裏事情 2
レオナール視点です
翌日は、旅立つ前に聖女様や俺達が英気を養う為にと、パーティーが開かれた。
会場に入るとすぐ俺の目に飛び込んできたナツメ様の、ドレスアップした姿に胸が高鳴る。
ああ、可愛い。
聖女様方は午前中ずっとダンスの指導を受けて、二人共になんとか踊れるようにはなったらしい。
ならば是非ナツメ様と踊りたい。
ファーストダンスは絶対に俺が相手を務める。
いや、むしろ他の誰にも譲らずにずっと俺が独占したい。
あんなに可愛いナツメ様とダンスなどしたら、その男は絶対にナツメ様に心奪われ、俺のライバルと化すだろう。
それがわかっていて、ナツメ様とダンスなどさせられない。
この件に関しては、ライバルなどいらない。
そんな存在を作らない為には、やはり俺がずっとナツメ様を独占しなければ……。
「……レオ殿下。なりません」
「……ち。わかっている、考えただけだ。実行はしない。……思考くらいなら自由だろう、セイシン」
「……ならば、よろしいのですが。失礼致しました」
俺は薄く笑んだ表情を保ったまま、声だけで不機嫌を表してセイシンにそう答えると、兄上達に続いてハルナ・ヒノ様の元へと歩を進めた。
そして着飾った女性への礼儀として賛辞を述べる。
ハルナ・ヒノ様の周りには多くの人々が集い、同じように賛辞を述べ、誉め称えていた。
けれど俺はどうしてもナツメ様が気にかかり、ちらりと視線だけをそちらへと飛ばす。
すると、なんという事だろう。
ナツメ様の周りには人っ子一人おらず、困惑と寂寥の入り交じった目をこちらへ向け、一人で佇んでいた。
……待て、これはあんまりではないのか?
いくら二人の対応に差をつけるとは言っても、ナツメ様の為でもあるパーティーで、あんなふうに一人寂しく放置するのか?
俺は……本当に、それでいいのか?
そう思った次の瞬間、俺の足は自然とナツメ様の元へと向いていた。
視界の端にうっすらと、俺を止めようと動くテオ兄上が見えたが、何故かセイシンがそれを止めていた。
そのままセイシンがテオ兄上に何かを耳打ちすると、兄上は小さく頷きを返す。
どうやら今回は見逃してくれるようだ。
助かった、これでナツメ様と過ごせる。
その事に喜びながらナツメ様の元へ辿り着き声をかけると、ナツメ様は驚いた顔をして俺と背後に繰り返し視界を走らせた。
何と俺を見比べているのかは、容易に想像がつく。
そんな様子も可愛くて、思わず小さく笑みがこぼれた。
ダンスに誘えば、ナツメ様は嬉しそうに顔を綻ばせて俺の手を取ってくれる。
俺は最初の望み通り、ナツメ様のファーストダンスの相手となれたのだ。
懸命に覚えたてのステップを踏む可愛いナツメ様を見ながらのダンスは、とても楽しい。
ああ、やはりこのままずっとナツメ様を独占して踊り続けたい。
再びそう願った俺だったが、けれどその願いは叶わなかった。
ダンスが終わるとすぐ、ジオ兄上に交代させられてしまったのだ。
そして、セイシンから驚愕の話を聞かされる。
……ナツメ様が旅を拒否して城に残り、結婚相手候補として騎士や文官と交流を持つ事を考えている……?
それを阻止する為に、この後は誰かがずっとナツメ様に張りついて、明日は朝一番で出立する……。
「……セイシン。その、ナツメ様に張りつく役目、俺でも構わないな……?」
「はい。ジオ殿下とテオ殿下も、レオ殿下が適任だろうと仰っていました。……貴方なら、ナツメ様が他の男性を見ようとするのは絶対に断固阻止してみせるだろうから、と」
「……当たり前だ!!」
俺はそう強く返事を返すと、即座にナツメ様に張りつき逃がさない為の方法を考え出した。
他の男に目を向けられてしまうなど、冗談じゃない。
そうして考えた事を実行に移し、結果、願い通りにナツメ様を独占して逢瀬を楽しめた俺は、自室に帰った後もとても幸せな気分に包まれ、そのまま眠りについたのだった。