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恐怖のるつぼ

残酷描写があります!

 ガラガラと回る車輪の音だけが、薄暗い車内に響いている。

 男はあれから私の向かいの座席に腰かけ、ずっとニヤニヤとした笑みを浮かべながら私を見ていた。

 私はその顔を見ているのが嫌で、体を小さく丸めて俯き、自分のつま先を見つめている。

 男はさっき、私を『売り飛ばす』と言っていた。

 一体、どこに売られるんだろう?

 ……ううん、どこに売られるにしても、こんなふうに拐われた人間を買う人なんて、真っ当な人であるはずがない。

 ……私は一体、どうなってしまうんだろう……。

 ろくでもない未来しか思い描けず、私はギュッと目を瞑り、膝に顔を埋めた。


「おっと……隠されちまったか。……女の怯えきった表情は、俺の大好物なんだがなぁ、っと!」

「っ痛……っ!?」


 ふいに聞こえた声と、ギシリと鳴った何かの音の後、髪の毛が乱暴に引っ張られた。

 その反動で強引に顔を上げられ、痛みに声が漏れる。


「なあ、ただ座ってるのも暇じゃねえか? アジトに着くまではまだまだあるし……俺とイイ事して遊ぼうぜ?」

「えっ……!?」

「んで、あんたの怯えた顔、もっともっと見せてくれよっ!」

「っ!? 嫌ぁ……っ!!」


 男は変わらずニヤニヤと笑いながら言葉を紡ぐと、私の髪を掴んでいないほうの手で私の服を掴み、力任せに引き裂いた。

 ビリビリと派手な音をたてて破かれたそれは、もう服としての用途をなさず、下着が顕になる。

 私は慌てて両手でそれを隠したけれど、その手は男の手によってすぐに拘束され、自由をなくしてしまった。


「や、やめて……離し、てっ……!!」

「ははっ、いいねぇその表情! さあ、もっと見せてくれよ?」


 私の必死の懇願は意味をなさず、男は楽しそうにそう言うと私の髪を離し、下着へとその手を伸ばした。


「っ……!!」


 何で、どうして、こんな目に。

 僅かに弱まっていた涙が、再び勢いを増して溢れた。

 それを見た男の顔が、更に愉悦を表す。

 そしてーー突然、ガタンと大きく、馬車が傾いた。


「うっ……!!」


 上から私を押さえつけていた男は衝撃で座席から転げ落ち、呻き声を上げる。

 今度は何が起こったのかと、私は傾いだほうを凝視した。

 すると、車輪の音がしなくなっている事に気づく。

 止まっている……?

 どうして?

 私がそう疑問を抱き、男が起き上がって『何だ、何があった!?』と御者台に向かって叫ぶのと同時に、馬車の扉がバンッと大きな音をたてて開かれる。

 つられてそちらを見れば、そこには剣を手にしたレオナール様が、立っていた。


「……レオナール、様……?」


 その姿を視界に入れ、そうと認識した私がぽつりと小さく名を呼ぶと、レオナール様が私を見て、視線が絡んだ。

 するとレオナール様は一瞬目を見開き、次いで眉間に皺を寄せ、綺麗な顔を激しく歪める。

 それはまさに憤怒と称するにふさわしいもので、直視した私はびくりと体を震わせた。

 その次の瞬間、そんな私の横を黒い影が素早くうごめき、レオナール様へと向かって駆けていく。


「あっ……!!」


 その影、男は、キラリと光るものを振りかざし、レオナール様めがけて振り下ろすが、それを予想していたのか、それとも反射神経の賜物か、レオナール様はそれを難なく剣で受け止めた。


「……貴様の、仕業か」

「あん? ……っと!」


 切り結んだレオナール様は、男に向かって低く何かを呟くと、男に言葉を返す暇を与えないままその獲物を弾き、反動を利用して数歩後ろに跳躍すると、今度は着地した足をバネに、勢いよく男へと向かって距離を詰めた。

 そして、青白い光を刀身に纏わせると、それを一閃させる。


「がっ……!?」

「え……。……ひっ!?」


 次いで、男の短い叫び声が聞こえると、何やら生暖かいものが頬にあたり、足元にはゴトンという音と共に、楕円形に見える歪な何かが転がってきた。

 男の体はゆっくりと崩れ落ち、それを追って下を向いた私は、足元に転がるものを視界に入れてしまい……限界を迎えて、意識を手放したのだった。

最後の生暖かいものと、楕円形に見える歪な何かが何かは……想像がつくとは思いますが。

はっきり何とまで書く勇気は、私にはありませんでした……。

赤いアレと、一番上にあるアレです……。


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