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第0話 新世界の父

 漆黒の雷が天を衝くと幾重にも重なる禁忌という名の障壁が音を立てて瓦解していく。


 これまで揺るがないと盲信していた常識は澄み渡る青い空に発生した巨大な歪とともに終焉の時を迎えようとしている。


 大気が裂け、大地が揺れ、海が荒れ。この地に生きとし生ける全ての命が断頭台に上げられ、世界が慟哭する。


 迫り来る終焉の直中。世界中でただ一人。アレン・ローズはこの時を、開闢の時を待っていた。実に六十年もの間。 


 銀色の髪と髭を生やし、重厚な正礼服を纏うアレン。その身に宿る活力や野心は枯渇することなく生気に満ち溢れ、深く刻まれた顔の皺から覗かせる瞳は未来に希望を見据える少年のように燦然と輝く。


「異世界が来い! 我が元へ! 引きずり降ろしてやる! 幾星霜も拒み続けたその堅牢な扉。このアレン・ローズがこじ開けてくれる」


 アレンは嬉々として笑みを浮かべ、産声を上げて誕生する我が子を迎え入れるように大きく両腕を広げた。


「さようなら世界。おめでとう新世界。私がこの世界の父だ」


 そして世界は祝福の闇に包まれた。

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