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第22話 全力で見逃せ

 宿場の外に出たルシアはアリティエやアクソロティ協会員と一緒にイズとシンクの帰りを待っている。


 日差しの強い日中に遊び続けることはないため外で待とうというアリティエの提案を受け入れたルシアだったが、これはきっと拷問なのだと考える。


 宿場の軒下にある日陰で待つアリティエとアクソロティ協会員。その者たちの視線を背中で受けながら照り付ける太陽の下でルシアは待たされている。


「これで体調崩したらあいつら全員呪ってやる」


 恨み節を呟きながら額から流れる滝のような汗を拭っていると陽炎の中に二つの黒点が映った。その黒点がイズとシンクの姿だと認識できるようになる頃にはアリティエたちも日陰から出てきていた。


「ルシア、帰って来たぜ! けど一体どうしたんだ? こんな場所でさ」


「わかった! ルシア、宿場の人に悪戯して外に追い出されたんだろ?」


 いつもと違う二人の様子。ルシアは演技をしているのだと理解し、心の中で感心する。


「あんたたちと違うんだから悪戯なんてするわけないでしょ。そうじゃなくて、そこにいる怖い女性に疑われてるのよ。マレージョの王女を匿ってるんじゃないかってね。――あんたたち、マレージョを部屋に連れ込んだりした?」


 二人は互いに顔を見合わせて首を横に振る。


「「知らない」」


「そうよね。――そんなわけだからアリティエ。何かの勘違いだと思うのよ」


 アリティエは顎を撫でながら黙り込んだ。この沈黙は被疑者を論理的に追及するため、質問内容を組み立てる思考だろうことはルシアも承知している。だからその思考時間を潰して、この場から離れてしまうことが最善だと考え、話を続けた。


「同じ学友で、同僚のあなたに疑ってほしくないわ。私ってそんなに信用ないかしら」


 心情に迫ってみたものの反応はない。これ以上言葉を並べても思考の邪魔は出来ないと判断したルシアは続けて逃げの算段を立てる。


「何を言ってもだんまりなのね。けどどんなに疑っても証拠不十分なんだからこれ以上拘束される理由もないわよね? アリティエ、私たち旅の途中だからそろそろ行かせてもらうわ」


 体裁上の言い訳を並べ立てたルシアは笑顔を作り、二人に合図してこの場から離れようとしたとき、ようやくアリティエが口を開いた。


「母親の愛を求める孤児、奪われた娘の代替を連れ歩く母親。互いの需要は一致してるけど歪な親子関係だね。それって楽しいの?」


 ファイーナとの接点を誤魔化す三人の嘘を暴くための発言とは程遠いアリティエの問いかけ。突飛な質問過ぎて感情が追いつかないものの、どうやら怒らせることが目的のようだ。そんなことで目くじらを立てるほど、ルシアは短気ではない。


「お生憎様。そんな安い挑発で私たちを引き留められると思わないことね」


 二人の手を引いて宿場内へと足を運ぶ。そんなルシアを逃がすまいとアリティエが目の前に立ちはだかる。


「ミウちゃんって言うんだね、ルシアの娘。あなたに似てきっと知的で美人に育つだろうね。――大人になるまで生きることができれば、だけど」


 ルシアは足を止めた。手を引くイズとシンクが顔を覗き込んできたため、割かれそうな心の傷を見せまいと必死に平静を装った。


「私にもあなたにも関係ない話よ。教育課程が修了するまでチャイルドヘイブンから出してもらえないんだから」


「私の報告の仕方一つでミウちゃんの小さな命が消し飛ぶほどには、関係あると思うけどな」


「ファイーナ王女との繋がりを見つけるつもりのあなたにとって、何をどう報告しても結果は変わらないじゃない」


 額から流れ出る汗は照り付ける日差しによるものではない。ふらついて倒れそうな感覚があったルシアは必死に二人の手を握りしめて心を支えてもらう。


「私はねルシア。命じられた役割を多くこなして早く出世したいんだ。だから温情をかけるつもりなんてないよ。――けどね、私利私欲のためだけに友人を売り渡すほど、私も冷酷じゃない。だから取引しない?」


