巻き込まれ召喚?
私には、前世の記憶がある。
前世の自身に関する名前などの細かな事は曖昧だが、ひとつだけ、強く鮮明に記憶に残っているものがあるのだ。
前世の自分は、所謂ブラック企業に勤めていて、忙しさと色々なトラブルに体力と精神力を摩耗していき、最後には過労で倒れたらしい。
そんな記憶を持って生まれた私には、絶対に叶えたい将来の夢がある。
私は将来、絶対に、甲斐性のあるそこそこお金持ちの男性と結婚して専業主婦になり、働く事なく暮らすのだ!!
専業主婦は専業主婦で大変だろう事はわかっているが、きっと前世のブラック企業よりはマシなはずである。
前世のような生き方はもう御免だ。
幼少時に早々とそんな願望を持って、平凡な容姿なりにも身なりに気を使い、自分を磨いて普通に可愛い程度にはなれたと自負するまでに成長した私であったが、現在、絶賛混乱中だ。
目の前には、白銀に輝く鎧を纏った人達と、何やら裾のやたら長い服を纏った人達と、その中心に、見るからに高級そうな服を纏った美形の少年達がいる。
そして、隣には普通に可愛い程度の私ではとても太刀打ちできないくらいの絶世の美少女がいる。
ゲームやネット小説でよくありそうな設定のこの状況に、私は混乱しながらもだらだらと冷や汗を流すばかりである。
だって、この状況は、きっとアレだ。
異世界に、巻き込まれ召喚。
隣の美少女とは、この場所に来る直前に道で偶然擦れ違ったし、たぶん間違いない。
そんな事を考えていると、ふいに目の前の少年達の一人が動き、こちらに向かって歩いて来た。
「お初にお目にかかります、私はこの国の王太子で、この召喚の儀の総責任者の、ジオナール・パドライムと申します。突然お呼びだてして申し訳ありませんが、どうか、この世界をお救い下さい。聖女様」
歩きながらそう言って、王太子と名乗ったその少年は、恭しく床に膝をつき、手を取って頭を下げた。
勿論、私の隣の美少女の、である。
ああほら、やっぱりね。
予想通りの展開に、私は半眼になってその様子を見つめた。
さて、これからどうしよう。
元の世界に返せるならすぐに返して貰いたいんだけど……そうでなかった場合は大変だ。
冷酷な所だと、訳もわからない異世界だというのに身一つで放り出されたりする。
そうなったらもう最悪である。
とりあえず、この人達が良心的な対応をする国の人達である事を、切に願いたい。
★ ☆ ★ ☆ ★
王太子様は、意外にも冷静だった。
どちらが聖女か確認もせず、外見の美醜だけで判断してあんな事をしたのだと思いきや、美少女をあの部屋から連れ出す際、やっと私に目を向けて、『貴女もどうか共においで下さい、仮の聖女様』と言った。
そして現在、王様の御前、謁見の間でどちらが本物の聖女かを確かめる行為が行われようとしている。
白髪に見事な白いお髭を生やしたお爺さんが、私と美少女のすぐ前に立ち、両手にすっぽり収まるくらいの大きさの水晶玉を、やはり両手で持って私達のほうに向かって掲げた。
このお爺さんが赤い服着てたらサンタクロースに見えるな~、なんてどうでもいい事を考えながらそれを見ていると、掲げられた水晶玉が光り、そしてそれと同じ光が私の体を包んだ。
「え」
驚きの言葉が口から洩れた後、私はすぐに隣の美少女へ視線を向け、そして目を見開いた。
なんと、私の体を包んでいるのと同じ光が、美少女の体を包んでいる。
え、何それ、どういう事?
美少女のほうも私を見ていて、お互いにお互いを凝視した。
「なんと……このような事があるとは……。今代の聖女は、二人いるとはな」
「「 え 」」
ふいに玉座から聞こえてきた王様の言葉に、私と美少女の声が重なった。
作者の自己満足作品なので、感想欄を閉じる事も考えましたが、もしも書きたい方がいた時の為に開けておきます。
けれど酷評はスルーさせて戴きますので、あらかじめご了承下さいませ。