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ロードゼロ

数奇な運命から、再びワールドの被験者をしていると思い込んだ少年ティムニートと、未来から来たと察したエルフの少女エリシア、父バルメデは、村のため皆に黙ってティムニートを領主にしてしまう。双方の誤解から過去の世界で、ホディーアン村の領主となっていた。



夢を見ていた。



憧れの英雄。物語で聞いた有名人、何故か自分が、彼等と一緒に悩み、泣いて、それでも前に向かって歩いた……。

ティムニートはそんな楽しくも。大変な冒険をする夢を見ていた。




がさがさ葉を揺らせ、強烈な魔力を放つ光源に気付いて、慌てて村からやって来たの少女は、金髪、豊かな胸のエルフである。馬鹿げた現象を前に。驚いた顔をして。目を細めた。

「何。この膨大な魔力は……」

エリシアは、辺境の森近くにあるホディーアン村に住む。ハーフエルフである。父は、元々力ある魔法使いで、母と父は冒険を通じて出会い。やがてエリシアが生まれた。母は元々体が弱く。病で早くに死んていた。でもエリシアの記憶でも、二人は何時もエリシアを育み。愛してくれた。やがて衰弱した母が死に……。母との約束を守った父は、エルフの国に母の遺品を届けに訪れた。しかし人間の父とハーフエルフのエリシアは、生粋のエルフからすれば忌避する存在。当たり前のように拒絶された。どうにか母の両親とは会って貰えて、遺品を渡したが、父は散々罵倒され。蔑まれた目で見られたエリシアは、強いショックを受けたのは言うまでもなく……。数日エルフの国で過ごしたエリシアだが、あまりにも落ち込む姿を不憫に思い。父は祖父が村長を務めていたホディーアン村に戻って。親子は村人としてようやく安住の地を得たのだった。



しかし情勢は酷くなる一方で……、混迷を極めていた。無数の地方領主、栄華を求め欲に走る地方貴族。国の内部は愚かな官僚によって分裂していた。ドリマリア連邦は内乱の様相が広がっていた。ようやく村となったホディーアン村にも。近々ようやく領主が就任すると噂されていた。国は力を失い、近隣の領主の多くが、力の無い名前だけの存在となりえていた。民は貴族、領主、国を信用しない。火種が無数に潜む時代を戦乱と呼んでいた。



やがて光が消え去ると。再び森に静寂が訪れた。闇夜に目が慣れてきたエリシアは、先ほどまで膨大な魔力が吹き荒れていた場所に。1人の人間らしい姿を見つけて、眉を潜めた。近付いて困惑しながら見たのは。自分よりも年下だと思われる少年である。

「あの大丈夫ですか?」

時空間魔法か天空魔法にでもに巻き込まれたか?。エリシアは今の現象を見て、そう考えた。

「うっ……、エリシアさん?」

再び気絶した少年の言葉に。エリシアは衝撃を受けていた。



アルマ歴172年。魔族の猛攻が始まり。あらゆる種族に対して、戦端を開いた年。しかし……今は169年である。



当時の大陸では、5つの大国。無数の小国、群国、豪族、領主が乱立する戦乱であった。アルマ歴のアルマとは祖神の名である。知ある種族の全てが、アルマを崇め。祝福を与えられていた。種族が変われば対立する。人間二人いれば上下が生まれると格言があるが。大国四人の王、始皇帝、魔族の王、神のケンゾク、数多いた覇をあげる者は皆、物語の主とならんと欲していた。



後の世に、辺境アルメルと呼ばれる地方は、大陸の中間にある巨大な穴と森を挟み。ドルマリア連邦の南西に位置していた。国の位置としては大陸の東側にある国で。最大勢力魔界がある。巨大な大穴。暗黒の谷を隔て、広大な森が広がっていた。



ホディーアン村は、ドーナッツ状に拡がる。森の入り口にあった。五大国は、それぞれ魔界と隣接しており、経済的な関わりも一部だが、隣国同士重なる地域もあった。異種族の垣根はあるが、村単位、人単位でなら友好を結ぶ者は多い。しかしいつの世も宗教と習慣、価値観が違えば。変われば手を携えることは出来なくなるのは常である。ホディーアン村のような小さなコミュニティなら。異種族のハーフでも安心して、住むことは可能だが、それ以外のちょっと大きなコミュニティでは、非常に難しいことだ。



村長のバルメデは、昨夜娘が拾った少年を『看破』と『鑑定』の複合スキルで、肉体と精神。それにステータスを確認していた。

「これは……」

『看破』のスキルと『鑑定』の複合させると。調べる相手の素性。名前からだいたいのことが読み取れる。スキル持ちならどのようなスキルを持っているかが、分かるようになるのだ。こうした複合スキルを行える者を。畏敬を持って賢者と呼ばれていた。「師匠、そいつまさか敵国の間者かい?」

村で、雑貨屋を営み。魔法と調合を極めて。見習い錬金術師になったラディアが剣呑な目で、ティムニートを睨み付けていた。

「いや……初めて見る紋章を持ってるが、彼は敵国の人間ではない。全体的なステータスは低いが、彼は我が国の領主様だろう」

何よりも気になったのは、あれほどのスキルを極めていながら。これ程若い領主など聞いたことがないことだ。気になるのは娘のエリシアを見て、名を呼んだことだ。この2つは証拠がないので内密にしていた。

「君ほどじゃないが、この少年も凄まじい数のスキルホルダーだよ」

「へっ、こんな凡庸な顔をしてるのに?」率直過ぎる弟子の一言に。思わず苦笑しながらも。彼の生まれを確認して、ひっそりと吐息を吐いていた『生まれホディーアン村』年齢15歳とある。何より注目すべきなのが職業領主・近衛長。男爵位が与えられてる点である。ステータスの下を見てくと支配領域を見れば、西の村、東の廃村、東の巨人族の住まう村一帯。アルメル辺境とあった。

