表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/35

大規模進行

愚かなタカ派貴族会ラルバルト侯爵は、目の上のたん瘤。新たな女王派の辺境子爵ティムニートを排斥しようと画策していた。前王弟ラギナード公爵、宮内、内務の四人。王都に巣食う権力の亡者を前に。リズベル女王が毅然と対応する。

西の村が、城塞都市レディナスとして改築されてから半年が過ぎた頃。




魔界では緩やかな変化が起きていた。移動巨大要塞ギガントは、緩やかなスピードで、地下世界から、地上が見れる巨大な大穴を見上げると、ようやく地上の光。太陽の光が見えてくるようになっていた。

この分なら地上に到着するまで後2ヶ月程度である。魔族の地上侵略軍司令官エルメダスは、ようやくギルベスに出撃命令が出せると、笑みを深めた。

「メディアル将軍、そろそろご子息ギルベス殿の出撃がかなう、よろしいかな?」

猛虎族三王が1人金虎王アディマスの側近、メディアル将軍はエルメダスの副官として同行していた。「あれも少し飛べば、血の気も抜けましょう、ご配慮かたじけございません」

一礼する。それに粗野な風貌の蒼髪碧眼。長耳族の王子エルメダスは笑みを持って頷いた。

「では知らせてくるとするなか、しばらく騒がしくなりそうだがな」

楽しげに笑っていた。



猛虎族には、肉体的特徴が幾つかあって、顔の片側と耳そして尻尾が。虎の物である。そのせいか狼人族、ライオン族、獣人の部族が配下にいて、それは騎乗する魔物も同列である。有名なところで、身体はライオン、頭はコンドルのグリフォンを飼っていて、グリフォンライダーになる猛虎戦士は多い。総勢隊4000もの旅団に。本体であるガーゴイル20000隊を付ければ、かなりの大部隊になる。サルマレア国境近くにある小国を落とし。ある作戦を遂行させるのが目的である。



魔界の西大陸にある。金虎王アディマス領。グリフォンライダー部隊が陣を敷いているのは、ギガントと繋がる転移装置の側に。陣営を築いていた。隣にはサーベンガーと呼ばれるピューマに似た。大型の魔物が控えていて、此方はマークア陸上旅団長が率いていた。二人の若い旅団長は、幼なじみで、親友で、ライバルでもある。それゆえに焦れていても我慢出来ていた。

「こっちは準備万端だってのに。でか物のやつ。まだ。上に着かねえとか、どんカメかよ」右耳だけ金色のギルベスは、糸切りで刻んだような、鋭い犬歯を剥き出しにして。何時もの愚痴である。

「まあそう言うな、お前が短気なこと、親父さんも知ってる」

(それに兄貴エルメダスさんが、ぼちぼち動いてくれそうな気が……)

二人の探知する範囲に。強い魔力が出現したのを感知した。

「この気配はエルメダスの兄貴!」

パタパタしっぽを振りだす勢いの現金な幼なじみに、マークアは苦笑を浮かべた。

「よう兄弟、ご機嫌はどうだい?」

粗野な風貌に。ニカリと楽しげな笑みを見て。二人は気付いた。

「兄貴!、いよいよか、いよいよなんだよな、なっなっ」好物をねだる飼い犬のように。エルメダースに付きまとい。早く早くと急いていた。

「その通りだギルベス。お前の飛行部隊が。気合い入れてチイト飛べば地上だ。行くか?」

「イクイク絶対いくかんな!、早く早く命令しろよ兄貴」

「よし!、飛行旅団長ギルベスよ。貴殿は直ちに地上に飛び。サルマレア国境のデルセンを攻め滅ぼし作戦通り拠点を得るのだ」

「うっ、ウオオオオオオオ!、いくぜいくぜいくぜ!、兄貴行ってくるぜ」

きりっと敬礼するから。返礼した途端。走り出すように陣営に向かっていた。

「と言うことは、後2ヶ月位ですな兄貴」左耳の一部が、銀色のマークアがようやくかと。溜め息混じりの笑みを浮かべた。

「お前達なら、後一月ってとこで行けそうだが、待つのか?」「ええ~ぼくは無駄な体力使うの嫌いですから」

くすり微笑んでる姿は、まるで女のように艶やか。しかしギルベスとは違い。勇猛果敢ってよりも。無慈悲な残虐性を内面に隠しもったサディスト。マークアとはなかなか油断出来ない武将である。

「フンお前ならそう言うな、良かろう先にリュルル幻獣旅団を向かわせるか」鼻を鳴らしてから。一度ギガントに戻ると。やはりと言うか……グリフォンライダー部隊が、気を吐いて次々に飛び出してくとこだった。

「ウオオオオオオオ!、野郎共ギルベス様に続け」『おう!』

「相変わらず熱苦しい連中だぜ」

仕方ないので上の階にある。中規模の転移装置を使って、自国の座標に合わせた。魔力が貯まるのに15分掛かる。その間勇ましい雄叫びが、いつまでも上がっていた。



しばらくすると強い魔力を感じた。ガーゴイル20000を召喚して、放出しているのだろう……、ようやく魔力が貯まり。改めて自国に転移する。先ほどと同じように転移装置の側で、準備を済ませていた幻獣旅団リュルルの陣営を見舞う。

