hal様の素敵なイラストのお話
hal様の素敵なイラスト(http://5892.mitemin.net/i162488/)のイメージで書いております。
蒸気機関が異常発達し、囁かれ、恐れられた“魔法”の存在が当たり前のように馴染んだとある都市、リアーカム市。
これはその都市の一角にある、とある何でも屋の事務所にてよくある日常の一コマである。
詰まるところ、彼にとっては“彼女”は、困った女性だった。
もっとも女性というよりは、元気が良すぎる少女というか犬っぽいというか実際に犬耳が生えているというか……もう少し落ち着いていないとお嫁の貰い手がないんじゃないかと心の中で彼は思っていた。
だがとある事情により藪蛇にしかならないので、彼は沈黙を守っている。
ちなみにそんな彼女は今現在、部屋の掃除をしていた。
机の上に転がして――ではなく必要な資料としてうず高く積まれている新聞などを片付けて整理して、なかなかいい“助手”としての働きをしている。
そこで今度はすぐ側にあるロッカーから箒を取り出して、床の掃き掃除中だ。
手際の良さは驚嘆に値する。
これで料理も美味いし、彼自身の仕事の手伝いはできる程度に荒事に長けているのである。
そこで彼はため息を付いた。
「もう少し、つける弱点がないものかな」
「? なにか言った?」
「ここには来るなっていったんだ」
嘆息するように彼は呟く。
この事務所はとある事情により格安に借りることができている。
そう、しかもこのレンガ造りのビル、まるまる一つが格安でだ。
いわゆる事故物件のような建物の一角だが、ここのビルの有る大通りはあまり治安のよろしい場所ではない。
なので一応は若く、可愛い女性である彼女がここに来るのを彼はあまり快く思っていなかった。
なのでいつもの様にここに来るなというと彼女は怒ったようにほうきを持ったまま近づいてきて、
「こうやって掃除をしてあげているのにそれはないと思う!」
「その点には感謝しているが、お前ももういい年なんだからこんなところにくるんじゃなくて学校のお友達とか……」
「私はここに来たくて来ているの! 分かった? お兄ちゃん」
「だからそのお兄ちゃん呼びはやめろ!」
「んふふ~」
お兄ちゃんと呼んで彼が怒ると、彼女はしてやったりというかのように鼻歌を歌いながら再び掃除を始める。
それに彼はまたからかわれたと舌打ちをしたい気持ちになる。
とある事情で彼女の両親に引き取られ、本当の兄弟のように育ったのだ。
恩人の娘で妹のようなもの。
それだけで彼が大切にしたい理由は十分だと思うし、そのことを彼女は分かっているはずなのだ。
だがそれが分かっていて彼女はここに来て、時に彼を『お兄ちゃん』と昔のようにいってからかう。
「……恩人の娘に手を出せるか」
小さくぼやくように彼は呟く。
しかも彼を兄という時点で手を出していけない気持ちが更に高まるのだと、彼女は分かっているのだろうか?
おそらくは分かっていない。
かと言ってどうやって自分から引き離したほうがいいのか彼は分からない。
そこでドアの呼び鈴が鳴る。
客が来たようだ。
そういえば約束があった気がすると、今更彼は思い出し、ネジを巻いたばかりの壁掛け時計を見て、席を立ち、彼は客を出迎えたのだった。
「おしまい」
設定を作っていたら、設定が多すぎて短編が無理になったのでそちらは没に。
その内、リサイクルしよう……orz。
とりあえずこんな関係の話が作りたかったんだ……。