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第36話 仲間との再会

 亜空間の出口を通り抜けると視界いっぱいに眩い光が広がる。イズは目を細めながら先の景色を確認しているとこちらに駆け寄って来る二人の姿を見た。


「おいイズ! お前大丈夫か!?」


 駆け寄って来た二人をよく見るとシンク、レテルのようだ。どうやら無事ティンバードールに帰って来れたらしい。


「おお!? シンクじゃん! 元気だった?」


「いやそれはこっちのセリフだ! レテルに抱えられなきゃならないくらいすげーボロボロじゃねーか! しかも右腕取れたって聞いたぜ!?」


「全身に力入らないし、右腕も仮でくっつけただけだから取れないように抱っこしてもらってるだけだ! 俺は全然元気だぜ!」


「いやそれ満身創痍じゃねーか!」


 久しぶりのやり取りに胸が高鳴った。やっぱりシンクと会話するのは楽しいし元気な気分になる。


「はい、ルシア。預かってたお宅のお子さんお返しするわ。重たくて私の腕のほうが取れちゃいそうよ」


 そう言いながらレテルはイズのことをルシアに押し付ける。ルシアは慎重にイズを抱えると薄っすら黄金のオーラを放出した。どうやらイズの怪我を治療してくれるようだ。体がほんのりと温かい。


「まったくあんたは心配ばかりかけて。少し目を離すと盛大にやんちゃするんだから」


 愚痴が始まったのかと思ったが、ルシアは小さく溜息をつくと困ったように微笑んだ。


「でも無事帰って来てくれて安心したわ、イズ」


「ごめんな、ルシア。――それで俺の腕大丈夫そ? ルシア治せる?」


「誰に言ってるの? 後遺症なく完全回復させてあげるわ!」


「本当か!? 良かったー! ――あっ! それとルシアにもう一つ謝らなきゃいけないことあった! 実はルシアに買ってもらった仮面戦士ビクトリークレイジーパーフェクトマスターグレードなんだけど壊れちゃったんだ」


「ええっ!? もう壊したの!?」


「でも大丈夫! レテルから頑張ったご褒美ってことでお小遣い貰ったんだ! だからこれで買い直せるぜ!」


 そう言ってイズはポケットに入れたお札を見せるとルシアは顔をしかめた。


「さ、札束!? なんで頑張ったご褒美に札束なの!? ――ちょっとレテルどういうこと!?」


「どういうことってそういうことよ。頑張った子にお小遣いあげただけでしょ?」


「それにしても札束あげるのはどうなのよ……」


 訝し気な目で見つめるルシア。一方のレテルは何でもなかったように微笑んでいる。


 本当はイズの質問に答えなかったことへの罰金とルシアの前で親子イジリしない約束料として大金を受け取っているのだが、それは二人の秘密だ。


 そんなわけで話題をそらしたいレテルはルシアの視線を無視してシンクに顔を向けた。


「シンク。そちらは無事みんなと街を救ったみたいね。頑張ったわね、偉いわ」


 その言葉にシンクは何故かムッとした表情を浮かべた。


「ああ。レテルの思惑通りに……な」


「あら? 何のことかしら?」


 慎ましく微笑むレテルは続けてエリウェルや二人の男の子に目を向ける。


「エリウェル、ガラハッド、イザーク。あなたたちもよく頑張ったわね。――それとエリウェル。ルシアたちの案内ご苦労様。二人との旅はどうだった?」


「はい。イズやルシア様との旅は凄く賑やかでとっても楽しかったです。――でもレテル様と一か月も離れてちょっとだけ寂しかったです」


「あら! そう思ってくれたのならエリウェルを二人の元に預けた甲斐があったわ。その気持ちを忘れずこれからはもっと私のこと甘やかしてね?」


「レテル様。それはちょっと意味がわかりません……」


 困った顔のエリウェルを見てレテルはクスクスと笑う。そんなレテルの元に一人の女性が近づいて来て耳打ちをする。レテルは小さく頷くとその女性はすぐにどこかへ行ってしまった。


「さてと。あまりこの場所に長居しないほうが良さそうだし、私たちは先にティンバードールから離れましょうか」


 そうエリウェルたちに告げたレテルはルシアに顔を向ける。


「ルシア。次は九か月後にネオベル集合ね。当分私たちは大人しくしてるから基本的に接触はしないように――」


「――ちょっと待って! この際だからはっきり言っておくけど私はそんな約束――」


「――必ず来て、ルシア。そこが最後の分岐点なの。どの選択をするにしてもネオベルであなたの答えを聞くわ。先生も……みんなもそこで待ってるから」


「そうやって一方的に……」


 ルシアとレテルが何の話をしているのかわからない。けれどとても重要な話し合いをしていることは二人の顔をみたらわかる。


 ルシアが握りしめた拳に手を添えたイズは顔を覗き込んだ。


「ルシア、喧嘩すんなよ? ――レテルもだぞ? 何があったかわからないけど仲良くしろよ」


 互いに顔を見合わせた二人。やがてルシアはイズを降ろすと頭を撫でた。


「喧嘩なんかしてないわ。ちょっとお互いの意見が食い違って言い合いになっただけ。――それでどう? 身体のほうは。他に痛いところある?」


「身体?」


 そう言われてようやく気がついた。先ほどまで力が入らないほどの痛みと虚脱感は綺麗さっぱり消えて無くなっている。右腕を振り回しても全然違和感がない。


「おお! もう大丈夫だ! 凄いなルシア! ありがとう!」


 移動中、レテルにも治療してもらったが完全回復させるには少し時間がかかると言われたが、ルシアは数分でイズを完全回復させてしまった。いまだにルシアの魔術のことはよくわからないが凄い技術を持っていることだけは確かのようだ。


