09
「……すいません、取り乱してしまって……でも、もう大丈夫ですから」
きっかり三十分後に二人は戻ってきた。少しバツの悪い表情で天野が頭を下げる。
「いえ、落ち着いたみたいで何よりです。さて、質問に答える前にこちらから幾つか説明した方が良いかと思うのですが、どうしますか? もちろん、説明の後に足りない部分を聞いてもらって構いませんし」
「……それは――――はい、お願いします」
素直に頷く天野に、望月はサングラスを外して黄金色の相貌を露わにした。
「恐らく……昨夜の光景は、普通なら到底信じられないものばかりだったでしょう。でも、君は昨夜の出来事が夢でも幻でも無いと確信している……その理由は、君にも何らかの力が宿ったからではないですか?」
少しためらった後、天野は小さく頷いた。
「出来れば、君に宿った力を見せてもらいたいのですが……カードは出せそうですか?」
「どうでしょう……取り敢えず、やってみます……」
目を瞑り、神経を集中させ、心の奥底に確かに感じるカードへと手を伸ばした。
「――赤のエース……展開……!」
手の平に赤い光が集まり、一枚の真紅のカードへと変化する。
「高峰さん、鏡持ってますよね。ちょっと見せてあげて下さい」
高峰の持つ手鏡に映る、燃えるような真紅の双眸。
「赤、青、黄、緑……カードを展開すると、瞳がそのカードに応じた色に変化するの。だから必要も無く展開しない方が良いよ。目立っちゃうからね」
天野は自分の真紅に染まった双眸が信じられず、しばし呆然と鏡を見つめている。
「それで、天野君……その先へも、展開できそうですか?」
そう、この状態は、いわば卵のようなもの。カードの真価はここからなのだ。
天野も望月の言わんとしている事を理解し、カードが内包するその真の姿を具現させる。
天野の意識と連動し、真紅のカードが音も無く砕け散る。そして、砕けたカードの中心から黒鞘の日本刀が姿を現わした。
【斬る】事のみを何処までも追求した、僅かな無駄も無い意匠。そこに、ある種の美しさを感じ、思わず望月と高峰は感嘆の声を漏らしていた。
だが――――
「う、ぐ……っ!」
天野が呻き声を上げ、刀は赤い粒子となって霧散してしまった。
「あ、天野くん、大丈夫!?」
「すい、ません……なんか、集中できなくて……」
天野の顔色が悪い。苦痛ではないようだが、重度の疲労に見える。
真紅だった双眸も黒へと戻ってしまっている。
「ファウダーが枯渇してしまったようですね。大丈夫、その疲労は一時的なものです」
「ファウダー……?」
聞き覚えの無い単語だ。問われた望月はこくりと頷いた。
「ファウダーとはこの力を行使する為のエネルギーです。体力や精神力とはまた違う……この力を行使する為だけの、『専用の燃料』といった所でしょうか」
心身が疲弊していてもファウダーはその限りでは無いし、逆もまた然り。肉体やテンションに問題が無くても、力を行使できない事は十分にあり得る。
「自分のファウダーの状況は、慣れればわかるようになりますよ。まあ、僕達も慣れるまでは大変でしたからね」
「……そう言えば、望月さんはずっと力を行使しているんですか? カラーコンタクトで隠してたって事は、そういう事ですよね」
飲み込みの良さがわかる質問に、望月が感心するように目を細めた。
「その通りです。僕のカードは黄の八……能力は真理の観測といって、周囲のファウダーを観測する事が出来ます」
怪訝な表情の天野に、もう少し詳しく説明する。
