テントの中で
ゆっくりと意識が浮上し、目を開けると、目に入ったのは薄いベージュの、三角に盛り上がった布。
横たわっているらしい場所はところによりゴツゴツとしたものがあって固く、あまり寝心地はよくない。
ここは、どこだろう……私、どうしたんだっけ?
寝起きのぼんやりとした頭でそう考えて、周囲を見回そうと首を動かす。
すると、すぐ近くから、息を飲む音がした。
「聖女様……!! 気がつかれましたか!」
「え……? !!」
声がしたほうを見れば、そこにはレオナール様が座ってこちらを見ていて。
その顔を見た途端、脳裏に昨日の出来事がはっきりと甦ってきた。
「聖女様、ご気分はいかがですか? どこか痛いところは……? 少々微熱が出ていたのですが、下がったでしょうか?」
「っ! 嫌ぁっ!!」
「!?」
立ち上がり、心配そうな顔をしながら手を伸ばしてきたレオナール様のそれに、私はビクッと体を揺らすと、直ぐ様大きく体を反らして避けた。
するとレオナール様は大きく目を見開く。
「……せ、聖女様……?」
そして、ショックを受けたような顔をして、小さくそう呟いた。
その顔を、私はキッと睨む。
「触らないで! もう、もう嫌! 私帰る! 家に帰るっ! こんな、こんな怖い所もう嫌!! 家に帰るぅっ……!!」
次いでそう声を上げると、同時に昨日の恐怖が体の奥からせり上がってきて、涙に変わり、目から溢れでた。
次々に溢れるそれを堪えずに体を丸めて膝を抱え、そこに頭を埋めると、私は『家に帰る』、『家に帰して』と繰り返し声を上げ続ける。
そんな私を、レオナール様はまるで死刑宣告を受けたかのように真っ青な顔をして、呆然とただ見ていた。
静かな空間に、私の悲痛な声だけが響く。
「……聖女様……以前もお話しましたように、元の世界へお帰しする事は、できないのです」
しばらくすると、ふいにそんな声が聞こえてくる。
涙に濡れた顔を上げると、レオナール様の後ろに、ジオナール様とセイシン様が姿を現していた。
「……兄上」
「……なんて顔をしているんだ、レオ」
「……聖女様に、拒絶を……」
「わかっている、セイシンから聞いた。……大丈夫だ。聖女様、ナツメ様にはこれから全てを話す。それで全てが許されるとは思わないが……挽回の機会くらいは、なんとか戴こう。な、レオ?」
ジオナール様は、ポン、と、慰めるようにレオナール様の肩に手を置いた。
その後ろで、セイシン様がひとつ、大きく頷く。
「……挽回……。っ、聖女様! 俺にできる事は何でもします! だから、だからどうか、俺を嫌う事だけは……っ!!」
「っ、や……っ!!」
「こ、こら待てレオ! まずは説明が先だ。落ち着くんだ」
「レオナール様……!」
ジオナール様の言葉をぽつりと繰り返すと、次の瞬間、レオナール様は弾かれたように私へと向き直り、必死の形相ですがってきた。
それに対し、私が再びびくりと体を跳ねさせると、ジオナール様とセイシン様が慌ててレオナール様の体を引き戻す。
そして、レオナール様をセイシン様のほうに押しやると、ジオナール様は一歩前に出て、その場に片膝をついた。
「聖女、ナツメ様。まずは昨夜の失態をお詫び致します。完全に私の失策でございました。誠に申し訳ございません」
ジオナール様はそう言って深々と頭を下げ、そして、裏事情とも呼ぶべき話を、ゆっくりと話し始めた。