「とにかくルシア。猶予はあるから三人で旅をしながらじっくり考えて。――それじゃあそろそろ行きましょうか」


 レテルはエリウェルたちにそう告げる。するとガラハッドとイザークはシンクに顔を向けた。


「それじゃあね、シンク。きみと一カ月一緒にいれて楽しかった。次にネオベルで会ったときは僕たちの仲間を紹介させてくれ」


「シンク! 貴様は中々見どころがあった! 次に会うときは俺の一押しロボのコックピットに乗せてやることを約束しよう!」


「俺もガラハッドやイザークと一緒にいれて楽しかったぜ! 次に会うときは仕事抜きでどっか遊びに行こうぜ!」


 そんな会話をして三人は盛り上がっている。一カ月会わない間に随分と親交を深めたらしい。楽しそうなのは良いことだが、シンクと距離が空いたような気がして少し寂しい。


 そう思いながら三人を見ていると肩をつつかれた。振り向くとエリウェルが微笑んでいる。


「イズと一カ月間一緒にいれて私本当に楽しかったよ。次は当分会えなくなっちゃうね。なんか寂しい……」


「ああ、そうだな。でも次はネオベルで会う感じみたいだし、そのときを楽しみに待ってるぜ!」


 そう言って笑みを浮かべたとき、ふとミウの言っていたことを思い出した。


 せっかくだからミウの提案を試してみようかな。そう思ったイズは頬を突き出すと案の定エリウェルは首を傾げた。


「どうしたの? イズ。頬っぺた痛い?」


「あれ? 前はお別れのキスしてくれたのに。今日はお別れのキスしてくれないんだ。残念……」


 イズは少し寂しそうな顔で目線を落としてみた。提案を受けたので実践してみたが、こんなことでエリウェルが喜ぶはずがない。


 次にミウと会ったらこの方法は失敗したと報告しよう。そう思って目線を上げると、瞳を潤ませ、頬が紅潮するエリウェルがイズの両手を握りしめてきた。


「そ、そ……そんなことないよ!! す、する! 全然するよ!!」


「え?」


 エリウェルはとても嬉しそうだ。絶対に失敗すると思っていたミウの提案は見事に成功した。ついでにイズの後ろにいるルシアも歓声を上げて喜んでいる。とてもうるさい。


「あ、あのねあのね!! イズ! イズには言ってなかったけど! 頬っぺたのキスはお友達でもするの! でも大好き同士だとお口とお口でキスするんだよ! イズ知ってた!?」


「お、お口とお口だと!? そんなキスもあるのか!?」


 イズが驚くとエリウェルは目をキラキラと輝かせながら顔を近づけてくる。


「そうだよ! ――ねえ! イズは私のこと大好き!?」


「お、おう。大好きだぜ」


 段々と圧が強くなるエリウェルに少し気後れするイズ。ちなみに後ろにいるルシアはさっきからずっと歓声を上げ続けていてうるさい。


「それなら私たちお口でキスしても全然問題ないね!?」


 そう告げたエリウェルは瞳を閉じて顔を近づけてくる。問題が無いかどうかは全然わからないし、この後どうすればいいかもわからない。先のことを見据えてミウに相談しておけばよかった。でもエリウェルもかなり喜んでいるし、もう後戻りはできない。


 とりあえず口と口を合わせればいいだけだ。そう思ってエリウェルに顔を近づけたとき――。


「――私の前でそんなことさせるかー!!」


 エリウェルが勢いよく遠ざかっていく。顔を上げるとレテルがエリウェルを抱きかかえていた。


「レ、レテル様!? 一体何を――」


「――私以外にキスなんてさせるわけないでしょ!? ってかエリウェルにはまだ早いわ!!」


「破廉恥!! エリウェル貴様は破廉恥だ!! そんなこと俺は許さない!!」


 レテルだけではなく何故かイザークも興奮しており、ガラハッドはやれやれとでも言いたげな顔で笑みを浮かべている。


「レテルー!! 私のささやかな楽しみを奪うなー!!」


 そして相変わらずルシアもうるさい。


「おいイズ。もしかしてお前。この一カ月間恋愛の駆け引きでも勉強してたのか?」

 

 そう言って呆れ顔で肩に手を置いてきたシンク。イズは賑やかな騒ぎ声を聴きながら白い歯を見せてニコッと笑った。


「いいや。こんなこともあろうかと恋愛相談してただけだよ」


「こんなこともあろうかと?」


 疑問を呈して首を傾げるシンクに笑い声を上げたイズはこの先のどこかにいるであろうミウを思いながら澄み渡る空の彼方を眺めた。

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