「ラディア恐らく彼は、村にやって来た新しい領主様だと思うよ」

色々疑問はあった。しかし彼の領主レベルが高く。少なくともホディーアン村を治める才は、十二分にあるようだと判断した。

「ふう~ん。これが新しい領主ね」いまいち信用しない口調である。それも仕方ない。今まで辺境に送られてきた領主は、クズばかりだったからだ。

「しばらくは様子見することにして、先に領主様から採決を頂かないと。色々困るしね……」

この辺り。かなりの頻度で小競り合いが起こる。その他モンスター問題。村の収益、近隣の村と行う交易は領主の採決を得なければ、色々決められない決まりである。実際ドルマリア連邦所属で無くても、領主の才があれば、勝手に領主に着くことがあって。大国と言えど辺境にまで、気を配る暇はないと考えるのが為政者、王であった。また王の周りに侍る害虫は、自分たちの生活しか考えない者ばかり、低いが爵位を与えられてる貴族の領主が、こんな辺境にやって来たのだ。都で何かやらかしたと思うのが普通であった。



ティムニートに対する村人の反応は、大小あれどこの程度の物である。自分たちが生き残るためなら、頭を下げるし。ちやほやもする。邪魔ならひっそりと殺すことも辞さない。それくらい強かでなくば、辺境で生き残れないのだ。



目を覚ましパチクリ、見覚えのない天井を見上げながら。不思議そうな顔で首を傾げた。

「あれ……ここは?」

前後の記憶があやふやである。戸惑いながらの呟きに。自分でも不思議に……。「ツッ……」

不意に起こった頭痛に苦しみ。頭を押さえながら。

「あっ、そうだ」はたっと思い出した。



「ぼくワールドの被験者に選ばれたんだよな……」

綺麗さっぱり。ある一定期間の記憶を失っていた。ワールドに入ったら。まずは自分の容姿、何処に飛ばされたか、確認しなくてはならない。あくまでも人が作った物である。バグが残されていないか、確認するのも被験者の役割であった。

「あっ、目が覚めたのね、貴方自分の職業と名前分かるかしら」

扉をあけて現れた女性には。非常に見覚えがあった。思わずティムはエルフに目を丸くしていた。

(何故教官が……) そう思った瞬間。ワールドの設定APCアクティブプレイヤーが、過去の偉人だったこと思い出した。「はっはい、ぼくの名前はティムニート、多分この村の領主なんだけど……」

伺うように訪ねていた。ああ~やっぱりとエリシアは頷いていた。

「因みにここはどの村かな?」

「ホディーアン村ですよ領主様」

ニッコリ笑っていた。ティムはようやく自分の状況を把握した。

「早速で申し訳ないけど、領主の屋敷ってあるのかな?、どんな仕事が貯まってるか確認したい」

一瞬驚いたような顔をしたが、

(案外まともそうで、生真面目な領主様のようだと安心していた)

ティムは気付いて無かったが、ティムが不貞を働く可能性を考えて、自警団に所属する青年オリーアとタナップが、扉の側で控えいて。中の会話を盗み聞きしていた。「屋敷に案内しますね。それと東の集落がゴブリンに襲われてしまい。ホディーアンで受け入れたことご了承下さい。と父が申しておりました」

「ふう~んそうか、住人はどれくらいか分かりますか?」

「はい」750人を越えるか越えないくらいですとこたえた。

「エリシアさんは、村のこと詳しいんですよね」

いきなり名前を呼ばれて、目を白黒させながら、父から領主様が複数のスキル所有者ホルダーだと聞いていたので、

「はっはい父が、村長ですから」

「では、屋敷に行く前に村を案内してくれませんか」


生真面目に問われ。素直に従っていた。



二人が外に出ると、念のためオリーア、とタナップが尾行することにした。ティムからすれば約800年以上前の村と、自分が生活した記憶とすり合わせる。

確かこの時代━━、魔族の大進行が始まる二年前か、三年前のはず。

(多分ぼくはアルメル辺境王役なのだろうから)

そう当たりを付けた。村を一通り見て回り。何が足りないか確認していた。

「多分用意されてると思うけど。村の収益状況が知りたい。余裕があるなら、村に柵を取り付ける工事をしなければならないようだし」

あっさりと村が直面してる。問題を読んでいた。

ティムを屋敷に案内したエリシアは、ドルマリア連邦が用意した正式な書類を。執務室に運んでいた。これ等の多くは、ドルマリア連邦に村長が書類を送り。領主に収めてる税金から、公益事業を行えるよう資金と。それを使う了承を得る物だ。本来領主の権限で全てできるのだが、長らく領主不在だったので、事後承諾の事務処理を就任した領主が行うことがある。今のように不安定な状況ならば、村の運営を村長が行うことがある。しかし公益事業になると村長の権限では、出来ないことであった。

「これでいいよ。早速で悪いけど人手を集めてくれるよう。村長に話してくれ」 「はい、領主様」

エリシアが退出した後。残された財源から。村に必要なことに目を通し。サインして行った。溜まりにたまった書類はかなりの量であった、例え小さな村であろうと全てに目を通し終わったのはその夜になってからだ。

「よし、これでいいな」妙な喉の渇きと空腹を感じながら外に出ると。ちょうど村に柵を取り付け終わったのを確認した村長バルメデ、娘のエリシアさんを連れて、足早にやって来た。

「領主様、無事に柵の取り付けが終わりました」

「やあ~ご苦労様。たまってた書類は片付けといたよ」

「おお~3日も寝たっきりだったのに。ありがとうございました領主様」

「うん、ちょうと喉が渇いたんだけど。まだ村に井戸とか無いようだから、明日からそっちの工事を頼みたい」

「おお~!、おまかせを」

村長と一緒に来ていた男たちに。笑みが浮び、力強く請け負ってくれた、

「書類は作成したから、確認を頼むね、それからめちゃくちゃ空腹だから、何か食べるものあるかな?」生真面目に聞くや、小さく笑いが起こった。




翌朝、早くから新しい領主様の命で、村に井戸が作られることになった。村長は男手を集めて、早速取りかかることにした。

お昼が過ぎた頃。ようやく目覚めたティムは、ベッドの側に置いてあるプレートに気付く。どうやらエリシアさんが用意してくれたようだ。有りがたく頂き、ようやく人心地着いた。

まず領主の権限で、使用人を雇えるので、とりあえず食事の世話をしてくれる者と。昨日聞いた自警団から私兵に雇い直す書類を用意した。一応村長に相談するとして、後程屋敷に来てもらうことになっていたから。まだ時間はある。(そうだな先に根回しをしてしまうか)村に2つしかない施設。雑貨屋と鍛冶屋の様子を確認するため外に出た。



