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こうして私は旅に出た

「聖女様、起きて下さいませ。朝にございます」


 その言葉と共に暖かな光が部屋の中へと降り注ぎ、それを感じた私はゆっくりと目を開けた。

 視線を巡らせると、ベッド脇と窓辺にそれぞれ一人ずつ、メイドさんの姿がある。


「……おはようございます」


 体を起こしながらそう挨拶して、漏れてきたあくびをひとつ噛み殺す。

 すると窓辺にいたメイドさんもベッド脇へと素早く移動してきて、二人並んで『おはようございます、聖女様』と綺麗なお辞儀をした。

 そしてすぐに顔を上げると、最初にベッド脇にいたメイドさんが口を開く。


「本日は旅立ちでございますね。良いお天気で、ようございました。準備は既に整っておりますので、聖女様もお早くご支度の程をお願い申し上げます。他の皆様も、今頃そうされておいででしょうから」

「え」


 旅立ち。

 その言葉を聞いて、私は僅かに顔をひきつらせた。

 昨夜はレオナール様の衝撃的な言葉に動揺し、されるがまま会場から連れ出され、庭を散策し、部屋へと戻されてしまった。

 そしてすぐにメイドさんにドレスを脱がされ、今更騎士様を物色しに出歩くのも面倒になった私は、そのままベッドに潜り込む事にした。

 朝食の時にでも王様達に私だけ城に残る事の許可を願い出てそれをもぎ取り、物色は明日から始めればいい、と。

 なのに、もう『既に準備は整っている』、『他の皆様も今頃そうされておいで』?

 え、何で、朝食は?

 支度って、ご飯食べたあとじゃないの?

 そんな疑問に頭を支配され、メイドさんを見つめてそれをぶつけようと、私は口を開いた。

 すると、ふいに扉からノックの音が響いてきた。


「聖女様、起きていらっしゃいますか? レオナールでございます。入室してもよろしいでしょうか」


 次いで、そんな声が聞こえてくる。

 それにつられるように私が扉を見ると、すぐにメイドさんの一人が動き、扉を開けてしまう。

 その直後、騎士様と同じような鎧を身に付けたレオナール様が姿を現した。


「おはようございます、聖女様。準備が整いましたので、お迎えに上がりました。……が、貴女のお支度はまだのようですね。部屋の前にてお待ちしておりますので、すぐにお支度を。出来次第出発致しましょう」

「えっ、あ、あの、出発って、朝食は……? わ、私、王様にお話したい事があるんですけど……!」

「父上、いえ、陛下に? ならば、出発時に見送りに来られますので、その時にお話下さい。それと朝食ですが、馬車の中で軽食を取る事になります。街で一般の乗り合い馬車に乗るために、発着時間に間に合わせなければなりませんので、どうかご了承下さい。この旅は我々の試練でもありますので、王家の馬車は使わず、一般の馬車での旅となりますので」

「え、あ……は、はい。わかりました……」


 出発時のギリギリにでも、王様に会って話ができるならそれでいいか、と思った私は、レオナール様の言葉に頷き、とりあえず支度をする事にした。

 どうせすぐに脱ぐ事になるだろうけど、一応支度はしないと、見送りに来るという王様の前には出して貰えないだろうし、と、そんな事を考えての行為だった。


★  ☆  ★  ☆  ★


「さあ、では朝食に致しましょう。どうぞ、お好きな物をお取りになって下さい。乗り合い馬車の発着所へはすぐに到着致しますので、お早めにお食べになって下さいませ」


 現在、私は王家の馬車に揺られていた。

 旅は一般の馬車で行くが、その発着所までは王家の馬車で行くらしい。

 広くゆったりできるその馬車内で、目の前に広げられたバスケットからサンドイッチなどの軽食を手に取る他のメンバーを、私は何とも言えない顔で見つめていた。

 結論から言えば、城に残りたいと王様に願い出る事は出来なかった。

 見送りに来たのは王様のみではなく、宰相様を始め、騎士団長様と魔術士団長様と神官長様、そして数えきれないほど大勢の騎士様と魔術士様と神官様と文官さんが綺麗に整列していて、その前を通る度に前列にいる方々が期待に満ちた眼差しで口々に激励の言葉をかけてきたのだ。

 そんな中を通り抜け、最後に辿り着いた王様のもとで、今だ感じる背後からの大勢の熱い視線の前で、王様に『旅に出ず城に残りたい』等と言えるだろうか。

 いや、言えるわけがない。

 少なくとも、私には無理だった。


「おや、聖女様、どうされました? 早くお食べになって下さい。でないと、空腹のまま馬車を乗り換える事になってしまいますよ?」

「あ……。……はい……」


 サンドイッチを手に、食べながら日野春菜さんと楽しそうに談笑していたレオナール様が、ふと私を見てそう言い、そしてすぐにまた談笑の輪へと戻っていく。

 そう、談笑の輪へと、だ。

 やはりと言うべきか、王子様方は日野春菜さんだけを見て、楽しく会話をしている。

 私は空気である。

 旅の間はずっとこうなるんだろうなぁ……と嫌な想像をして、私は溜め息を吐きながらサンドイッチへと手を伸ばした。

 ……道中、私と会話してくれる人求む。

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