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第6話 フィアリスホールで

 大都市ネオベルはメルトリアの中心地と言われており、政治や経済の中枢を担っているだけでなく、様々な流行の発信地とされている。


 建造物は所狭しと建てられているものの、それ自体が芸術的に見えるほど造られた街並みとなっており、車の数も、人の数も、今まで旅をしてきたどの街ともまったく違う。まさに大都市だ。


 そんなネオベルでまずは拠点となるホテルに泊まった三人は大都市の街並みを観光して回ろうと計画していたのだが――。


「嫌だ! なんで俺のスーツだけサイズ合ってないんだよ! こんなダサいの着たくないぞ!」


 子供用の礼服売り場でサイズの合っていないぶかぶかのスーツを着るイズは大声を上げ、ルシアは今にもため息をつきそうな顔で財布から取り出したお札を販売員のお姉さんに手渡した。


「仕方ないじゃない。サイズの合うスーツが置いてあるお店を探す時間ないんだから。文句ならレテルに言って」


「でもレテルいないじゃん! だからルシアに文句言う!」


「えー! じゃあ私は誰に文句言えばいいのよ!」


 イズとルシアが騒がしくしているため、店内のお客たちが足を止めてこちらを見ている。店員は何か言いたげな表情をしていたが、二人の圧に負けたのか何も言わず困り顔でお札を受け取った。


「おい。イズ、ルシア。文句は店を出てからにしようぜ? お姉さんに迷惑だしさ」


 既に前のお店でサイズの合った礼服を購入したシンクは冷静に周囲を見ながら事実を述べる。するとイズがこちらに指を指してきた。


「おい! シンク! 体格同じなんだから俺とスーツ交換しろ!」


「ふざけんな! そんなダサいスーツ俺が着れるか!」


 そんなやり取りをしていると販売員のお姉さんが困惑した表情で口を開いた。


「あ、あの……お客様? こちら……お釣りでございますが……」


「「「ありがとうございます!!」」」


 こんなことになっているのは全てレテルのせいだ。


 シンクたちがホテルの部屋に荷物を置いて外へと出ようとした矢先、レテルの部下を名乗る者がエントランスに待ち構えていた。


 その人から「一時間後にドナ・ロイケット様の生誕祭が開催されるので正装の上、必ず参加するように……とレテル様からご伝達でございます」と言われて招待状を受け取った。


 レテルの部下は使いの者なので文句を言っても仕方ないし、無視する訳にもいかない。このため急いでお店に向かってシンクとルシアの服は調達できたのだが、イズに合うサイズのスーツが無く、別のお店にやってきて現在に至る。


 そんな揉め事がありながら三人は生誕祭会場であるフィアリスホールに辿り着いた。


 フィアリスホールは古い歴史を持つ建造物で広い階段を上った先には神殿のような外観が広がっている。その入口に立つ憲兵に招待状を見せ、中に入ると多くの人で混雑していた。


 ルシアの話だとここに集まっているのは政財界の大御所、貴族、そしてドナを慕う魔術師。皆、ロイケット社交界の構成員とのことだ。


 三人はとりあえず場内の中央に行くことにしたのだが、ルシアを発見した大人たちが寄ってたかって挨拶タイムを始め、中々進むことができない。


 偉そうな人たちが頭を下げたり、握手を求めてきたりするところを見るとルシアが有名人だったことを思い出す。一緒に旅をしていて忘れがちだが、ルシアは世界を救った東方の三賢者。いわば英雄なのだ。


 そんなこんなでようやく会場中央まで辿り着いた三人は一息ついた。すると人混みをかき分ける褐色の肌の女性がこちらに近づいて来た。


「おや? パーティー会場がどうにも田舎臭いと思ったらあんただったのかい。偽善者優等生ルシア・フェルノール」


 その女性を見るやルシアはしかめっ面となった。


「西方の英雄。宝玉の聖天大魔導士ビューラ・ハミルトン。あなたは相変わらず女臭いわね。鼻が曲がりそうよ。――あと悪いけど私、今レテルのせいでものすごーく機嫌が悪いから放っておいてくれない?」


 紫色の髪、褐色の肌の女性は猛禽類のように鋭い瞳で見据え、厚い唇はみずみずしく潤い、身に纏う民族衣装から露出する部位は一点の無駄もなく洗練された美麗を誇っている。


 その情緒ある刺激的な肉体は男性だけでなく女性も魅了するほどの力強い野性味を感じるが、ルシアとこの女性の仲は良くなさそうだ。


「女臭くて悪いね。美貌は隠してるつもりなんだけど、私の溢れ出るフェロモンだけはどうしても隠せなくってね。男女問わず虜にしてしまうのさ。――ルシア、あんたと違ってね」


「あらそう? でもフェロモンだけじゃなくてアホ臭さも溢れ出てるようだけど」


「――あぁ?」

「――おぉ?」


 放っておいて、と言う割に仲良く喧嘩しているようにも見える。


「やあシンク! 久しぶりだね!」


「シンク! 貴様は相変わらず健勝のようだな!」


 聞き覚えのある二人の声。シンクはルシアたちが仲良く喧嘩する隙間を覗くとブロンドの髪の男の子たちの姿を見た。


「おお! ガラハッド! イザーク! お前らも来てたのか!」


 シンクが近寄るとガラハッドは片手を上げ、イザークは腕を組んでいた。相変わらずの二人だ。


「ん? お前らレテルとは一緒じゃないのか?」


 そう問いかけるとガラハッドが口を開いた。


「ティンバードール事件以降、レテル様はあまり表立った行動ができなくなったからね。今はビューラ様の弟子に鞍替えして色々と動いてるってわけさ」


「おいおい。そんな簡単に弟子を変えられるのかよ。まあ俺の関与することじゃねーけど。――ってことはレテルが今どこにいるかわからないよな」


 するとイザークが親指を上に指した。


「レテル様はドナ様と一緒に三階の主賓室にいる。貴様はドナ様に会ったことが無いだろうから挨拶してくるといい。俺たちのボスだ。お行儀よくしておけよ」


「ん? なんだそれ?」


 シンクが首を傾げると笑顔のガラハッドが間に入ってきた。


「とにかく会って来るといい。このままだとお二人の喧嘩が終わらなそうだしね」


 ガラハッドの目線を辿るとルシアとビューラが睨み合いをしており、好奇心旺盛のイズは目を輝かせていて喧嘩を止める気はない。


「確かにそうだな。レテルにも言いたいことあるし、とりあえず挨拶してくるぜ」


「ああ、そうしてきてくれ。――それが終わった頃合いで迎えに行くよ。シンクと話したいことや会わせたい人たちがいるからね」


 シンクは疑問に思いながらも頷いた。


「おう。わかったぜ。それじゃあまた後でな」

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