量子テレポーテーションの話
たまに超難しい話をしてみたい。
たとえば、『量子テレポーテーション』。
字面が良いのでたまに超光速移動ネタとして使われることがある量子テレポーテーション、割と間違って理解している人が多いので私の理解を書いてみます。
こんな風に覚えている人、いませんか?
『量子もつれ状態にした2粒子、A、Bがあったとき、Aにある操作を加えると、どんな距離にあっても即座にBが対応する状態に変化する』
ちゃんとした科学雑誌でもこんな風に書いてあることがあります。
これは、半分間違い。
正しくは、こうです。
『量子もつれ状態にした2粒子、A、Bがあり、特定の量子状態を持つ粒子Cがあった場合、AをCに変換する操作Xを見つければ、Bも同じ操作Xを用いてCと同じ状態に変換できる』
ぜーんぜんたいしたことじゃないように見えますね。実のところ、たいしたことじゃないんです。
ただ、前提がひとつ付かなきゃならない。量子論において、ある量子系を観測してその量子状態を確定させ、遠くに送ることは不可能とされている、ってこと。
量子状態の一つを観測すると別の値が不確定になる、っていう、アレです。あのおかげで、古典的な方法で量子状態を完璧に遠くに伝えることは不可能になっています。
ところが、上の『量子もつれ』を使うと、違ってきます。粒子Aを粒子Cと一緒に特別な方法で観測することで、AからCに変換する操作Xに相当する観測結果を得ることができ、それを粒子Bに施すことで粒子Bは粒子Cに化けるのです。
このとき、粒子C(の量子状態)は消え、粒子Bが粒子Cとまったく同じ量子状態に変化する(定義上粒子Cと区別できない)ため、あたかも粒子Cがテレポーテーションしたように見える、よって『量子テレポーテーション』と呼ばれるんですね。
ポイントは『操作X』を別の方法で粒子Bのもとに伝えない限り、テレポーテーションは実現しない、ということ。だから、『光速を超えて情報が伝わる』的なことは絶対に実現しません。この辺をあいまいにごまかしてる科学誌は結構多いものです。
もちろん、大元の理論としては、数式上は確かにAの状態変化がBに即座に伝わる、という解がでるじゃないか、というご指摘もあるかもしれません。こればかりは、なぜそうなるのかの理由が分かりませんし、本当にそうなのか確かめる方法がない(Aの状態変化がBに伝わったのか、Bの状態変化がAに伝わったのかが分からない、それを確かめるためにはやっぱり通常の光速以下の通信手段を使わなきゃならない)という意味で、やっぱり本当のテレポーテーションは実現できないのです。
ってことで、光速の壁は案外厚いよ。
超光速、マジメに研究している人も多いですが、ほんと、がんばってね、としか言えないです。
光速が超えられないとスペースオペラと呼ばれるSFの大半は文字通り絵空事になっちゃうからなあ。
つづく?