屋敷から、雑貨屋まで徒歩で歩くと距離があった。まだ村は舗装されていない道が多く、数日前の雨の影響か、所々ぬかるんでいて、慣れないと辛い。この頃のことは知らなかったが、色々大変だな呟く。

「いらっしゃい領主様」

にこやかに微笑む。店主のラディアは、金髪を肩口で切り揃えた。眼鏡系美少女に分類された有名人である。

「色々と聞きたいことがあるんけど。いま大丈夫かな」

「ええ私でお答出来る事なら暇でしたしいいですよ」

多少なり警戒する眼差しで返した。まだログインしてから日が浅いせいか。ワールド内はティムが思ってた以上に。内容が細かく設定されてるようだと感じた。

「このあと他の村人にも聞くつもりだったが。領主の権限で、自警団の一部を私兵として雇い入れようと考えてます」

と切り出した。

「ほうほう私兵をな」

「そして近々私兵を連れて、古戦場跡で、訓練をと考えてましてね……」

突然の領主訪問に驚きはしたが、村人の話を聞いてくれた上で、自警団から私兵として雇いたいと。そんな話なら私には関係ないはずだがと。不思議そうに首を傾げた。

(だが悪い話ではないな)

確かに今まで自警団の子達が頑張っていたが、所詮ちょっと腕っぷしのある村人である。ちょっと強いモンスターに狙われたら小さな村なんて……。



すちゃり眼鏡を直しながら、領主の考えを読もうと思考を巡らせた。見た目の凡庸さとは違い。村長から聞いたように。流石は複数のスキルを持ったホルダーである。頭も悪くないようだ。

(問題は、なぜ私にこんな話をしたか)

表面上、大した変化は浮かべないが、凄まじい勢いで思考を巡らせてる筈だとティムは踏んでいた。

「一つ。ラディアさんにお願いがあって、最初に話をしに来ました」(まあ~そうだろうな)

一つ頷いて、先を促すと。少々意外な申し出をされたのだ。

「誰か、商人の素養がある子を紹介して欲しいんだ」



領主ティムとしては、この先を考えたら。近隣の村との交易は必須である。そうなるとラディアが居ないからお店がお休みと言うのは、村人のこと考えても良くないし。村の収益が下がるのは歓迎出来ず。もしも彼女に何かあった場合。後継者を育てとくのは悪いことではない。

「これから村の公共事業を増やしてく予定だから。仕事を求めて人が増える可能性が高いんだ」

色々予想外な話をされたが、段々と領主のねらいが読めてきた。

(辺境の領主がしっかりした治世をする。辺境に住む者ならば。そんな村で暮らしてみたいと誰もが思うわね)

目の付け所は確かだと思えた。

「何人か心当たりあるけど……」

そして領主の考えを聞かされると。思わずなるほどと唸ってしまった。




ラディアと改めて、私兵が正式に雇われてから。古戦場跡のこと話すことに決めた。勝手に暴走する領主よりも。村でそれなりに発言力のある人間に。内々にでも相談しようとする姿勢は。閉鎖された辺境の村で、有効だった。

「それから、だれか食事の世話をやってくれそうな使用人を雇いたいんだけど……」

「ああ~そっちは村長に何か考えあるようなこと言ってたから。私兵のこと踏まえて話したらどうだ」

「ああ、なるほどそうするよ」

「なら。味方をもう1人付とけ」そう言って。ラディアは私兵を雇う以上。装備を揃えなくてはならない。それとなく。ドワーフの鍛冶屋を頼よれば。悪知恵を囁いた。




ティムがその理由を聞いて納得したのが。鍛冶屋が村にはなくてはならない産業であると教えてくれたこと。この先村を発展させるつもりなら。仲良くしといて悪いことはない。

小さな村であるホディーアン村は、全体で家屋が300未満である。ドワーフが営む鍛冶屋は、火を使うので、森から離れた。比較的村の入り口近くに。お店はあった。

カンカンカン。鉄を叩き、引き延ばし、再び加熱する。外から見てるとずんぐりした体型の男が。一抱えはある巨大なハンマで、真っ赤な、鉄を叩き、伸ばし、そして油に付けてから、荒打ちを済ませ。少し冷めた所で、井戸で使う滑車の部品を繋ぎ合わせる。滑車が動き、繋ぎ目が壊れたりしないかスキル『検査』を発動して、品質を確認していた。

「うむ……」

一つ頷き、再び溶鉱炉に部品を入れて焼きを入れてから、強度を上げる。この見極め次第では、滑車が壊れやくなったりするので、鍛冶屋の腕前と勘が問われた仕上げ作業である。ホディーアン村の村人の顔はだいたい覚えているドンペナは、先ほどから視線に気付いていた。しかし今は大切な時だったので、敢えて無視していたが、新しい領主は物分かりの良い人物のようで。または鍛冶の技術を知ってる人物ではないかと当たりを着けた。

「待たせたな、一服したい。いいかね」

「ええ急いでないから、構わないよ」

そう言うと精錬場を。興味深そうな目を向けていた。何となくドンペナは思った、醸し出す空気から、目の前の若い領主は、なかなかの腕をした職人か、スキル持ちではないかと思ったのだ。



一通り若い領主の話を聞いたドンペナは、感心した言葉を飲み込んでいた。確かに小さい村とはいえ守るには、自警団だけでは足りない。領主が私兵として雇ってくれるなら。村の職人として手を貸すこともやぶさかではない。

「ドンペナが了承してくれるなら、今日にも村長に話すつもりなんだが?」「よかろう、わしの技術が役に立つなら引き受けよう」

ムツリした口調だが、決して機嫌が悪い訳ではない。ドワーフの職人はだいたいこんな気難しい顔をしていた。

「では決まったら。改めて私兵の初期装備。皮の服、ショットソード、木の盾、木の弓制作ををこちらでお願いしました」

にこやかに笑う領主に一つ頷き、ドンペナは仕事に戻っていた。



村の二ヶ所で、手の空いてる村人総出の井戸造りは。人海戦術で、夜までには形になっていた。

「まだ水が濁ってるが、魔法を使えば問題ないだろう」

バルメデが、笑みを浮かべ、村民の労を労う、

「いや~、新しい領主様は、話の分かる方でよかったやな~」

「んだんだ」気楽に口火を切った男に相槌を打っていた。まだ2日と経っていないのだが、領主の采配に村人も期待を抱いた。そこはバルメデにも分かる。全幅まではいかないが、多少信頼してもいい領主なのはわかった。ただし……胸中は複雑だ。あの若い領主には秘密があるのだから、抱える身としては、悩ましい所であった。