「簡単に言えば、カミやカードの展開を察知するレーダーといった所でしょうか。昨夜、僕達があの店に駆け付けたのも、大きなファウダーの放出を確認したからなんですよ」
カードは所有者が展開する際に多量のファウダーを放出するのだという。白衣の男がカードを展開した事で、彼らは戦闘を察知する事が出来たらしい。
それに関しては感謝している。だが、今の話でそれ以上に気になった点がある。
天野の表情の変化を読み取り、望月は聞きたいであろう情報を開示する。
「そう……カミもまた、ファウダーを放出しています。いや、放出などという生易しいものではないですね……カミとはファウダーそのものなんです。ファウダーが凝縮し、意志を持つかの如く形をなした存在……それを僕達はカミと呼んでいるんです」
現実離れした存在であるカミ。現実離れした力を持つカード。この二つは、根本の部分で同じモノなのだという。
驚きに目を見開く天野に、望月は話を続ける。
「僕の真理の観測は、約半径十五キロの円形として展開されます。この有効範囲なら、僕が中心部に居れば、ほぼ中津国全域をカバーする事が出来ます。幸い、僕の能力は地味なおかげか燃費がかなり良いので……起きている間はほぼ展開し続け、カミが現れないか監視している、という訳ですよ」
望月に出来るのはカミの出現を察知する所までだ。
実際に制圧にあたるのは、別のカード保持者という事になる。
「最初の自己紹介の時、僕達は中津国機動隊に属している、と言いましたよね。中津国機動隊とは、つまりはカードの力を行使してカミを討つ組織なんです」
「でも……確か、カミへの対処は自衛隊がやってるって聞いたような……?」
「ええ、もちろんこのカードの力は表には出せませんから。メインは陸上自衛隊の皆さんで、僕達は状況に応じて投入される……一種の予備役とでも言いましょうか……」
カードの能力は何らかの分野に特化しているものが大半のため、適切な状況下で投入すれば、部隊の被害を大幅に軽減する事が出来るのだ。
その一例として、高峰が自身のカードを展開する。
「私のカードは青の女王、能力は転移の門……まあ、内容は実際に見てもらうのが早いかな……展開」
瑠璃色の双眸。高峰が手をかざすと、薄く平らな水鏡が現れた。宙に浮いたそれは高峰の意志に従い、自在に動かす事が出来る。
「で、ここにペンがあります。これを――――」
取りだしたペンを離すと、ポチャンと音を立てて薄い水鏡に飲み込まれてしまった。
突き抜けて下に落ちる筈のペンは見当たらず、水鏡には波紋が広がっている。
戸惑う天野だったが、僅かな間を置いて、すぐ目の前に消えたペンが落ちてきた。驚いて上を見ると、水鏡がもう一つ浮遊している。
「『空間を繋ぐ』って言えば良いのかな……二つの水鏡はそれぞれ繋がってるの。どっちも自由に動かせるし、射程距離もかなりあるから、あまり動かないタイプのカミには重宝するんだよ」
確かに、ペンで実演したから無害だが、もしもこれが銃弾だったなら、予想もつかない方向から頭を撃ち抜かれる事になる。一見地味に思えるが、恐ろしく戦闘向きの能力だ。
「ただ、このカードの出所や正体は、僕達にもわからないんです……ある時気付いたら、何時の間にか宿ってたので。そういう意味では、天野君のケースはとても興味深い。守屋さんに話を聞ければ、きっと色々な事がわかったんでしょうけど……」
知らぬ内に宿っていた望月や高峰と違い、天野は守屋から『与えられた』のだ。これはつまり、守屋はこのカードの真実を知っていたのではないか?
