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大正時代の授業(民主主義、第一次世界大戦、関東大震災)

 次の社会の授業。黒板には大きくこう書かれていた。

「大正時代 ― 言葉で変わった日本」

 先生がチョークを置いて、ゆっくりと教室を見回した。

「今日は“言葉の力”について考えてみましょう。大正時代は、人々の考えや気持ちを言葉で伝えることが、社会を変えていった時代なんです」

 悠真は姿勢を正してノートを開いた。

 ――言葉で社会が変わる?

 それは、どういうことなんだろう。

 先生は黒板に年号を書きながら話を続けた。

「大正時代は、明治のあと。1912年から1926年までのおよそ十四年間です。

 このころ、日本では“みんなで考え、みんなで決めよう”という考えが広がっていきました」

 教室の空気が静まった。

 悠真が手を挙げた。

「先生、“みんなで考える”って、どうやってたんですか? 今みたいにSNSもないのに」

 先生は微笑んだ。

「いい質問ですね。当時は、町の広場で“演説会”が開かれたり、“新聞に意見を送る”人がたくさんいました。

 “自分の言葉で世の中を動かしたい”という思いが、日本中に広がっていったんですよ」

 悠真はうなずいた。

 ――なるほど。

 なんだか、今のインターネットの世界と少し似ているな。

 先生は新しいチョークを手に取ると、黒板に次の言葉を書いた。

「第一次世界大戦(1914~1918)」

「このころ、世界ではとても大きな戦争が起こりました。

 日本も“連合国”という国々の仲間として参加しました」

 クラスの後ろの方から、小さな声が聞こえた。

「戦争って……なんで起こるんだろう」

 先生はその声を受け止めるように言った。

「たくさんの国が“自分の国こそ一番だ”と思いすぎたんですね。

 でも、日本はこの戦争でヨーロッパに物を売り、お金を得て、産業が発展しました。

 つまり、“良いこと”と“悪いこと”が両方あったんです」

 悠真は考え込みながら言った。

「戦争って、やっぱり人を悲しませるけど……それをきっかけに変わることもあるんですね」

 先生は静かにうなずいた。

「そう。だからこそ、“もう二度と戦争を起こしてはいけない”という思いが、たくさんの人の言葉で広がっていったんです」

 次に先生は、黒板の端に新しい文字を書いた。

「関東大震災(1923年)」

「このころ、関東地方を大きな地震が襲いました。東京では多くの建物が焼け、たくさんの人が家を失いました」

 教室が一瞬、静まり返った。

 先生は声を落として続けた。

「でもね、その中で“助け合い”の気持ちが日本中に広がったんです。

 全国から食べ物やお金を送る人が現れました。

 言葉や新聞を通して“誰かを助けたい”という思いが伝わったんですね」

 悠真はノートに書きながら、小さくつぶやいた。

「言葉って……人を動かすんだな」

 授業の終わりに、先生は黒板の上に静かに書いた。

「言葉は、時代を変える力になる」

「みなさんの言葉も、きっと誰かを動かす力を持っています。

 “自由に意見を言う”というのは、ただ好きに話すことじゃありません。

 “相手を思いながら、自分の考えを伝えること”なんです」

 悠真は鉛筆を置き、黒板の言葉を見つめた。

 ――言葉が未来をつくる。

 そんな時代が、もう百年前に始まっていたんだ。

 窓から秋の光が差し込み、ノートの上に白い光が静かに広がった。

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