「リュルル準備が良ければ出るか?」

エルメダスが現れると。美しい顔の妖鳥が。嬉しそうな声を上げていた。そんな妖鳥はみな銀色の羽毛に包まれた竜。ミラージュドラゴンが飼われていて、その世話をしていた。エルメダスはまっすぐ。小高い岩山に近付き、一際美しいハーピィに声を掛けた。

「ああ~エルメダス様♪。ようやくでございますか?、そうですかようやく私達が飛んで行けるところまで、地上は近付いたのねルールルラル♪。それじゃ行こうかな」

何か言う間に勝手に完結してやがる。微妙な顔をしたが、

「そうかせいぜい雄を捕まえて来るがいいぜ」

「ええ~とっても素敵な事だわ、そうそう遠慮なく。そうさせてもらうつもりなの♪。その後は雛の餌になって貰うから~、骨も残らないけどね」うっとりと眼を細めていた。妖鳥ハーピィの女王リュルルの言葉に。周りに控えていた上位ハーピィ達が、淫貪そうに微笑んでいた。妖魔と呼ばれるハーピィは、長耳族と友好種族である。リュルルはハーピィ女王と呼ばれる特別な個体で、強力な幻術の使い手でもあった。飼っているミラージュドラゴンは、光学迷彩と呼ばれるアビリティを備えていて。霧のブレスを放つ変わった特性を持った竜であった。

「ピューアーー!。いよいよ私達の出番よ。戦働きして、たっぷり男を漁るんだから、みんな頑張んなさいね」

『はい、お姉様』

見目美しい女達。腕がなく翼があって、足は猛禽類のような爪を備えていた。体の上に風精の革鎧を着込み。リュルルは、身体の大きなミラージュドラゴンに乗って、先陣を切った。その後に小隊ごと転移装置を動かすと。次々に中に入り、消えて行く。

「王子、ようやくですか?」

騒ぎを聞きつけたエルメダスの側近メデリスが、安堵した顔をしてやって来た。さすがにリュルル達が近くにいたので、精神的に疲れたのだろうな。

「ああお前達には苦労を掛けた、後50日は待たせることになるな。そこは諦めろ」

それは仕方ないと肩を竦めていた。

「まあ~だれも喰われませんでしたが、何人かちょっとおかしな配下がいましたよ」

ため息混じりの訴えに。苦笑するしかない、メデリスはエルメダス付きの与力で、心許せる数少ない配下であった。「お前に。話がある」

そう口にして。意味ありげな顔で笑っていた。


時間は少し戻る。移動巨大要塞ギガントが移動中。魔物の中でも魔族よりも強力な力を持った個体が、何体かいた。流石に魔物の王は、手に入れられなかったが、上位魔物と呼ばれる幾つか、中位魔物と呼ばれる多数を。影の舞闘カゲノブドウ科学者の二人が、捕まえて操れるようにしたと伝える。

「王子、先に話したと言うことは……」

暗い喜悦が滲む。同じような顔をするエルメダスは。

「無論お前に選ばせる為だ。余りを三人に回す」

きっぱりと区別して、依怙贔屓に嬉しそうな笑みを浮かべた。


結局ロックボアル、大魚とよばれる魔界の古代魚と、暴竜テラビーストドラゴン赤、青を選び、エルメダースも黒を残した。

「順番的にギルベスですか?」

「ああリュルルには夢魔のナイトメアで十分だろ」

所詮は魔族になれない魔物である。リュルルと変わらぬ地位の夢魔のナイトメアでも。それはそれで喜びそうだ。暗にそう言っていた。

「確かに。俺があんな魔物と同列に扱われるよりもめちゃくちゃ嬉しいですな王子」

素直なメデリスに。小さく笑い。本音を漏らしす。

「当たり前だ。俺にとってお前は、いち番信頼出来る配下だからな」

「!?……はい」

邪気のない素直な眼差しを向ける相手は。主であり敬う王子にしか向けない、背を伸ばし敬礼していた。



いち早く移動巨大要塞ギガントを飛び出したギルベスは、好戦的な顔に。目をギラギラさせて。早く早くと飛んでいた。

「若、伝令。後方700にガーゴイル編隊100が追従しております」

副官の1人である大隊長が、報告を上げた。

「よし!、野郎ども地上に出たら。もう一度編隊を確認しろや」

「承知」

有能な副官のお陰で、ギルベスは余計なことせずに助かっていた。

「へっ流石は親父の部下達だ。みんな有能だぜ」

今にも鼻歌を奏でそうに上機嫌であった。相棒で、自ら育てたクイーングリフォンの首筋をひと撫でして、相棒の戦意を楽しむ。

「ようやくだなテレスア」チラリ相棒はこちらを見て、小さく頷いた。




その日の夕刻



闇の谷上空に、ぬら雲のごとく。空を飛ぶ魔物が現れた。やがて万を越えた魔物は、南に進路をとって飛び差って行った。



サルマレア国。大陸の南に位置する大国で、隣国の東のドルマリア連邦とは、一部交易的領域で国境が重なっていた。



国境近くの小国デルセン。比較的森に近い国は、



その日━━空から。万をも越える魔物の猛攻を受けて、僅か一夜にして壊滅。3万を越える死者を産み出したと言われていた。かつて美しい町並みと言われた。森と一体感のあった町は……、人間の血と破壊され尽くした家屋。まるで砲弾でも食らったように。城は崩落していた。後に僅かに生き残った人々は証言した。あっという間の出来事だったと……。突然現れた魔族は、僅か3日の間に。小国3つを滅ぼしたと……、


