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第26話 将来の夢

 ヴェルフェゴールの脅威が去った後、ジェヴァークの砂漠のオアシスにあった建造物は全て燃え尽き、見事に更地となった――はずだったが、物体を構築できるエリウェルの魔術が復興を手助けし、所有者たちから大いに感謝された。


 単に復興を手助けしたから感謝されたというわけではない。エリウェルが復旧前の状態を知らないのをいいことに過大な要求をして、壊れる前の建造物より格段に立派な建造物を造ったからだ。


 そんなエリウェルは今も利用者たちから豪華絢爛な建造物を造れないかと要求されており、その要求に憤慨したレテルが利用者たちと揉めている。


 新築の宿場屋上の縁に腰かけ、オアシスを一望していたイズは笑い声をあげた。


「レテルすげーな! おじさんとめっちゃ喧嘩してんじゃん!」


「そんなの見て面白いの?」


 急に影が差し、声が聴こえて振り向くと日傘を差したルシアが立っていた。ルシアはイズの隣に腰かけ、持っていた革製水筒を手渡してきた。


「面白いぜ。エリウェルのことになるとムキになるところとか」


 そう言ってイズはルシアから貰った水を勢いよく飲む。


「まあ確かに。――って私が飲むぶんも残してよね!? お水結構高いんだから!」


 もう既に飲み干してしまい、先ほどまでパンパンに詰まっていた革製水筒の今の寂しい姿をルシアに見せた。呆れた顔をしたルシアは空になった革製水筒を受け取る。


「もう。全部飲んじゃって。――そういえばシンクはどこにいったの? イズと一緒に屋上まで上がってたわよね?」


「ああ。シンクならあっち」


 イズは業者が多く集まっている場所を指さす。


 業者たちはアクソロティ協会員の指示で避難していたのだが、避難指示が解除されたことに伴い、復旧した建物に荷物や家畜を移動させている。シンクはその手伝いの真っ最中だ。


「なんだか楽しそうに手伝ってるわね、シンク。イズは一緒に手伝わないの?」


「俺は今、夢を見るのに忙しいんだ。だから後で手伝うよ」


「夢?」


「ああ。勇者になる夢。俺、たまにこうやって一人になって自分が将来なりたい勇者を想像するんだ。そうしないと迷ったり悩んだりするからさ」


「なるほど。それはとてもいいことね」


 そういってルシアはほほ笑む。その笑顔を見ていたら急に不安が押し寄せてきた。今日、勇者になるうえで立ちはだかる魔王の強さや大きさがなんとなくわかった。それと同時に自分の弱さも。


 ルシアみたいな凄い魔術師たちの頂点に君臨する魔術師。それがアクソロティ協会長アレン・ローズ。イズが戦うべき魔王の名前。


 夢を叶えるためにはアレン・ローズを倒さなければならない。けれど魔術の使えない自分は果たしてアレンを打ち倒せるのだろうか。そう、イズは悩む。


 悩んだら不安が押し寄せてきて、口には出さないつもりだったのにどうしてもルシアに聞きたくなった。


「なあ、ルシア?」


「ん? どうしたの?」


「俺、ちゃんと成長してるかな? 成長して大人の男にならないと立派な勇者になれないだろ? 俺、なんかちょっとだけ不安になったんだ」


 考え込むように日傘の隙間から空を仰いだルシア。その目線の先を追いながらイズも顔を上げると雲一つない青空が広がっていた。


「イズ、人はね。色んなものを見たり、聞いたり、感じたりして成長するものなの。成長するとさらに色んなものが見えるようになって、聞こえるようになって、感じるようになる。そうすると人は色んなことがわかるようになって、色んなことができるようになる」


 でもね、と言ってルシアはイズを見つめる。


「そうやって知識と視野が広がると人は迷い、悩み、苦しむものなの。だから今、イズが悩んでいるのは成長の証。間違いなく順調に夢の勇者に近づいてるわ。それは私が保証する。――だからイズ。自分のペースでいいから沢山悩んで、成長して、いつか強くて優しい勇者になりなさい。ね?」


 ルシアがかけてくれた優しい言葉。ルシアが見せてくれた優しい笑顔。ルシアの優しさは少しイズには眩しくて、まだ手は届かないと思わせるけれど、いつか肩を並べられるような大人になりたい。イズにそう決意させた。


「そっか…。そっか! そうだったのか! 俺、成長してるんだな! 俺も大人の男に近づいてるんだな!」


 そう言って立ち上がるとシンクのほうに目を向けた。


「ルシア。俺、やっぱりシンクと一緒に手伝ってくるよ!」


「ええ。そうしなさい」


 イズは屋上から降りるために駆け出した――ところで言わなければならないことを思い出して立ち止まる。


 こういったことは恥ずかしい。けれどちゃんと言わないときっとダメだ。そう思ったイズは振り返ってルシアを見た。


「なあ、ルシア」


「なに?」


「えっと……いつもありがとな」


 イズは気恥ずかしさを感じながら笑顔で感謝する。ルシアは目を丸くしたがすぐに優しい顔でほほ笑んでくれた。


「ええ。どういたしまして」


 そうしてイズは晴れ晴れとした気持ちでシンクの元へと駆け出した。

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