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通信技術の話

 SFでは避けて通れない通信技術の話。


 通信技術そのものをテーマにするSFさえありますし、当たり前のように人々の間を結んでいることもあれば、あるいは、広義の通信技術が何らかの理由で使えなくなってしまったことをお話の前提に持ってくるSFもありますね。


 ともかく、現実社会では、通信がものすごく発達してしまっているので、(地続きの)SFを書こうとすると、前提条件として通信がすでにあるってことになっちゃいます。



 通信が途絶した世界とか衰退した世界とかを描くのは、まあなんというか、好きなように書けばいいと思うんですが(投げやり)、通信が高度に発達した世界、ってのを書こうと思う人のために、通信ってのが今いったいどうなっているのかって話をまとめてみようかと思います。ちょっとボカし気味に(意味深)。



 基本を押さえておきましょう。


・媒体と通信路がなきゃダメ

・光より速い通信はダメ

・シャノンの限界を超えちゃダメ


 もちろん、これらの制限を打ち破る技術の登場をテーマにしてもいいんですが、それにしても、なぜこれらの限界があるのかってことをきちんと理解しておくことは重要です。



 媒体と通信路がなきゃダメ。案外忘れちゃうんです。たとえば無線通信ってのは広い意味で『光』を使っているので、真空そのものが媒体になっちゃうから。だからころっと忘れちゃう。有線通信だともっと分かりやすいんですけどね。銅線の中の電子とか軸策の間のイオン移動とか。こういうものの場合は、媒体は目に見えてるし通信路の断絶とかはイメージしやすい。


 実際には無線通信の場合にも媒体と通信路の両方を成立できないという状況が起こります。まず何より、減衰です。電磁波が減衰して検出限界(たとえば環境雑音)を下回るとそこで通信路としてはオシマイ。減衰の原因は距離と遮蔽。真空中でも減衰しますし、『真空じゃないもの』はすべて遮蔽と同じように強い減衰をもたらします。ぶっちゃけ空気だって遮蔽ですし、コンクリートとかガラスとかも遮蔽。宇宙空間での戦闘とかで惑星の裏側の仲間と連絡を取り合うなんてシチュエーションなら、どうやって裏側への通信路を確保しているのかな? なんてところまで裏設定を考えておくと、そこに面白いドラマが滑り込む余地が生まれるかもしれません。


 また、たとえ『精神通信』みたいなものでも、あまりこの原則を崩しすぎるとファンタジー化しちゃうのでご注意。何らかの物理学的な媒体を使った通信を理屈付けるなら、『媒体無し』とか『遮蔽無視』は、たぶんファンタジー側になっちゃいます。



 お次は、光の速さを超えちゃダメ。これはもうあまり説明する必要はありませんね。あえてこれを崩しに行くのがSF屋の腕の見せ所(笑)。


 ただ、光(電磁波)がこの原則を崩しに行くと、ちょっと物理のことを分かってる人が見たときに、おや、と思われるかもしれないですね。光だけは、この世で唯一静止質量がゼロという存在で、それはとりもなおさず『数式上どうしても光速に縛られる』存在という意味でもあるんです。逆に言えば、光以外のものは『光速に縛られていない』、そういうものに光速を突破させるほうが物理オタク的には気分がいいはず。私も、超光速通信(恒星間通信)は『電子クラスターを超光速旅行させて実現する』なんて方式として説明しています。



 最後。シャノンの限界を超えちゃダメ。知ってる人は知ってるシャノンの限界。実はこれ、熱力学のエントロピーとちょっと似た話なんです。厳密にどこかから導かれる法則じゃなくて、たぶんこうだよ、っていう式が、経験的にまだ破られた例がない、っという制限。エントロピー増大則と同じ感じで。だからこそ袋小路しか見えない『真の限界』。


 これは、単一の通信路に対して、そこに流し込めるデータ量には理論的な限界値がありますよ、っていう法則です。限界値はどんなパラメータで決まるのかってのを細かく説明するとめんどくさくなっちゃうのでざっくりと書くと、『通信路の広さ』と『環境雑音』。環境雑音には近隣の他人の通信も含みます。


 環境雑音がゼロになるってことはありませんので、まずこの点で通信速度の限界値は必ず有限になります。あとは、通信路をどれだけ広くできるかと、通信路の数をどれだけたくさん取れるか。ただ、通信路を広くすると通信路の数は減る、大雑把に言ってこんな関係なので、通信路を増やすことは結構難しい状況です。では、技術革新でシャノンの限界に近づけていくしかないのかな?


 ……恐るべきことに、実は、現代の通信技術、ほぼシャノンの限界に到達しています。あとはどれだけ新しく多くの通信路を開拓できるか、っていう研究しか行われていません。小難しい話になりますが、同じ媒体の上に複数の通信路を開くっていう技術は結構古い時代からのトレンドで研究は相当に進んでいて、実のところ、通信技術には新たなブレークスルーは起こりにくい状況になりつつあるんです。


 なんてことを知ってるがために、私の作品中では、通信に関しては割と空気。今みんなが持ってるPC、ケータイ、スマホに毛が生えた程度の通信機しか出てきません。もちろん、靴とかリボンとかに当たり前のように通信機が入ってる、みたいな描写はありますけど、結局それは現代の技術でも問題なく実現できるレベルのものだからそうしてるだけなんです。現代科学がシャノン限界に到達しちゃってる、という事実は、通信技術的には、『宇宙は熱的成長の極限に達してしまい、これ以上時間が流れない宇宙になってしまった』くらいのインパクトなんです。



 こんな感じで、新しい通信技術を考えるときは、どの辺りにブレークスルーがあったのか、みたいなところを意識すると、ちょっとした物理オタクも唸らせるアイデアになるんじゃないかな、なんて思ったりします。ぜひとも考証の一助に。


つづく?

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