ワールドの被験者
平和維持軍の訓練学校に入学した。ティムニートは、辺境ホディーアン砦村生まれの普通の少年である。かなり運は強いが、強調すべき才能はまるでない。体力測定は平均より低く。顔も女の子受けする方ではない。ただ幸運なことに子供の頃から憧れていた。あの英雄が1人エリシアさんのクラスに入ることが出来た。ティムは意気揚々と教官が待ってる。部屋の扉を叩いた。
プロローグ
「ティムニート参りました」
「入れ」
アーシアの軍学校に入学して数日。アルメル・ティムニート・ホディーアンは、身体測定の翌日。教官に呼び出されていた。人間の多くがそうだが、名前の上に生まれた地域、名前の下に育った場所を付ける習慣があって。そのため正式にはアルメル辺境地域・ホディーアン村のティムニートとなる。
軍学校の教官多くは、エルフが勤めていた。その理由は寿命にある。エルフは基本1700年~2500年は生きる長命な種族で、アルマ歴元年から生きて、戦乱を経験している古兵が多く、平和維持軍では大切な精神的柱となっていた。ティムのクラス教官にして、軍学校長エリシアは、当時を知る英雄の1人であった。何よりも男子生徒から色々な意味で注目を集めていて、その豊かなたゆんたゆんな巨乳は、美人の多いエルフにあって、もっとも有名である。
ピッチリした軍服。今にもボタンが弾け飛びそうな様子は、ある意味男子生徒憧れの存在。どぎまぎしながら。入って来たティムは初々しく。赤くなって視線を反らしていた。エリシアにとって好ましい反応であった。小さく微笑みながら、
「ティムニート君。話は担当官から聞いてるわね?」
「はっはいです教官」
やや緊張しながらも。興奮気味に大きく頷いた。ここにティムが呼ばれた理由……、それは平和維持軍研究所が、新しく開発した。疑似訓練システム。通称ワールド・ファンタジア・クロニクルシステムの被験者に。ティムが選ばれたからだ。新入生の中で選ばれたのは何故かティムだけである。
━━その他16人の被験者は。各分野、各学年の大変優秀な訓練生ばかりであった。新入生の中でもティムには特筆べき才能も、女性にモテル要素も乏しく。入学翌日に実施した。訓練生合同体力測定では平均値をやや下回る数値を叩き出していた。何故ティムが選ばれたか……、いまいち謎であった。
そんなティムに関係無く。不可思議な眼差しで、エリシアは気合い入る少年を見つめながら。懐かしそうに眼をすがめていた。
軍学校施設は。地下30階まであるが、訓練生が知ることは希である。それは学生の内。実際使われるのが、地下10階までであることが原因である。通常座学カリキュラムを行うのが、地下1ー5階までの学年クラス別教室になっていて、6ー10階が訓練施設となっていた、何故地上部分で訓練をしないのか、平和維持軍が、侵略を目的にしないので、世間体を気にしてが40%。天候で左右されて面倒だと60%の意見なのは内緒であるが、普段地上部分は学生の宿舎として使われていて。地下11ー20階までが、特別カリキュラム訓練教室。通称拷問部屋を別にすると職員寮の個室になっていて。21ー30階が研究所施設。通称変人ランドとなっていた。
今回ティムニート達被験者が、集められたのは地下27階。狂人妖精の園とか教官達に恐れられてる研究所の一室。部屋の中央には、大の大人が三人手を繋ぎあっても無理そうな巨大な水晶が設置されていて、強い魔力を放つ台座部分から。無数の管が、水晶をグルリと囲むように16のベッドまで伸びていた。枕元に兜ぽい被り物に。黒く塗られたバインダー付き、耳当てのようなものが目に入る。シーツの上には手足のサポーターのような物が置かれていて。同じく繋がれていた。
「皆さんは、自分の名札が掛かったベッドに移動して下さい」
担当妖精が、ベッドの周りにをふよふよ飛んでいた。
問題の水晶の周りには新たに数人のエルフ、妖精の白衣姿の研究員が、台座の魔力計器を確認して、合図すると。16人の被験者は1人ずつ促されて……、ついにティムニートの番になった。
「身体を楽にしてね~ニート君」
緊急してガチガチのティムに。体長60センチ程の担当妖精研究員が。にこやかに微笑んでくれた。でも長く引きこもってそうな呼び名に微妙な顔で、
「はい」そう答えつつ。横になったがそう簡単に、緊張は拭えない。少なくとも肩の力だけは抜けていたが。
「教官から話は聞いていると思うけど、今日から3日間。よろしくね~」
今回研究所が、作り出した疑似体験ワールドとは、千年戦争期に。実際に起きた出来事を追体験させて、被験者に。様々な経験値をさせて、新しいスキルが発現が出来るのではないか、そのような考えから発生した研究であった。
