第31話 逆賊の終わり
ガルマードに殴られて強烈な痛みが走る。リコにとってそれはいつも通りの日常だ。けれど今日は清々しくて心地よい。自分以外の誰かのために受ける痛みはとても心地よい。
心が甘く痺れる。誰かのために体を張ることは今まで一度もなかった。他人に頼られて、他人を守って、自分の利益にならない自傷行為とも思える行動が胸を高鳴らせる。
こんな気持ちにさせるのは友達のために体を張っているから――なのだろうか。
でもミウとは親友になったが、イズとは友達になるとは言ってなかった。曖昧な関係は嫌だから無事生き延びられたら友達になって欲しいとお願いしてみようかな。そう考えたところでらしくない自分が可笑しくなり、リコは薄ら笑みを浮かべた。
「楽しそうだな、リコ。死を悟って愉快な走馬灯でも見たか?」
オーラを放ちながら拳を握るガルマードを見上げる。鼻血を拭い、オーラを放出して応対するリコは改めてガルマードとの力の差を実感した。やはり魔術で足止めするのは絶望的だ。当初の予定通り会話で時間を引き延ばすしかない。
「九年間チャイルドヘイブンで生きて愉快な日なんて一日だってありませんでした。だから死に際はきっと辛くて苦しかった日々を思い出します」
「ふん。まるでまだ死なないとでも言いたげだな」
「そうですよ。だって私まだ死んでませんから。――それよりガルマード先生。先生こそ愉快そうですが大丈夫なんですか?」
「大丈夫とは?」
「先生の目的はミウをヴォイニッチに渡すことなんじゃないんですか? だからグレムリンをチャイルドヘイブンまで連れ込んでミウと戦わせたんですよね? 魔力の尽きたミウなら連れ出すのも簡単ですから。――でもそんなことバレたらアレン・ローズ様に必ず殺されます。だから大丈夫なんですかって聞いたんです」
そう問いかけるとガルマードはニヤリとほくそ笑む。
「頭の良いガキだ。そこまで理解するか。――だが貴様はまだ世界の情勢を全く理解していない。アレン様を敵にはできないが……だからといってアレン様陣営にいれば生き残れるというわけではない。上手く立ち回らなければ死ぬだけだ」
「意味がわかりません。ご高説いただけますか?」
「わからなくて結構。リコ、貴様はここで死ぬのだから」
「死にませんって。もうすぐ私のことを助けてくれる勇者が現れますから」
「ふざけたことを。ならばその勇者とやらを待ちぼうけたまま死ね」
ガルマードのオーラが激しく燃え上がりゴツゴツとした手がリコの首筋に伸びてくる。頸動脈を絞めて殺すなんて生易しいものではないだろう。残虐な行為が好きなガルマードのことだ。きっと力任せに首を握り潰すつもりなのだろう。
その行為から逃げる術をリコは持ち合わせていない。ガルマードの手に捕まったらリコの死は確定する。
死ぬことはいつも覚悟している。チャイルドヘイブンで生きていると死が身近過ぎて嫌でも命の軽さを実感する。だから覚悟せざるを得ない。どんなに生にしがみついても自分はいつか呆気なく死ぬのだと。
けれどリコは今この瞬間に限って死ぬ覚悟はできていない。――それは何故か。死ぬことはないだろうと根拠ない自信を与えてくれる男の子がいるからだ。
「き、貴様!?」
ガルマードの表情が曇る。
右腕が欠損し、全身傷だらけで、痛々しい姿の男の子の背中はとても大きく見えた。ただ見つめているだけで勇気が湧いてくる。
「待たせたな、リコ。俺の中でパワーアップしてきたぜ!」
「ちょっと何言ってるかわからないわ、イズくん」
こちらに横顔を向けて笑みを見せてきたイズはガルマードの腕を握っている。それだけなのにガルマードより優位に感じてしまうのは何故だろう。
「ガキが! 俺を無視して笑いやがる!」
罵倒とともに蹴りを繰り出そうとした瞬間、ガルマードが吹き飛んだ。魔術で強化したリコの動体視力ですらその軌跡は見えなかったが、ガルマードを吹き飛ばしたのはイズで間違いない。
