放射線なめんな(宇宙)
民間の宇宙開発が盛んになってきました。
ロケットの各種技術は結構昔に枯れ果てた技術でもあり、割と簡単に民間でも実現できるものが多くあります。実際に私も学生時代にロ(検閲)
ただ、実用的な宇宙ロケットとなると、民間ではなかなか手が出せなかった部分が、ちょっと前まではあったんですね。いわゆる制御技術。昔のロケットは、ロケットの姿勢制御のために専用の電気回路を設計したりしていました。それこそ、ロケットの姿勢応答関数を電気的に完全に再現するみたいな今考えるとオーパーツ並みの技術が過去には存在したんです。当然、そんな変態技術は民間にはとてももてません。
一方、これを読んでいるほとんどの方が思い浮かべるのが、数値計算による制御。汎用的な計算回路を使い、センサー情報を数値化して制御用関数にかけ、その出力を再び駆動用アナログ信号に変換する、というやり方。現在ではこのやり方があまりに一般的すぎて、上で描いたような変態技術を思い浮かべる人もいないかもしれません。ともかく、この数値制御が一般的に行われています。
で、ナントカXとかそういう民間ロケット屋が、NASAやJAXAでさえ出来ないような芸当を最近やっていることを不思議に思っている人はいないでしょうか。たとえば、ロケットを飛ばしてペイロードをリリースし、ロケットは自動制御でぴたりと狙った位置に着地する、なんてこと。こういうことが民間でも出来るのは、とにかく高性能のコンピュータが一般的になってきたからです。でも、NASAやJAXAはそっちには手を出さない。なんで?
スマホなんて昔のスーパーコンピュータ並みの計算能力がありますから、スマホ一個取り付けるだけで完璧にロケットの姿勢制御なんて出来てしまいます。センサーで逸脱を検知してからでも修正が間に合うくらいに高性能。だから、ぶっちゃけ素人プログラマでもロケットの姿勢制御プログラムぐらい書けてしまうんです。昔はそうは行かなかった。逸脱を検知する前に制御をかけないと間に合わない。そんな高度なプログラムを限られたメモリの中で実現しなければならなかったわけです。
そして、それは今も受け継がれています。なぜかと言うと。
宇宙は放射線が強すぎて高性能のコンピュータはたちまち壊れてしまうから。
スマホくらい高集積なコンピュータだと、ロジック回路を放射線であっさり引きちぎられてしまいます。おそらく宇宙で実用的な寿命で動作できるコンピュータは、二十年位前の性能になってしまうはずです。そんな低性能のコンピュータでアクロバットをやっているNASAと、寿命のことを気にせずに最新計算機で制御プログラムブン回している民間開発事業者。この辺が、公共と民業の差なんですね。民業ロケットはまだ地球の磁気圏を飛び出したことがないしその必要もないのでそれで十分なのだと言うことも出来ます。
さて、某ナントカXの創立者が、火星旅行を実現する、と息巻いているようですが、火星までの数ヶ月間、安全に性能を維持できるコンピュータが作れるかどうか、この辺り、あまり検証されていないように思えます。何しろ当の創設者はシリコンバレーの住民ですから、とにかくコンピュータパワーにものを言わせた開発が得意。だからこそ、宇宙放射線という非数値的な大問題に晒されたとき、それを突破するブレークスルーを生み出す素地があるのかどうか、心配になります。アホみたいにお金持ってるらしいから私ごときの心配は要らぬ世話というものでしょうけれど。
ちなみに、某福島程度の微弱放射線環境でも最新のロボットは結構動作が厳しいみたいです。某福島は微弱とはいえ数が多い、ってのはありますけど、原子炉から出る放射線なんて宇宙放射線に比べたら赤ん坊みたいなもんですよ。民間の月探査コンテストってのもやってますけど、民間で簡単に手に入る程度のロジックじゃあ、月面に着く前に壊れちゃうんじゃないですかねえ。下手すると、運よく致命的な放射線の一撃を受けなかった人が優勝、っていう、単なる『宇宙くじ引き』になるんじゃないかな、なんて思ってます。真っ当に耐放射線設計にすればセンサーや計算パワーがひ弱、計算パワーをとれば宇宙くじ引き。どっちが優勝に近いか、ってだけで(笑)。
で、放射線ってのは、割と基本に近い力。なんか得体のしれない感じもしますけど、基本的には、『物理攻撃』。小さな粒子が持っている運動エネルギーによるぶちかましが放射線による破壊の力そのものですから、遠い未来でも革新的な放射線防護の技術がはたしてできるかどうか。物理攻撃なので、基本は『分厚い盾』で防ぐしかない。荷電粒子なら磁力線を張り巡らせて防ぐ方法もあるかもしれませんが、よほど強力でないとそれも難しい。地球が磁気圏で放射線を防げているのは、それが途方もなくでかく、中を通過する放射線粒子が十分に磁気の影響を受けて進路を変える時間があるからです。宇宙船一つをコンパクトに守れる磁気圏となると、その磁力は途方も無く強力でなければならず、そっちの方がかえって生体や機器に影響を及ぼすことを考えなくちゃならない。ある意味で、『どうやって宇宙放射線を克服したのか』をテーマにしただけでもそれなりのものが書けちゃうかもしれないくらいです。
つまり、放射線なめんな、ってことで。
つづく?




