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思想信条主義主張

 人生や社会やモノの価値に対する考え方は、みんなそれぞれだと思います。


 何もかも周囲の人の平均値で自分の意見なんてなーんにもありません! なんて人は、まあまずいないですよね。


 物書きであってもそれは同じだと思います。


 むしろ、そういったものがあまりに強く、自己の膨張が抑えられなくて物書きになっちゃった、みたいな人の方が多いんじゃないでしょうか?


 とりあえず、そういったものを主張する場として小説というメディアを選んだ人、そういう人のことは置いておきます。


 私みたいに、単純に物語を読んでもらいたい、お話で楽しんでもらいたい、そういうモチベーションで小説を書いている人にとって、実のところ、思想や信条は本当に邪魔です。


 普段意識していなくても、やっぱりそういうのって油断するとお話の中ににじみ出てきちゃいます。


 それをいかに見せないか、封殺、完封勝利。難しいです。




 いいんです。


 登場人物が思想信条主義主張を持っていることは。


 問題は、書き手がそれを持っていること。




 たとえば、『ビルの高層化は例外なく悪いものだ、バベルの塔の寓話を引くまでも無く人類の悪習だ』なんていうへんてこな思想を持っていたとします。


 こういう思想を持っていて、たとえば、ごく普通のファンタジーを書こう、として。


 登場人物が、「高い建物は苦手だ」とか、「塔のてっぺんに住んでるやつはたいてい馬鹿者と相場が決まってる」なんてことを口走るのはいいんです。


 むしろ、後述する思想の投影的な意味では理想的なのかもしれません。


 ところが、客観的な事実説明として『塔のてっぺんに住んでいる化け物は頭が悪いものだ』なんて書いちゃうと、なんだか具合が違ってきます。


 それってもろに作者の思想じゃん、ってことになるんです。


 こういう表現を避けようと思っていても、気付かないうちににじみ出ちゃうのがもっとたちが悪い。


 特に説明も無く、作者の中では『人類がようやく高層化の悪習から脱却した世界』なんて無意識の設定ができてたりして、城は平屋、塔でさえ三階建てが最高、なんて世界をついつい書いちゃってるかもしれません。



 高層化=悪なんて思想はあまりにぶっ飛んでいて、いくらなんでもそれはねーよ、みたいな例になっちゃってますが、もうちょっと繊細で賛否両論な主義主張に関しては、気付かずにこれをやっちゃうことが多々ありそうな気がします。



 たとえば、これ書いちゃうとまた嫌な気分をする方も出てくるかと思うので先にごめんなさいしておきますが、『核兵器は必要悪だ』みたいな思想とか。


 相互確証破壊による平和維持は世界管理のベストな方法だ、とか、あるいは、いまさら捨てられない以上、保有国がしっかりと管理して世界平和を守るべきだ、とか、そういう考え方ってあると思うんですね。


 正直、私も、もし人類以外の知的生命が宇宙のどこかで誕生していたとすると、たぶんその住民たちはいずれ核エネルギーにたどり着くだろうと思っていますし、最初に実現するのは制御不要な核爆発だろうと思っています。エネルギーってそんなに種類が多くなくて、大体『力の種類』と関連付けられるんですよ。電磁気力の開放に基づく化学的エネルギーか、重力の解放に基づく位置エネルギーか、核力の解放に基づく核エネルギーか。一応現代の物理学ではこの三つ(強弱核力を区別するなら四つですが)しかエネルギーの由来が無く、エネルギー密度で言えば、核>>>>化学>>>>重力なんです。エネルギー効率を突き詰めると必ず核にたどり着き、その最も効率的な開放である核爆弾には必ずたどり着くと思っています。


 そして、核エネルギーがあまりに強力すぎて、結局、地球と同じように何度かの核爆発の後、抑止力として居座ることになるだろうなあ、と思っています。だって最大エネルギーですもん、たどり着くことは誰にも止められない。だったら、お互いに持ってることが一番安全なんじゃね? ってことなんです。


 SFを書くとき、たぶん、この考え方ってすごく邪魔になると思うんです。


 核兵器っていう究極の破壊手段が用意されていると、どうにも、人類がピンチとかそういう状況で『じゃいっそ相打ち覚悟で核撃っちゃえ』なんて思いかねない。核兵器が無い文明というのを想像できなくなっちゃうんですよね。どうせ必要悪として居座ってんでしょ? 的な。



 さて。


 こういう思想のにじみ出しを抑えるにはどうしましょうか。


 ということで私が積極的に採用している手段は、思想を登場人物の一人に投影してしまうことです。


 できたら主人公じゃない誰かに。


 主人公に投影してしまうと、結局作品テーマが自分の思想に引っ張られてしまいます。


 なので、その他の登場人物に、自分の思想を代弁させる。おおっぴらに、多弁に。


 やつにたっぷり言わせたから、まあいっか、的な、自分の納得感を先に作ってしまう。


 もう完全にディフェンシブなやり方なんですが、自分が長年生きてきて身につけた考え方って変えようもないし、知らずに顔を出しちゃうのは止めようが無いですからね。


 だから、もう誰かに思い切り話させる。


 それでおしまい、と自分の中で線引きする。


 これでなんとか折り合いをつけようというのが私のやり方です。



 上の核兵器の話も、私のメインシリーズ「カノンスペースクロニクル」ではとても重要な問題で、だからこそ、主要な二作品の中では私の代弁者を用意してたっぷり語らせています。


 一応それで上手く納めたつもりですが、上手く納まってなかったらごめんなさい。



 ってことで、にじみ出る思想には注意したいですね、のお話。



 狙って思想を盛り込みたい人には関係無い話でした。


つづく?


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