「お父さん、領主様が来てるわよ」

村人で、娘のハーフエルフ、エリシアが慌てたように走ってきた。

「おっとこれはいかん。約束の時間を随分と過ぎてるな……」

顔をしかめ。挨拶もそこそこに家に急いだ。



家の前に行くと。自警団に所属してるオリーア、タナップが領主と何やら話し込んでいて、驚いた顔をしているのに気付いた。

「ちょうどバルメデさんが戻ったようだし。詳しい話は、それからで構わないかな」

「はっはい、領主様俺頑張りますから」 鼻息荒くオリーアとタナップは、挨拶もそこそこに引き上げて行った。



領主の約束に遅れた上に。自宅まで足を運ばせたお詫びに。ちょうど夕飯の支度が終わっていたので、食事をしながら、領主様の用を聞いていた、ようやく先程の理由が分かった。「確かにオリーアとタナップ、それから自警団の皆を私兵として雇われるのは悪くありませんな」

村に柵を作ったとはいえ。モンスターが入り込んで、家畜や畑を荒らされるのを防げることは、長い目でみれば悪くない。「バルメデさんには後じ承諾になるが、ラディアさんに弟子をとらせること、ドンペナさんに私兵の初期装備を頼むことにしてあるが、構わないよね」

それからラディアにも話した。古戦場跡で、近日中に私兵と商人見習いのスキル、技術を上げる訓練をさせる話をすると、朧気ながら、若い領主の考えを見抜いき感嘆していた。

ホディーアン村は、東の集落からの難民を受け入れて、急激に住民が増えていた。だからではないが近隣の村と交易を行っとくのは悪いことでない。またラディアが交易に出て、村に居なくても。見習い商人が古戦場跡で『鑑定』スキルを覚えてしまえば、雑貨屋は運営出来るので、バルメデも反対する理由もない。「あっそれと、誰か使用人を雇いたいんだけど、当てはないかな?」

領主の申し訳なさそうな顔を見て、すっかり忘れていた話に。バルメデの方が恐縮していた。



数日後……、正式に自警団に所属していた15人の内、10人を選び。私兵として雇いいれた。その内二人が、ラディアの弟子になった。残された三人の内1人を使用人として雇うことが決まった、確かに決まったのだが……、複雑そうな顔を、小柄な孤児を見て苦笑する。

「コディーちゃん」

「はっはい領主様」明るい髪色の少女は辿々しく狼狽する。

「早速だけど、オリーアとタナップを呼んでくれるかな」

「ただいま」最初叱られるかと思ったが、簡単な仕事を申し付けられて、見るからにホッとしていた。コディーを見送りながら、何気なく戻した視線は、テーブルの乗った。焼きすぎた玉子と焦げたパンを前に、微妙な顔をしてしまう。しばらくエリシアが、屋敷に通い。彼女に家事を教えてくれることになったが……、コディーの失敗料理は、当分諦めることにした。



ちょうどその頃。私兵となった元自警団の10人は、真新しい装備を身に付け、すっかりはしゃいでいた。そこにコディーが走ってきて、隊長と副隊長のオリーア、タナップを呼んでると聞いて、二人の顔に気合いが入った。



数日前から、私兵になって行う最初の訓練のこと聞いていたからだ。それからは皆気合い入れて、木刀を手に訓練を重ねていた。村から一歩出れば、モンスターに襲われるのは日曜茶飯事である。私兵に雇われた若者達は、村人の中でも腕に自信があった者ばかりだ。みんな残りのメンバーの行く末を知って皆納得していた。残りの三人、コルマ、サムルがラディアの弟子になって、幼い少女コディーが、領主様の使用人になると聞いて多少心配したのは、コディーが失敗ばかりして、領主様に迷惑をかけないかってことだけだった。でも自警団のメンバーだったエリシアさんが、コディーに家事を教えると聞いて、それならばと頷いていた。



改めて主である領主ティムニートから。見習い商人を連れて、古戦場跡で訓練をすることが伝えられた。

「まず私兵は、人を守りながら戦うことに慣れて貰うから。しばらくは商人見習いの二人を連れて、古戦場跡に行ってもらう。最初から出来るとは思えないから。最初の3日はぼくも同行するいいね」

「はい領主様」

「おまかせ下さい」 二人はそれぞれ頷いた。

村から古戦場跡まで、街道をしばらく西に歩いてくと。開けた場所に出ていた。見れば辺り一面古くて崩れた木の十字架を模したような。墓標が無数に刺さっていて、その広さはかなりのものである。目に見える範囲に、早くもゾンビがポップしていた。ノロノロ蠢きながら此方に向かって歩きだす。「相手はゾンビだ、爪に弱いが麻痺毒があるから、引っ掛かれたり、噛まれたりしないように注意すること」

とりあえず6人づつのパーティーを組ませて、近場から少しずつ街道に沸いたゾンビを倒してくことになった。改めて自分のスキルを確認したティムは、攻撃魔法と近衛長固定アビリティを使って、配下の防御、敏捷アップを掛けていた。 「これでぼくの視認出来る範囲にいれば、ゾンビ程度の攻撃なら通らないから、安心して訓練をするように」

『指揮者』というレアスキルを何故か最初から持っていたので、構わず発動させていた。こうした領主の恩恵に。皆の不安を取り除く効果があることは、狙ってやったわけでは無いが、自然に行っていたティムだった。


初日こそ失敗や危険もあったが、3日すればどうにか形が出来て場馴れしていた。少しずつではあるが、安定して古戦場跡のゾンビくらいなら。倒せるようになった私兵達。特に隊長オリーア、副隊長タナップの能力は抜けていた。後は二人に任せても大丈夫。そう思えるところまで練度は上がっていた。