「中津国機動隊がカミを相手にする組織だって事は、今の説明でわかってもらえましたよね。僕達がカードの力を使うのはカミと対峙する時だけです。――ただし、最近になって一つだけ例外が出来ました。」
望月の目が鋭くなり、心なしか表情も険しくなる。
「それが、守屋さんと君を襲った相手。君が戦い、命を落としかけた『白衣の男』です」
同時に幾つもの能力を展開していた、あの白衣の男。
枯れ木のように痩せた長身。顔を覆う灰色の髪。
あの得体の知れなさ。一度でも相対したなら、決して忘れられないだろう。
「……天野君。単刀直入に聞きますが、中津国機動隊に所属する気はありませんか?」
「え!? 俺が、ですか?」
突拍子の無い申し出に、天野は驚き目を丸くしている。だが、望月は至って真剣だ。
「現在、中津国機動隊の隊員は一四名ですが……半年前は二四名だったんです」
「その減った十人って……やっぱり、カミと戦って……?」
「――――違います」
望月は強い口調で断言した。カミとの戦闘で矢面に立つのは陸自の面々の為、中津国機動隊から被害が出た事はない。
「殉職した十人を手にかけたのは……あの『白衣の男』です。僕の真理の観測は能力の発動を探知できます。ですが、戦闘を探知し、応援に駆け付けた時には……いつも手遅れでした。だから、奴と戦って生き残ったのは、君が初めてなんです」
「私達も、警戒して極力単独で行動しないようにしていたんだけど……何かの拍子で一人になってしまったタイミングを奴は絶対に見逃さなかった……逃げ足の速さから、転移型の能力だと思ってたのに……まさか複数のカードを使いこなす能力だったなんて……」
何故に中津国機動隊を相手に通り魔のような真似をしていたのか。その謎がようやく解けた。
白衣の男の目的は、カードを奪い、その能力を自らのものとする事だったのだ。
「昨夜の一件は、君に能力を見られてしまい、口封じの為に殺そうとしたのでしょう。君がただの一般人だったので、奴も油断していたのでしょうが……次は違います。僕達も全力で奴を見付け、殺された仲間の仇を取るつもりですが、その前に君が襲われないとも限りません」
次に白衣の男が姿を見せた時は、最初から全力で殺しにかかる筈だ。まともにカードを使いこなせない天野の現状では、ろくな抵抗も出来ずに惨殺されてしまうだろう。
「奴に奪われた負傷を癒せるカードの能力から計算して……早くても一月はまともに動けない筈です。その間に君もカードの使い方を修得しておかないと」
相手が動けない内に自衛出来るようにならなければいけない。
「勿論、学業を優先してもらって構いませんし、しばらくは放課後にでもカードを使いこなす訓練を受けてもらうだけです。刀の形状の君の能力なら、カミと実際に戦う事も無いでしょう。カミとの接近戦なんて危険すぎますから」
「今の所、高校生の隊員はいないんだけど、私たちだって数年しか違わないし……ほら、ちょっとした部活だと思って、やってみない? 私達も先輩として、色々教えてあげられると思うんだけど……せめて、『白衣の男』の件が片付くまでは、ね?」
白衣の男の死体は無かったらしい。恐らく生きていると考えるべきだろう。残された血痕から、かなりの深手を負っていると考えられ、傷が癒えるまでは大人しくしている筈だ。
だから、白衣の男が動けない間にカードの使い方を身に付ける必要がある。
それは理解できる。重傷を負わせ、恨まれているであろう自分が狙われるのは必然だ。
だが、カミと戦う組織という点に躊躇いを覚えてしまう――――
「……確かに、少し考える時間は必要かもしれませんね」
天野の浮かない表情を見て取り、望月が時間を置く事を提案した。
安全に配慮すると言っても、危険な事には変わりない。急にこんな話を持ちかけられて、すぐに答えを出せというのも無理な話だろう。
「経過を診るために、明日もう一度顔を見せるよう医師が言っていました。答えはその時に頂きましょう。今日の所は寮に戻り、ゆっくり休んでください」
すいません、と天野は頭を下げるが、君が謝る事じゃないですよ、と望月は苦笑する。
