一人称のつかい方
個人的に好きな一人称の話です。
一人称にも、二通りありそうです。
一つは、主人公の語り口調。主人公自身が文をつづっている体の書き方。
もう一つは、主人公のそばに常にいる誰かが語っている形。
簡単なのは前者。なにせ、主人公は常に物語の中心ですから。
後者は案外難しい。主人公の単独行動を追えないんです。主人公不在の「ぽかーんとした時間帯」で白けかねない。そんなところは上手く飛ばして書けばいいんですけど、そこで語り手が何もしていなかった、ってのもおかしな話で、時間の経過と主人公不在を上手くまとめるのは難しいです。前回も書いた「シャーロック・ホームズ」、あれ、上手くやってますよね。やはりドイルは天才だと思います。
さて、一人称の何がいいのか。
書いていて、主人公に感情移入しやすいですよね。
プロットを作りこんだ段階で主人公の行動原理や考え方がある程度見えていて、オカルティックに言えば「憑依してる」感じになれれば、後は簡単。
プロットに沿って、気持ちや行動、それと起こっていることを自分視点で書いていけばいいんです。
日記みたいなものですね。
実際、昔、一人称視点小説風の日記を五年間ほどつけていました。今読んでも案外面白い。
なので、一人称で書くのはとても楽です。
あと、同じことかもしれませんが、主人公が頭の中で考えていることを地の文できっちりとトレースできるのがいいですね。
主人公を中心として話が進むのであれば、間違いなく一人称がいいです。
その一方、一人称だと困ったことがいくつかあります。
一番は、主人公がいない場所で起こっていることをトレースできないこと。
あとから別の人に「実はこんな会話がさっきあって」という形で教えてもらう、みたいな回りくどいやり方をしなくちゃならなくなる。
主人公の知らないところで(事件や行動の)下準備が整っているようなとき、いざ事件や行動が起こったときにちょっと置いてけぼりな感じになりかねません。プロットの全容を知っていれば分かるんだけど、一人称で文にしてみると分からない、見たいな事が、作者自身も知らないところで起こってしまうことがありそうです。
私は一部、どうしてもという場合、盗聴とかそんな手段を強引に使っていたりします。
あと逆に、知らないふりが難しい。主人公自身は分かっているのに分かってない風にしなくちゃならない、あるいは、分からないはずなのに書かれてしまうようなこと。
たとえば、とても重要な謎を主人公は解いた。だけどこれは物語のクライマックスでカタルシスの引き金にしたいと思っている。一人称で真面目にやると、謎を解く思考過程をトレースしなくちゃならなくて、要するにネタバレしちゃいます。
まあこんなときは、「そうか、そうだったのか……!」みたいな地の文を書いてさらっと流すわけですが、しょっちゅうやると不自然になるし、難しいところ。
それから「ある台詞を主人公としては上手く聞き取れなかった」が難しい。良くある、ヒロインが「す……好きです!」「え? なんだって?」←お前聞こえてんじゃん。こういうアレ。
聞こえなかったんなら書いちゃダメ。でも書かなかったら読者にも本当に何を言ったのか分からない。このジレンマ。まあ、主人公が超絶鈍感設定であからさまに態度の描写で分かるんだけど主人公本人だけは理解できてない、みたいな書き方ならできるんでしょうけど、これはこれでいらいらしそうです。
でも一人称は楽でいいです。
某作がさくさくと六十万字もかけたのも一人称だからでしょうね。
できるだけ、三人称で書ける訓練をしようと意図的に三人称を選んだりしていますけど。
ってことで次回は三人称。かな?
つづく?