デルセンが滅ぼされた5日後。それを知ったサルマレア国は、直ちに軍備を備え。国境に向けて軍を進めた。ギルベスが地上に降りてから、10日も過ぎた頃であった。



ちょうどその頃。地上にたどり着いたハーピィ女王と配下は、北東に向け進軍を開始する。狙いはドルマリア連邦の孤立。よって交易的領域にある。小国を攻め滅ぼし。国交を断裂させることによって、魔族方の拠点防衛を容易にさせる算段であった。ハーピィ女王の狙いは、何れ大国クラドル公国の転覆である。70年前の進行では、クラドル公国を蹂躙したとき。ドルマリア連邦の巨兵きょへい、クライドル公国の重騎兵士じゅうきへいによって阻まれた。人間は1人では弱いが、数が増えると魔族とて倒す。それは認めなければならぬ事実であった。

ハーピィ女王率いるミラージュドラゴン部隊、下位ハーピィ部隊は、2万ものガーゴイルを操って、大国二国の間にある国境に隣接する小国ゼネガルを攻め滅ぼし。山脈の麓マーメルディ樹国までも滅ぼし。魔族が地上に現れて僅か20日足らずの出来事であった。マーメルディ樹国を我が物にしたハーピィ女王は、ここで一度部下を休ませ。個体を増やさせることにしていた。ハーピィは牡であれば獣以外。何でも子をなせる魔物である。旺盛な繁殖力を持っていて、その繁殖力はオークに比肩すると言われているが、ハーピィが数が少ないのには幾つか理由があった。オークが一度に4~7匹産み落とすのに対して、ハーピィは一部に卵一つ。羽化に10日掛かるため。どうしても個体を増やす時間は必要だった。ただしハーピィは羽化して10日程度で大人になり。10年程の生を全うする短命な種族と言う理由もあったが……、

ただし女王他、上位であるグランハーピィと呼ばれる上位種にクラスアップすれば、人間程度の寿命を得れるようになる。しかし女王のように寿命を克服した個体は、まず千年に一度現れるか。過去にもほとんど例がない。



同じ頃。一度大暴れしてガス抜き出来たギルベスも拠点を手に入れて、休息を取っていた。当初の予定よりもかなり暴れたが、兄貴や幼なじみが現れるのをひたすら待つことになるが、暇潰しが向こうから来るので、二年近く待たされたことも、どうにか我慢するを覚えたギルベスであった。



ドルマリア連邦・王城。

急遽呼び出された地方伯ブラーゼルは、ランバルト公爵、宰相、内務、財務、農務、外務、宮内の官僚と呼ばれる六人と国のトップ、リズベル女王、叔父のラキナード公爵が一同に会した会議の場。

「外務大臣発言をお願いします」たおやかで生気に満ちた顔立ち、金髪、それに合わせた小さなティアラをあしらって、動きやすい礼服に身を包んだ少女に、痩身の中年が立ち上がり一例した。

「はっ隣国デルセン、カルメリア、アルドウルの小国が3日で壊滅、北東の小国ゼネガル、マーメルディ樹国壊滅、我が国は孤立致しました。それぞれ魔族と上位魔物が、ガーゴイルを数万を率いて拠点を制圧。デルセン、マーメルディにそれぞれ居城にしておると。逃げてきた民から聞き及びました……」

ザワリ、信じられぬと動揺したり。顔を青ざませたり人それぞれであった。 「それとサルマレア、クライドリ両国の魔導師から。連絡が届いております」おそらく自分たちの都合がよい。援軍を送れそんな内容であった。しかしドルマリア連邦としても国境に魔族の軍勢がいるのは都合が悪い。果たしてどうすべきか……、悩みどころであった。

「発言よろしいかな陛下」

60手前の、身なりをきちんと整え笑みを張り付けてるが。油断ならぬ眼差しをした。ランバルト侯爵が発言を求めた。現在ドルマリア連邦は、2つの派閥で政治的争いが静かに行われていた。リズベル女王陛下を御輿に、宰相、外務大臣、ブラーゼル伯爵家、前王弟ラキナード公爵を先頭に、ランバルト侯爵、内務大臣、宮内の過去の栄華を忘れられない貴族会による争いである。前王弟ラキナード公爵の右腕ランバルト侯爵は、貴族会のトップに君臨する実力者で、サルマレア国の有力貴族と癒着が噂され。国内で問題になっている。他種族を奴隷にして扱う、奴隷商人を擁護する黒幕ではないかと言われてる人物で、リズベルの父前王の時代。内務大臣を任された重鎮でもあった。奴隷制度をドルマリア連邦は認めていないのだが……、

「どうぞ発言を認めます。ランバルト侯爵」

雅に一礼して、せっかくのチャンスである。新しいたんこぶを潰す。策を披露する。

「陛下サルマレア国の援軍に。辺境守備隊を差し向けては如何ですかな?、噂ではバーザル伯の覚えも愛でたく。優秀と聞き及んでおりますので」ただし2000程度の兵士しかいないが、2万の魔族と戦えとむちゃくちゃ言っていたが、 一瞬朱を射した頬に。いけないと一つ呼吸をとってから。ちらりブラーゼル、ついで宰相と目配りをしていた。ランバルト達が思ったほど感触は悪く。おやっと眉を潜めた。