パワーアップしたというイズは相変わらずオーラを放出していない。けれど明らかに以前より格段強い闘気のようなものを身に纏っている。
「イズくん。短時間で決めてください。体が保ちませんよ」
隣に目を向けるとふらふらと歩いて来たミウが肩に寄りかかってきた。どうやら魔力を使い果たしたようだ。
「おう! 秒で終わらせてやるぜ!」
「出来るものか!」
殺意が具現化したようなトゲトゲしいオーラを纏い、背中から伸びる鎌のようなものがより厚さを増していく。
放たれるオーラは邪悪さが増長し、人相すら変わったように見える。これはまるで――。
「――蜘蛛のマレージョみたいだな、ガルマード」
イズの指摘にガルマードはニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべる。
「これで終わりだ、クソガキ。次は確実に貴様の首を切り落として殺す」
「本当にできるのか? なんか俺負ける気はしないんだよなー。とりあえず第三ラウンド行ってみる? ――あれ? 第四ラウンドだっけ?」
ガルマードに応戦するようにイズも笑みを返す。その瞬間、空気が爆ぜて二人の姿が消えた。
目で追えないリコにとって二人がどんな肉弾戦を繰り広げているのかわからない。けれどイズが圧倒しているように思える。何故ならガルマードの背中から伸びる鎌のようなモノが千切れ、黒光していた外骨格が破砕して地面に散らばり始めたからだ。
そんな二人の戦闘を見守っていると赤い火花が走り始め、それと同時にガルマードとは異なる魔力を感知した。次第に魔力がはっきりと感知出来るようになり、空間に赤い閃光がほとばしる。
「ねえ、ミウ。イズくんのあれ……なに? どんなパワーアップさせたの?」
「パワーアップというか魔力を阻害する要素を一時的に無効化しているだけです。でも私……魔力が枯渇して何が起きてるかさっぱりなんです……」
「そう……なのね」
そんな話をしていると両者の動きが止まり、その姿がはっきりと視認できるようになった。笑顔を振りまくイズ。苦悶の表情を浮かべるガルマード。二人の表情だけで勝敗の差は歴然だ。
そして一つわかったことがある。イズの肉体に薄っすらと膜のように張る紅蓮色のオーラ。このオーラは終焉魔術という超高度な魔術を扱う際に発生するエネルギー色だが、魔術を扱えないイズは通常透明なオーラしか放出できないはず。
では何故イズが紅蓮色のオーラを放出できるのか。それは親からの遺伝以外に考えられない。終焉魔術を扱える者は非常に稀有で、かなり優秀な魔術師の血を引いている。これらを踏まえるとイズの親がどんな人物なのか予想がつく。
――イズの親はアリティエではないのだろうか。
その予想が当たっているかはわからないが急に緊張してきた。リコは思わずミウの手を握りしめ、相変わらず楽しそうな表情のイズをじっと見つめる。
「楽しいな、ガルマード。もっと遊ぼうぜ?」
「この……ガキが! さっさと死ね!」
魔力を急激に高めたガルマードは右腕を天高く掲げた。巨大な魔力を局所的に集約させたところから察するにガルマードが得意とする重力魔術を使う気だろう。
このままでは仕留められないと焦ったガルマードは力ずくでイズを制圧したいようだが、強大な魔術の行使は数秒程度かかる。その隙をイズは見逃さない。
「覚悟しろよ、ガルマード! 俺の拳は強烈だぜ!」
イズが握る拳に魔力が集中すると空間が薄っすらと歪み、紅蓮の稲光が走る。魔術の構築が終わり、鋭い眼光のガルマードが天に突き上げた拳を今まさに振り下ろさんとする瞬間、紅蓮の拳が炸裂した。
終焉魔術の組み込まれた強力な拳がガルマードの魔術を侵食し、外骨格のような皮膚が弾けて周囲に飛散した。続けて肉体の至る箇所に亀裂が生じるとガルマードは流血しながら後方によろけ、そして崩れるように倒れ込んだ。