疑似体験ワールドが、ここまで早く試験可能になった背景に。四大国から資金が提供されたからで……。その理由が、近年戦争が終わった各自治領では。リアルな人材不足に悩まされていたからだ。特にスキル持ちになると職業によれば希少になることもあって。スキル次第では、厚遇をもって迎えられていた。そんな裏事情も見え隠れしてる、此度の疑似体験ワールド実験では、最も人材豊かだった時期。特に比較的平和だった800年前をモデルに作り出されていた。この頃は魔族の大軍が、知ある全ての種族に対して、大規模進行を行っていた、この時代までは四大国ではなく五大国があって、その時代に、一国は陥落王家は滅亡していた。実はこの時期。多くの文献は失われている、しかし1人の領主によって、四大国は救われたと言っても過言ではない。
そんな訳で大国の思惑としては、今回疑似体験ワールドを、体験させて、選ばれた訓練生の内、1人でもスキルが身につけれれば成功と言えた。
「実際の時間は72時間だけど。ワールド内では三年の時間を体験するから、その間ニート君は、色々な職業を体験してね。その間は身体の異変はこちらで見るから安心して」にっこり笑うと、看護師のスキル持ちだと担当妖精は笑っていた。
被験者の16人は、ワールド内で。領主と呼ばれる地位が与えられる。多くは村人のNPC
スキル持ちのAPCがいて、様々なスキル習得に必要な修練、または経験値稼ぎとなるモンスター討伐。初歩的外交手腕が必要な。領主経験まで体験出来る物だ。よってワールドとは仮想訓練施設でありながら。妖精職員の遊び心満載な。ゲーム要素たっぷりの訓練施設である。実際のワールド内にいるAPCモデルは、現役の教官、過去の英雄、いわゆる有名人が選ばれていて、訓練生の多くがこの日を楽しみにしていた。「お休みねニート君『眠りよ眠り、瞼に砂を掛けましょう』
妖精職員達が揃って、呪歌を歌い上げる。集められた訓練生は揃って眠りの世界に旅立っていた。
目覚めるとそこは見覚えの無い部屋の中だった。村では見たことない丈夫で、寝心地のよいベッド。黄ばんでない真っ白いシーツ。その上に寝ていたのだと思いだして、改めて脳と身体が受けとるイメージとは。ここまで鮮明なのかと妙な関心をしていた。どうやら無事ワールドにログイン出来たようだ。恐らくここは領主の屋敷・寝室だろう。早速記憶の綜合から理解した。
そうなると持ち前の好奇心がウズウズして、自分の姿を確かめながら、部屋の中、服装、体、鏡があったので姿を確かめる。
「へえ~服装はかなり古いぽいが、毎日見てるぼくだ……、よし、まずは屋敷の探検と。それから村の把握だな」
ティム達被験者は、事前に研究員からカウンセリングを受けていた、ある程度ならば混乱せず理性的に行動。または判断出来ていた。しかしその中でもティムは1人だけ特筆していた。胆の座った人物だったのかは分からないが。本人曰く母に似たとのこと、だがこの時を言い表すと。内側から溢れる不思議な高揚感。わくわくのまま突っ走り始めた。そんな感じである。
そもそもティムが暮らしていた村があったアルメル辺境・または地方と呼ばれる地域は、伝説の領主アルメル辺境王が統治していたことで知られていた、ただどのような人物だったかと詳しい話は残されていない。ただ幾つか伝説を残していて、村の自慢だった。例に漏れずティムも。名も知れず埋もれていた戦士、英傑、豪族を見出だし。様々な戦功、辺境の発展させた手腕は自慢で、ホーディアン砦村の恩人でありみんな憧れの英雄である。その時代を体験出来るとあれば、2 3日遊んでも許される筈だと浮かれていた。よくも悪くも真面目さとは無縁だったなティムは、にんにま顔を輝かせ。足取り軽く。早速見て回っていた。
体感時間では数時間。しかし実際は数分であろう時間。だけど普通は感じる空腹や喉の渇き、疲れをまるで感じないことから。カウンセリングの説明通り、討伐で怪我を負っても。痛みを感じないか、軽減されてるのだろうと思えた。屋敷にNPCの姿がいないことを確かめてから、自分のベッドに座り横になった時に。休みますかとメッセージが流れた。「これが屋敷に幾つかある機能。体力・魔力の回復が出来る休息ぽいな」
そのことを踏まえて、他にもあるだろうが、今日は休むを選択して、約6時間の休息を取った。
翌朝、普段寝坊とか多かったティムは、あっさり時間通りに目覚める。
「時間や日にちの確認も出来るんだね。これはワールド内だからだろうけど。あれば便利だな~」
