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真理と万物のパラダイム  作者: 奥野 丁路
第二章【歪んだ日常】
14/61

03

 葦原中津国における唯一の大学――――葦原中津国中央大学。


 名前の通り、葦原中津国のちょうど中心に位置している。

 広大な敷地の中心に円形の研究棟、その周囲に三棟の教育棟が建てられている。

 それら以外にも食堂や売店が営業しており、ここで活動する人間の数は少なくない。


「――って聞いてたんですけど、あんまり人の姿は見えないですね」


 高峰に連れられ、天野が灰色の石畳を歩いている。周囲を見渡しても殆ど人の姿は無い。

 何人かが連絡用と思われる大掲示板を眺めているが、それも数えるほどだ。


「まあ、講義が始まるのは来週からだしねー。研究棟以外はこんなもんだよ」

「へー、研究棟は違うんですね。でも、休みなのに何を研究してるんです?」


 ここに来るまでに天野の敬語で一悶着あったのだが、いきなり変えるのは難しいという事で、渋々ながら高峰も了承していた。

 ただ、言葉自体は敬語だが、その口調は今までより親しみが込められている。


「何って、マナ・テクノロジーに決まってるじゃない。世界でもここでしか研究してないんだよ?」


 ――マナ・テクノロジー。それは、蛹型(クリサリス)が残した【羽根】の解析から始まった。


 調査として行われた様々なアプローチに対し、【羽根】は規則的ながらも科学では説明できない不可解な反応を示した。その不可解な反応を体系立ててマニュアル化し、理論として構築したものをマナ理論と呼び、それを利用した技術をマナ・テクノロジーと呼んだ。


 通常兵器はカミに対して無意味だったが、マナ・テクノロジーを活用する事でカミに対抗する力を与えられていた。


 葦原中津国に現れ討伐された獣型ビーストの残骸はこの大学に運び込まれ、新たなテクノロジーの礎となる。その最終目的は、近いうちに襲来が予想される蛹型を今度こそ討ち滅ぼす事にあった。


 『毒を以て毒を制す』という言葉があるが、それはマナ・テクノロジーの実態を見事に言い表していた。


「ここだけの話……私達が持つカードも、マナ・テクノロジーも、本質的には同じなの。どっちも、根本の部分はファウダーが構成してるからね」


 中津国機動隊は出所不明のファウダーをその身に宿し、マナ・テクノロジーはファウダーの正体を解き明かそうとしている。その結果、両者の利害は一致し、協力しあう関係にあった。


「カードを使いこなす第一歩は、まずは自分の能力をきちんと把握する所から始まるの。ここなら専用の設備もあるから、きっと詳しい事がわかるよ」

「なるほど、さっきの電話はその連絡だったんですね」

「そうだよー。和哉くんの事は前もって伝えてたからね。でも、まだ時間あるから先にお昼にしようよ。あ、そうだ、何か食べたい物ある? 私のおすすめは――――」


 昨日はろくにカードを展開できなかったが、今日は上手くいくだろうか?

 内なるカードに意識を伸ばしてみると、昨日よりはっきりと感じ取れる。これはファウダーが回復したという事なのだろうか。


 不安と期待を胸に、天野は高峰の学食談義に耳を傾けていた。





 食事を終えた二人は、研究棟で手続きを行っていた。


「事前に持ち込み申請をされたものはありますか?」

「いえ、ありません」

「では、市民証以外は持ち込み禁止となっていますので、こちらでお預かり致します」

「わかりました――――ほらほら、和哉くんも早く荷物預けちゃって。市民証はこのパスケースに入れて首から下げること。じゃないと、不審者として警備員さんに止められちゃうからね」

