プライバシーってそんなに大事?
私の未来小説では、割とプライバシーが軽視されています。今現在の常識から考えると、という意味合いで、ですが。
そもそも、プライバシーってそんなに大事かな? と、私はよく思うのです。
いや、知られたくないと思っている秘密や経歴を知られない権利は当然ながら守られるべきです。
そういう高レベルのプライバシーではなくて、もっと低レベルの。
個人を特定可能な何らかの印は絶対に守られなきゃならない、みたいな流れじゃないですか、今現在って。
いいですか、たとえば。
私月立淳水の住所と電話番号は●●です。
私月立淳水は過去にウンコを漏らしたことがあります。
この二つって、同レベルのプライバシーですかね。いや、私はウンコ漏らしてませんけど。ほんとに。
たとえば、何か申し込むのに、住所を知らせることとウンコ漏らし事件のことを知らせることは、まるで違うじゃないですか。
あと、信頼できない業者に住所氏名を教えたくないってのも、じゃあ漏らしたら何が起こるの、って、せいぜい、うっとおしい勧誘の手紙が増える程度のことですよね。どうにも、実害があるように思えない。いや、教えたくないっていう気持ちの侵害をのぞけば。
で、実際のところ心から住所を知られたくないって思っている人って、本当にいるのかな? って。だって、ほんの三十年前には、誰もが電話帳に住所氏名電話番号を載せてる時代だったんですよ。時代が変わった、って言いますけど、じゃあそんなに保護して一体何を守ってるの、ってのがよくわかんなくなってる。単に、「個人情報は保護されるべき」っていう風潮に流されて神経質になってるだけな気がするんです。いや、私の本当の名前も電話番号も住所も、余裕でいろんな名簿に載って流通してますからね。それで特に(勧誘以外は)実害ないですし。
いやさ、Wi-Fi、無線LAN、あるじゃないですか。あれで、最初に周囲の検索のために信号を出すんですけど、その信号に機器固有のIDをつけとかなきゃならないんですけどね、誰が言い出したのかわかんないんですが、「そのIDをつけた信号がどこで発射されたかを記録していけばその人がどんな行動をしているか世界中追跡できちゃうじゃないか」っつって、その固有IDを乱数にするっていうへんてこなことを最近やってるんです。主にリンゴ印のスマートフォンの話なんですけどね。
神経質にもほどがある。
そもそも誰がどの機種を持っていて固有IDがどれなんてひも付けが事実上不可能だし(ケータイキャリアでさえほとんど把握できない状況)、それがどこで発射されたかを記録する観測網を構築するなんてまず不可能だし、当然、Wi-Fiのアクセスポイントにもそんな記録を残せるものなんて存在しないし(そんなんいちいち記録してたら30分でメモリがパンクします)、なんつーか、現実的に考えて、その固有IDを神経質に隠す意味なんて全くないんです。普通の個人にとっては。
困るのは、むしろ警察です。現実的には困難、と書いたのは、無垢の個人を悪意の他人が追跡するケース。逆に、警察が悪人を追跡しようとおもったら、既存のシステムに捜査令状を突きつけていくらでも追跡できます。だから、固有IDを隠さないことは、悪人を追い詰め社会を安全にするためにむしろ有効なんです。
たとえば私のスマホのアクセス記録だの電車の中でのアホ面だのがどこかで勝手に記録されているなんてことになっても、そうすることで社会がより安全になるならそんな低レベルのプライバシーなんて喜んで投げ捨てます。
あともう一つ例を挙げると、ブロックチェーンによる仮想通貨云々ですよね。ビットコインとかです。あれって、中央で集中的にトランザクションを管理するノードがいないことを特長としていますけど、それはそのまま最大の欠点だと言えるんです。いやね、今のプライバシー至上主義の時代では誰もそれを欠点だと指摘しませんけど、誰かが責任を持って行動の主体を特定し監視することが『出来ない』というのは、公共安全に対する最大のリスクだとしか思えないんです。現に、ついこの前、世界中で猛威を振るったサイバー攻撃WannaCryも、ビットコインでの支払いを要請していましたよね。ビットコインであれば、最終的にどこかで監視の網をすり抜けてノーリスクで現金を得ることが出来る可能性があるからです。どーでもいいですが、あれって、多分、ビットコインをたくさん保有してて事件後売り抜けてる人が犯人だと思うよ。ビットコインで払えって言えばみんなビットコインの買い付けに走るから暴騰する→上がりきったところで大もうけ、ってのが目的だと思うんだもん。でも多分特定できないと思います。
それ以外にも、WEBの検索ワードとか書き込みとかも、もういちいちSSL(暗号化)でしょう? そんな見られて困るようなこと書くなって話よ。本当に大切な情報(クレジット情報とかパスワードとか)とそれ以外のどーでもいい情報にきちんと温度差つけて、メリハリをもってプライバシー管理しようよ、って思うわけです。何でもかんでも暗号化して送信元秘匿して……特定されないってそんなに大事ですかね。一般の善良な、後ろ暗いところのない生き方をしていると胸をはれる人にとっちゃ、特定なんてちっとも怖くないと思うんです。いや、ちょっと言い過ぎた、誰しも後ろ暗いことの一つや二つはあるでしょうが、それとこれとは話が別でしょう、と。そもそも暗号化してなくてもネットワーク上のパケットの中身を読み取るなんてまずできませんから。セキュリティの専門家なんてーのは「いいやできる」と言い張るでしょうけど、じゃあ、やってみてくださいよ、と。私が世界のどこかでちょっといかがわしい内容のパケットを送信するから、その内容特定してみてくださいよ。できませんから。私も情報産業の端っこに引っかかってる身分ですけどね、誰かが出した特定の情報をピンポイントで特定・取得するのがどれだけ難しいか、身に染みて知ってますから。むしろ、そういう情報が洩れる最大の場所は、暗号化される前も前、キーボードに乗るか乗らないかくらいの位置なんです。要するに最大の脆弱性は利用者本人。うっかりウイルス踏んだりうっかり悪意の偽物サイトに大切な情報を入力したりうっかり隣人に秘密を漏らしたり。信用できる相手と正しく通信している限りはたとえ暗号化されてなくても99.99999999%漏れませんから。そのくらいネットの海は広すぎて小石を拾う労力に結果が見合わない。逆にプライバシーに神経質になるあまり匿名化プロキシとかIP匿名化ネットワークとか使ってる方が何百倍も危ないですよ。何しろ、得体のしれない誰かが運営してるノードに喜んでデータ投げてるんですから。顔も見えないし公的な監視も入ってない誰かが謳い文句通りに復号できない方式で分散してプライバシーを遵守してると信じられる方がどうかしてます(笑)。「誰も確認できない」んですから、謳い文句を信じる以外に何もできない子羊状態なんですよ。実は(存在しないはずの)集中ノードにこっそりデータが集まってて発起人がすべて解除可能なマスターキーを隠し持ってても分からないでしょ?
という感じで、プライバシー至上主義は、社会安全を犠牲にしながら個人安全を高めると見せつつ結果として個人の安全をより大きな危険にさらしている、と私は考えています。
何はともあれ、防犯カメラを付けられるところは徹底的につけてほしいものです。私のアホ面がどこかで保存されてても別に困らないからさ。
どっちにしろ、このプライバシー至上主義は、必ず揺り戻しが来ると思います。今はちょっとバランスがおかしすぎです。個人と社会がバランスよく守られる世界に徐々に向かうと思うわけで、そういう考えもあって、私の未来小説では個人のプライバシーは今よりちょっとだけ軽視されているのです。
つづく?