魔術を知らない九歳の子供が特級大魔導士を倒すなんて普通は考えられない。それが如何に困難なことかリコはよく知っている。子供たちより強くなければチャイルドヘイブンの教員は務まらない。
そんな常識を文字通り殴り飛ばしたイズはその場でふらふらとよろけだした。魔術を知らない人間が突然魔術を行使できるようになり、加減も知らず全力を出したのだ。間違いなく倒れると確信があってリコは駆け出した。
そしてイズが倒れ込む瞬間、リコは後ろから抱きしめてゆっくり膝を落とす。
「イズくん! しっかりして!」
ずっと力み続けて止血していたのだろうか。イズの意識が薄れるにつれて欠損した右腕から血が噴き出し始める。
「リコちゃん!」
ミウは切断されたイズの右腕を拾ってきたようで、腕と欠損部を押し当てる。その行動で何を望んでいるのかすぐに理解した。
「私、回復術は得意じゃないの! さっきみたいに魔力を譲渡するからミウがイズくんを治してあげて!」
「あの術は連続して使えないんです。それにリコちゃんの魔力だって潤沢じゃないでしょ? これ以上魔力を無駄にできません」
「軽い怪我くらいならなんとかなるけど欠損部位は治したことないの! 癒着して後遺症が出たり、酷ければ毒素を身体中に循環させて最悪命を落としちゃうかも!」
「欠損部は止血のために軽く固定するだけでいいです。大丈夫! リコちゃんならきっとできます! 本当です! リコちゃん器用だし本番に強い女の子ですから! 私、ずっとリコちゃんを観察してたんですから! だから間違いありません!」
本当に回復術は得意じゃない。けれどミウができない以上、今この場で回復術を使えるのはリコしかいない。だから何としてもやるしかイズを延命させる方法はない。
「わ、わかった。やってみる」
ミウに励まされながら欠損部を軽く固定し、イズの身体でもっとも損傷の大きい箇所に集中して細胞を少しずつ再生させていく。失敗したら腕の中にいる男の子の命が消えて無くなるかもしれない。そんな重責で胸が締めつけられる。
「大丈夫。私はできる。私はできる……」
呪文のように何度も言い聞かせてイズを治療する間、ミウはリコの背中に手を回して体を密着させ、精一杯の優しい顔で見守ってくれている。
失敗出来ないプレッシャーはある。でもそれ以上に絶対にイズを助けたいという想いが強い。それはミウからも強く感じられる。ここがリコの正念場だ。
「待っててね、イズくん。絶対に助けるから」
「それはできん。必ず殺すと言ったろう?」
殺気を感じて顔を上げる。そこには先ほど負った傷が塞がり、未だ魔力を持て余すガルマードが激しくオーラを放出させていた。
「ガルマード……」
ガルマードは鼻を鳴らしながらイズを一瞥する。
「認めよう、イズ。貴様は強い。あと数年ほど研鑽を積めばあるいは俺を仕留められたかもしれん。だが……その機会は与えん。貴様たちはここで確実に死んでもらう」
そう話すガルマードの背中から大きな鎌のようなモノが生え、リコとイズに照準を合わせて振り下ろそうとしている。
残りの魔力で結界を構築しても防ぎきれないし、あの斬撃を避けられる身体能力は有していない。そもそもイズを回復しているこの状況で身動きが取れない。
そんな絶望的状況なのにも関わらず、イズは弱々しくもニヤついている。
「貴様……何故笑う。この絶望的な状況で何故楽しそうなのだ。もう間も無く貴様は死ぬのだぞ」
ガルマードが口にしたごく当たり前の質問。リコもそう思っているし、きっとミウもそう思っているに違いない。イズはいつもどんなときでも楽しそうだ。
「なに……言って……るんだ? 人は……いつだって……笑えるだろ……?」
笑えない。少なくともリコには笑えない。こんな状況でも笑えるイズは凄いと思うし、同時に羨ましいと思う。
もしこの場を生き延びて、今後同じような状況に出くわしたらリコも笑ってみたい。そんな気持ちにさせられる。
「もういい。死ね」
冷酷に吐き捨てた死の宣告とともに鋭利な刃が振り下ろされた。
