アシモフになりたい
アイザック・アシモフって知ってますか。
知ってる人半数と見た。
(どんだけ見くびってんだ)
オールドSF御三家の一人と称されるSF書きの憧れの人なんですけどね。
ぶっちゃけ、アシモフだけは別格だと思ってる。
何が別格かって、彼の『科学に対する思い』が別格。
彼の若い頃の作品と晩年の作品をまず読み比べてみれば分かるんです。
若い頃の作品は、アイデアありき。まさにセンスオブワンダー。それに、SFにミステリーを融合するっていう新しいコンセプト。読者も一緒に謎を解くっていうスタイル。
ところが晩年になると、確かにそうした要素は受け継いでいるんですが、それよりも、科学に触れた人の在り方をとても丁寧に描写してるんですね。
未来科学をガジェットとして終わらせない。それ自身が人と手を取り合って前に進んでいく様。とか書いちゃうと彼の作品の結構な部分をネタバレさせちゃってる気もしますが(笑)、人と科学の間の恋愛物語のような。時には科学を憎み時には科学を抱きしめる、誤解もあるけれどいつかそれは解けて、その結果、思いもよらなかった世界へとたどり着く。そんな感じなんです。
そんな彼の人柄をよくあらわしているのが、実はSF作品じゃないんです。多分SF作品の倍以上のタイトルを出版している、彼の文筆人生の後半のほとんどを占めた科学エッセイの方。SF作家として名を挙げてのち、彼は、積極的に科学エッセイを書き、あるいは、いろんな媒体で科学の素晴らしさを説きます。何より、彼は貪欲にあらゆる分野の科学を吸収し、自分なりに解釈しなおして、自らの血肉にしていくばかりか、分野をまたいだ相似性や相関性をもとに驚くべき予測や予想を披露して見せます(それが正解か不正解かは別として)。ここ最近ようやく重要性が叫ばれるようになった『学際領域』の思考法を、彼は五十年も先取りして、ただ一人で実践していたのです。
そうした思考の末に出てくるお話は、それでも、できるだけ平易に、理解しやすい語彙で、たとえ話をうまく織り込みながら、なおかつ魅力を損なわないように形作られています。まるで、自慢の妻を紹介するように。
彼は、科学を愛しているんです。
だから、私はSF作家になりたいのではなくて、アシモフになりたいんです。
ほんとは物語ばかりじゃなくて科学エッセイとかもたくさん書きたかったりします。
まあ、技術コラムのほうは別名義別メディアでちょこちょこやってますけど、もっと広く、科学全般を扱いたいと思ってたりします。私自身、彼と同じような『学際の人』でありたいと思っています。最近の科学はあまりに高度になりすぎて、複数の分野を一人で修めるのはほとんど不可能に近くなっていますが、それでも、表面を撫でる程度でいいから、どんな分野についても『専門性の入り口』に立って、中を眺めるのに十分な素養を身に着けたいと思うのです。私のもともとの専攻は機械工学ですが紆余曲折あって今は通信技術の仕事をしています。でも、工学に閉じた人にはなりたくない。だから例えば、最低限でも量子力学や一般相対性理論で使われている演算子(計算方法)の意味くらいは理解していたいと思いますし、マクロ経済学の前提・原理と推論の仕方くらいは理解したいですし、日本語の短縮された活用の原型と短縮されるに至った経緯くらいは知っておきたいですし、キーノートのどの部分をいじるとブルーノートになるのかくらいは知っておきたい。そんないろんな知識が頭の中で雑然と混ざり合う中に、何らかの相似性や相関性を見つけ、『それを面白がって語る人』になりたいんです。
そんなわけで、私は、アシモフと同じように『月立淳水』という存在を売り込みたいってのが本当の欲求なのかも知れないですね。月立が書いたものを読みたい、って思ってもらえるような。そうして私は、そんな人たちに、科学のいろんな面を紹介して共感してもらう。素晴らしさを知ってもらう。私の妻を紹介するように。
その入り口として、エンターテイメントとしての小説ってものをたまたま書いちゃった、ってだけかも知れないです。
正直、某作をハ○カワに応募したときも、万一受賞って時のその先のビジョンは『小説家』じゃなくて『科学コラムニスト』だった(笑)。
そんなわけで、今このエッセイを読んでる月立信者の皆さんは、もっと私のことを周りに布教すべきです。
(え!?)
つづく?