「は、はい……じゃあ、お願いします」


 カバンごと受付に手渡し、所持品は首から下げた市民証だけとなった。メモ一枚、ペン一本すら持ち込み禁止とは、かなり徹底したセキュリティだ。


「……? あれ、でも他の人達は荷物持ったまま入ってるような」


 周囲を見渡すと、学生や教師、それに研究者らしき姿がちらほらと目に入るが、自由に荷物を持ち込んでいるように見える。


「うん、上の階に行くならそのまま通ってオッケーなんだけど……私達が向かうのは下の階だから」


 そう言うと高峰は受付の隣の通路を指差した。

 『関係者以外立ち入り禁止』と掲げられ、警備員が目を光らせている。


「それじゃあ、行こっか。ちょっと雰囲気が重いけど、怖がらなくて大丈夫だからね」


 通路には一定間隔ごとに警備員が仁王立ちしている。壁を背にしているので通行の邪魔になる訳ではないが、その威圧感はどう見ても普通の警備員のそれではなかった。


「あの……凄く視線が突き刺さるんですけど……」

「あははー。そりゃまあ、普通は学生が立ち入っていい場所じゃないからねー」


 二人はカード保持者という事で特別に許可されているのだが、警備員はそこまで知らされていない。不審者を見る目で見られるのも仕方ないというものだ。


 慣れっこになっている高峰は笑い飛ばし、通路の奥にあるエレベーターに乗り込んだ。


「あ、そうそう。地下は走っちゃ駄目だからね。それと、警備員に何か言われたら素直に従う事。あやしい動きだと思われたら、下手すると撃たれちゃうから」

「はい、わかり――――え、撃たれ? 撃たれるって何ですか!?」


 不穏な言葉に慌てる天野だったが、高峰は面白がるようにクスクスと笑っている。

 そうこうする内に、二人を乗せたエレベーターは地下に到着した。移動時間から考えて、地下四、五階といったところだろうか。


「う、わ……」


 開いた扉の先の光景に天野は言葉を失う。

 白い壁と漂う薬品の匂いはまるで病院の様だが、ここが通常の施設で無い事は警備員の姿を一目見れば嫌でもわかった。


 屈強な肉体の警備員は、防弾チョッキやプロテクターを身に付け、手には小銃を構え、完全武装で目を光らせている。

 日本国内で警備員が堂々と銃で武装しているのだ。通常の施設では無いどころか、治外法権の可能性すらあった。


「言ったでしょ? 世界で唯一マナ・テクノロジーを研究してるって。カミの襲撃に備えたり、産業スパイに目を光らせたり……まあ、色々と大変なんだと思うよ」


 初めて見た本物の銃に天野は腰が引けていたが、高峰は気にする素振りもなく先に進む。

 その余裕のある態度から察するに、既に何度となく足を運んでいるのだろう。


 警備員の視線の厳しさも、地上の比では無い。冗談でもおかしな真似をすれば、迷わず引き金を引く姿が容易にイメージできた。


「おや、高峰さんではないですか。少し早いですが、何か別の用事でも?」


 背後から声をかけられ、高峰がびくりと身をすくめた。


「ビ、ビショップ博士!? い、いえ、一応早めに来ておこうかと思っただけで……!」


 先程までの余裕のある姿から一転し、あわあわと高峰がうろたえている。


「なるほど、それではこちらの彼が新しく見つかったカード保持者という訳ですね」


 流暢な日本語を話す、老齢の白人男性。


「え、あ、はい……天野 和哉といいます」


 高峰の態度から、この老人が面会の相手だと推測し、自己紹介をする。


「私はライアン・ビショップです。ここでDoctor of――失礼、日本語では博士ですね。ここで博士としてマナ・テクノロジーを研究しています」


 撫でつけた白髪。白いシャツにベストを重ね、その上から白衣を羽織っている。

 青い瞳の老人は、まさに英国紳士といった佇まいだった。


 周囲の警備員も心なしか目を伏せ、ビショップに敬意を表しているように見える。


「今日は高峰さんから君の能力を解析するよう頼まれています。君が良ければ早速実験に取り掛かりたいのですが、構いませんか?」

「は、はい! よろしくお願いします!」


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