本当にお終いだ。命が終わる。そんな場面に幾度遭遇してきただろうか。何度も何度も死にかけて、何度も何度も死んだと思って、けれど幸運にも生き延びてきた。
自分の力で乗り越えたわけではない。いつも降りかかる災難は自分の力を遥かに超越した事ばかり。それでも命を落とさない自分は死に嫌われているのだろう。
だから根拠のない確信があった。ここで死ぬことはない。絶対にイズも死なない。
何故イズも死なないのか。だってリコにとって、きっと世界にとっても必要な男の子だから。リコが心から慕う最高の勇者はこんなところで死んでは駄目だ。だからイズは絶対に死なない。
そう強く思いながら閉じた瞳。時間にして十秒くらい。いつまで経ってもガルマードの死刑は執行されない。
リコは意を決してゆっくり瞼を開く。そこには花びらのように舞い散る美しい紅蓮の粒子。そして鮮血の長髪をなびかせる優しい女性の顔があった。
「怖かったね。でもよく頑張ったね。リコちゃん、ミウちゃん」
「アリティエ……先生?」
聖母のような慈愛の眼差しを向けるのはアリティエ・ノヴァ。幻ではない。本当にアリティエが目の前にいる。何故こんなところにいるのだろう。そんな疑問を抱えるリコ。一方、アリティエの目線はイズへと向いた。
「こんなにボロボロになっても二人を守ったんだね。さすがは未来の勇者様。凄くカッコいいぞ、イズくん」
イズはもう会話をできるだけの体力はない。ただ少しだけ口角が上がった。それを見たアリティエは微笑みながら会話を続ける。
「安心して、みんな。もう大丈夫だから。もう終わらせるから。だからリコちゃん。もう少しだけイズくんのことお願いね?」
「何を終わらすだと……? なあ、アリティエ?」
「逆賊の命を終わらせるってことですよ、ガルマード卿」
怒りでこめかみに筋ができるガルマード。身を屈めていたアリティエはゆっくり立ち上ると振り向いてガルマードと相対した。
アリティエから放出される紅蓮のオーラはリコたちを守るように包み込み、ガルマードに対しては敵意を剥き出しに激しく燃えさかっているように見える。
「逆賊? はて? なんのことだ?」
そういってとぼけてみせるガルマード。対するアリティエは薄ら笑みを浮かべる。
「残念ですがガルマード卿。もう遅いんですよ」
「何を言っているのかわからんが――」
――ガルマードの両足に閃光が走った。
崩れるように倒れ込んだガルマードは何が起きたのか理解出来ない様子で唖然としていたが、両足の違和感を覚えたようで目線を後ろに向けた。
ガルマードの両足は切断され、無造作に地面に落ちている。攻撃はアリティエのものではない。忽然と現れ、ガルマードの周囲を取り囲む白仮面を装着して顔を隠す者たち。その中で手に大剣を握る大柄の人物がガルマードを斬撃したようだ。
不気味なほど微動だにせずに円を作って並ぶ白仮面の者たちの正体はアレン・ローズ直属の戦闘部隊『ゼロ』。ゼロは密命の遂行や暗殺を専門とする部隊であり、今この状況で姿を現したということは間違いなくガルマードを粛清するためにやってきた。
けれど周囲を見渡して状況を理解したであろうガルマードは何故か笑みを浮かべている。切断された両足はまるで生きているかのように切断面にすり寄って張り付くとガルマードはすぐに立ち上がった。楽しそうに笑い声を上げながら。
「僥倖……僥倖だ。駆けつけたのがゼロの中でも中央本部の隊。しかもロイヤール。貴様の部隊だとはな。俺は実に運がいい」
そう言ってガルマードは大柄の男に目を向ける。部隊を率いるということは部隊長ということだ。それが何故ガルマードにとって有利に働くのかリコにはわからない。
「貴様たちを孤児院からチャイルドヘイブンに引き取ったときのことを思い出した。俺がゼロの部隊長からガキどもの教員に降格させられたときのことだ。あのとき俺はかなり気が立っていて、気晴らしに随分と熱い指導をしたな」