思わず本音が漏れる。ティムは昨日見て回った結果。屋敷の決まった場所で研究員の話通り、寝室で行えたダメージ回復施設。執務室に座った時に確認出来た。領地の週、月の収入等、仕事、民の願いを細かい設定として確認していた。またちゃんと表示されたを昨日は確認しただけだった。被験者は毎日必ずこうしたチェック項目を行うことが義務付けされていて、ワールド内で、不備がないか見る役目も負っての被験者なのだ。とりあえず今日も領主の執務室に向かって、部屋に入ると。右上に項目が現れた。内容を確認した。まだAPCと話をしていないので、イベントの表示がないこと確認する。今現在領主が行える行政系のイベント表示がないのを確認した。これにて屋敷のチェックを終えた。最後に項目の下にある。報告を選び書き込み欄があって、領主が国に報告する。そんな感じの内容だが、記入しておく、これは研究員が1日ごとワールド内で一年ごとに。領主の行動としてチェックすることになっていた。
「とりあえず今日は村の中を見て回って、村人NPCと会話。次にAPCと話して、実際の施設や製品やアイテム。イベント項目がきちんと出るかチェックだな」
それから幾つか出来る事を調べていると。地図が見られる毎に気付いた。地図・地域から現在地を見た。どうやらアルメル地方のようだ。「どの村がモデルか分からないけど。他の被験者より有利かな~」
事前の話では、どの国のどの地方、村にダウンロードされるかは、ランダムだったため。そこは安心しできた。例え800年前でも。やはりアルメル地方は故郷だし。離れた村だろうとある程度何とかなるだろう、そんな楽観的思想で考えられたのは大きなことだった。後のカウンセリングで、それで楽しめて色々な行動を起こしたのだと結論した。しかしこの時の気持ちの差が、後々こんな簡単なことに気が付かなかった上のせいで。あんな事件が起きることはなかっただろう……。全てが終わってから、上は知ることになった。そして頭を抱えることに……。
それから早速NPCの村人に話し掛けると、領主を勤めるのが800年前に造られたばかりのホディーアン村、当時は集落だと知った。
「と言うことは、ぼくが!、アルメル辺境王役なのか……」驚き過ぎて、呆然と立ち尽くしていた。村人NPC達から話を聞いてくと。出来たばかりの辺境集落には、100に満たない民。モンスターの襲撃から集落を守るためにも。早めに柵を作って欲しいとお願いされた。その他色々な話を聞いてから。一度屋敷に戻ってから確認すると。領主の仕事が増えたのを見て、なるほどと頷いた。
結局その日。領主として、最初の政務仕事は集落の周囲に柵を作るだけで1日が過ぎてしまう……。
━━翌朝。執務室で確認すると。集落の周囲に柵を作ったことで、モンスターが家畜を襲わなかったこと。民が領主に対して、多少なり好感度を上げたことを確認した。すっかり減ってしまった財源をチェックして、今日も集落の中で、積極的に話をして回ることにした。
民が100人程度の集落にも、様々なAPCがいて、何人からか私兵に雇って欲しいとか言われた。しかし今のところ収入源は限られているので、返事は保留ってことにした。大まかなNPCと話したので、午後から集落にある施設を確認することにした。
現在村にある施設は2つ。最初に訪れたのは雑貨屋である。領主の屋敷を別にすれば、まともな外観の建物の一つで、小さな店内には、日用雑貨、回復アイテムが置かれていた。店主は眼鏡の店員で、ほっそりした風貌に、肩口で切り揃えられた金髪が特徴の何処かぽやぽやした眼差しが、ぼくを捉えた。
「いらっしゃ~い領主様。視察ですか~」
ややのんびりした口調、ラディアと名前のあるAPC店主が声を掛けてくれた。彼女はAPCである。彼女の頭上に目をやると。APCを示す青いバーと。体力をイメージした黄色いバーが見えた。彼女もイベント次第で仲間又は協力者となると直ぐにわかった。右下に目を向けると買い物リストが現れて、指先を動かすと。カーソルが下に流れて行く。すると一番下に注目した。イベント受注である。『商人の弟子になる』があったのだ。興味が沸いて、悩まずティムは選んだ。すると脳内に彼女の弟子になるとどのようなイベントが発生するか、また商人のどのスキルを覚えるかを確認したした。すると弟子になると『鑑定』が使えるようになることがわかった。
「へえ~『鑑定』か、あれってかなり便利だって聞くし、覚えやすいって噂もあるから、最初に覚えるのに良いかも……。だったら試しに……」