「陛下発言よろしいでしょうか」

礼服を着なれた印象のある。バーザル元伯爵の嫡子で、新しい地方伯ブラーゼルが、発言を認めた。

「ブラーゼル伯爵。発言を認めます」

立ち上がったブラーゼルは、父バーザル伯に似た。鋭い眼差しでランバルト侯爵を真っ直ぐ見て、

「ランバルト侯爵、残念ながらそれは認められません」きっぱりと拒絶。それも自分よしも格下の伯爵ごときに。血の気が登っていた。

「ブラーゼル貴様、我が献策を認めぬと言うか!。公式の場で我を愚弄するつもりなら許さぬぞ」

怒気をまとい。殺意すら含めて睨み付けていた。しかしどうしたことかリズベル女王は、可哀想な人を見るような眼差しを。自分に向けてきたではないか、さすがに違和感を覚え。ラキナード公爵を伺うが、困惑した色を見るに。やはり予想外の反応と分かる。

「ランバルト侯爵様、さすがに我が国を窮地に陥れる下策は受け入れられませんな。既に内務、農務大臣からも了承を得てる事案です。場をわきまえください」

「なっ……」中立の財務、農務大臣が了承している?。初耳であった。

「ブラーゼル続けなさい」

「はい」

若いが女王の命に口を挟むと。後々面倒になるので、仕方なく席に着いたランバルトと、前王弟ラキナード公爵達は、内心の思惑を破壊する驚きの情報を聞いて、我が耳を疑っていた。




事は魔族の尖兵ギルベスが、一軍を率いて南のサルマレア国国境に向かい飛びさる。数日前……。



ティムニート子爵は、訓練を重ねた弓兵を連れて。第4師団長アスマンに命じていた事があった。その為早期に異変を発見。ティムニートより急報がもたらせたのが、デルセン壊滅当日のこと。元辺境伯バーザルは冒険者を雇い詳しく調べさせた。ハーピィの群れが魔界の穴から現れた場面だった。報告を受けたバーザルは直ちに宰相、外務大臣、リズベル女王に知らさせていた。そして外務大臣は、足の早い配下をデルセンに送り。事実と分かり衝撃を受けた。更に数日が過ぎた日━━。

再び凶報が届いた。元狩人の師団長アスマンは、巨大な建物が地下世界から、地上に向けてゆっくり昇る姿を捉えたこと。それを聞いて、会議の場は重い静寂に包まれていた。

「陛下……それは」

「事実です叔父上。『観測』スキル持ちの兵と。さらに物見に行かせた冒険者、バーザルの配下にも確認させましたが、何れも事実でした」そしてティムニートから信じられぬことも聞いていた。北方の大国パルメニアが、滅ぼされる可能性が高いこと、セドロア戦国国境にも魔族の軍勢現れること。それでサルマレア国が孤立して、とてもじゃないがドルマリア連邦には、どうしようも出来なくなる未来……、

「魔族の移動巨大要塞は、辺境に現れます。そんな危険な状況で、辺境守備隊を差し向けるなど。下策と言わずなんとしますか!」

珍しく声を荒立て、ランバルトを厳しく誰何されれば、さしもの侯爵も言葉を無くしていた。自分の言葉が、不用意な失態となり明るみに出た形であった。血の気が無くなる侯爵、そんな侯爵をラキナードは渋面を作る。どうやら旗色が悪くなったのを察して、凡庸な内務大臣、権力と金の亡者宮内の二人は不満そうに発言を控えた。リズベル女王は戦争の準備を叔父に認めさせる。そしてよその間に辺境守備隊の援軍に。元辺境伯バーザルが一軍を率いること。本陣の指揮官としてブラーゼル伯爵に。3万の兵を率いて辺境に向かわせる事が決まった。



同日夜……。

リズベル女王は、まるで会議で起こる出来事を予知したかのような手紙を。もう一度読み返し。別室に同行させた外務大臣レクス、宰相グランディスにも、ティムニートからの献策を見せていた。まさか言ったまんまになるとは思わなかった。

「ブラーゼル伯から聞いていたが……、ここまでの知者だったとはな」

唸るレクスに同意したグランディス宰相は。難しい顔をして、「懸念があるとすれば、新しい政敵になる可能性だが……」

そこは心配ないとバーザルが口を酸っぱくして養護していた。密偵が集めた報告では、リズベル陛下と同じく奴隷否定派のようで、近隣から寄越された奴隷を突っ返すのではなく。解放してカウンセリングと言われる心的ケアを行っていると聞く。

『もし……。あれだけの子がおればとは思わせたが』

あくまでも内密な言葉であるが、あのバーザル元伯にそこまで言わせた人物である。

「グランディス、レクスもしも無事もうひとつの策が、上手く行ったら。一度お会いしたいと思います」

これ程見事な献策を披露した人物である。もうひとつの策通りラギナード公爵達が動いた場合、献策したティムニートが生きていたら。恐らく無事では無いだろう、二人は叶うならば無事であれと。願うばかりだった……。



