弍ーにー
鉄格子の扉を開くとそこには、素晴らしく、美しいキジがいた。
男の子は、初めてキジを見た。そして、殺した。
あっさりと死んでしまって、それはとても儚くて、だからこそ大切で。
儚いからこそ大切で、だからこそ、殺す。
「さぁ、尊き命が失われたぞ、今、この瞬間に。さぁ、さぁ」
気持ちの悪い、吐き気がする微笑みを、いつものように浮かべる大人たち。
「涙こそ救いである。さぁ、早く、泣くんだ!」
「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああ」
どこかの誰かが、泣き叫んだ。それは、それは――――――、
それは、さめざめと。欷歔します。
それは、わんわんと。慟哭します。
それは、絶叫して。嗁呼します。
「素晴らしい!」
大人たちは、歓喜した。
「君たちは、立派な人間だよ。これで、戦争が再び起こることはない。毎日、泣け。泣くんだ。涙は人の力だ。動物は泣くための要素だ。殺害は泣くための条件だ!」
「おい、君、君だけだよ、まだ泣いていないのは。どうした?」
隠しているつもりのようだが、イライラしていることが滲み出ている声音だった。自分に話しかけられていることを理解して男の子はたじろいだ。
「あ…えっと、昨日泣きすぎちゃって、…出ないみたいです」
男は不審げに男の子を見据えた。
「…まぁ、お前はいつも真面目に泣いていることだし、仕方ない…か、まったく、キジなんて大層なもん殺しておきながら…まったく」
「…すみません」
「さっさと行け!」
男の子はこの場から逃げるように走り出した。さながら現実逃避をするように。
泣きそうになった。でも、師匠の言葉を思い出した。
泣けなかった。泣かなかった。
自分は人間失格の札を貼られたような気がした。師匠も昔は、こんな気分を味わったのだろうか。
泣けない者はこの国では忌み嫌われる。泣かない師匠はこの国で忌み嫌われている。
その師匠と暮らしている僕も、きっと嫌われている。
僕は、僕は明日もここを訪れるだろう。
この先、ずっと訪れるのかもしれない。
だって、僕は、きっと、耐えられない。
僕は師匠のように強くはなれない。なれないよ。
人にどう思われようが関係ない、そんな強い言葉を発する師匠は、やっぱり僕の師匠だ。
男の子は、暗い気持ちで、明日からの生活を考えた。
―――――どうしたら、いいのだろう。