弟子になるを選んだ。すると驚いた顔をしてから、にっこり柔かく微笑んだラディアが、
「まあ~領主様がそう言うなら、弟子としてお願いしますね~」イベントが発生した。詳しい話を聞くと。近隣の村に仕入れに行きたいラディアだったが、近隣の村に行くにはどうしても古戦場跡を通らなければならないと説明された。古戦場跡と言われているのは、いわゆるアンデットモンスターが現れる場所のことで、普通の商人。それも自分のような可愛らしい女の子では大変なことここ強めに。ついでにとスキルレベルを上げる為には。拾える武器や。モンスターが落とす謎の花を『鑑定』で確かめることで、スキルを使って、レベルが上がることを知った。そもそもティムにはスキルをがないので、その手のこと知らなかった。だからそうなんだ~って気持ちである。事前カウンセリングで、領主のレベルによっても幾つか固有のアビリティが使えると聞いていた。ティムは訓練生で、兵士に位置付けされていた。よって基礎アビリティ、チャージは覚えていた。その他バスターショット、アローショットもあって、領主のステータスを見ると。アビリティを覚えてることになっていた。しかし現在武器を装備していない状況、ティムが使えるアビリティはチャージだけである。
基礎アビリティチャージとは、力を溜めることで、通常の攻撃よりも1、5倍破壊力が上がる攻撃を放てるのことだ。とりあえず集落にある鍛冶屋に寄って、ドワーフ職人ドンペナから、比較的安く買えるショットソードと木の盾、木の弓を買っていた。これで基礎アビリティ、バスターショット、アローショットが装備を変更すれば使えることになった。この2つのアビリティ、チャージの武器波形である。研究員の話では、領主のレベルを上げる方法もあって、それによりアビリティや新しいイベント、スキルが覚えれる機会が増えると聞いていた。ひとまずイベントをこなして、自分で確かめるしかない。辺りが暗くなり始めたが、集落からほど近い。古戦場跡に向かう事にした。
歴史上アルマ歴元年から。大陸では、無数の種族による争いが起きていた。辺境の古戦場は、ワールドの設定時期。今から50年前、アルマ歴120年頃に。人間の国同士で行われた物だと言う……、
俗に辺境と呼ばれる地域には、比較的どの国にも古戦場跡と呼ばれるものがあって。ティムには慣れた場所だった。
ホディーアン集落から一歩外に出ると、早速モンスターが徘徊する危険地帯となっていた。地図で改めて確認したところ。集落レベル1が確認出来た。レベル2に上げるには他に生活用水井戸が必要で、それを作るには少々金が足りないこと。集落に柵を作ったことで、モンスターの襲撃があるレベルまでが防げることを知った。
「いや~柵作っといて良かった」
被験者の中に。そうした配慮がなくモンスターの襲撃を受け、廃村になりかけた人もいたりする。
実際のティムが住んでいたホディーアン砦村もこの時期は似たような状況だったと言われていた。ただし彼処まで酷くなかったようだが、
辺境に住む子供は、小さい内から、薬草、食べられるきのこの採取をやらされていた、だから弱いモンスターなら問題なく倒せる力があった。ティムが覚えてる限り、村人の多くは比較的覚え安いアビリティを所有していたし。ティムの基礎アビリティ、チャージはそうして身に付いた物である。
外に出てから遭遇したモンスターは3種。芋虫、大リス、バッタである。どちらも大した強さはなく。攻撃力も大したことはない、しかし芋虫に噛まれるとちょっと痛く。バッタの体当たりに転倒したりする。比較的大人しい大リスは肉は食用、毛皮は雑貨で買い取ってもらえる。ただし大リスの毛皮は安いので、まとまった数が必要になっていた。こうした遭遇モンスターは時折ドロップ品を落とす。芋虫の謎の糸、バッタの謎の草は『鑑定』せずに売るとかなり安い。しかし鑑定された物ならば、それなりの金額で雑貨屋さんに売れる。また雑貨屋としては、一定量必要な品物が揃えば。新しい製品が販売品に増えるメリットがあった。
「うっ、うわ~まじグロいよ……」
何度目かによるバスターショットで、頭を砕くと、徘徊する兵士ゾンビから飛び散った悪臭の汁を慌てて飛び退けた。ようやく動かなくなったゾンビは、手にしていた錆びた剣を落とした。結局夜になってもやめられず。何度目かの作業を終えてようやくほっとした。早速錆びた剣に『鑑定』のスキルを発動。気が付けば『鑑定』スキルレベル20MAXになっていた。これで『鑑定』スキル習得となった。こうしたスキルには上級スキルとかあるようだが、現在ではどうやって上級スキルを覚えるか、わかっていなかった。