 アリティエが組み立てていたのはファイーナとの接点を炙り出すための追及方法ではなく、如何に残酷な現実を突きつけるかという見せ方だ。


 家族、恋人、友人という人質を取り、見せしめとして裏切り者の大切な者の命を奪ってから粛清する傀儡政権の最たるアクソロティ協会において、アリティエの話した全ては現実だ。その現実をアリティエは突きつけた。二人の子供たちと気ままに旅をする呆けたルシアに。


 楽しい旅の中で忘れていた現実。残酷な現実を突きつけたルシアに選ばせたいカードを差し向けたアリティエは妖艶に微笑んだ。


「これはまだ協会内でも一部の人間しか知らないことなんだけど、レテルを筆頭とした反アクソロティ協会派の者たちが世界中から仲間を募ってアレン様やアクソロティ協会に反旗を翻そうとしているの。けど、さすがレテルだけあってその証拠を掴ませてくれないんだよ」


 足元から這い寄って来るどす黒い闇が少しずつ体を縛り付けようとしてくる感覚。その感覚にルシアはひどく気持ち悪さを覚えながらアリティエの次の言葉を待った。


「だからルシアには反アクソロティ協会派の者たちに近づいて、私に情報を流してほしいの。レテルや学友たちと仲の良いあなたなら簡単でしょ? そうしたら今回の件、見逃してあげてもいい」


「ずっと一緒だった学友たちを裏切って、子供たちと自分の命を取れと?」


「三人で旅する楽しい日常を選択したらって言ってるの。ただ、かつての学友たちはルシアの日常に含まれないだけ」


 アクソロティ協会への裏切りか、仲間たちへの裏切り。二択を迫られているようで事実上一択しか選択肢がない。アクソロティ協会への裏切りを選択した場合、必然的に娘の命を捨てることとなる。そしてイズとシンクとの別れも。


 それを二人の目の前で選択できないと判断したアリティエの一手は、ルシアの体を雁字搦めに縛り付ける。


「ふざけんじゃねえ!」


 叫んだのはシンクだ。ルシアが握っていた手を離した途端、今まで我慢していた感情が爆発したように、腰の刀に手を置いた。


「お前それでもルシアの友達か!? そんな選択ルシアが選べるわけねーだろ! 家族も友達もみんなみんな大切だからずっと苦しんでるんじゃねーのか!? そんなこともわからねーのか!?」


「シンク、あんた……」


 シンクの吐き出した言葉はルシアが溜め込んだ苦悩。その苦悩を代弁してくれたシンクの成長に込み上げるものがある。けれどどんなに苦悩を代弁したところで、二人を嘲けるアリティエには微塵も響きそうにない。


「シンクくん。きみの言葉は軽すぎて何も響かない。どれだけ理想を思い描いても、現実では叶えられないから人は悩むんだよ。でも、理想を語り、並び立てないところを見るとルシアと旅した時間は随分ときみを成長させたんだね。夢を語るだけの子供から現実を見つめる大人へと確実に成長してる。――だから人生の先輩として、もう少しだけ現実を勉強させてあげる。かかってきなよ、シンクくん」


「駄目よ! シンク! あんたじゃアリティエには勝てない!」


 アリティエの見下した言葉がシンクの心に火を灯したようだ。もうルシアの言葉は耳に入っていない。


「上等だ! ぶった斬ってやる!」


 透明なオーラを放出し、体制を低くしたシンクは鯉口を切り、アリティエを睨みつけて標的を捕捉する。そして弾けるように飛び出した。


 最速で懐へと飛び込んだシンクはアリティエの胴体に狙いを定めて抜刀する。移動速度と重心を正確に調整し、人生最速であろうシンクの放った刃は間違いなく対象を切断するだけの距離まで近づいた。