「来ていた服はかなりボロボロになってましたからね……似たものを用意しておきました。――代金? はは、構いませんよ。君が提供してくれた情報に見合う額でもないですし」
病院代も先に立て替えてくれたらしい。情報提供の謝礼代わりなのだろう。
「それじゃあ、寮まで私がついて行ってあげるね。大丈夫、タクシーだからすぐに着くよ」
「え、いや、別に一人で帰りま――――」
「そうですね、それが良い。怪我は治したとはいえ、病み上がりですから。途中で具合が悪くならないとも限りませんし」
「え、ちょ、そんな――――」
「はい、それじゃあ着替えて寮に帰ろうか! ほら、早く早く! あ、もしかして手伝って欲しいとか?」
「い、いいですよ! 一人で着替えますから、ちょっと外で待ってて下さい!」
悪戯っぽく笑いながら入院着の裾を引っぱられ、天野が赤くなっていた。
「――お待たせしました」
「うん。足元もしっかりしてるし、大丈夫そうだね」
天野が着替えを終えて病室から出てきたが、廊下には高峰の姿しか無い。
「あれ、望月さんは……?」
「ああ、要くんなら――――あ、来た来た」
廊下の向こうから歩いてくる望月の手には、天野のカバンが提げられている
「カバンの中身は財布と封筒に入った本、ですよね? 後、現場に君の携帯が落ちていたので回収しておきました。もう持って帰って良いそうなので、一緒にどうぞ」
思い返すと、確か店に入った所でカバンは落としてしまったのだ。だが、そのおかげで戦闘に巻き込まれなかったので、服と違って破損せずに済んだ。
助けを呼ぼうとして落とした携帯も回収してくれたらしい。カバンの中を覗くと一緒に入っているのが見えた。
「それじゃあ、高峰さん。天野君をちゃんと寮まで送り届けてくださいね」
「オッケー、任せといて!」
「別に一人で……いや、もうどっちでも良いや」
えへんと胸を張る高峰の姿を見ていると、これ以上断るのも悪い気がしてくる。
それに、まだ引っ越してきたばかりでろくに知り合いもいないのだ。親身に接してくれるのは素直に嬉しかった。
――――親身に。
不意に、高峰について行こうとしていた足が止まった。
いきなり立ち止まった天野に、高峰は何か忘れ物でもあるのかと尋ねる。
「オーナーは……オーナーに、お別れを言う事は出来ますか……?」
高峰は言葉を詰まらせ、助けを求めて望月に視線を送る。
「残念ですが……守屋さんは、白衣の男の情報を探る為の『検査』中です……なので、お別れをするのは葬儀まで待って頂いた方が……」
直接的な表現は避けたが、言わんとしている事は伝わった。恐らく、検死解剖というやつだろう。二人の表情から、とても対面できる状態で無い事は理解できた。
白衣の男への怒り。オーナーの死への悲しみ。大きすぎる二つの感情がせめぎ合い、意識は混濁して立っている事すらできず、視界は滲む涙で歪んでいる。
「辛いなら、泣いて良いんだよ……たくさん泣いて、それからまた前を向こう……?」
膝をつき肩を震わす天野の頭に手を回し、高峰がそっと胸に抱き寄せた。涙は止まらないが、さっきベッドで泣き崩れたのとは明らかに違う。
固く握られた拳は小刻みに震えている。悲しみは消えないが、既に天野の意識の天秤は怒りに傾いているのだろう。
サングラスの向こう、望月は感情の無い瞳でそれを見ていた。
天野が落ち着くまで数分の時間を要したが、それからは特に何事も無く退院の手続きが進んだ。望月とは入り口で別れ、高峰は天野に付き添いタクシーに乗り込む。
「第二高校学生寮までお願いします」
運転手に行先を告げてから重大な事実に気付き、天野があっと声を上げた。
「が、学校! もう昼過ぎなのに、何の連絡もして無い! ど、どうしよう……」
新学期早々無断欠席。今から行っても五限目の途中だ。ハッキリ言ってとても気まずい。
頭を抱える天野だったが、高峰が助手席から振り向き、助け船を出す。
「あ、それなら大丈夫。学校にはこっちから連絡してあるから、今日と明日は欠席しても大丈夫だよ」
隣に運転手がいる手前あまり詳しくは話さないが、天野は事件に巻き込まれた参考人として扱われているらしい。