訓練も10日が過ぎたある日のこと。コルマ、サムルの二人が『鑑定』スキルを覚えたので、ひとまず訓練を終わらせた。領主として私兵には、村を守る正式な仕事を与えた。まずは5人が二交代で、昼夜の見回りの実施。村の入り口に検問所を作らせ。待機中の仕事として、村人の名簿を作らせた。保管は村長に頼み。私兵が孤立しないようの配慮である。



そろそろティムが、ホディーアン村の領主になって一月が過ぎた頃。ドルマリア連邦から、正式にティムが領主になったことと報せが届いた。確かに有能な貴族が、辺境村の領主になってくれたのは、ドルマリア連邦にとって悪い話ではなく。あっさり認めてくれたので。村長のバルメデは安堵していた。

「それで領主様、彼先方からは何と」

「うん、アルマ神殿から、神官が村に住むらしいね。そこで教会を建てて欲しいとの依頼だよ」一応最低限の財源を。確保していたこと聞いて、

「ティム様は、若いのに抜け目がありませんな」最大限の敬意から、謝辞を含めての軽口に。ティムは肩を竦めてから。

「アルマ神殿は、ある程度崇めとけば、敵になることは無いからね」

身も蓋もない一言に、半分苦笑したが、納得出来る理由であった。

「確かに」

「それに教会が出来れば、古戦場跡の浄化を頼みやすい。村としては感謝を示して、神官が来る日に。森の恵みをお供えしようと思うんだが」

「なるほど悪くありませんな」

二つ返事で、頷いていた。




後日狩人のオスマンと、私兵隊長オリーア、副隊長タナップ、雑貨屋ラディアを交えて話し合いが行われた。「オスマンには迷惑をかけるが、私兵からオリーア含めて、三人連れて行ってもらいたい」そこでラディアが同席してる理由も伝えると。ほっそりした風貌のアスマンは快諾してくれた。現在狩人の人数は両手よりも少なく。私兵から狩人と遜色ない弓の使い手が育てば、村にとって悪いことではない。ついでに薬の素材となる物を覚えれば、採取をやってもらい。その収入を私兵運営費に回せるので、訓練を兼ねてると思えば悪くなかった。



翌日から。私兵はアスマンと実益を兼ねた訓練を開始した。この頃になって、近隣からアルマの教会が出来ると聞いて、人が集まり始めた。緩やかであるが、住民が増え。仕事を求めて引っ越してきたので、森を開拓する新しい職業木こりと。開拓した場所に新しい住民の家を建てさせる大工を育てることにした。それと平行して、ドワーフの鍛冶職人ドンペナに。人間の弟子をとらせ職人を育てることにした、新しく仕事を求めていた男達の中からも。腕に覚えのある男から10人を選び、新たに私兵に雇うことにした。




そろそろ神殿から、新任の神官が到着する頃。薄汚れた旅装の若い神官リドラムと、見習い神官プラナ、シスタークレアの三人がホディーアン村に到着したのは、ドルマリア連邦からの手紙が送られて、2ヶ月後のことであった。大国の一つドルマリア連邦の首都から、辺境にある村までは、幾つもの町、村を経由しなければならないので、かなりの長旅を終えた三人に、心ばかりの歓迎会を。教会のお披露目式と同時に行っていた。

「これは……」

領主と紹介されたティムに案内されて、辺境の村を考えれば、十二分に立派な教会を前に。若い神官リドラムは絶句する。

「今宵は疲れておりましょうが、村人から細やかな歓迎会を開きたいと思います」

同席した村長バルメデの言葉に恐縮した三人は、最初こそ緊張していたが、果実酒を振る舞う頃には、村人と打ち解けていた。



数日後……、

屋敷にアルマ教会の神官リドラムが、謁見を求めて来た。内密に話があるとのことである。当初惑いはあったが、了承して、屋敷の執務室にて対面する。

やや緊張を隠せないリドラムは、アルマ神殿から、東の集落を襲ったゴブリン討伐の命が下ったことを相談しに来たと言う、

「成る程、確か東の集落はゴブリンの砦になってましたね。ホディーアン村からは遠いが、近隣の西の村とは交易を通じ。交流してますからね。良いですよ私兵隊長オリーアに話を通しますので、詳しくは隊長を交えてから相談しませんか?」

「おお~、領主様、貴方は皆さんが話していた通りの方ですな!、感謝致します」

頻りに感謝の言葉を述べながら、リドラムが帰って行った。


後日オリーアを含め。新しく副隊長に選んだソーニア、タナップを含めた三人とアルマ神官リドラム、見習い神官プラナ、村長バルメデ、エリシアが、使用人の少女コディーからお茶を入れてもらい。ゴブリン砦のこと話し合いを設けていた。「今回ぼくが、私兵を連れてオリーア隊長とゴブリン討伐に向かうよ。その間ソーニアはオスマンと森の訓練を進めて欲しいかな」

一通り話を聞き。まとめた領主ティムに。最初こそリドラムは驚いたが、詳しく聞くと複数のスキルを持ったホルダーであると説明されて、納得していた。

「どうかティム様、我々が同行することお許し下さっい」「それはこちらからお願いします。ぼくも回復魔法は使えますが、本職ではないので助かります」多彩なスキルの一つを上げて、若い領主の実力を垣間見たリドラムと見習い神官プラナは、この時からティムに心酔するようになっていった。



翌日手紙を認めて。見習い神官プラナとラディアに、西の村を治める領主に宛てて、ゴブリン討伐を行うこと伝えさせる使者に立てた。いくら神殿からの命とはいえ。西の村からほど近い地に私兵を送るのだ。説明は必要とティムが言えば、

「確かに、領主様の申す通りですな」

バルメデ、リドラムも納得していた。二人からも同様の手紙を持たせた。



更に翌日。一行は出発した。

ホディーアン村から、東の集落があった地は、慣れた者でも2日は掛かる距離にあるため。途中二度夜営して、夜明け前にゴブリン砦を襲撃することになった。ゴブリンも人間と同じく。夜は寝むる習性があって、昼間襲撃するより作戦成功率が上がる。またティムには『指揮者』(コマンダー)のレアスキルを持ってると直前に聞かされ、流石にそこまではと呆れた顔をしていた。

