ツツジの季節になりましたね
皆さまごきげんよう、ひだまりのねこですにゃあ。
さて、道路沿いや公園、あらゆるところでツツジの花が咲き始めました。
白、ピンク、紅、色とりどりの花が一斉に咲き誇るこの季節が私は大好きです。花粉が終わる目印なんですよ、本当に。ツツジを見るとやっと花粉症の苦しみから解放されるんだって泣くほど嬉しくなります。それに――――ゴールデンウイークを象徴する花でもありますからね! ワクワクしちゃうんです。
実は、日本って世界屈指のツツジ大国だって知ってましたか?
日本はツツジの多様性の最重要中心地の一つで、在来種だけでも約50種が自生しています。これはツツジが好む世界最高クラスの酸性土壌、国土の何割を占める山岳地帯、湿潤な気候、ツツジにとっては奇跡のように理想的な国だったという理由があったりします。
それに加えてツツジは万葉集にも詠まれるほど庶民から貴族にまで愛された花です。平安時代には庭樹として広く普及、江戸時代には空前のツツジブームがあって、当時の品種本に載っている有名人気品種だけでも数百種類、名前が残っていないものを含めれば数千品種以上、毎年のように多くの新品種が作られていたという愛されっぷり。そしてツツジ属は世界中に分布していますが、日本には超レアな常緑性ツツジというものが当たり前のように存在します。
だからこそ、欧州の人々は驚愕し衝撃を受けました。その美しさ、常緑性、そして――――その多様性はまさに宝石箱そのものだったからです。まあ……日本の園芸レベルは世界トップクラスというか変態的でしたからね……。江戸~明治期には日本のツツジ(サツキやケラマツツジなど)が大量に欧州へ渡り、現地で品種改良されて誕生したのが「アザレア(西洋ツツジ)」なんです。
欧州における庭園の絶対女王は当然バラですが、温室園芸の女王はアザレアです。アザレアはバラが咲かない冬から春にかけての主役だったわけですね。
ちなみに、欧州園芸史における存在感ランキングの一位がバラ、二位がアザレアとするならば、三位はカメリア、つまり日本固有種の椿です。二位と三位を日本の花が占めているということを見ても、日本の特殊性がわかるというものです。
19世紀に入ると、欧州で品種改良されたアザレアがアメリカに持ち込まれますが、サウスカロライナ州などアメリカ南部は日本に近い気候条件だったため、野生化する程大繁殖します。そうして定着した大規模なツツジ園が現在観光名所になっていたりしますので、江戸を出発したツツジが世界を旅したわけです。20世紀にはそのアザレアが逆輸入で日本に里帰りすることになるわけですが……とてもドラマチックで創作意欲が刺激されるお話ですよね。
ところで、ツツジと言えばやはり蜜吸いですよね。あの優しい甘さが大好きで、子どもの頃は毎日のようにツツジの蜜を吸っていました。
まあ……毒あるんですけどね!!
ツツジ属の植物は基本「グラヤノトキシン」という神経毒を持っています。これ加熱しても駄目なタイプの毒なので、当然注意が必要なのですが、街路樹や公園で植えられているツツジはほとんどがヒラドツツジ系で毒性は弱いです。
毒があると聞くとすぐに危険!! となりがちですが、毒性を持っている植物は私たちの身の回りにもたくさん存在します。動けない植物にとって毒を持つというのは数少ない自衛手段ですから当然ですよね。
グラヤノトキシンは典型的な、摂取量が症状の悪化につながるタイプなので、少量であればほぼ問題ありません。身体が弱い私が無事だったのもそのせいです。もちろん危険性が無いというわけではないので、そこは十分注意してください。ツツジの蜜は少ないので、いくつか蜜を吸ったくらいでは危険な量には遠く及ばないというだけです。それから花びらや葉などには蜜よりも高濃度な毒性がありますし、全然美味しくないので食べちゃ駄目ですよ? お花を髪飾りにするのは楽しいので止めませんが。
ちなみに毒を少量摂取することで毒耐性を身につけるというロマンがありますが、グラヤノトキシンを含めて耐性を獲得できる植物毒はほとんど無いので、そういう設定をする場合はファンタジー世界に留めておくのが無難です。
耐性がつく植物毒として有名なのは、カフェイン(コーヒー)、ニコチン(タバコ)、モルヒネ(ケシ:アヘン)、THC(大麻)、カカオのテオブロミン(チョコレート)あたりですが……ご覧のとおり耐性と依存性がセットになることが多いのでご注意ください。
なんだか……毒の話ばかりしているようで物騒ですが、せっかくなのでもう少しだけ毒の話を(まだ続けるの?)
