていた。



エリシアとコディーは、森の中に入りる。流石に男性の目があるので、少し馬車から離れたところで着替えていた。ガサリ草をはむ僅かな音に反応したエリシアは、手早く身支度を整え精霊魔法の準備に入った。コディーにも注意するよう促し辺りを伺っていると。15人の粗野な服装の男達が現れた。「へえ~エルフのクセにいい身体してるじゃねえか、こいつは楽しめそうだ、野郎どもガキもろとも浚ってくぜ!」

男達は好色そうに下卑た笑いを浮かべ、所詮は女と侮り不用意に近付いた。

「光の精霊よ砕け散り、閃光せよ」

突然の閃光に目をやられて、男達は驚き慌てる。

「コディー!」二人は手を繋ぎ、馬車の元に急いだ。

「チキショーチキショー!、嘗めやがって許さねえ。許さねえぞエルフ女」

目潰し回復に手間取った山賊達は、我を忘れてエリシア達を追い掛ける。方や子供連れの女。森の中を走ることに慣れてた山賊達は、みるみる追い付いて行った。

「あはははどうしたエルフ女。もうすぐ追い付くぜ。よ!」

伸ばした手が、遅れて走ってたコディーの肩を押した。

「あっ……お姉ちゃん逃げて」倒れたコディー。離れた手、むんずとコディーを押さえた山賊。

「エルフ女!、逃げれば餓鬼は殺す」

「そっそんな……」

絶望的な状況だった。そんな時だ。

『エリシア聞こえるかい?』

ハッとしたエリシアは、微かに聞こえて来る馬の馬蹄を察知する。

『これは……念話?』

『そうさ、ペアーリングに付けた魔法だよ』

優しく気遣う思念。エリシアの折れそうだった心は、瞬く間に安心へと変わっていた。

『ティム様。コディーが捕まりました』

『了解。さてもうひとつこいつには面白い仕掛けがあってね』脳裏に突如。ペアーリングの機能が浮かんだ。『ぼくが使える魔法を全て、君は共有できる。魔法はぼくが唱える。発動すればいい』

そしてティムが使おうとしてる魔法に気付き、なるほどと笑っていた。

『ティム様。こんなに沢山魔法が使えたんですね』

どこか拗ねた思念に。慌てるティムは、色々と言い訳をしてエリシアの恐怖と緊張を解していた。色々と聞きたいことはあったが今は……、

顔を上げたエリシアの顔を見て、山賊頭は眉を潜めた。

『眠りに誘う……、スリープ』エリシアの意思で、広範囲を指定。眠りの魔法を発動していた。



程無くして、無事だったエリシア、コディーを乗せたパラウエイが戻ってきたので、流石に何かあったと騒ぎが起きた。

「大変ですオリーア、山賊に襲われた私を助けるのに……」

皆まで言わせずオリーアが長剣を手に走って向かう、騒ぎを聞き付けたバーザル伯爵に。事のあらましを伝えると。流石に驚きはあったと同時に感心していた。

「なんと……、ティム殿は魔法も使えたのか」「はい、そうだったみたいです。どうも事故の時。その辺りの記憶を失ってたみたいで……」多少ティムの素性を知ってるバーザル伯爵には、ある程度知らせとく方がよいと判断した。

流石に癒しの魔法も使えることは、内緒にしといた。後々分かることだが、ティムの魔力は高い方ではなかった。竜の上位種類を倒すと。竜の力を食ったと言うことになるらしいく。桁違いの魔力持ちになっていたらしい。らしいと言うのはティムのような事例は初めてで、暴竜の黒を討伐出来た人間。魔族すらいないと言われていた。即ち何事も初めてだから。ステータスボーナスがあったとしか考えられないようだ。「魔力は低いようですが、色々な魔法がつかえるので、賢者だったのでは」

「うむ……確かにあり得るな」エリシアとバーザルが話してる間に。護衛の兵がオリーアと戻っていた。何故かカムイだけは残っていて、後程ティムの愛情を知って、それはそれは上機嫌になるが、また別の話だ。


翌朝……、異変が起きた。昨夜捕まえた山賊達がみんな、殺されていた。見張りについていた兵までもが、被害にあっていた。

「ティム殿いいかね」

重く見たバーザルとティムは、人払いした馬車に乗り込み。内密に話をしておいた方がいいと判断した。

「あれをどう見たティム殿は……」

「恐らくフランディース公爵家の手の者では無いでしょうか?」

「ほほ~う。何故そう思ったのかね?」

「はい。確かフランディース公爵家は、前貴族会のトップ。それも長らく君臨していたと記憶しております」昨夜につづいて、感心した声を飲み込んでいた。

「恐らくわしもそう思う……」心苦しそうな伯爵に。ティムも呆れた気持ちで、やらかした公爵家に怒りを覚えた。

「バーザル様。毒薬無効の効果がある中和剤を持ってきておりますので。今日から毎朝飲んどいてくださいね」

「なんとそんな物を。ティム殿は暗殺があると考えていたのだな?」

「ええ、エリシアを狙って失敗した以上は、可能性が高いですね」

残念ながら史実では。ご子息のブラーゼルが、暗殺されてしまう、毒殺だった。

「ただしこれ下痢になるので、ちょっと辛いですが」

それを聞いて、情けなさそうな顔をした。実際は中和剤を飲んでも下痢にならないが、毒を盛られたら下痢になるが正解だ。それからしばらくバーザルは、町に着く度に下痢に見回れると言う、非常に悲しい仕打ちを受けた。