女王の何時になく厳しい様子から。何かあるのだと将兵は不安を覚えた。しかし時とはそうした方が、早く進みを感じた。ブラーゼル伯爵が三万の兵を引き連れ。王都を出発しようとした時。様々な問題が起こるのだが……、もう少しだけ先の話になる。



同時刻。闇の谷から鳴動が響くと冒険者から報告があった。よって危険と判断したティムニートは、領主の命により森に入ることを禁止した。驚く民に子爵として魔族、魔物による大規模進行の疑いありと。辺境に旅人が来ることを禁じ。広く傭兵を募った。

「ティム様。食料確保終わりました。つきましては北方の傭兵村から連絡があり。直にお会いしたいと代表者が参っておりますが……」

金の美しい髪、ブルーの瞳のハーフエルフの少女エリシアが、紺のブレザーのような制服を着こなし。裁決を伺う、

「うん、執務室に案内して、悪いけどコディーにお茶よりも。ラディアが作った増血剤と赤ワインを用意させて」

なぜ以前からラディアに増血剤と呼ばれる薬を調合させ。さらには量産を急がせていたのか、わからないが、ティム様のことだ何かしら考えあってのことだろう。素直に頷いた。最近辺境であるがメキメキ頭角を現してる。浮いた噂のない領主に取り入ろうとする近隣の村領主や下心満載の貴族が、奴隷や金を寄越して来ていた。エリシアにとってあんまり歓迎出来ないことだが、何故か奴隷は受け取るから。多少なり相手方の心証を良くしていた。新しく奴隷の二人を使用人に雇い入れた領主に。やはり男だと周りは安堵したが、司政官のアルキメデス、ホディーアン砦村地方領主の父とエリシアには、それとなく理由を語っていた。今まで受け入れた奴隷の多くは獣人の女性たちで、性的虐待。肉体的虐待を受けた結果。強いトラウマを受けていた。精神的苦痛を和らげる目的で、シスタークレアの手伝いをさせること。ドルマリア連邦女王リズベル様と政策を同じにしているとのパフォーマンスであると聞けば、納得出来た。受け入れた奴隷達は自立出来るまで、面倒を見ると言われて、大層奴隷だった者は戸惑いを見せた。

「主様。アルマ神官プラナ様が参られました」

肩口で切り揃えた血色髪、やや浅黒い肌のエキゾチック美女マリアードが。にこやかな笑みを浮かべ、恭しく低頭する。

「ありがとう、ちょうどよかったマリアード傭兵村から。君たちに会いに。親族が来たようだから。リディーも呼ぶようにね」

「あっはい!、かしこ参りました」

嬉しそうに微笑み、鼻歌でも奏でそうな顔で扉を開けると。入れ替わるようにプラナ神官、シスタークレアが入って来た。そろそろ奴隷解放された獣人達もレディナスで暮らすようになって、一月程になる。

「間もなく傭兵村から。二人の親族が会いに来たようだから」

マリアードの突然の変化に、戸惑いを浮かべていたので教えると。なるほどと優しい笑みを浮かべていた。

「申し訳ないが二人にも。アルマ神殿側として、同席願いたい」

「承知しましたティム様」

町の住民には口止めはしてある。しかし人の口に扉は建てられぬと言われていた。どこで漏れるかわかった物ではない。

「リドラム神官長様からも、ティム様の計らいに。感謝しておりました」

小さく低頭してから。改めてティムを憧憬を浮かべていた。シスタークレアとティムニートは、今ではすっかり姉弟のような関係であった。クレアからすればしっかりした弟を誉めるような感じであろう。些か照れてしまう。

「お二人には改めてお礼を申します。アルマ教会で、皆さんを受け入れて下さり此方こそ。感謝しております。ありがとうございました」 「てっティム様……」

潤んだ目をして、少女神官プラナが、何やら熱い視線を送ってくるから。

(どうしたんだろう?、風邪かな……)

色々なプラグを立てまくってること。まるで理解していないティムニートであった。



ノックの後。入るように伝えると。コディーに続いて三人の男女が入って来た。領主の屋敷で、新しい使用人となった二人。マリアード、リディーと同じ。血のような赤髪、浅黒い肌の男女。素早く立ち上がり三人を出迎え。座るように進めた。

「領主様!。娘達を助け下さり、ありがとうございました」

三人の中でも。初老に差し掛かりそうな。がっしりした体躯の男が、今にも土下座しそうな勢いの低頭だった。

彼等は王都のさらに北方に住む。傭兵村の住人で、鉄血族と呼ばれる。魔族の一つであった。

彼等は名前の通り血液を用いた肉体強化。魔法を使う、傭兵としては、一騎当千の戦士であったが、貧血状態だと女子供でも簡単に捕まえる事が出来てしまう弱点を抱えていた。若い二人が奴隷になった経緯は、傭兵としてデルセンの国境村で暴れていたトロール討伐に訪れたのだが、上位キングトロールが現れたことで、弱点を発祥して倒れた。そこをデルセンの貴族であった領主に捕まり奴隷とされたのだ。二人は運よく。大規模進行前にティムニートの元に送られた。

