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第10話 チャイルドヘイブンの教員

 椅子に腰を下ろしたガルマードはルシアが冗談で勧めた飲みかけのコーヒーに口をつけた。マグカップの縁に口紅がついているのにも関わらず。冗談に対する当てつけだろうか。


「ぬるいな」


「それ、私の飲みかけですよ? 新しいコーヒー注文しますので少し待っていてください」


「知っていて口をつけた。俺はコーヒーを飲むために来たわけではない」


 ガルマードはマグカップをテーブルに置いた。飲むわけではないと言う割に全部飲み干している。しかも縁についたルシアの口紅をご丁寧に舐め取ったようだ。


 気持ち悪さを感じるルシア。けれどそれを表に出さないよう笑顔を心がけた。


「では何をするためこちらまで? 子供たちを引率中私を見つけたから声をかけた、ってわけではないのですか?」


 そう訊ねるとガルマードは薄ら笑う。


「見ず知らずの子供を連れ歩き、魔術師として育てていると聞いたから見に来ただけのことだ。そんなに子供が欲しいなら俺が手伝ってやろうか? 何なら今夜にでも。貴様を何度も満足させてやるぞ?」


「いえいえ、ご遠慮します。それにガルマード卿は生徒を引率中でしょう?」


 本当に気持ち悪い男。目の前のにやけ面を平手打ちしてやりたい衝動に駆られるルシアだが、その気持ちを必死に堪える。


「遠慮するな、ルシア。今夜なら俺も引率が外れて予定が空くから思う存分貴様と楽しめる。今度は男を産めばいい」


 そう言ってガルマードは無理やりルシアの手首を掴んできた。


 本当にしつこい。すぐにでも突き放したいところだが、チャイルドヘイブンの場所を知るまでは無下にもできない。


「勘弁してください、ガルマード卿。男の子はもう十分間に合ってます」


「ふん。貴様は確か悪戯好きのガキAとBを育てているんだったな。――しかしそこで怯えて俺に顔も合わせられないガキはエリウェルだろう。もう一人のガキはどうした? 何故レテルが弟子として引き取ったエリウェルを貴様が連れているのだ」


 ガルマードが口にした「悪戯好きのガキAとB」というワードはおそらく娘のミウ宛てに送った手紙を検閲しているからだろう。つまりガルマードはミウの担任を受け持っているということになる。


 チャイルドヘイブンはクラスが複数あり、それによって担当教員が異なる。偶然出会ったガルマードが娘の担任をしているなんて本当に幸運だ。


 こうなるとますますガルマードの好意を無下にできなくなる。かと言って誘いに乗るつもりは一切ない。それとシンクやエリウェルの件をどうやってガルマードに話すべきか悩ましい。