毒を少量摂取することで毒耐性を身につけることをミトリダティズムと言いますが、その語源はポントス王ミトリダテス6世です。
彼は幼少期に毒殺されそうになった経験から毒の研究にのめり込み、あらゆる毒を受け付けない毒耐性と知識を持った毒王。ローマと三度に渡って戦い、紀元前67年、毒の蜂蜜のトラップを仕掛けてローマ軍を弱体化させた逸話が残っています。この毒蜂蜜こそが、ツツジの毒なのです。
ヨーロッパはアルカリ性土壌なのでツツジ属は基本的に分布していないんですが、例外的に黒海沿岸には強力な毒性を持つツツジが自生しているんですね。紀元前401年には、ギリシャ傭兵軍一万の兵士が同じ黒海沿岸を通過した際、同じ蜂蜜を食べて壊滅的な被害を受けています。こちらは罠ではありませんが。
ミトリダテス6世は、最期ローマ軍に追い詰められて毒を飲んで自害しようとしましたが、毒耐性によって死ねなかったという有名な話があります。ですが、個人的には、万能解毒薬を作ったことの方が熱いです。
さすがに万能ではありませんが、薬としては本物で、効果もたしかにあるものでした。脚色はあったにせよ、毒の知識は本物だったわけですね。
現代でも、黒海沿岸のトルコでは、マッドハニーという名前で毒蜂蜜が精力剤として摂取されていて、食べ過ぎた結果毎年救急搬送される人が絶えないそうです。
非常に危険な上に、精力剤としての効果はありませんので、旅行先で機会があったとしても絶対に食べちゃだめですよ。薬物と同じでメリットをデメリットがはるかに上回りますので。
さて、当然ツツジ大国である日本にも、レンゲツツジやシャクナゲなど、毒性の高いツツジ属の花は自生しています。
では日本の蜂蜜は危険ではないのか? という疑問が当然湧いてきますよね。蜂蜜は加熱処理しますが、グラヤノトキシンに加熱は無効ですし。
結論から言えば安全です。
日本での蜂蜜採取は秋に行われます。これは日本ミツバチのライフサイクルに合わせているのと、春に咲くツツジ属の毒蜜リスクを回避する二段構えになっているからです。さらに言えば、日本ミツバチは、複数種類の花から蜜を集める習性があるので、仮にレンゲツツジなどの蜜が混ざっても到底危険な濃度にはならないのです(毒性の強い種でも蜜に含まれる毒性は比較的低いこともあります)まあ……日本で意図的に毒蜂蜜を集めようとしても構造的に難しいということですね。どうぞご安心ください。
さて、毒の話で終わるのもアレなので、最後は美しく終わりましょう。最初に触れたように日本においてツツジの花は古代より愛されてきました。ツツジの鮮やかな紅は燃え上がる恋心、恋の激しさ、燃えるような情熱、待ち焦がれる想い、春の訪れとともに高まる恋心など、恋を表現する花でした。
ツツジ科ツツジ属の本家ツツジのシャクナゲ(石楠花)は、高山植物です。標高1,500〜3,000m、断崖絶壁、雪渓の縁、人里離れた山奥、こういう場所にしか咲きません。
日本の山は古来より、神の住む場所、人が踏み入れられない聖域とされてきました。その“神域”に咲くシャクナゲは、神が植えた花、神の庭に咲く花と呼ばれ神聖視されたわけですね。
だから“高嶺の花”という言葉が生まれたのです。
現代では、手の届かない女性という意味ですが、もともとは高い峰に咲く花 のこと。つまり、シャクナゲ=高嶺の花=見たいけれどなかなか見られない花 という本来の意味から転じて、美しくて手が届かない存在という比喩になったというわけです。
「躑躅」という漢字は一見おどろおどろしいですよね。
「躑躅」という漢字は、もともと古代中国語で
躑=足踏みする、ためらう
躅=立ち止まる
という意味を持っています。
つまり 「躑躅=足を止める」 という動作そのものを表す言葉なんです。
ではなぜ“ツツジ”にこの字が当てられたのか?
理由はとてもシンプルなんですよ。
それは――――花があまりに鮮やかで美しいので、道行く人が思わず足を止めて見入ってしまうから。
もうすぐ大型連休がやってきます。
お休みできる人も、そうでない人もいるとは思いますが、もしツツジを見かけたら――――少しだけ足を止めてみてはいかがでしょうか。
まだまだ語り足りませんが、今日のところはこのあたりで。
雑談にお付き合いいただきありがとうございました。また別のエッセイでお会いしましょう。