 しかし接触する瞬間に対象の姿が消え、見事なまでに空を切った刃は斬撃の威力を空気が伝播し、真空の刃となって前方の建物を真っ二つに両断した。


 恐るべき剣技を見せたシンク。そのシンクを驚愕させるアリティエは後ろから抱きしめ、悪戯にほくそ笑んでいる。


「近接戦闘が苦手な私に背後を取られるようじゃ、アクソロティ協会に喧嘩を挑んでも返り討ちに合うだけだね。――どう? 少しは勉強になったかな?」


 シンクの拘束を解いたアリティエの体から燃え滾る炎の如き紅蓮色のオーラが溢れ出ている。その圧倒的なプレッシャーを直に受けたシンクは硬直していた筋肉を緩めた。


「くそ……」


 そう吐き捨てたシンクは悔しそうに刀を鞘に納めた。ルシアは戦闘が終結してすぐシンクの元に駆け寄り、両肩を掴んで体中をくまなく観察する。


「大丈夫!? 怪我はないの!?」


「あ、ああ。大丈夫だ……」


 その言葉に安堵の感情が込み上げてくる。


「うわー! すげー! マジですげー! パワーアップするとこんなことできんのか!?」


 一方、緊迫した状況など眼中にないイズは先ほどシンクが放った斬撃の威力に目を丸くし、両断されて崩れ落ちる建物の周辺を走り回りながら歓喜の声を上げている。


 二人と対照的な態度の無邪気なイズ。アリティエは小さく笑い声を上げた。


「イズくんは随分と大物だね。こんな状況でも全く動じないなんて。それとも私が怖くて現実逃避してるのかな?」


 イズの足がぴたりと止まる。そしてアリティエに体を向けると不機嫌そうに速足に詰め寄った。


「俺はおばさんなんか怖くねーぞ! むしろおばさんが俺を怖がってるんじゃねーの?」


「ちょっと理解できないな。シンクくんの全力を軽々といなした私を怖がる場面だと思うけど」


「おばさんなんか全然怖くねえ! 俺は勇者になる男だからな! 本気出せばおばさんなんて楽勝だ!」


「おばさんじゃなくてアリティエ、ね」


「おばさん!」


「アリティエ」


「おばさん!」


「アリティエ」


「おばさん!」


「アリティエ」


「おば……アリティエ」


「よくできました」


 呼び名で応酬する勝負の行方は微動だにしない笑顔で圧力を与えたアリティエに軍配が上がった。勝利を手にしたアリティエは悔しそうな顔をするイズの頭を撫でる。


 それで、と言ってアリティエは会話を再開した。


「話を戻すけどイズくんが私を倒すなんて無理じゃないかな? ルシアから聞いたよ? イズくんは――」


「――アリティエ!」


 何を言おうとしているのか瞬時に理解したルシアはアリティエの次の言葉を制止しようと叫ぶ。しかしアリティエは目もくれず、真っすぐ見つめるイズに宿場で聞いたことを語り始める。


「イズくんは魔術師としての素養がないんだってね。どんなに訓練しても魔術は一つか二つしか使えないんだって。そんな人が私に勝てるとは思えないし、勇者なんてカッコいい存在になれるとも思えないんだけどな」


 イズに隠していた事実を暴露され、血の気が引いていくのを感じた。


 いつか必ず打ち明ける必要はあるが、最近ようやく魔術の勉強に身を乗り出したイズの気持ちを汲めばこそ、場所や時間などタイミングを見て伝えるべきナイーブな話だと思っていた。


 それなのにアリティエは相手の気持ちなどお構いなしに暴露した。しかも打ち明けたのがルシアでないという点がなおさら悪い。魔術の面倒を見てきたルシア以外の人間が伝えると、まるでイズに意地悪しているようにも捉えられる。


 けれどそれがアリティエの狙いなのだろう。勝利のために相手の弱点を突くのは最も初歩的な戦術だ。しかし当のイズは全く気にしている様子はない。むしろ勝ち誇ったようなにやけ顔をしている。


