奈良時代の授業 その1(修学旅行の奈良の大仏で、先生をうならせる質問)
― 平和への祈り ―
春の奈良。
青空の下にそびえ立つ大仏殿の前で、悠真たちは見上げていた。
「うわぁ……でっかい!」
金色に光る奈良の大仏。その前に立つと、自分が豆粒みたいに小さく思えた。
「先生! この大仏って、どれくらいの高さがあるんですか?」
ガイドの先生が笑顔で答えた。
「いい質問だね。大仏の高さは十五メートルくらい、台座を入れると十八メートルほど。そして重さは……だいたい二百五十トン!」
「に、二百五十トン!?」
「電車の車両でいえば、三両分くらいの重さだよ」
「そんなに!?」
クラスから「すごい!」とどよめきが起こった。
先生は少し声の調子を落として、真剣な顔で言った。
「この大仏を作るために、当時の人たちは全国から銅や金を集めました。聖武天皇という人が、“みんなで力を合わせて、平和な国をつくりたい”と願ったんです」
悠真は、大仏の顔を見上げた。
青空を背にしたその表情は、どこか優しく、静かに微笑んでいるように見えた。
「この大仏が完成したときには、最後に“命を吹き込む”ような儀式をしたんだ」
「命を吹き込む……?」
悠真が首をかしげると、先生がうなずいた。
「そう。それは“ただの像”を、“心を持った存在”にするための大切な祈りだったんだよ」
悠真はふと笑った。
「たしかに、心がこもっていなかったら、ただの大きな銅の塊ですもんね!」
クラス中が「たしかに!」と笑った。
先生も嬉しそうに頷いた。
「そう。人の心があるからこそ、祈りは生き続けるんだね」
バスに戻る前、先生はもう一度、みんなに語りかけた。
「実はこの頃、日本では恐ろしい病気が広がっていたんだ。それに、大きな争いもあって、国が不安でいっぱいだった。
だから天皇は、“人々の苦しみを少しでも減らしたい”と思って、この大仏を造ろうと決めたんだよ」
悠真が手を挙げた。
「先生、もし聖武天皇が大仏を造らなかったら、どうなっていたんでしょうか?
それと……今の時代でも、みんなで協力して乗り越えようとすることってありますか?」
クラスが静まり返った。
先生は少し目を細めて、優しく答えた。
「いい質問だね。もし大仏がなかったら、人々が“ひとつになろう”という気持ちを持てなかったかもしれないね。
そして、今の時代にも同じようなことはあるよ。たとえば、最近の“新型コロナ”の流行。
あのときも、医療や科学の力だけじゃなく、人と人とが思いやる気持ちが必要だったんだ」
クラスの後ろから、男子が手を挙げた。
「先生、それって……みんながもっと祈ってたら、流行らなかったってことですか?」
教室のようにざわっと空気が動く。
先生は少し驚いたあと、ゆっくりと答えた。
「うーん、祈りだけで病気は止められないけれど、“人を思う心”があれば、どんな時代でも強くなれると思うよ」
悠真は真剣な目でうなずいた。
「……なるほど。もっと知りたくなりました。帰ったら図書館で調べてみます!」
先生はうれしそうに笑った。
「うん、いいね。自分で調べて考える――それこそが一番の学びだよ」
バスの中で、悠真は窓の外を見つめた。
大仏の穏やかな顔が、まだ頭の中に浮かんでいた。
“人の祈り”って、もしかしたら、時代を超えて残るものなのかもしれない――そう感じた。