今ので再びレベルがあがってしまい、体力・魔力が回復。このままだといい加減朝まで続きそうな勢いになろうとしていた。最初は何体か倒したら、集落に戻るつもりだった、でも何回かスキルを試してると……、直ぐにレベルが上がってしまい。魔力、モンスターと戦う体力が回復。なんだか面白くなっていて、アンデット討伐。ドロップ品の『鑑定』レベルアップのループにはまっていた。結局レベル6まで上がってしまい『鑑定』スキルを1日で身に付けた上に。バスターショットのアビリティを身に付けていた。結果はワールドから戻ってみないと分からないが、商人の弟子になるイベントはクリアしたぽい。
━━その後。日が登ってから集落に戻り。雑貨屋で結果を報告。気持ちばかりの報酬をもらえた。それから鍛冶屋に赴き、錆びた剣の束を安く売ったら、新しい武器がリストに増えていた。多少なり収益があったので、二人のAPCを私兵として雇い。交代で柵の見回りと、集落入り口の見張りを行わせることにした。
翌朝、領主の執務室で確認すると。早速私兵を雇った効果が出ていた。昨夜家畜を狙ったモンスターを二匹討伐しており。結果野良フォグと判明、毛皮・肉・牙を売った金が収益されていた。さらに噂を聞いた民の信頼度が少し上がった。
昨日雑貨屋に薬草を売った分を合わせると。資金も少し余裕が出来たので、集落に井戸を作らせることにした。
その日の夕方、屋敷に戻ると。明日面会の申し込みを受けたとメッセージが流れた。執務室で内容を確認。どうやら噂を聞いた狩人からのようだ。
翌朝、相手を待っていると。すらりとした細面の青年がやって来て、
「領主様お願いがございます。どうかトネルフォグ討伐を手伝って頂きたい」
執務室に入った狩人のアスマンは、悔しそうな顔で、昨日の昼間あった出来事を話していた。
彼の住まいは集落の東。森に近い場所に小屋を建て、息子と二人で住んでいて、森に近いことから。1日狩りをして獲物の毛皮と肉を売って生計を立てている。数日前のことだ。何時ものように森に入ったアスマンは、森が荒らされている毎に気が付いた。トネルフォグとは、作物を荒らす豚に似た風貌のモンスターで、野良フォグよりも気性が荒く。家族で行動するため。だいたい4~6匹のグループ扱いで現れて。真っ正直から相手にするには、ティムのレベルではかなり厄介な相手だ。また狩人一人に任せるにも確かに不安が残るレベルのモンスターであった。ティムは領主の能力で、APCアスマンのカーソルを見ていくと。狩人の弟子と項目を見つけてイベントの内容以外にも、どんなスキルを覚えれるか確認していた。
「『追跡』のスキルか、悪くないな」
素直にそう思った。狩人固有のスキルの一つで、見習い狩人になると覚える事が出来るようだ。他にも色々あったが、『追跡』上級クラスでも使えるスキルだ、だから素早く弟子になるを選んでいた。
「!?………、領主様ありがとうございます」
低頭するアスマン。悪い気はしなかった。
二人は翌朝。日が登ると、森の入り口で待ち合わせして、森の中に入っていた。今日のティムは木の弓と。新しい製品。鎌を装備していた。早速邪魔な葉を切りながら歩いてると。カーソルが勝手に動き、医薬品に使える葉が自動的に採集扱いになるようで、増えたアイテムと名前、効能が表示されていく。思わず見ていた。こうして改めて採集品を見てると。子供の頃を思い出すし。雑貨屋があるので売りに出せば、領主の使える金が増えるわ、医薬品まで増えるとなると一石二鳥である。
「領主様、どうやら足跡を見つけたようです」
アスマンが指した木々の間。僅に足跡らしき物に気付いた。さすがは本職狩人である。狩人の弟子になったばかりのティムには、言われてようやく気付くレベルである。おそらく高い注意力、森の姿を知っている狩人ならではの洞察力、獲物を見付ける嗅覚があって、初めて確認出来るスキルのようだ。
当初の予想とは違い。トネルフォグの追跡は困難を極めた。だが、ティムの考えではさほど難しいと思ってはいなかったのだ。
しかし実際はどうだ?、森の中を歩くのは、想像以上に注意が必要だと知った。右上の黄色いバーをみれば随分減っていた。だから薬草を食べることにした。
「領主様!」
鋭い誰何に。きょとんとして立ち尽くしていた。アスマンは大振りなダガーを投げて来た。思わず硬直していると。バサリ葉を揺らす音がして。そちらをみればうねうね動く毒蛇の姿に目を丸くしていた。
気になったので色々聞いてみることにした。
「足元だけでなく。生き物の気配を感じとることです。さすれば森は答えてくれますよ」