「それほど沢山のスキル所有ホルダーを、私は聞いたことも会ったこともありませんでした」

「リドラム様も聞いたことがありませんか……」

アルマ神殿所属だった。リドラムが知らないと言うことは、ドルマリア連邦、それも王家の秘蔵でなければ、おかしな話になるなと考えていた。確かにティムは領主として非常に優秀であったからだ。ステータスこそ平均よりも低く。それとな~くティムに聞くと、

「ああ~まだボーナスの振り分けしてなくてさ、まだ迷ってるんだよね」

あっけらかんと言われて困惑を浮かべた。それでスキルレベルボーナスと領主レベルボーナスを割りしてなかったから。その分ステータスが、低かった意味を理解した。

「でしたら領主様、敏捷と防御を上げられるべきですな」

「あっうんそうだね。固有アビリティを使えば、ちょっとした重騎士と遜色ない防御力が上げられるし。みんなよりもいい装備だから、危ない時は助けに入れるから、悪くないね」 領主とは思えないコメントを呟き、バルメデ、リドラムを絶句させていた。

「ティム様……貴方は」パクパク口を閉口させた。私兵隊長オリーアも領主とは思えない発言に、衝撃を受けた様子だ。何処の世に私兵を守ろうとする領主が要るのだろうか……、そんな思いからだ。

俗に領地持ちの貴族である領主は、自分が死なないよう。割りを食わないよう立ち回る。此方が呆れるほどのしぶとさを発揮する黒くかさかさ動く生き物と同じである。今の今まで思っていた。だからティムのような考えの領主など、英雄物語の中だけの存在であり。村人にとって。または神官にとって、尊敬出来る領主と出会えることを夢みるのだ。しかし大人になれば分かる。そんな領主なんていないことをだ。今までマシな領主程度だと考えてた。オリーアはこの時、若い領主に忠誠を誓っていた。それはバルメデの心境に変化を与えた。これ程良民のこと考えれて。部下のためにいざとなれば助けにでると言える領主を。この先何があっても支えて行くのだと。固く誓わせていた。



どうやらバルメデは忘れていたようだが、ティムにはレアスキル『魅力』を備えていた。また同じくレアスキル『駆け引き』が、常に発動していて。これらと『交渉』スキルの3つが合わさると。人心掌握アビリティボーナス50%が発動されるのだ。



夜明け前の静寂、突然として人間の一団が、ゴブリン砦を急襲、怪我人こそだしたが、非常に高い士気と防御力の領主が。怪我をした私兵を助け。また癒しの魔法を使ってくれたこと。更に作戦成功率アップ持ちの『指揮者』を発したティムが率いていたので。瞬く間にこれを殲滅。

あまりにも見事な指揮官ぷりに。私兵の士気が上がりぱなしで、同行したバルメデは結局何もすることがなく。オリーア、タナップに絶大な自信を持たせた。



数日後……、

ゴブリン砦を奪回した手腕を表され、ドルマリア連邦から、ゴブリン砦までの地域を、ティムニートの領地とした。



それから一月の間に。元東の集落の住民が、村を尋ね来て、新しくホディーアン砦村の住民になっていた。

「ようこそ西の村に」柔和な笑みを持って、出迎えてくれたのは、長年西の村で領主を勤める。元騎士の領主アルメキディスである。自ら村の入り口で出迎えてくれた。

「本来でしたら、私の方で出向くべきなのですが……」

戦働きで、右足を失っていると。申し訳なさそうな顔で説明した。

「構わないよ。爵位を与えられてもぼくの方が年下だし。気にしないでください」

気さくな口調と態度のティムニートに。関心したため息を吐いて。噂通り爵位を与えられてるのに、実に好感が持てる人物だと頷いた。またこの領主の発言を聞いていた西の村人が安堵したのは言うまでもない。

「それでは、ティム殿とお呼びしてもよろしいですかな?」「うん構わないよアルメキディスさん」ここではなんなのでと、村の食堂に案内された。

「実はご相談なのですが、ティム殿はあの砦をどうなさるつもりですかな?」

「うん実は、この辺りの街道までの治安を考えていてね。辺境部隊設立を提案中なんですよ」

「ほほう!、それは渡りに船ですなティム様さえ良かったら。西の村からも人員と資金提供を提案しますぞ」

聞けば、西の村でも、昨年の不作が尾お引いて難民が押し寄せていると、それを聞いていたので住民の嘆願を受ける前から。これを決めていた。しかしアルメキディスは実直で、剛直な性格だった。そのため周りから疎まれていたのだが、領主としては優れていた。だから噂だけを信じず。この間わざわざ使者を使って正式な報せをくれた領主と、直接会うことを決めていた。彼には『真否眼』と呼ばる。固有スキルを持っていた。このスキルは世界に1人だけの物で、エキストラスキルと呼ばれる物だ。この能力は、人間ならば性格を見抜いたり。物の価値。情報の真否すら見抜けた。あまりにも規格外なスキルゆえに。貴族から疎まれ。秘匿されたスキルである。ただし『看破』『鑑定』『観察』のトリプルスキル発動で、近い能力を得るらしい、らしいと言うのはこれら3つを持ったスキルホルダーが居ないため確かめることが不可能だったこと。トリプルスキル発動は規格外と判断されていた。しかし辺境のいち領主が、まさかその規格外スキルを発動してるとは誰も思っていなかったのだ。



実際に若いと噂のあった領主と会って、アルキメデスの印象は若いが信用出来る人物と。エキストラスキル『真否眼』を発動して認めていた。

「うんでしたら、資金もあるしホディーアン村も砦にしてしまうかな」

「なっなんと、村を砦にしてしまうつもりですか?」

「ああ~急がないと、だってその内魔族の大規模進行が起こりそうな雰囲気だったし。今のうちに色々準備しときたくてね」

軽い感じでティムが呟いた内容には、アルメキディスを震撼させていた。

「そっそれは……」一瞬にして血の気を無くした様子に気付いて、

「ああ~アルキメデスさんあくまでも仮説ですので」

「はっはあ~」

気の抜けた返事だった。これに苦笑して、伝承を思いだし。アルキメデスさんになら話しても構わない。そう思った。

「ここだけの話なんですが、魔族の動きが、妙に静か過ぎると思いませんか?」言われてはっと息を飲んでいた。確かに……。この30年。近隣諸国との戦争ばかりだった。いつ魔族が侵攻を開始してもおかしくなかった。