 ルシアは笑顔を作りながら必死に返答を考えているといつの間にか椅子の上にイズが立っている。


「なあ、じいさんの頭と目……どうしたんだ? 怪我したのか? 痛いか?」


「なんだ貴様? 俺に殺されたいか?」


 ガルマードの眼光が鋭くなった。


「まあまあ、ガルマード卿。外界の子供の態度なんて普通こんなものです。ここはチャイルドヘイブンではないんです。そんなに怒らないでください」


 ルシアは急いでフォローする。けれどイズはガルマードの殺気に恐怖を覚えないようで、腰に手を当てると笑みを浮かべた。


「おいおい、じいさん。今の俺に喧嘩売らないほうがいいぜ? ――刮目せよ! 俺、変身!」


 そう言って腰に巻いたおもちゃのベルトのボタンを押すと軽快な音楽が流れ始める。


「俺は正義の仮面戦士ビクトリークレイジー! 悪事を働くナイトメヤーめ! 正義の拳でお前たちを抹殺してやる!」


 ベルトのスピーカーから仮面戦士ビクトリークレイジーの決め台詞が流れた。あまりに想定外の行動にガルマードは理解が追いつかないのか渋い顔をしている。


「なんだ……? それは……?」


 イズの突飛な行動。ルシアは顔を背けて吹き出した。


「どうだ? メチャクチャカッコいいだろ? これ高かったんだぜー?」


 声を上げてゲラゲラと笑うイズ。ガルマードの眼光が笑いを堪えるルシアへと向いた。


「ルシア。このガキ……本気で殺してもいいのだが?」


 ルシアは未だ笑いを堪えながらガルマードの左手に触れた。


「嫌ですよ、ガルマード卿。子供の戯言です。こんなことで怒っていたら世界中から子供がいなくなってしまいます」


 そう答えて正面に目を向けるとイズがいなくなっていた。気配がして右に目を向けるとルシアとガルマードの間に立ったイズはにやけ面でピンクと黄色が目立つおもちゃのステッキをテーブルの上に置いた。


「南方から吹く風はみんなのパッション! 情熱の風パッションイエロー!」


 おもちゃのスピーカーから魔法少女変身シーンの決め台詞が流れた。唖然とするルシアとガルマードの間で仁王立ちをしながら満足げに笑うイズ。


「実はギャンブルで勝ったときのお金残しててさ。そのお金でこっそりおもちゃ買ったんだよねー。太っちょおばさんでも魔法少女に変身できる優れものだぜ? これルシアにやるからお風呂場で脇腹のぜい肉掴んでガッカリしたときにでも変身してくれよ」


「ありがとイズ。でも私は太ってもないしおばさんでもないの。いつになったら覚えるのかしら? ねえ、いつになったら覚えるの? しかもなんで私がお風呂場で脇腹のぜい肉掴んだの知ってるの?」


「優しい、声で、俺を、グリグリするなー! なんで最近はげんこつじゃなくてこめかみグリグリなんだよー!」


 笑顔のルシアはイズを脇に挟みながら拳でこめかみを押しつける。


「げんこつだと見た目が悪いけど、グリグリなら微笑ましく見えてしっかりお仕置きできるの。どう? 良いアイデアでしょ?」


「た、確かに! ルシアは頭良いなー! 周囲からは仲良く見えて、俺はしっかり痛いぜ!」


「ルシア。貴様、俺を舐めてるのか?」


 ルシアは苦笑する。イズは良い意味で本当に場の空気をかき乱して掌握するのが上手い。それにイズが会話に加わったことで安心感と妙な心強さがある。


「怒らないでください、ガルマード卿。色々と事情も苦労もあるんです。――その件も含め、夜に食事しながらお話しませんか?」


「ふん。まあいいだろう。どのみち今は仕事中で悠長にしている時間はない」


 先ほどの誘いに乗るという返事ではないのだが、ガルマードは少しご満悦な顔をしている。ますます気色悪い。


「そう言えばじいさん。ルシアと知り合いなの?」


 会話に割って入るイズ。ガルマードは鼻を鳴らした。


「ルシアに免じて貴様の無礼は許してやる。だから静かに口を閉じていろ」


 ガルマードにしては随分と寛大な対応だ。一方のイズは全く物怖じせず果敢に声をかける。

 

「えー! 嫌だ! 意地悪しないで話そうぜ! 今までの話聞く限りじいさんは魔術師の先生なんだろ? 俺も魔術師の学校入りたいんだよ! どうやって入るんだ? さっきから話題のチャイルドヘイブンって学校のこと? その学校ってどこにあるの?」


 こんな状況でなんでも素直に聞けるのはイズの強みだ。けれどガルマードは次第に不機嫌になっていく。


「うるさい黙れ。本当に死にたいか?」


「そんなに怒らないでくれよ! チャイルドヘイブンってどこに――」


 そう問いかけたイズの後方に突然黒ローブの子供が現れて体を強引に押し倒し、別の黒ローブの女性がイズの背中に触れる。


「動かないで。あなたを殺したくない」


 女性はそう言ってオーラを放出しながらイズに警告する。周囲に目を向けると黒ローブの子供たちもオーラを放出してイズの言動に注視しているようだ。


「警戒を解け。ルシアの言うとおり外界の子供の戯言だ」


 ガルマードの言葉を受けて女性と子供たちのオーラが消えた。


「痛ってーな! まったくどこの誰さんだー!? 俺を押し倒した奴は――って俺の大事な変身ベルト壊れてるじゃねーか!? ふざけんなー! 絶対弁償してもらうからなー!」