朗らかに笑いながら。手早く毒蛇をばらしていく、
「この肝は、特消しに使えますよ」
色々と説明してくれた。
森に入って数日。野営をして、交代で休みながら。森の中で生きる術を少しずつ学んでいた。6日もすると、獣道を見分けることが出来るようになっていた。また弓の腕前が少し上がり。かなりの確率で、大リスなら一発で仕留めれるようになっていた。
━━森に入り15日目。ようやくトネルフォグのグループを見付けた。二人は連携して、瞬く間にこれを退治、かなりの量の食肉と牙、そして毛皮を手に集落へと戻った。
早速雑貨屋で、薬草、毛皮、牙、食肉をまとめて卸すと、かなり纏まった金が手に入った。またアスマンからの依頼を無事こなしたことで、領主の信頼度が上がり。噂を聞いた近隣の村から、新しい住人が引っ越して来た。ティムは新しく四人の私兵を雇い三交代の勤務を行わせることにした。それから集落を守るため木材を組んで外壁を作る方である。砦村の建設を始めさせた。金はあったが出来上がりまで3ヶ月掛かると表示された。
翌日。久しぶりに集落を巡回することにした。執務室で確認すると住人は150を越えていた。井戸を作らせたことで、危険な川に水汲みに行かなくてよくなったことが理由のようだ。そして砦の建設で、危険な辺境で生きるために。少しでも生き残る確率を上げたい。素直な民の願いが形になったようだった。
砦の建設と平行して、砦村から街道の整備を少しずつ行っていく。こうすることでモンスターの出現率を低く出来ると知っていたからだ。
その間。時間が出来れば狩人アスマンと度々森に入り。様々な薬の材料を収集して、沢山の獲物を狩り。集落に戻っては、少しずつ領主の収益を上げていた。このような行為をした被験者はティム1人だけだったと後々分かる。基本軍属になれば、思考は最適化され、上の命令に従うのが当たり前になって行くものだ。だからティムのような行動は、研究者にとって驚くべくものであり。また最高の研究素材を与えてくれた結果となった。
3ヶ月後……、砦が完成する頃には、住人は300を越えて、収益も安定していた。私兵も20人に増やし。集落の安全を守る治世が、領主に対する信頼度を増していた。この頃になると『追跡』のスキルを身に付け、狩人も増えたためティムは、井戸を増やす工事を命じた。さらに定期的に古戦場後に私兵を向かわせ。私兵の練度を上げ、装備の充実を図るため。近隣の村と盛んに交易を行うようになっていた。狩人の1人から採石場に向いてそうな場所が見つかったと報告があったので。視察がてら岩場を見に行った。ティムには不思議と妙な運だけはあって、子供の頃には宝石蜂と呼ばれる。エルフの飲み薬に使う嗜好の蜂蜜を手に入れたり。ちょっと足を踏み外した先で嗜好の黄金林檎を手に入れたりと信じられない幸運に出会ったりする。その採取品を売ったお金で、結婚を迷う姉が無事嫁ぎ、ティムが今の年齢まで慎ましいが何とか母と生活出来た。その後しばらく幸運はなかったが、地方で行われた平和維持軍学校募集に応募。何故か入学出来る幸運を受けていた。
採石場発見から数日後。近隣村から、一人の少女が助けを求めてやってきた。
「お願いします!、妹を助けてください領主様」
とりあえず話を聞くと……。少女は西の村から来たこと。村から半日東に行ったところに。コブリンが砦を築いていると訴えた。普通こうした願いは、村の領主に相談するのだが……、聞けば村にある自警団は結成され日が浅く。鍛治屋と雑貨屋もなく。武器が手に入らない状況で、地方を預かる伯爵様に兵を出して貰うには時間が掛かり、運悪く代替わりした新しく領主様は、私兵を連れていなかったと言う。
「それに……」
今年は近隣でも不作で、同じような状況だった。それゆえに定期的に古戦場後で討伐出来る程の私兵を持っていて、砦村を築いた目覚ましい発展を遂げたホディーアンの領主様に。助けを求めたと涙ながらに訴えた。
「……うん分かったよコディー、力になるから。村に向かったら誰か、案内を頼めるかな?」
快く快諾していた。
集落のことがあるので、私兵は10人にした、その代わり狩人のアスマンを同行させた。西の村まで同行させたコディーを馬車に乗せ、徒歩で歩くぼくに済まなそうな顔をしていた。
「気にしなくていい。女の子を歩かせるなんて、嫌だからさ」
「領主様……お優しいんですね」
ようやく笑ってくれたコディーは、妹のことを一生懸命話してくれた。周りの私兵達も好意的な眼差しで、ティムの態度に感動した顔をしていた。
(これはあくまでもワールドなんだぞティム!?)