「だから一応は、備えとくに越したことはありませんよね?」

この何気ない語り口調で話を進める若い領主に。驚嘆する気持ちを抱いていた。まるで有能な将軍を前にするように。心が震えていた。実のところ今日若い領主と会談を持った理由だが、アルメキディスは、気楽に考えていた。ティムに実際に会うまでは、爵位持ちの若い領主が、部下に恵まれた程度だと思っていた。実際のティムニートと違った。アルキメデスは確信する。いずれ大成すれば将軍になることも夢ではないと。この出会いで大層興味を抱いた。それは先を見据える知略、人によりそう治世、神殿の頼みを聞き入れた懐の深さ。きちんと政治を知り。周りに気遣える人物である。さらにゴブリンを見事討伐してみせた手腕は、話を聞く限り軍略家としての片鱗を見せたことになった。



後日。東の村に住むノーブル巨人族の土木建築家レオに、2つの砦を依頼するのだが……。それがきっかけで西の村と交流と交易。双方に利益が生まれる物流が始まっていて、相乗効果よって、2つの村は緩やかな発展が始まっていた。



東のゴブリン砦から、さらに1日程度東に行くと小さな村があった。ノーブル巨人族と呼ばれる巨人族が住まう村で、彼等は巨人族の中でも比較的温厚で、人間に友好的な種族と知られていて。その多くが土木建築関連の仕事を生業にしており、村一番の若者レオ145歳が、ある噂を聞き付け東の村を代表して、ホディーアン村の改築を請け負いたいと挨拶と交渉に来ていた。



レオが噂を聞いたのは4日前である。ゴブリン砦の陥落したのが7日前なのだから、辺境の情報伝達速度の速さに。後々驚かされることになった。この時見事な戦働きをしたティムニートのことを。2日遅れはあったが辺境・地方に住まう住民は知っていた。それは西の村にある小さな新聞社、辺境新聞による伝達能力によるものだった。辺境新聞の記者レブランは、レアスキル『遠話』と呼ばれる珍しいスキルを所有していて、距離は関係なく。一方的になるが、受信アビリティを与えることが出来た。近隣の村に情報屋の多くが辺境新聞屋のレブランから。受信アビリティを購入していた者は、一斉に報ることとなった。



ゴブリン討伐から10日が、過ぎた頃になると。西の村から辺境部隊設立に合わせてオリーア隊長と50名を選び、総勢70名となった辺境部隊は、アルマ神官リドラムを同行して、西の村から研修を受けに来ていた。主な内容は新しく見習い商人となった少年少女達を守る訓練である。



初めての訓練がまさかゾンビ相手に戦い。連携の基礎を学ぶことを知った新兵は、驚かされ。顔色が青くなった。また見習い商人達もドロップ品を『鑑定』して、スキル習得を促すと聞いた時は目を丸くしたものだ。10日あまりの訓練で、辺境部隊の中からもスキルホルダーが出始めていた。その多くが私兵創立メンバーである。オリーアには辺境部隊長と言う重責を与えたので。それに見合う地方騎士の地位を与えた。この称号は貴族位こそ与えられないが、私兵の一団を纏め指揮権する権限を与える物で。軍属の少隊長職と同等を意味していた。

「初めまして領主様、おらは東の村から来ました。土木建築家レオともうすますだ」

ぼくとつとって感じのレオは、一般的巨人族の平気身長。大体3mあるかないかで、収穫間際の麦を思わせる髪色の好青年だった。

「レオさん初めまして、ぼくが領主のティムニートだ。人間の村を砦に改築するのは大変だと思うがよろしく頼むね」

「こっこれはご丁寧にありがとうごぜいますだ」

この時レオは衝撃を受けたと語る。巨人族としては145年と若いレオは、今までも何度か、人間の貴族や領主から建築・改築・増築を依頼されてきた。人当たりのよいレオは領主と話し合う場に足を運ぶ事が多く、今まで沢山の領主・貴族を見てきたが、ここまで馬鹿丁寧で、巨人族を自分たちと同等と扱う領主と出会い。ただ驚きを飲み込んでいた。今までレオが対面した貴族は、頭ごなしに仕事を依頼して、納期に遅れようものなら罵詈雑言が浴びせられていた。これまでも賃金の未払い遅延は当たり前で、レオの役目は最初に半分でも賃金を貰うことから始まる。今二人がいるのはアルマ教会の庭である、通りを挟み沢山の村人が仕事に出かけ、また時々商人の姿もあった。ホディーアン村は人間の村としては小さな物だ。しかし非常に活気があったのが印象的で、子供達が笑顔で走り回る様子に感嘆を飲み込んでいた。

「ああ~、今日はシスタークレアの勉強会がある日でね。週一度読み書きを教えてもらってるんだよ」

顔に出ていたか、レオの疑問に答えてくれた。

「それは良いことだでな~」

ずっと感心しっぱなしである。コディーと呼ばれた少女が用意した、大きめのどんぶりに入った。薬茶を有りがたく頂く。

「済まないね。今日来てもらったのにレオさんに合う器がなくって、今度その辺も話し合い。器を作るつもりなんだよ」

ズシリとした皮袋がテーブルに乗った。 「とりあえずこの村の改築費用は全額用意したから、確かめてくれるかな?」

「ふえ……」驚きのあまりポカーンと呆けながら、何度も依頼料と若い領主を見ていた。一瞬何をされたのか解らなかったのだ。

「ぜっ全額を一括ですか?」

「ん、ああ~、君たちノーブル巨人族は、一度交わした契約は守る義理がたい種族だからね。こちらの誠意をみせるのは当然だよ」

朗らかに笑って見せた領主に。ぐっと唇を噛み締めて騙されねえぞと、震える手を動かしながら、どうにか金額を確かめていた。

「たっ確すかに。この村さの改築費用あります」

声まで歓喜が抑えられず。上擦ってしまって、ちょっと赤くなっていた。ちらり領主を伺うと、最初から最後まで優しい眼差しは変わらなかった。




後日、ティムニートの対応に感激した。ノーブル巨人族は、納期前にホディーアン砦を改築して見せたのは別の話である。



50日後。ホディーアン砦村を訪れたらレオは、ある願いを決めて、1人の巨人を伴い現れた。

「ほほ~う、大通りは巨人族が通っても問題ない造りにしただな」

「はい長。領主様がこの先わすらも。寝泊まり出来るような家を建ててくれました」

やはり砦を改築する上で、何人もの巨人が寝泊まりする必要があった。そこで砦の中に一つ、外に2つ小屋を建てさせた。これにより改築の能率が上がったのは言うまでもない。

「外の小屋の一つは、そのまま見張り小屋と馬小屋に改築して、今も使ってると聞いております」

「ほほ~うなるほどな、悪くない考えだ」小屋と言っても、巨人族が住んでいた。かなりの大きさになるし。巨人族なら二人が寝泊まりすれば一杯になるも。人間ならば10人は雑魚寝出来る広さがある。

