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AIが人類の仕事を奪うとき

 どこかの偉い人が「AIが人類の仕事を奪うことはない」と断言した、そんなニュースを先日見ました。


 実のところ、私もそう思います。


 どうにも、世の中、AIを過大評価している向きがあるように、私には思えるのです。


 確かに、AIが人間ではとても気付かないようなわずかな兆候から災害や事故を予測したり、人間よりもはるかに精密に機械を制御したり、人間よりもずっとバグの少ないプログラムを書くことが出来る時代は来るでしょう。

 でも、それが、人間の仕事を奪うことにはならないと思うんです。


 いやね、コンピューターが市井にも出回り始めたことのことを思い出してみてくださいよ。生まれてさえなかったという人も多いかもしれませんが、とにかく、大きな数をたくさん扱う計算がわずか数秒でできる、そんな触れ込みに対して、それまで電卓と紙で一生懸命決算書を作っていた人たちは一斉に反発したんです。機械にそんな仕事をやらせるなんて、と。要するに、仕事を奪われるのを恐れたからなんですけど。

 でも、結局コンピューターが成し遂げたのは、仕事を奪うことではなく、仕事の質と規模を大きく向上させることでした。それまで1億円の規模の決算書しか扱えなかった人が1兆円規模の会計も出来るようになったのです。決算書を見たことさえなかった人も、それなりのソフトウェアを使うことで会計処理の仕事に寄与することができるようになりました。このおかげで大きな企業はより大きく成長し、あるいは、業態をさまざまに拡げていくことができました。


 もっと前に戻ってみましょう。蒸気機関が発明されたとき、やっぱり似たようなことが起こっていますね。工場で単純労働をしている人だとか荷馬車を牽いている人だとかは、蒸気機関に仕事を奪われる、と思ったことでしょう。

 でも、結果として、工業生産は規模を増しより多くの雇用を生みましたし、鉄道輸送の発展は運転士や車掌、駅員など新たな(そして荷馬車を牽くよりよほど楽な)仕事をたくさん生み出したんです。


 本格的なAIの登場は、『従来の線形的技術革新とは一線を画する質的変化だ』と言われ、だからこそ、AIが人間の仕事を奪う、と言われることもありますが、コンピューターや蒸気機関だって同じです。それまで出来なかったことが出来るようになり、それが出来ることによってより多くのビジネスや雇用を生み出したんです。それがAIで起こらない理由が分かりません。


 要するに、AIが人の仕事を奪うと主張している人たちは、想像力が欠如してるんですね。見たこともない想像も出来ない新しい枠組みが生まれるということがありうる、ということを想像できないだけなんです。かく言う私だって、具体的に何が生まれるのかなんて想像できません、でも、『想像もできない何かが始まるだろう』ということは想像できます。


 ぶっちゃけ、馬が蒸気機関に変わったほどの大革新は、たぶん起こらないと思っています。なぜかと言うと、今でも、特定の用途向けにAIを活用しました、という事例、実はそれ自体はAIに依らず人間がプログラミングしてあたかもAIが判断しているかのように見せかけることは十分に可能だからです。ではなぜそれをしないのか? なぜなら、そんなプログラミングをする手間がめんどくさいからです。めんどくさい(=コストがかかる)から使わなかった(ビジネスの俎上に乗らなかった)仕組みが簡単に使えるようになる(ビジネスとして成立するようになる)。


 簡単に言えば、『ものすごく手間のかかる道具が誰にでも使える道具に変わる』、AIがもたらすのはそういう種類のものです。


 そうすると、これまでは『ものすごく限られた人たちが努力に努力を重ねて何とか実現していたもの』が、割と誰にでも簡単な訓練で利用できるものになる。その分野の仕事に、比較的就きやすくなる。ほら、さっきの会計ソフトの話と似ていますよね。もちろん、当初の『限られた人たち』は反発するでしょうけど、誰もがその仕事を出来るようになることで結果として新たな市場が立ち上がり、その中でも抜きん出た人として頂点の待遇を得ることだって不可能じゃありません。


 荷馬車を牽いていた人たちの中にだって、荷主や卸先とのつながりという資産を活かして、鉄道輸送事業の中の欠かせない一人になった人がいるでしょう。


 結局のところ、道具が変わったのにやり方を変えられずぼけーっとしている人が仕事を奪われる、ってだけなんですね。使う人や適用できるマーケットがどんどん変わる道具に対して、適応していける人とそうでない人で明暗が分かれる。


 トータルとして、『道具とそれを使う働き手』の供給限界まで、ビジネス自体が大きくなっていきます。ぼーっとしていた人も最終的にはそのどこかに引っかかるでしょう。勝ち組負け組が分かれるだけで、人間が一切不要になる、ということは起こらないと思うのです。


 そういうわけで、ちょっと心配な人々は、そろそろ『AIを道具として使う』という発想に頭を切り替え始めるとちょうどいい頃合いなのかな、などと思うのです。


つづく?


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