 イズは自分が置かれている状況より変身ベルトのほうが大事らしい。一方、押し倒した子供と女性はすぐに立ち上がるとガルマードに顔を向けた。指示を待っている様子だ。


「リコは後方で待機しろ。引き続き警戒を怠るな。――ミーシャ。貴様はフードを脱いでルシアに挨拶してやれ」


 リコと呼ばれた子供は頷いてガルマードの後方に待機し、ミーシャと呼ばれた女性は指示通りフードを脱いだ。その顔を見たルシアは思わず反応しそうになったが平静を装った。


「ルシア様。お初にお目にかかります。私はミーシャ・テンジェル。大学を卒業し、今年からチャイルドヘイブンの教育実習助手を任されております。――それと……私は幻惑の聖天大魔導士ケティシア・テンジェルの孫娘です。ルシア様のことは祖母からよく聞いておりました」


「あら! ケティシア先生のお孫さんなの? 先生には随分お世話になったわ! チャイルドヘイブンでは珍しく優しい先生でね。学友間では聖母ケティシアなんて呼ばれてたのよ?」


 初対面の女性と楽しそうに会話する――ように演じるルシアとミーシャ。この女性ミーシャ・テンジェルとは豪華客船アンヌリーク・ポエル号のパーティ会場で一度会っている。


 どうやらレテルがチャイルドヘイブンの外界実習を知っていたのは内通者がいたからのようだ。


「初めましてお姉さん。いきなりですが俺の変身ベルト弁償してください。あの子の先生なんでしょ? 向こうのおもちゃ屋で売ってますから。正義の仮面戦士ビクトリークレイジーマスターグレードってやつ」


 そう言ってイズはミーシャの裾を掴む。本当にいきなりのことでミーシャは唖然としている。


 それにしてもさすがはイズだ。イズもパーティ会場で一度ミーシャと会っているはずだが、初対面のフリをしてさり気なく変身ベルトの弁償も要求している。しかもちゃっかり今持っている変身ベルトより高級なタイプのおもちゃを。


「どうしますか? ガルマード様」

 

「そんなガキのおもちゃなど知るか。――それよりルシア。貴様はケティシアの教え子だったか?」


「ケティシア先生のクラスではありませんが結界建築学を教わってました。確かガルマード卿と同期でしたね」


「ああ。しかし奴は本当に腹の立つ女だった。あの女の生徒を甘やかす教育方針のせいでクラスの風紀が乱れてかなわなかった。しかしあの時代はアレン様派閥とドナ様派閥が拮抗していたからな。ドナ様派閥のケティシアを表立って処分できなかった。まあ前回の緊急魔道会議での話によれば、アレン様に処刑されたようだが」


「そのようですね。悲しいことですが……アクソロティ協会から逃げて生き延びた者は一人もいませんから。でも十年以上も逃げ続けたのはさすがケティシア先生だと思いましたよ。本当に優しくて芯の強いお人でしたから。アクソロティ協会に謀反を起こすのは許されないことですが……きっとご自分の命を懸けても虐げられる弱者を守りたかったのでしょう」


「それでアクソロティ協会から二百名近い造反者を引き連れ、名も知らぬ島に匿ったとしても、結果死んでしまったのでは意味がない。優秀な女ではあったが要らぬ自我を持ち狂乱した馬鹿者だ。――それに引き換え孫のミーシャは優秀だぞ? 身の程をわきまえてアクソロティ協会に、俺に従順だ。俺の命令なら何でも言うことを聞く」