「失礼致します主様、リディーを連れて参りました」

聞き覚えのある声に。三人は揃って振り返る。

「あっ兄さん!」

「リディー、リディー、リディー!」

不安そうな顔をしていた青年が、目を輝かせ妹の名を呼ぶと。リディーは兄の胸に抱き着いた。それを皮切りに。娘の無事な姿を見て美しい女性が手を広げ、涙ながらに。名を呼んだ。

「マリアード!、私の可愛い妹」

「マチルダ姉さん、それに父さんまで……」

驚き目を丸くしたマリアードを、二人が力強く抱き締めていた。すると何時も飄々としてたマリアードの目に。みるみる涙が溢れ。

「ふえ……姉さん!、父さん」

嗚咽を我慢せず。わんわん泣き出した。プラナ、クレアも貰い泣きしていたのはご愛嬌。



問題の二人だが、戦闘奴隷をやっていたこと。自分たちが生きるために同じ奴隷を何度も殺したこと告白していた。

「そうか……、頑張ったな、お前が悪い訳じゃない」

まるで全てを飲み込むような。重々しい言葉であった。鉄血族が傭兵でありながら、奴隷にされることがあるのには、二つ理由があった。一つがエルフ程ではないが、数百年もの寿命を持ち。美しさを保てる種族は少ない。さらにもう一つが血の誘惑に弱いと言う弱点があるため。奴隷から抜け出すのは大変なことなのだ。

「商人から話を聞いております」

ようやく落ち着いた村長マリアードを残し。四人には別室で再会を喜んでもらうことにした。

「改めてお礼を申します領主様」

深々低頭するゲルタスに、にこやかに礼を受け入れて。

「先に。商談を済ませてしまいましょう」

「はい」

幾分表情を和らげながら。新しい薬増血剤について、運ばれたワインを勧めながら説明する。

「ほほ~う。一回の接種で血液が40%増量するのですか!」食い付き方が半端ではない。

「まあ~落ち着いて」

なだめながら。黒い丸薬にしか見えない増血剤と。スタミナアップ剤について説明した。

「なるほどスタミナを血液に変化させるとは、それでスタミナ剤も……」

魔族は魔力が強く。肉体も強靭である。何度も頷きながら興味を示した。

「一度に接種する量は、二度までとなりますが、血の誘惑を断ち切る薬になればと用意した物で……」

ハッと表情を変えたゲルタスに。二人の話を聞いてから。2つの錠剤を作ったこと伝えた。

「二人さえ良かったら。村まで帰るよう言ったのですが……」

二人は、ティムに心底感謝していた。戦士として支えたいと申し出ていた。

「ぼくとしては、苦労していた二人を戦わせる気はありません。ですから使用人として雇うことにしました」

「!?……領主様。重々お気遣い感謝致します」

これ程まで、二人のことおもばかってくれたことに。深く感謝していた。

「さすがに。此方はただと言う訳にはいきません。ですから交易製品として買いませんか?」

「いい話ですな!、喜んで買わせて頂きます」

「詳しい内容は、商業ギルド長ラディアに任せることになります。付きましては、仕事の依頼をお願いしたく……」

詳しい話を聞いたゲルタスは、思わず破顔一笑して快諾。無事商人の護衛として雇われること承諾してくれたのだ。

「では領主様、これにて失礼致します」「はい。またお会いしたいですね」

とうとう最後まで、鉄血族を傭兵として雇いたいと言わなかったことで。ゲルタスはすっかりティムを信用していた。



後日。帰る時にこっそりマリアードを唆す。

「領主様は面白い男だな。俺は気に入った!。妾でも構わん子を成せよマリアード」

もしもプラナ、クレア、エリシアが聞いていたら。目を剥いて阻止したやもしれないが、この場には鉄血族しかいなかった。

「長がそう言うのでしたら。リディーも許可するよ。姉さんには言っとくから」

にんまりロノボスも人の悪い笑顔を浮かべて追従する。それに二人もやや頬を赤らめながらも。嬉しそうに頷いていた。この事がきっかけで、ちょっとした内輪の恋のバトルが始まるのだが、それはまた別のはなしであった。



一方新しく使用人が増えた事から。コディーはエリシアの手伝いを兼ねて、仕事斡旋窓口の受付をしていた。見た目は子供、おっちょこちょいを除けば、コディーはわりと物覚えもよく。簡単な書類仕事ならば、滞りなくこなせていた。

「では、此方を記入下さい」

「これでいいだべか」

「はい。いいですよ~。買い取りなどありましたら此方で受付出来ますので、よろしくお願いします」

「んだば~、そっときは頼むだ」

魔族の大進行間近であるが、商人に代わって輸送の依頼を。冒険者が担っていた。人が増えて、仕事斡旋ギルドもようやく形になっていた。人材も無事育って来たので、エリシア達の仕事も今日までとした。明日から大規模進行に対する準備が始まるからだ。