考えてみれば、カードに関する内容は表に出せないとしても、店主である守屋が殺されたのは事実だ。その現場に居合わせた天野が重要参考人として扱われるのは自然な流れだろう。
「すいません、タクシー代まで出してもらって……」
「まあまあ、そう気にしない! どうせ経費なんだし、そもそも中津国のタクシーは安いからね」
もしもの時の避難は、全て公共交通機関で行われる計画になっている。それを妨げかねない自家用車は、葦原中津国には望ましくない。
その為、自家用車には特別税をかけて高額に、バスやタクシーなどには税による補助が行われ、安い値段で利用できるようになっている。
外の都市で学生がタクシーを使うのはちょっとした贅沢だが、ここではその限りでは無かった。
「あ、カバン持って上げようか? 結構重そうだし」
「い、いいですよ、そこまでしてもらわなくても……」
「またまたー。病み上がりなんだから、遠慮しなくて良いのに」
寮までの道を歩きながら、高峰が細々と世話を焼こうとするが、天野は何となく居心地が悪くて断っていた。
どうにも、高峰の考えている距離感と自分の考えている距離感にはズレがあるように思える。馴れ馴れしいとまでは言わないが、妙に高峰の距離感が近いのだ。
「ふーん、ここが第二寮かぁ。見た感じ、第三寮と同じ造りなんだねー」
「第三寮って事は……高峰さんは第三高校に通ってたんですか?」
「そうだよー。第三高校は私服だし、校則も緩いからね」
自分の高校生活を懐かしみながら、高峰が寮を見上げている。
「俺は制服の方が楽で良いと思ったんですけど、やっぱり女の人は違うんですね」
「え? あー、違う違う。私の場合は……ほら、地毛が目立つからさ……」
色素の薄い高峰の髪は、日に当たると更に明るく見える。それは見惚れんばかりの美しさだが、学校という場所においては悪目立ちしてしまうだろう。
「やっぱり、色々言われちゃうしね……だからって黒く染めるのも、何か悔しいじゃない?」
自分に非が無いのに髪を染めるように強制される。それは確かに屈辱だろう。
それなら、最初から地毛で問題ない学校に通う方が理に適っている。
「施設にいた頃は、みんな当たり前に受け入れてくれたけど……ま、外に出るとそう上手くはいかないよね」
アハハと笑ってはいるが、心なしか元気が無いように聞こえる。
そして、どうやら高峰は施設で育ったらしい。この場合の施設とは、『養護施設』を指していると考えてほぼ間違いないだろう。
先程から感じていた距離感の近さは、集団生活で育ったのが理由だろうか。考えてみれば、高峰の世話の焼きたがり方は、母親や姉といった年長の家族のそれに近い気がする。
年下の人間に手を差し伸べるのは、高峰にとっては当たり前の行動なのだろう。
「そう言えば、随分大事そうにカバンを持ってるけど……何が入ってるの?」
「え、えーと……そうですね……ちょっとした写真集と言うか、何と言うか……」
正直にカミの写真集と言ってしまえば、またカミ隠し症候群扱いされかねない。しかも、高峰はカミに対処する中津国機動隊所属だ。聞けば良い気はしないだろう。
だが、そんな天野の考えは、違う意味として高峰に伝わったらしい。
赤くなった顔を、照れたように、恥ずかしそうに、慌てて逸らした。
「う、うん、そうだよね! 男の子だしね! そういうのに興味あるよね!」
――――ん? この反応は、恥じらい? でも、どうして?
「――ッ! ち、違っ! そういうのじゃないですから! これは、違いますからね!?」
健全な少年が言葉を濁しながら後生大事に抱える『写真集』。誤解される要素が多過ぎた。
誤解に気付き、慌てて否定するが、その仕草が更に誤解を補強する事になる。
「え、えーと……ほら、若いんだし、ちゃんと発散しないと、ね? うん、男の子なんだから、仕方ないよね! 大丈夫、お姉さん、そういうのに理解あるから!」
「じゃあ何で目ぇ逸らしてるんですか! と言うか、違いますから! ホントに!」
必死で弁解する天野だったが、結局、部屋に辿り着くまで高峰の頬は赤く染まったままだった。