「なーんだ。おば……じゃなかったアリティエ。全然大したことないな。さっきファイーナに検査してもらったけど、俺は魔術が一つか二つ使えるんじゃねえ。全く使えないんだ! だからおば……じゃなかったアリティエの言ったことは間違いだぜ!」


 自信満々な表情で事実を突きつけるイズ。アリティエは再びイズの頭を撫でた。


「そっか。イズくんは偉いな」


 アリティエが敗北を認めたのだと受け取ったらしいイズは笑って勝利の余韻に浸っている。


「バカー! 作戦忘れたのかイズー! わからないって言っとけー!」


「ファイーナって言っちゃダメでしょ! 知らんぷりしなさい!」


「あっ! そうだった! ――わ、わかりません……」


 今更そんなことを言っても帳消しにならないことくらいイズもわかっているだろう。そしてアリティエも勿論帳消しになどしない。


「バカと天才は紙一重って言うから気を落とさないで。――今聞いた言葉はしっかり覚えておくけど」


 自分の失態に意気消沈するも、持ち前のポジティブさですぐに立ち直ったイズは気持ちを切り替えるように勝気な顔をした。


「それより! アリティエに聞きたいことがあるんだけど!」


「どうぞ。白状してくれたお礼に答えてあげる」


 余裕綽々のアリティエは腰に手を当て、イズは腕を組んで勝負の体制を整えた。


「アリティエさっき出世したいって言ってたよな。出世って偉くなりたいってことだろ?」


「ええ、そうね」


「じゃあどうして偉くなりたいんだ?」


「偉くなりたい理由か。うーん。そうだね。偉くなればそれだけ自分の我がままを相手に押し通せるから、かな。例えば今、ルシアはアクソロティ協会のルールのせいで娘と離れ離れになって、選びたくない選択肢を私に選ばされている。もしルシアが凄く偉ければそんな悲しいこと無視できちゃうかもしれない。偉くなればそんな辛いことや悲しいことが起きないかもしれないんだよ」


「そっか。じゃあアリティエは今のアクソロティ協会が嫌いなんだな? だから偉くなって辛いことや悲しいことを無くしたいんだな? でもそれってアクソロティ協会を作った偉い人が嫌いってことにもなるよな?」


 ここで初めてアリティエの表情が陰る。イズの指摘したとおり、現体制に不満を抱くということはアクソロティ協会創設者アレン・ローズを否定することになる。それを肯定してしまうと立派な背信行為に繋がる。


「私はそんなこと一言も言ってない。イズくん。私が少し優しくしたからって調子に乗ってるみたいだね。あなたたち三人の運命は今、私の掌に乗ってるってこと忘れないで」


 少しではある。けれど確実にアリティエは感情的な姿を見せた。イズはその機を逃さない。


「今ちょっと怒ったな。それって言われたくないこと言われたから怒ったんじゃないの? ――そんなアリティエに嬉しいお知らせだ。今、俺たちを全力で見逃せばアリティエの夢が早く叶うぜ?」


 不機嫌さを隠すためか無表情になるアリティエ。けれど先ほどまで張り付かせた笑みを消した時点で勝負の優位はイズが上だ。それでも背信行為に繋がるようなボロを出さないのがアリティエだ。


「何を言ってるのかさっぱりわからないな。もうイズくんと話すことなんか何もないね」


 わからないという言葉で逃げることにしたアリティエ。ボロを出さないための一手だが、その戦法はイズもしっかり読んでいたようだ。


「わからない。友達に助けてって言えない。自分が偉くなるしかない。そうやって決めつけるのは簡単だよな。そして自分以外の人を……友達を信じるのって凄く難しいことだよな。でもな、アリティエ。俺たちは今アリティエの夢を聞いたから。俺やシンクやルシアが助けになれるかもしれない。だから俺たちに助けてって言えよ。言えないなら全力で俺たちを見逃せ。アリティエの夢を手助けしてやるから」