「エリシア様、コディーちゃんお疲れ様。後は私達でやるから今日までありがとうね」

「はいお疲れ様でした。また人手が足りないと思いますので、引っ越しとかお手伝いに来ますよ」

「ありがとう正直助かるわ」

ようやく商業、工業、農業、仕事斡旋ギルドの4つが出来上がり。町の発展に必要な条件はそろったと。領主様の政策のお陰か、城塞都市に生まれかわったレディナスの人口は半年で、28000まで増加していた。今や地方都市としては、伯爵領を除けば、かなりの大きな街であり。きちんと区画整理された街並みは、新しい住人に希望を。古く西の村からの民は誇らしく。僅か二年足らずの出来事を思い出していた。辺境守備大隊長オリーアは、領主様直々に頂いた鋼の長剣を背に。ゆったりした足取りで、荷馬車の受け入れをする南門に向かっていた。この二年で見事に鍛え上げられた青年は、地方騎士に相応しい。精悍な顔立ちをしていた。オリーアにとって若き領主ティムニートは、尊敬出来る主であり。生涯忠誠を誓うに相応しい存在であった。最初こそ多少の懐疑があった。所詮は領主様も貴族の男だと蔑みも覚えた。しかし奴隷を受け入れた理由を内密に。ティム様から聞き及び、己の浅はかさを恥じた。あれからだ私兵だった者達は、領主様のためなら死ねる。そう思える主に出会えたこと。また素晴らしい仲間を増やしてくれたこと。少なくとも領主様と関わった多くの者は、ティムニート様の味方であろうと思っていた。


城門から出ると第1師団長タナップ、第2師団長ソーニア、新しい第3師団長カムイのため外にテントを張っての会合である。第4師団長アスマン、商業ギルド長ラディア、五人が車座で雑談を交えながら。間近に迫った魔族との戦いについて話し合いが間もなく行われる。

「待たせたね。バーザル伯様から使者が来ていたから遅れたよ」

ティムニートが現れるや、皆背を伸ばし雑談を止めた。何時ものラディアの隣に座るとティムに。オリーアが訪ねた。

「それで伯爵様はなんと?」

事前にラルバルト侯爵が、辺境守備隊をサルマレア国の国境にあった小国デルセンに。向かわせあわよくばティムニート様を排斥しようと企んでいたこと。聞いた途端この場にいた皆が。流石に呆れ果てていた。この場にいた皆が怒りを露にした。中でもラディアの反応が凄まじく。真っ青になって狼狽えていた。皆が驚いた物だ。

「ラギナード公爵に内密に。ラディアには苦労させたが、穏健派の二人を口説いてたから。無事女王陛下側が、勝ったよ」朗報に。少しだけ緊張が緩むが、ただ一人カムイだけは、乗り気でない主の顔を食い入るように見ていた。そしてもう一人。少しだけ特別な感情を抱くラディアも気付いていた。

「ティム、何か心配があるのだな?」

「……うん、ちょっとした懸念でね。ラギナード公爵がこのまま素直に引き下がるとは思えない。多分……」

あくまでもと断りを入れて、指揮官を任せられたブラーゼル伯爵が、出発するのを遅らせるくらいはやりかねないと語る。

「まさか……」

絶句する一同に。悪いが歴史上あの二人は、やらかしていた。その後アルメル辺境王は、奇跡を起こして、人々に貴族の卑劣な策略を物ともしない姿に。感銘を与えた。尊敬を集めたと言う。ティムはただ逸話に従い。真似をしたに過ぎなかった。だから何も誇ることもなく。よく出来たAPCアクティブプレイヤーだと思ってた。皆が心配そうな顔をしたので。感心していた。

「一応それ相応の準備は済ませてあるから、皆は心配しなくていいよ」

事前に。リズベル陛下だけには、2つの策を話してあって、今回のはドリマリア連邦本軍が遅れる場合が当てはまる。

「ソーニアは予定通り、ホディーアン砦村の防衛を」

「はっお任せ下さい」

魔族の移動巨大要塞が大穴を抜けて森に出れば、ホディーアン砦村が最前線となるのだ。防衛任務は最重要任務となる。「第1師団は予定通り東砦に予備兵を残した300を率いて、予定地点で野営準備。タナップ頼んだぞ」

「お任せを!、しっかりアスマンの旦那とやりますから」

それに細面の元狩人、第4師団長アスマンは静かに頷いた。 「恐らく要塞は、この位置で止まり、残りの軍勢をそれぞれパルメニア王国、セドロア戦国に向けて進軍を始める。それを見てから魔族に時間を与えず。要塞に攻めいる」

ティムが予想したのは採石場近くのかなり開けた場所で。その近くまで、安全に通れる見張れる場所を幾つかあるので、知らせが来てからになるだろうが、事前に準備は必要であった。

「カムイ、お前が全ての鍵になる。事前の準備通り砲撃で揺さぶり、魔物を出させる」

残された魔族は多くて3000、魔物は6000と見ていた。第3師団の工兵は。カムイの武器を所定の位置に輸送することが任務となる。巨人族とはいえ。視界の遮られた深い森のなかでも、たった1人でありながら絶大の破壊力がある砲弾攻撃は、多大なる被害を魔族に与えることになる。

「当ててみいないと何とも言えませんが、最悪魔物を揺さぶり出させるだけでよろしいですな?」

「うん、それで構わない、そうなるとホディーアン砦村からの攻撃だと勘違いするから、魔物を差し向ける筈だ」

ルートは2つあって、どちらも採石を運ぶため、ある程度整地されていた。

「ティム様、バルメデさんから、準備は終わってますと言付けを預かっております」

ソーニアに一つありがとうと答える。これはアルメル辺境王が、やらなかったプラスアルファの策で、バルメデの命を救う策だ。更に幾つか策を授けてあるから、砦村は大丈夫だと皆に断言した。