不思議な気持ちだった。今のティムはあくまでもワールド被験者でしかない、だがこの時は間違いなく。1人の領主として考え。女の子を気遣い。領主として振る舞っていた。
(でも……どうかコディーの妹が無事でありますように)
本気で願った。
ホディーアン砦村から。半日ほど西に行くと。村が見えてきた。木の粗末な柵に囲まれた村は、500人の住人、200程の粗末な家屋が見て取れた、村の中心に古い屋敷があって、あれが領主の屋敷であろうか、村の入り口には、此方を見付けたのか、50人程の男達が緊張した面持ちで集まっていた。
ティムが到着すると。男達の中から、壮年の老人が顔を出して、ティムと挨拶を交わした。コディーから話を聞いて、コブリンの討伐に赴いたと伝えると。それはそれは驚き、感謝された。
自警団から二人の若者が、ゴブリン砦まで、案内に名乗りを上げてくれた。その内の1人オリーアは、黒髪を短く刈り込んだ。ようやく青年になる年頃で、年齢が15歳と聞いて、それは驚いた物だ。それほど立派な体躯をしていた。粗末な服が似合わない風貌である。
「ぼくのお古で悪いけど……」
断りを入れて、ショットソードと木の盾を。案内の二人に与えた。ようやく新しい装備のロングソードと。背の青銅の弓が手に馴染んだので、こうした初期装備は、ホディーアン私兵の予備として、持ち歩いていたものだ。
「あっありがとうございます!、俺がんばります領主様」
二人はそれはそれは喜んでくれた。普通の住人にとって、初期装備でも揃えるのは大変なこと。ちゃんとした武器を手にして、本当に嬉しそうに笑っていた。確かにNPCと違い、APCには、多少なり対話が出来ることも分かっていた。
『俺はおかしいのかな?』
何だか二人が、普通の人間のように思えていたからだ。このところ私兵相手に盾や剣の稽古をしていたので、ティムは戦士のスキル『盾』装備と剣士のスキル『フェイント』を覚えていた。
隣で元気に話す。自警団員オリーアのステータスを、領主の力で確認すると。彼は兵士の基本スキルチャージ、剣士、戦士の初級中級アビリティを覚えていた。複数のスキルを覚えるとアビリティスキルホルダーなる物を覚えていて、自動的に適したスキルが判断出来る物のようだ。
二人を調べたついでにと。同行する狩人のアスマンを調べた。すると狩人の上級者アビリティを持っていることがわかり多少なり驚いた。同行してる間だから分かったが。アスマンとはある一定の信頼関係がある気がした。いやあると嬉しいなと思う自分がいた。
西の村から数日。昔は集落があった荒れ地に。ゴブリンが粗末な砦を築いたと二人から聞いた。
辺りはすっかり暗くなっていた。夜目が効くアスマンとティムが先行して、偵察に出ていた。夜目で分かりにくいが『追跡』のスキルを発動させれば、砦に出入りしてるゴブリンの数が分かる。
「多くて20匹はいるか……」
敵はモンスターとなった盗賊ゴブリンのようだ。此方の数を上回る。コディーの妹や近隣の集落、村から。女子供をさらってきたゴブリン達は、奴隷にして働かせていると聞いた。最近では奴隷を扱う商人が、砦を訪れているとオリーアが固い表情で語る。
「このまま夜明けまで待って、襲撃する」
━━夜明け前。静寂の中、ゴブリン砦に、人間が襲撃を仕掛け、瞬く間に殲滅、これを討ち果たした。無事多くの人間を救うことが出来た。砦村に戻って。執務室で項目を開いて初めて知ったが、どうやら今回のイベントは、領主の特別イベントに分類された物で、現存でも少ないレアスキル『指揮者』(コマンダー)を手に入れていた。このスキルの特徴は、部下の統率力、指揮能力の上昇、ボーナスとして作戦成功率20%が与えられる。
━━数日後……。無事ゴブリンに奴隷にされていた子供達を救い出したティムの名声は高まり。よって所属国ドリマリア連邦王から。領主の上級職。騎士にランクアップさせてもらえた。
騎士なった更に数日後。西の村領主から隠居するからと、領地権利を譲渡され。ティムは西の村とホディーアン砦村を所領する。地方貴族に任じられた。
上級領主クラスである。騎士固有のアビリティには、騎乗技術、敵の攻撃を弾くパリーを覚えた。西の村にあった自警団をそのまま私兵として雇い入れ。総勢50名程の辺境部隊を編成した。隊長をオリーアとした。また鍛冶職人ドンペナを西の村に引っ越しさせ。人間の弟子を育てること依頼した。西の村には近々雑貨屋二号店を開店させることになった。
━━瞬く間に半年が過ぎていた。西の村にも、ホディーアン砦村にも多くの移転者が増えていった。
西の村は500→2000、砦村が300→800に住人が増加していた。
そんなある日のこと。
噂を聞き付けた東の村には。ノーブル巨人族が住んでいて、使者としてレオが尋ねて来たのは、ほぼワールド時間で、一年が過ぎた頃であった。その間ティムは、シーフのスキル『索敵』、見習い魔法使いのスキル『初級魔法』、見習い僧侶『初級回復』