「理想ばかり口にする。シンクくんと違ってイズくんは本当に子どもなんだね。もう一度言うけど、そんな理想が実現できないから人は悩むんだ。私はそんな理想だけを口にする人と語り合う時間は持ち合わせてないの。もう話しかけないで――」


「――それでも理想を追いかけたいから、アリティエは苦しんでるんじゃないのか? 叶えたい夢があるから、辛いことや悲しいことがあっても頑張れるんじゃないのか? それなら今、俺たちを全力で見逃せ。まだ俺たちは頼りないかもしれないけど。でも、俺は将来勇者になる男だ。シンクは頭が良くて魔術の才能もあるから絶対に偉くなる。それこそ世界の王様にだって。ルシアは優しいから友達を作るのが苦手そうなアリティエを手助けできる。だから! 一人では無理でもみんながいれば助け合える! もう一度言うぜアリティエ。俺たちを全力で見逃せ!」


 アリティエを真っすぐ見つめるイズの瞳は一片も曇りなく澄んでいる。イズの発した言葉はその場しのぎのハッタリや嘘。ましてや虚栄ではない。もしかすると本当に理想の未来を実現してしまうのかもしれない。そう感じてしまうほど、未だ幼い夢を語る少年の姿は光り輝いている。


 けれど辛い現実を見続けてきたアリティエは九歳の少年の言葉を鵜呑みにしないだろう。それは苦楽を共にしてきた学友のルシアは痛いほどわかる。


「イズくん。残念だけど今のメルトリアで夢を持つことがどれほど大変な――」


 そう口にしたところで突然アリティエは空を見上げる。その行為に不思議さを覚えるより前にルシアも気づいた。


 降り注いでいた焼けつく太陽の日差し。荒涼たる砂の海を流れる熱風。それらを遥かに凌駕する熱気が辺りを覆っていた。


「随分と手間を掛けさせてくれたね、ルシア・フェルノール。科せられた封印を解き、きみを探し出すのに半年間も費やしたじゃないか。でも……次は失敗しないよ。時間の檻ごときみたち全てを焼き尽くすから」


 声の先を辿って顔を上げる。そこには黒ローブに身を纏う人物が空に浮いていた。


 黒ローブ。男女とも区別のつかない声。炎を操る力。強大な魔力。そしてルシアを目の敵にして半年間分の怒りをぶつけようとしてくる人物。心当たりは一人しかいない。


「ヴェルフェゴール!」


 声を荒げるルシアがオーラを放出したと同時にヴェルフェゴールの言葉が重なる。


「させないよ! インフェルノ・ダムド!」


 周囲に発生した赤黒い炎が鎖となってルシアの体をがんじがらめに縛り付ける。


 その瞬間、オーラの放出ができなくなり、体の力がうまく入らなくなったルシアはよろけて倒れそうになる。しかしその体をシンクが支えてくれた。


「ルシア! 大丈夫か!?」


「ええ。ありがとう、シンク」


 そう言って膝をついたルシアは周囲を見渡す。いつの間にか視界に映る全てが灼熱の業火に染まっている。もう逃げられる状況じゃない。


「アリティエ! あなたの力で――えっ……?」


 先ほどまでいたはずのアリティエがいない。それだけではなくアリティエと一緒にいたはずのイズの姿も消えてしまっている。


 周囲全てが灼熱の炎で覆われているこの状況で走って逃げたなんて考えられないし、逃げ場なんてどこにもない。そもそもイズがシンクを置いて逃げるなんて絶対にありえない。


 考えられるのは一つ。アリティエがイズを連れ、瞬間移動でこの場から脱出したということだ。


「さて。刻限の魔女。命の幕引きにしようか。今後の計画を進めるうえで、きみの存在は少々厄介だ。――インフェルノ・グラビティオス」


 ヴェルフェゴールの言葉の終わり。周囲を覆う灼熱の炎が壁のように押し寄せ、ルシアとシンクを飲み込んだ。

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