後編
「羅奈ちゃん、来てくれたんだ!」
「こんにちはー理沙先輩」
「隣の娘は、友達?」
「はいっ」
「初めまして、羅奈の友人の皐月です! いつも羅奈がお世話になりまして」
「あ、いえいえそんなそんなっこちらこそいつもお世話になってます」
辿り着いた教室を覗くとすぐ私に気付いた理沙先輩が駆け寄ってきてくれたから、早速皐月を紹介し三人で軽く話した後席に案内してもらった。
保護者きどってた皐月はこの際スルーしよう、そうしよう。
「ケーキセットふたつね、承りました! ではでは、ごゆっくり」
「どうもー、……うはー、いい人だね~」
「でしょー和むでしょー」
「なんでお前が得意気なんだよ」
「大好きだもん理沙先輩、優しいしまったりでちょっと抜けてるし」
「あーなんか分かる気する」
「でもね、く」
「ん?」
「やっぱいい! 何でもない!」
工藤先輩と話す時はね。ちょっと意地っ張りになって、それもまた可愛いんだよ。
そう続けようとしたけど、止めた。
あの日のことは誰にも言わない、そう決めたから。
「何だよ~気持ち悪いな~」
「ごめんごめん」
「お待たせー」
いぶかしむ皐月を笑って誤魔化してたところにちょうどいいタイミングで入ってきた理沙先輩の声。やった、助かった!
「ありがとうございま……っ!」
そう思い笑顔で見上げた先には、予想どおりの先輩と、その先輩越しに見える近くのお客さんの対応をしてる工藤先輩がいた。
「ん? どした?羅奈ちゃん?」
いきなり視界に入れるのは危険だよ、危険すぎるよあのお方、格好よすぎるよそのお姿。
絶対工藤先輩は出店の手伝いなんかしないって思ってたのに……こんな不意討ち、反則だ。
「アハハッ何でもありません!」
「ん~? ……あ」
不思議そうに周りを見回す理沙先輩はある一点で目が留めた。
お惚けそうに見えてもきっと皐月より勘鋭いんだな先輩。
「羅奈ちゃん、やっぱり」
「は、はい?」
「やっぱり」
「何でしょう先輩」
お願いです、お願いですから私と工藤先輩を交互に見ないで下さい先輩。
……ヤバい、これはヤバいぞ。
「工藤ー」
マジヤバだああああー!
「何だ? 注文も取れねーのか」
「違うっ」
「「………」」
理沙先輩が呼んだら文句吐きながらもちゃんとこっちにやって来た工藤先輩に、私も皐月も思わず硬直。
あの綺麗な顔を前にして何にも気にせず話す理沙先輩は拍手ものだ。
「そうじゃなくって! この娘この間の娘、羅奈ちゃんだよ」
「は?」
「お、お久しぶりです!」
「……あー、あの時の、コイツのせいでパシらされてた後輩か」
「ちょ、その言い方止めてよ!」
「何か間違ったこと言ったか?」
「う゛、間違っては、ない、けど」
久々に聞いた二人の先輩の掛け合い、やっぱり素敵だ。
「ククッ、頼りねー先輩持つと大変だな」
皐月のいる方向からそんな話聞いてないぞオーラが放たれてる気がするので見ないでおいたら工藤先輩がなんと私に向かって話しかけて下さった。
だから、
「いえっ、先輩すごく優しいですから!大好きです!」
夢中でそう答えたら、
「……とんだ間抜けには違いねーけどな」
口ではそんな憎まれ口を叩く工藤先輩の、初めて見るような一瞬の表情を見れたから、私はやっぱり幸せ者に違いない。
「なんだと工藤コノヤロー」
例えそんな表情にした要因が私になくとも、雲の上の存在だった人を身近に感じることのできる幸せ。
それだけで満足だ。満足なんだ。
その想いが届くことを願っています。
あれからずっと、今もずっと。