五度の猛毒によるバーザル伯爵暗殺は失敗に終わり、コールマンの報告を受けて、流石に眉を潜めた。

「ベラドンナの雫石を飲んで誰も死ななかったですって?」

「はい奥様。ティムニートには念入りにグラスの半分も飲ませましたが、ぴんぴんしておりました」

流石に可笑しいと感じて調べてみると。毒薬無効の中和剤を飲んでいたことを知り主人のレディオーサに伝えた。ただしティムニートだけは中和剤を服用した形跡はなかった。よって何らかの装備品によって猛毒を無効にしたと考えたのだ。

「……なかなか抜け目が無いようね…」怒りを覚えたが、山賊を暗殺したことで、相手を警戒させた。しかし山賊を生かしておくことは出来なかったので、叱責は出来なかった。それが余計に腹立たしい。

「もう手は無いのかしら?」

「ハウスマン部隊を使わせて頂けるなら」

一瞬迷いを見せたが、手段を選んでる場合ではなくなっていた。

「良いわ二人も連れて行きなさい」

「ありがとうございます奥様」恭しく一礼して、音もなくコールマンは退出していた。


代々公爵家に支えるハウスマンは15人いて、留守居を残した12人をハウスマン部隊と呼んでいた。四人マンセルで動く暗殺部隊には、それぞれリーダーがいた。魔法使いフォートマン。暗殺剣使いサークマン、そして毒薬のスペシャリストコールマンの三人だ。屋敷ではそれぞれ執事、メイド長、料理長を兼任していた。「相手はバーザル伯爵の兵、奥様の敵ティムニート、エルフの精霊使い。護衛の二人。1人は巨人族だ」

いかにも出来るメイドといった感じの角バッタ眼鏡を外し。ひとまとめにしていたバレットを外し。小さなスタッフを手にしていた。

「ちょっと大変そうね」

「いや問題ないな、巨人族とティムニートの護衛は俺達で殺す」

白衣を外し。黒衣に着替えた料理長は、愛用のスティルナイフとマンゴイッシュ。突く毎に特化した武器の二刀流、どちらにも遅効性の麻痺毒が塗られていた。

「私達がバーザル伯爵が乗った馬車を魔法で破壊するわね」

「混乱してる隙に兵を殺し。伯爵共々皆殺しにすれば問題あるまい」

一切の表情を変えず淡々と出来ることを言葉にする。コールマンとはそんな男であった。


数日前、領主の屋敷にいたのにバーザル伯爵は下痢にならなかった。そのことから相手が最終手段に出ると察した。その日の夜。オリーア、コディ、エリシア、リディー、マリアードを連れて、カムイのいる馬小屋にきていた。

「明日暗殺部隊が、伯爵とぼくの命を狙ってくる」

ハッと息を飲んだ皆に、

「馬車は防御魔法で守るが、恐らく外のぼく達は分断される。だからいざとなったらリディー、マリアードが、伯爵達を守って欲しい。最初に頭を下げて願いを口にしていた。

「ティム様、任せてよ!。私達わかってるから」

慎ましい胸を叩き、リディーが嬉しそうに笑っていた。

「そうですよティム様。私達は感謝こそすれ貴方様の役にたてることは、私の喜びです」

美しい魔族マリアードは、恭しくティムニートに一礼していた。

二人は生まれて初めて、人間の男に大切にされ。しかも女の子扱いされる日々を本当に楽しんでいた。だから自分の居場所を守るためなら。敵を殺すことに躊躇はなかった。


翌日の夕方、明日からモンスターが徘徊する危険な森に入るため。街道近くで野営することになった。しかしその日は珍しく火も焚かず。食事を作る音がせず。違和感を覚えたコールマンだが、魔法攻撃の合図をした。フォートマンと呼ばれた女と配下三人は、火球の魔法を使い10あまりの一抱えある炎を一斉に解き放つ。