「次にオリーア大隊長はぼくとバーゼル伯爵と引き継ぎを済ませたら、この位置にて、魔物の殲滅。終わり次第タナップ、アスマンと合流。泡を食った魔族が出てくる筈だ」

この時には元伯爵バーザル様が辺境騎士団、傭兵を率いて到着してる筈で、本来ならば魔族との戦いは、二軍による戦いとなる筈であった。それはあくまでもドルマリア連邦軍が到着するならばと註釈はつく。魔族は強い。数で勝とうと油断は出来ない強力な存在である。さらに相手には殺戮兵器もある。歴史では魔力波動砲ギガレイブと呼ばれる兵器で、射程は城塞都市レディナスまで届く恐ろしいものだ。

「第3師団は。その後予定通りに」

カムイの顔にようやく力強い笑みが浮かんでいた。戦士にとって主から信頼され。重要な仕事を任せられることほど嬉しいことはない。また死地に追いやられるのではなく。皆が生き残る可能性を感じた策に。誰も異論はなかった。

「ぼくはバーザル様と引き継ぎを済ませたら、急いで合流する。それまで持ちこたえろよ」

優しくも厳しい激励に。皆力強く頷いていた。



ゴゴゴゴー大地の底から。ゆっくり現れた物は、曇天を物ともせず黒い輝石の輝きを煌めかせ。本当に少しずつ競り上がっていた。3日掛かけて全容が現れた。遠目にも森の中に。塔が突然現れたように見えるが、形としては巨大な時計塔である。塔は2つあって、要塞の形から、不恰好なカタツムリのようである。しかし移動巨大要塞が現れても。大地の鳴動は続き、やがて辺境の人々も。不快な細かい揺れを感じていた。

「斥候の報告通り、愚かな人間が、更地を作ってくれていたな。よしメディマス将軍はマークアを、出撃を促せ、俺はメデリスの尻を蹴ってくる」実直な猛虎族金虎王アディマスの右腕、エメルダスの副官を勤めるメディマス将軍はようやくですなと呟き、晴れた顔で、部下の元に急いだ。どうやら子息の目覚ましい活躍と報告を受けて、晴れた表情をしていた。 「よしお前達は、魔高炉から魔物を解き放つ準備をしておけ」

あまりエメルダスの前に現れない。影の舞闘の研究者。アシャル・ローゼア黒髪の美女、ハアル・コーディス右だけ髪をサイドアップにした少女。こう見えて二人はエメルダスの父と同年代と言うから。魔族の年齢は分かりにくい。

「坊わかってるわ、お姉さんに任せなさい」

「そうそうエメルダスちゃんは、心配しないでいいからね」クスクス可愛らしく笑ったハアルは、二年前まで老婆の姿であった。どうやら気に入った皮をギルベスに運ばせたらしい。影の舞闘の幹部5人は、肉体を持っていない存在である。人間の身体に入り込み。自分の物と出来るガス生命体と呼ばれる存在で。それゆえミスト体、シャドウ等の名前で呼ばれる魔族である。数こそ少ないが、乗り移った人間の知識、技術を喰らうことで、瞬く間に魔界の三侯となった。

「ふん新しい皮を大切にするがいい。リュルルが暴れたら女は餌にされるからな」

「あらあらそれは大変~。ギル坊にもう少しストックお願いしせなきゃ」キャハハ、耳障りに笑うハアルを無視して、エメルダスは、転移装置に向かった。



耳長族の領域は、魔海を挟み、東の大陸にある。魔界には2つの大陸があって、最大の大陸が西大陸である。しかし無数の魔物がひしめきあい。東の大陸ほど秩序は存在しない。影の舞闘は魔海の中程にある大きな島で、冥海大竜めいかいたいりゅうの縄張り内に街を造り。独自の都市を築いていた。その為おいそれと手を出せない魔族と呼ばれていた。

「メデリス」

「王子いよいよですかな?」

足早に現れたエメルダスを見て、すぐさま察して、自虐的な光で顔を輝かせる。

「ああお前の力で、大国を滅ぼせ」

「お任せ下さい。我が主よ」恭しく低頭するが、ようやくあれが試せると二人の顔に笑みがあった。



同時刻。ドルマリア連邦。『観測』のスキル保持者から。辺境の先。魔界へと続く森の中に巨大な建物が現れたと報告があった。グッと唇を白くするほど噛み締めたリスベル女王は、叔父ラギナード公爵の策略で、未だに兵を辺境に出発出来ずにいた。

「叔父上……、まさかここまで愚かだったとは」

もはや王族として。許せないことをしてしまっていた。

「ティムニート子爵……、貴方の言われた通りになりました。どうか我が国をお救い下さい」

血の気が抜け。青白い顔をしたリズベルは、遠く辺境の地を思い空に祈った。

魔族の軍勢が世界中に解き放たれてしまう。



ドルマリア連邦の辺境。アルメル地方の領主ティムニートは、過去の歴史を知る。未来の平和維持軍訓練生だった。未だにワールドの被験者だと思っている本人は。史実に添って、それどころか、アレンジまで加えて、新たな移動巨大要塞ギガント攻略に着手する。また同じ物語で背徳の魔王でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