「そうですか」


 憎たらしい顔を見せつけるガルマード。これ以上ガルマードの俺様話を聞くと発狂してしまいそうなので話題を変えることにした。


「それでガルマード卿。一人だけ後方に控えさせているのは何か理由が?」


 そう訊ねるとガルマードの目線が後方の子供に向いた。


「顔を見せて挨拶してやれ」


 指示された子供はフードを脱ぐ。顔を見せたのは黒髪の女の子だった。


「クラス委員長を務めるリコです。ルシア様、初めまして」


 リコは美人顔だがその見た目で感じた通り冷静な性格のようだ。


「俺の受け持つクラスの中では一番優秀な生徒だ。――セカンドチルドレンを除く生徒の中で、という話だがな」


 初対面なはずなのに何故かリコに嫌われているような気がする。そう感じながらもルシアは笑みを向けた。


「はじめまして。リコちゃんは優秀なのね。凄いわ。ガルマード卿が人を褒めるなんて滅多にないんだから」


 ガルマードの痛い視線を無視して笑うルシア。一方、褒められたはずのリコはどこか不機嫌そうだ。


「凄くありません。ルシア様のご息女。ミウ様と違って」


「そんなことないでしょ。優秀でなきゃ外界での活動は認められないし、クラスの統率者も任せられないわ。――ところでリコちゃんはうちの娘……ミウと同じクラスなの?」


 リコが頷く。予想通りガルマードが受け持つクラスに娘がいるようだ。


「そうなんだ。それで……ミウは元気でやってるかしら? お友達と仲良くやってる?」


「ミウ様は元気でお友達と仲良くやっています」


 明らかな棒読みだった。不自然に思ったルシアは再びリコに訊き返す。


「本当に? 本当にミウは元気で友達と仲良くやってるの?」


「ミウ様は元気でお友達と仲良くやっています」


 リコは壊れた機械のように一言一句同じトーンで同じ言葉を発する。明らかに悪意を持った言い方だ。


「もし私に気を遣っているのなら遠慮しないで。私は絶対に制裁なんかしないから。本当のことを聞きたいの」


 リコは少し考え込んだ後、覚悟を決めたような顔をルシアに向けた。


「ミウに友達なんかいません」


「へ? あの……」


「ミウはみんなから嫌われているので友達なんかいません。みんなで無視するようにしてます。私もあんな奴大嫌いで――」


「――リコ。貴様、二度目はないぞ?」


 突然、ガルマードはリコの細い首を握って持ち上げた。


 何故こんなことをするのかわからないがかなり怒り狂っている。一方のリコは諦めた――というより覚悟を決めた様子で自らの死を受け入れている。


 まったく状況を理解できない。できないが今止めなければリコが死ぬことだけは理解できる。


「何してるんですかガルマード卿!? 生徒を殺す気ですか!? もし私のことを気にしてくださった行動ならやめてください! 娘を罵倒されたくらいで私は――」


「――これはケジメだ! 何度指導しても直らん! こいつは将来必ず魔術社会の秩序を乱す! もう生かしてはおけん!」


 これは駄目だ。ガルマードはもう止まらない。力づくで止めることは簡単だが事態はそう単純じゃない。もしルシアがチャイルドヘイブンの教員なら何か理由をつけて制止することもできる。


 けれどチャイルドヘイブンの教員は独自の権限を持つため、いくら聖天大魔導士だとしても教育指導に干渉できない。干渉すればルシアはアクソロティ協会から制裁を受ける。今はまだアクソロティ協会と敵対して大ごとにはできない。


 どうすればいい。どうすれば。必死に頭を回転させてガルマードの制裁を止める術を考えるルシア。その耳にイズの笑い声が届いた。


「あっはっはっは! 残念だなー! ルシアの娘、学校の友達にめっちゃ嫌われてるじゃん!」


 笑っていられる状況ではない。けれど場違いすぎる突飛な行動はガルマードの意識をイズへと釘付けにした。


「まあそんなに気を落とすなよ! 俺がルシアの娘の友達になってやるからさ! ――というわけでルシア。娘の友達料として変身ベルトと超合金ロボット買ってくれ! あのミーシャってお姉さん冷たいから弁償してくれないし。ガルマードじいさんはケチ臭そうだから絶対弁償しないだろうし」