次々に三台の馬車に当たり。闇夜を焼いた筈だった……。

「なっ、魔法が防がれた!」

驚愕して注意を怠った四人に。音もなく近寄った真っ黒い肌。真っ赤な血色髪。闇夜に栄える真っ赤な目を見たのを最後に気絶させられていた。二人は魔族の一族で、血液の鉄分を使い身体を鋼よりも硬く。血流を操作する魔法によって、アイアンゴーレムよりも力強く。音速を越えて移動して、一撃を持って敵を倒す。美しき戦闘民族であった。

「やっぱり隙だらけの魔法使いなんてこんなもんよねマリアード」

「ええ、でもティム様には驚かされたは、あんな強力な防御結界魔法が使えるとはね……」

「あれね。オリーアさんやカムイさんも知らなかったようだし。忘れてたってのも嘘とは思えないのよね」

「そうね。ティム様には色々秘密があるようだし。あの暴竜も何気に倒すとか、ますます抱いて頂きたいわね」

うっすら本気の気持ちを口にして、心配そうな眼差しを空に向けていた。



火球の魔法が、次々と馬車に当たった瞬間。コールマン、サークマンは仲間を引き連れ。馬車に殺到する。光を直接見ないよう注意しながら、8つの影が、今にも破壊された馬車にたどり着いたと思った瞬間だった。何故か無傷の馬車が現れて、コールマンの判断が遅れた。巨大な影が馬車を飛び越えて、とても人間には持ち上げることも出来ない巨大な何かを振り上げて、八人の手前に叩きつけた。アビリティ・大地の鳴動である。凄まじい爆風に煽られ。逆巻く小石を含んだ攻撃に。防いだ肌を容赦なく叩いた。ビキビキ足元から不気味な音がしていた。大地が悲鳴を上げた途端、ボコンと耐えられず。馬車一台分の大地が陥没していた。足を取られた八人は尻餅を着いていた。大きな隙を見せた暗殺者達。迫る2つの影。一つは馬に乗っていて、銀光纏う先端が針のような、刺突武器ニードルスピアを構えていた。この武器こそスピードと実力さえ伴えば、古竜の鱗ですら貫くことが可能である。ましてやアビリティ致命的一撃を覚えたティムは。軽い一撃を当てるだけで、相手は瀕死の重症を受けてしまう、もう1人オリーアは激怒していた。尊敬する主を亡き者にしようとした暗殺者を。とても許すことなどは出来ない。凄まじい剣撃を持ってサークマンを誅殺。返す剣でコールマンに致命傷を与えていた。

「眠るがいい」無詠唱で眠りの魔法を使って、暗殺者を無力化したティムは、一つ息を吐いていた。ひとまず暗殺騒ぎは終息したと思って良さそうだ。残念ながらリーダーらしき男達は自害したため。口を割らすことは出来なかったが、マリアード達が昏倒させた四人を無力化して、つれ戻った。結局他に生き残りは瀕死の男1人だけで。みな死んでいた。

それぞれ毒物無効の中和剤を飲ませ。さらにリディーに自害出来ないよう血流魔法を使ってもらい。五人の記憶から必要な情報を引き出していた。


一夜明けると。地形すら変わっていた様子をみた兵達は何か夕べあったことを理解する。寝て起きたら暗殺者を捉えていた。色々と言いたいこともあったが、首謀者もわかって、さらには証拠をばっちり残していたのだ。もはやフランディース公爵家は、お取り潰しは決定的だった。



証拠と証人を管理するためマリアードとリディーには苦労をかけるが、こればかりは仕方ない。それから7日あまり、モンスターが徘徊する森を抜けて、ようやく王都が見えてきた。


「コールマンばかりか、誰も帰って来ないなんて……」

数日以内には帰宅するものと考えていた。だがどうやって……、

「信じられないわ」

今までそんなことなかったのだ。目にクマを作って考えこんだレディオーサ、その日の夜。夫と同じ運命を辿る。



バーザル伯爵は密かに宰相と連絡を取り合っていて。昨夜の暗殺事件とあらましを報告していた。

「なんとまあ、レディオーサ様も思いきったことを」

しかし……我々も。ティムニートの実力を。正しく把握してはいなかったと苦笑していた。まさか虎の子のハウスマンのカードを切って、捻られたとは思っていないだろうに……、

「直ちにレディオーサ様を捕縛しなさい。容疑はバーザル伯爵、ティムニート伯爵暗殺未遂の犯人として」

「はっ」

近衛隊長に命じる。こうも次々に陛下の政敵を倒してくれてるのだ。感謝はしなくてはならない。しかし……、さすがに警戒すべきだと思った。

「まずはどんな青年なのか、それから判断すべきだな」

トコロテン式に。害虫は次々に現れるのだ。警戒しておいて、し過ぎることはない。宰相は疲れたため息を吐いていた。

レディオーサ夫人が放った。暗殺者ハウスマンの計略を物ともせず。無事切り抜けたティムニートに。国の重鎮達も密かに警戒を強めていた。また同じ物語で背徳の魔王でした。

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