見習い職人『工作』を覚えて、初級職業カンストボーナス。付与技能が与えられた。
新しく辺境部隊に入隊を希望する70人を受け入れたので、以前ゴブリン砦があった場所を使って、新しい砦を作る計画を立てていた頃で。ティムにとっては懐かしい気分を味わっていた。彼等は比較的温厚な種族で、人間とも友好的なノーブル巨人族だった。またその多くが土木建築関連の職についていた。そのため建築の村と知られていて、東の村とちょうど中間にゴブリンの砦があった。
レオが聞いたのが、ゴブリン砦を。最近良政を敷くティムが。地域の平和維持に再利用すると聞いたのだ。ノーブル巨人族にとって悪い話ではなかった。よってレオは仕事の交渉だと告げた。
「それはありがたいね。あの地は荒れ地だ。大きな岩とか工機が難しいと聞いていた。此方で金を出して雇う形で良ければ。お願い出来るかな?」
「あい、ありがとうごぜいますだ騎士様!。おらたちは体はでかいが、気が小さいもんで、ゴブリンにもまけてしまいます。どうかこれを機に。おら達の村を領地に加えて下さいませんか」
使者の申し出は、理にかなっていた。騎士の地位ならば、もうひとつ村を領地に加えても問題なく可能であった。また村人総意見ならば、騎士の判断で、領地にすることを許されていた。これで砦を二つ、村を二つ領地にしたティムは、地方貴族でも有力貴族の1人となっていた。
3ヶ月後……新しい東砦が完成していた。西の村人口は5000を越えていた、しかもティムの治世によって、交易が盛んになっていた。巨人族から人間の弟子を採らせて、石材加工技術を学ばせていた。雑貨屋から商店にとレベルが上がり品揃えが増えていた。そのお陰か集落6、村10と交易を結び。順調に収益を上げていた。また新しい鍛治屋、石材加工店、木材加工店、酒場、宿屋が作られ、田畑が増えて行き食料事情が良くなると。毎日のように住人が増えていった。それに合わせて辺境部隊の人員を増やし。300人を越えた。よって辺境部隊から辺境師団と名前を変更。ようやく国から支援が、与えられることになった。それも一重に魔族、他国と国境が隣接していた辺境だからで。ある程度優秀な治世を示したティムを。防衛ラインを任せる領主として認めたのだ、よって西の村を城塞都市に建て替えることが決まった。
ワールド時間で、約一年半━━。
城塞都市レディナスはこうして出来上がっていく。ここまでならホディーアン砦村出身の子供ならば。みんな知ってる過去の出来事であった。ティムはあくまでもそれに沿って行動したに過ぎない。
同年の終わり、ティムは国から近衛長扱い。男爵位が与えられた。
翌年。ティムは部下を探すため次々と優秀な人材をスカウトして周り、『交渉』『駆け引き』『魅力』のレアスキルを手に入れていた。
瞬く間に三年の月日が流れていた、間もなく始まる。魔族と人間の戦いに備えたのは、ティムだけで。他の被験者は無為に過ごした。
恙無く最終日を終えたティムは、次に目覚めると。妖精職員が心配そうな顔で覗き込んでいた。
「おはようございます。ここが何処で、自分が誰か分かりますか?」しばらくワールドと。リアルの記憶で混乱していた、でもどうにか頷くことが出来た。
━━さてこの実験で、実際にスキルを身に付けれたのは、ティムニート1人に止まった。他の15人は、記憶障害と心身耗弱を起こしていたからだ。
3日の検査入院、身体測定後。ティムになんと20以上ものスキルを身に付けた事がわかった。
しかし……問題が起こる。被験者に訓練生ティムニートを選んだのが、あの英雄の1人エリシアであること。研究所としてはティムニートに。複数のスキルを身に付ける。特別な才能があるのではと。数日掛けて調べた結果。何も分からかった。
それでは上は納得しない。確かにスキル保持者が人工的に出来た。それならば……、もっとワールドをやらせれば、何らかの結論が得られるのではないかと考えたのだ。金に困っていた職員を買収して、半月後……、ティムニートの了解を得ず。強引に敢行した。
寮で休んでいたティムに。平和維持軍の中でも精鋭部隊が急襲、魔法で眠らされ。無理やり連れ去られていた。
━━軍学校教官室。校長エリシアは、今日この日。生徒のティムニートが、事故に合うことを知っていた。憂慮した眼差しを細め。静かにその時を待った。
再び。巨大水晶に繋がれたティム、ただ深い眠りに落ちていた。数奇な運命が与えられた少年は……、巨大な魔力暴走に巻き込まれ。世界から消えていた。
━━夢を見ていた。煌めく星のような光の中、絵画でしか見たことが無い。英雄達の姿。初めて絵画で見た瞬間から。憧れを抱いた巨乳教官エリシアの姿が脳裏に浮かぶ、どうして先生はあんな優しい顔をしてるのだろうか……。
いきなり事故に合ってしまったティムニートは、果たして、早ければ連続投稿する予定です。また同じ物語か、別の物語で背徳の魔王でした。