 そう言ってイズはケラケラと笑う。するとガルマードの手からリコが滑り落ちた。床にうずくまるリコは激しく咳き込みながら何度も浅い呼吸を繰り返す。


「外界のガキといえど……俺に対する口の利き方もわからん蒙昧は生かしておけんな」


 激しくオーラを放出するガルマードは握った拳を持ち上げてイズに標準を定める。しかしイズは余裕の笑みを浮かべる。


「いいのか? ガルマードじいさん。その拳を俺に振り下ろしたら今知ったことじいさんの監視員に言いつけるぞ?」


「何をふざけたことを。どういうつもりか知らんがどのみち貴様は死んでこの世にいない――」


「―――ルシアの娘が特別扱いされてること。本当は知られたらまずいんじゃないのか?」


 振り下ろそうとしたガルマードの拳が止まった。イズが何を言っているのかルシアも理解できない。けれどガルマードは間違いなく動揺から拳を止めた。


「ガキが! 貴様の言葉など俺が聞くわけない――」


「――口封じに俺を殺すか? じいさん。でも今の言葉はルシアやお姉さんや生徒たちに聞かれちゃったな。それに……外界の人たちにも」


 イズが周囲を見渡す。その視線を追うようにガルマードも周囲を見る。騒ぎすぎてレストランの店員や客の視線を釘付けにしていると気づいたようだ。


「色々理由つけながら無礼な俺に何もしなかったのはルシアに気遣ったわけじゃなく、外界実習ってやつを監視するやつがいるからだよな? 監視するやつがいなければ引率する生徒を置いて今すぐルシアと食事に行けばいい。外界の人たちがいる目の前で俺を殺せばいい。そうしないのは生徒の実習内容ってのが関係していて、夜まで仕事を監視されてるからじゃないのか?」


 ガルマードは何も言わない。イズの言葉が続く。


「俺の推理が正しいなら、外界で騒ぎになるのはかなりまずいんじゃないか? もしかしたらじいさんがアクソロティ協会に制裁されるかもよ? ――だから取引だ。そのリコって子を許してやってくれ。その代わり俺はさっきの件を誰にも言いふらさない。でも取引しないってんなら俺は今ここで大声出すぜ?」


「何を言ってるのかわからんが……貴様、ガキの分際で俺に脅しをかけるのか? そんな態度を取って楽に死ねると思うなよ」


「なら殺してみろ。今すぐ言いふらしてやるぜ。俺が苦しんで死んでも、じいさんも苦しんで死ぬぜ? あの世でどんな拷問受けて死んだか俺に教えてくれよ?」


 ガルマードは目を血走らせ、拳を握り、太い腕から血管が隆起し、ギリギリと奥歯を噛み締める。しかし不敵な笑みを浮かべるイズに対して何もしてこない。


 それはイズが言った内容は全て事実だと暗に伝えている。


「このまま無事で済むと思うなよ、ガキ」


 拳を下ろしたガルマードは踵を返して足早に歩き出す。


「急げお前ら! 俺についてこい! 無駄な時間を喰った!」


 少し困惑した様子の子供たち。けれど隊列を崩さずにガルマードの後を追いかけていく。その光景を見ているとリコの手を握るミーシャが何も言わず深々と頭を下げた。


 イズは何も言わず笑顔で手を上げるとミーシャは微笑み、それからルシアに目配せした後、足早にガルマードの後を追う。


 その後ろ姿を見つめていたルシアはふと気配を感じて目線を向ける。テーブルの下からエリウェルが姿を現した。


「イズ。匿ってくれてありがとね。とっても助かった――ってイズ?」


 イズは突然床に座り、額から流れる滝のような汗を拭う。


「なんだよあれ! あのじいさんマジで怖えー!」


 まったく動じないと思っていたが、どうやらイズもしっかりと恐怖していたようだ。そのことが面白く、ルシアとエリウェルは声を上げて笑う。


「ありがと、イズ。あんたのおかげで本当に助かったわ」


 ルシアは健闘を褒め称え、腰を抜かすイズに寄り添って優しく抱きしめた。

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