展開速度
ストーリーのある物語を時間に沿って書いていく場合には、必ず、場面や状況が変わっていきます。
そういう「物語の中の状況の変化」をここでは「展開」と定義しておいて、小説における展開の速さってのは、どのくらいが理想的なんだろうなあ、ってのを考えて見ます。
まずはケーススタディ。
ケース1。展開遅すぎ。
週刊ストーリー漫画で、主人公が強敵と戦います。一旦は劣勢になった主人公が盛り返して相手を徐々に押し始めたところです。
そして、主人公が決定的な一撃を打ち込むべく、大仰に技名を叫んだ瞬間!
……敵の回想スタート。
幼い頃実の両親と死別して施設に入って戦争に巻き込まれて洗脳されたり大怪我をしたり仲間を失ったり云々……。
そんなのが、十週にわたって繰り広げられて。
その結果として、負の感情を爆発させた強敵が主人公の必殺技を跳ね返した! ……とか言われても、ああ、そうなんですね、って感じです。
むしろ、最初の方の、劣勢だった主人公が不利を跳ね返して必殺の一撃を打ち込む! っていうカタルシスの部分はどこいっちゃったの、って感じです。
正しい実時間の上では数秒前に努力の末大逆転の一手を打ったはずの主人公勢が、突如として「境遇をばねに成長してきた敵にはやっぱりかなわねえ」的な感じになっちゃいます。読者置いてけぼり。
展開遅すぎの例ですね。展開遅いのに読者置いてけぼり。
ケース2。展開速すぎ。
たとえば映画で。主人公と敵が戦ってます。どちらとも対立している第三者がいます。
そして90分映画の75分くらい。
主人公が劣勢、しかし、どうやら主人公側が世界を守ろうとしているらしいと気付いた第三者が、英断を下し、敵側に一撃をぶち込みます。
おおう、ついに第三者に想いが通じたかー、よかったよかった、と思ってたら、ボロボロにやられた敵側は突然赤く光ってパワーアップ、主人公+第三者を圧倒し始めます。
え? え? と思ってたら、さらに、急に主人公がなにやら空から光を集めてぶっといビームを放ちます。
瞬時に蒸発する敵。じゃあな、と去っていく主人公。そしてエンドロールへ。
え? あの赤く光ったパワーアップ何? あのインチキビーム何? なんで最初からあのビーム使わないの? 一切説明無く、視聴者置いてけぼり。
展開速すぎの例ですね。とにかく置いてけぼり。
どちらも私が実際に読んだ・観たことのあるケースを取り上げさせていただいております(笑)。
さて、小説に当てはめてみます。
速すぎの例では、わずか十分くらいの間に、「第三者の改心」「敵のパワーアップ」「主人公のインチキビーム」という三つの状況変化があります。
状況の変化が速すぎて置いてけぼり感を感じるわけです。
もちろん、各々の状況遷移が三分くらいしか持ち時間を持ってないので、三分の中に状況遷移の説明を詰め込むことになります。これが、説明不足を招くわけです。
一つの状況遷移に三分は短すぎ、ってことですね。
一方、遅すぎの場合は、十回にわたってバトルが進展していません。そのため、回想に入る前の状況、「主人公が反撃開始した!」っていうわくわくした心境が、戻ってきたときに失われているんですね。
個人的な感覚で言うと、こういう心境って、週刊であれ月刊であれ、過去一回分くらいしか持続しないと思っています。
ということで結論。
「状況変化には五分以上の時間をかけ、連載二回以上にわたって状況が変化しない展開は避ける」
具体的には。
一分五百文字換算で言えば、五分は2500文字。なので、2500文字以内に状況が二転するのは避けたいところです。
一方、その場を上空から俯瞰的に眺めたときに、全く情景が変化していないという状態が連載二回以上続くことは避けたほうが良さそう、ってことです。
ということで、私としては、連載小説の場合、一話が2000から3000文字で、その中で一回か二回くらいは状況が転換する、という感じがよさそうかなあ、と思います。
もちろん私自身がそれができているかと言うと微妙なんですけど、読む側としては、このくらいのサクサクシットリ感がいいです。話はサクサク、説明はシットリ。
電車一駅間で暇つぶしに読んだとき話が一歩進んでくれればいいかなあ。
いろんな考え方があると思うので、いろんな意見を聞いてみたいですね。
つづく?