「砦の家さは領主様の屋敷より大きくて、まっこと申し訳ないと思ってますだ」

此には多少驚きが滲む、人間の貴族と言うものは、非常に高圧的で、相手を下にしたがる傾向がある。今回のように金払いよく。巨人族に偏見を持たない領主と言うのは、非常に珍しい存在で、此度の仕事終わりを期に。一度目通りを賜りに来たのだ。

「おっレオさんじゃないか、よく来たね」

ちょっと感慨に拭ける長とレオに、大きな店構えの商店から、少年が現れた。特別特長は少ないが、此方を蔑視したり。好奇のある眼差しを向けたりしない、変わった人間であるな。長カムイはそう評した。

「こっただとこで領主様は、何してただ?」

「ん?、今度辺境に商業・工業の仕事を斡旋する。ギルドを作ろうと思ってね。そのとっかかりに商家の長になるようラディアさんと話し合いをしてたのさ」

そう呟き、悪戯ぽい眼差しをお店から出てきた。眼鏡美少女に向けていた、すると仏頂面を隠さず。やれやれと首を振りながら。

「まあ~商家をやるのは構わんが、さすがにギルド長をやるのは些か荷が重いぞティム君?」

実に親しい口調で、領主と呼ばれた少年と話していた。

「いいじゃ無いですか、ラディアさんは美人で。みんなから好かれてるし。美少女のギルド長の下で働けたら。みんな頑張るし周りにもなかなかいませんよ♪。何よりもラディアさんは薬品開発の腕前は辺境どころか、大陸一だとぼくは思ってますので」

物凄い持ち上げかたである。思わずカムイとレオは、次々と放たれる誉め言葉に呆れを越えて、感心してしまい。再びラディアと呼ばれた女性に目を向けると。まんざらでも無さそうな顔で、頬を赤めさせていた。一方でティムニートの態度は分かりやすい。ラディアを信頼してる気持ちを隠さず。二人ですら見てとれた程だ。

「そこまで言われると……。前向きに考えとくわよ」

嬉しそうに微笑み、機嫌よくお店に戻っていた。



若い領主の見事な人身掌握術に感心しながら、その後しばらく興味を抱き、付いて回っていたが。用事か終わって巨人族専用の家に着いたのは、すっかり暗くなった頃だった。

「初めまして、ノーブル巨人族が長カムイと申します」

豊かな髭を蓄えたカムイは、つるりと禿げ上がった頭を下げていた。

「これはこれは、御高名なカムイ殿が来てくださるとは……」

続く言葉こそ聞こえなかったが、まさか人間の領主が、自分を知ってることに驚きを隠せなかった。

「領主様は、私を知っておられるのか?」

「はい、あくまでも戦歴ですが」

ニッコリ微笑む領主は、ノーブル巨人族しか知らない。戦いの幾つかを語りだした。ただ驚くばかりで……、キラキラした憧憬の眼差しに、こそばゆい気持ちを抱き居心地悪そうに。座り方を何度も直した。

「りょ、領主様は、巨人族の歴史に詳しいんだな」

気恥ずかしい忸怩たる思いだが、悪い気はせず。何故レオ達砦村改築に携わった者達が、人間の領主を気に入ったのか、わかった気がした。

「はい、この先、鞍を連ならせ戦う、同朋の士となられる方だと考えてますので」

朗らかな顔であるが、今語られた内容が、非常に気になった。じっと表情を観察しながら、この若い領主が何を考えてるのか、推し量る。少々情報が足りないので、なんとも言えないが、何やら考えがあることは分かった。

「今日私が訪ね来たのは、巨人族の移住希望者がいたので、それを伝えに来たのだ」傍らに控えてるレオが、領主を気に入り、砦で暮らしてみたいと申し出たこと。先日西の村と東の村、ホディーアン砦を繋ぐ街道を維持する目的で作られた辺境部隊。その有用制は理解していた。今回の移住を認める上で、理由を上げるなら先ほど商家を営む女性。東の村で何度も見掛け、話したことがあり多少信頼が出来たこと。ホディーアン砦村の商家とこれからも交易が出来るならばと注約は入れるが、とりあえず信用は出来ると結論した、それはこの3ヶ月の間。定期的に遅滞なく。此方が欲しがる作物や加工材木の取り扱いをしてくれた実績からの判断であった。此方も仕事の受注を引き受けやすくなる利点は魅力的である。事前に聞いたレオが砦に住む理由は、木材の加工技術と石材の加工技術の指導で。人間の見習い職人に教えるためである。巨人族ほどの力はないが、人間とは器用な種族である。領主の思惑に目をつぶっても利があった。だから領主の申し出を受けた訳だが……。この出会いから少しだけ若い領主に興味を抱いた。この時はまだ変わった人間。その程度の認識であった。



しかし歴史では、アルメル辺境王の最強戦力破城槌の神威かむいと呼ばれた。稀代の戦士と若き領主の出会いであった。

次々と良策を掲げ。見事な手腕を見せ続ける少年領主ティムニートは、未来から飛ばされたことにまるで気付いてない様子で、ひたすらワールドの被験者として振る舞い喜びを噛みしめながら。自分の知る史実を元に。何れは英雄、豪傑と呼ばれた有名人を次々に動かして。信じられないスピードで。辺境を変えはじめていた。また同じ物語で背徳の魔王でした。

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