壱
ある一人の男の子は、死んだ家族を思って泣きました。
それは、さめざめと。欷歔します。
それは、わんわんと。慟哭します。
それは、絶叫して。嗁呼します。
ある一人の男の子は、世界を思って咽び泣きました。
それは、さめざめと。欷歔します。
それは、わんわんと。慟哭します。
それは、絶叫して。嗁呼します。
ある一人の男の子は、おろかしい人間を思ってとめどなく流れ出す涕を自然にささげました。
それは、ささげ続けました。
ずっと、ずっと。途方もなく感じられるほど、長い間それは続きました。
一年、二年、十年、五十年――――。
悲しみに染まった大地は、男の子の涙を、それでもなお受け止め続けました。
やがて、その涙は、戦争で死んでしまった大地に一本の木を育てたのです。それは奇跡でした。
すると、それにあやかるように草木が、花が、鳥が、人々が、再びこの不毛の大地であった場所に集いました。
もう、男の子の頬には、涙の後はありません。
やがて、老人になったその男の子は皆みなに感謝され、涙は救いの象徴となりました。
そして、この地では、涙は救済の神とされ、崇めたてまつられるようになったのです。
『涙こそ救いである。泣きたい時は、泣け!』
崇書 序章「涙は人の力なり」より
一部省略あり。