ガルマードが何を言わんとしているのかわからない。昔話をしたいわけでもないだろうし、情を誘って命乞いしているわけでもないだろう。一方、ゼロの部隊長ロイヤールは一言も喋らない。
「そんな貴様たちは俺の指導を受けて立派に成長し、ロイヤール……そしてレテル。貴様たちは夫婦となり、しばらくして子を身ごもったが……アクソロティ協会には流産したと報告していたな。しかし……俺は最近知ったぞ? ロイヤール。貴様たちはアクソロティ協会に、アレン様に嘘の情報を流したな? それをバラされたくなかったらこの俺を見逃せ!」
どうやら脅迫によってこの状況を打破しようと考えていたようだ。けれどその思惑に反して誰も反応しない。むしろ周囲の者たちはガルマードの最後の言葉とでも思っているかのように聞き入っている。
「アレン様へ伝える遺言はそれでいいですか? ガルマード卿?」
「なんだと?」
アリティエは妖艶に微笑む。
「ヴォイニッチと内通して密かに悪魔のアクソロティを製造していたこと。アレン様から寵愛を受けるミウを誘拐しようとしたこと。それら全ての行為はレテル・ミラージェを通して上層部に報告されていました。我々は常にガルマード卿を監視していたのです。ガルマード卿が知り得た情報は全て虚偽情報に過ぎません」
「そして全ての罪を擦り付けて俺を殺すという筋書きか。俺が一人でこれほど大規模な工作行為をできるはずもない。――まあいい。この場を切り抜け、アレン様に俺の有用さを示せば生き残る道はまだまだある」
苦し紛れとも取れるガルマードの言葉に反してその表情はまだまだ生への執着を諦めていない。
同学年の中でも人一倍指導を受けてきたリコにとってガルマードは怒りや憎しみの対象であり、感謝したり尊敬することなど今まで一度もなかった。けれど窮地に追いやられても決して生きることを諦めない姿勢だけは唯一尊敬に値する。
だからと言ってガルマードを見直したわけではない。どんな最低な人間にも見習うべきところは一つくらいあるものだと思っただけだ。
そんなことを考えるリコはガルマードを見つめる。もう決して逃れられない死を目前にしてもふてぶてしい態度を変えない憎き男の最後を目に焼き付けるために。
「長くアクソロティ協会に勤められたガルマード卿ならアクソロティ協会のルールはご存じでしょう。教えを破る者、裏切り者は死刑。私はあなたの死刑執行人です。ガルマード卿……最後は男らしく潔い最後を迎えませんか?」
「舐めた口を利くな! 俺の人生の半分ほどしか生きていない小娘が! この俺を誰だと思っている!? 俺はチャイルドヘイブン創設時から教員としてアクソロティ協会に貢献した花が咲くよ?」
突然ガルマードは意味の分からない言葉を発した。アリティエは怪訝な表情を浮かべているが、そのことに驚いているのは発言した本人だ。
よく見るとガルマードの顔左半分が歪み、まるで誰かに操られたように独立した行動を取っている。とても不気味だ。
そんなガルマードは奥歯を噛み締めながら怒りの形相をしている。
「おのれ……ヴォイニッチ! この俺を口封じしたところで何ノいミもなヴィと綺麗な花が咲キ誇ヴぉぃヨ?」
ガルマードの体が膨張し、急激に邪悪な魔力が高まって周囲に波紋する。それと同時にアリティエの紅蓮のオーラが激しく燃え上がり、右手をガルマードに掲げた。
「終焉の鉄槌」
膨張した邪悪な魔力が肉体とともに爆ぜようとした瞬間、天空から降る紅蓮の閃光がガルマードを貫いた。ガルマードの肉体は紅蓮の光に侵食され、崩壊を始めるとすぐに粒子となって霧散していく。
あまりに急で呆気ないガルマードの最後にリコは言葉を失っていると頭を撫でられる感覚があって目線を上げた。
「ずっと怖かったろうによく頑張ったね、リコちゃん。それと……イズくんことも本気で心配してくれて、治療してくれて……改めてありがとう」
そう話すアリティエは我が子を慈しむような聖母のような顔をしていた。




