番外編④ 放課後の約束 ― 秋の恋と新しい夢 ―
秋の夕暮れ。
校門を出ると、オレンジ色の光が悠真と美咲の影を長く伸ばした。
風が頬をかすめ、街路樹のイチョウがぱらぱらと舞い落ちる。
「ねえ、悠真くん」
美咲が少しはにかんだ笑顔を見せた。
「このあいだの手紙……ほんとにうれしかったよ」
「そんな……」
悠真は顔を赤くしながら、つい視線を逸らす。
「たいしたこと、書いてないよ」
「ううん。読んだときね、胸がぽっと温かくなったの。
“心って、言葉で伝わるんだ”って思った」
その一言が、夕暮れよりも強く悠真の胸を照らした。
ふたりは歩きながら、授業の話や班の出来事、最近読んだ本のことを楽しそうに語り合った。
話が途切れても、沈黙が心地よかった。
「そういえばさ、悠真くん」
信号待ちのとき、美咲がふと思い出したように言った。
「中学受験、どうするの?」
「うん。私立の〇×中学校を受けようと思ってる」
悠真は少し空を見上げながら答えた。
「理科の実験が多くて、歴史の授業も面白そうなんだ」
「へえ、似合いそう」
美咲の声は柔らかく弾んだ。
「将来はやっぱり学者さん?」
悠真は少し笑って首を振った。
「ううん。前はそう思ってたけど……今は学芸員になりたい。
博物館で昔のことを伝えたり、展示を考えたりする人。
学ぶだけじゃなくて、“誰かに伝える”仕事がしたいんだ」
美咲は目を細め、少し照れたように言った。
「素敵ね。悠真くんなら、きっとなれるよ。私もがんばらなきゃ」
並んで歩く足音が、夕暮れの道に小さく響く。
遠くでカラスが鳴き、帰り道の空が少しずつ紫に染まっていった。
「受験、終わったらさ――」
悠真が言った。
「どこか行こう。歴史のある場所がいい。鳳凰堂とか、また見たいな」
「いいね、約束だよ」
美咲は笑って、指切りの仕草をした。
悠真も笑いながら、そっとその指に触れた。
風がふたりの間をすり抜け、イチョウの葉がひらひらと舞い上がる。
その光景はまるで、未来へ拍手してくれているようだった。
悠真の胸の奥で、新しい夢と恋の鼓動が、ゆっくりと重なっていった。




