ダンスのあとで
レオナール様と踊ったあとは、ジオナール様、テオナール様、セイシン様の順に次々とダンスを申し込んできて、これから一緒に旅する仲間である彼らの誘いを無下に断るわけにもいかず、ただの暇潰しである事を承知の上でそれぞれと踊った。
そうして最後のセイシン様とのダンスが終わり、さあ今度こそ騎士様を物色に! と歩き出したところに何故か再びレオナール様が来て、『立て続けにダンスをされてお疲れでしょう。良ければ一緒に、休憩を兼ねて食事をしませんか?』と誘われ、お皿に盛られた彩りも鮮やかな美味しそうな料理を差し出された。
そういえば、ダンスで体を動かしたせいか、少しお腹がすいてきていた。
で、でも、騎士様の物色にも行きたいし……。
「聖女様、どうなさいました? さあ、どうぞ?」
「え、あの……んっ!?」
私が何も答えずにいると、レオナール様はお皿を更に私の顔に近づけた。
すると、そこからいかにも美味しそうな匂いが漂ってきて、私の鼻孔を擽ってくる。
「う……あ……ありがとう、ございます……いただきます」
その料理が放つ食欲をくすぐる匂いには抗えず、私はそれを受け取ると、レオナール様と一緒に邪魔にならない場所に移動した。
料理を口に運びながら会場の中央を見れば、日野春菜さんはあの人垣の中にいた見知らぬ男性と踊っていた。
どうやら、私はまた暇潰しに使われているらしい。
「……料理は、お口に合いませんか? 聖女様?」
「え?」
その事実に小さく溜め息を吐くと、突然隣から声がかけられた。
そちらを見上げれば、困ったように眉を下げ私を見つめるレオナール様の顔が視界に映り込む。
「お顔の色が、優れないご様子なので。料理がお口に合わないのかと。もしそうなら、別の物を用意させますが」
「えっ、いえ、そんなこと……! 料理は、とっても美味しいです!」
こんなに美味しい料理が口に合わないなんて人がいたら、その人は味覚がおかしいと思う。
「そうですか? ならば、良いのですが。……ではやはり、お疲れなのでしょうか。この世界へいらして、まだ二日目ですからね。突然環境が変わられて戸惑いも大きいでしょう。本当に申し訳ございません、聖女様。食事が済んだら、お部屋までお送り致しましょう」
「え!? あの、でも、私」
「ああ、大丈夫です。このパーティーは我々と聖女様の為のものですが、だからといって無理はさせないようにとの、陛下のお言葉がありますから。ある程度ご参加くだされば、あとはいつ下がろうと聖女様の自由です。明日はもう旅立ちで、朝も早い。早めにお休み下さい、聖女様」
「えっ、い、いや、あの、それなんですが、私」
「ああ、部屋へ戻られる前に、少し庭を散策するのも良いかもしれませんね。静かな夜の空気と甘い花の香りは気持ちを落ち着けてくれます。その後に眠れば、きっとよい夢を見れるでしょう」
「い、いえあの、私」
「できれば。……私の夢には、貴女が出てきて下さると良いのですが」
「いや、あの……って、え? ……ええっ!?」
途中から、何故か私の言葉を遮るように言葉を紡ぐレオナール様は、ふいに私の髪を一房手に取ると、私の目を見て信じられない事を口にした。
「そして、貴女の夢にも、私が現れるなら嬉しいです……」
次いでそう言って、取った私の髪に軽く口づける。
「えっ、えええええ、あああああの……!? ななな何でわたわた私……!?」
その様を見て、一気にパニックに陥った私は動揺のあまり満足に言葉を口にできず、盛大にどもってしまった。
混乱した頭には、『何で私!? 日野春菜さんは!? 私でいいの!?』という疑問がグルグルと回っている。
レオナール様はそんな私を見て楽しそうに目を細めると、髪から手を離し、今度は私の手を握った。
「さあ、では庭を散策しつつ戻りましょうか。参りましょう、聖女様」
そしてそう言うと、今だパニック状態の私の手を引いて、会場を後にしたのだった。