タイムリープ?
「おめでとうございます」……誰だ?
「ママですよ〜」……走馬灯かな?
「……」あれ、声が出ない。
「んぎゃー」!?なんだこれ。
手を見る。小さくて、ふにゃふにゃしてる。
握ってみる。力が入らない。
夢か?いや、違う。これは……生まれた?
数日が過ぎて、俺は確信した。
これは転生じゃない。タイムリープだ。
俺は、もう一度、俺の人生をやり直している。
前世の記憶は、鮮明に残っていた。
でも、赤ちゃんの体で生きるのは、正直きつい。
話せない、歩けない、自由がない。
精神は81歳なのに、体はゼロ歳。
泣きたい時は泣いたし、面白ければ笑った。
感情のままに動いていた。
それが自然だったし、無理に抑える必要もなかった。
ただ、うんちは我慢できなかった。
くさかった。
前世ではトイレに行くのが当たり前だったから、最初は戸惑った。
赤ちゃんたちの大変さを実感した。
母親の乳を飲むことに、抵抗はあまりなかった。
気持ちがいいかと言われると、そうでもなかった。
3歳になる頃には、歩けるようになっていた。
その頃から、家にある絵本や図鑑を読み始めた。
ひらがななんて、見ればすぐに思い出した。
前世で何十年も使ってた言語だ。
母に「秀咲って、なんか大人びてるね」と言われたとき、心の中で思った。
――そりゃそうだ。親より精神年齢上なんだから。
父も母も、優しくて温厚な人だった。
父は「勉強はしといたほうがいいぞ」と言うけど、無理に押しつけてくることはなかった。
母はいつも可愛がってくれて、でも礼儀がなってないときは、ピシッと叱ってくれた。
幼稚園に入ってからも、俺は周囲と少し違っていた。
本を読んでいると、他の子が「貸して!」と奪っていく。
でも、俺は泣かなかった。
「いいよ、また読めばいいし」
そんなふうに、大人びた対応をしていた。
先生には「秀咲くん、あんまり泣かないね。大丈夫?」と心配された。
俺は、泣くことが悪いとは思っていなかった。
でも、泣くほどのことでもなかったから。
それだけ、俺の中で感情の基準が違っていたんだと思う。
幼稚園では、ひとりでいることが多かった。
兄の9歳の誕生日、家族で遊園地に行くことになった。
父は運転席、母は助手席。後部座席には俺と5つ上の兄。
兄はテンションが高くて、「ジェットコースター乗ろうぜ!」と騒いでいた。
俺は、内心うんざりしていた。
前世でもジェットコースターは苦手だった。今世でも、やっぱり無理だった。
結局、母と2人でメリーゴーランドや観覧車に乗った。
「秀咲は、優しいね。お母さんと一緒にいてくれてありがとう」
そう言われて、少しだけ胸が温かくなった。
父と兄は絶叫系を回っていた。
兄は文武両道で、友達も多くて、陽キャそのものだった。
前世では、兄から「お前は馬鹿だ、出来損ないだ」と言われ続けていた。
それがずっと心に刺さっていた。
今世では、まだそんなことは言われていない。
でも、兄の明るさと優秀さに、少しだけ距離を感じていた。
帰り道、近くの温泉に寄った。
母に女風呂へ連れて行かれた。
「まだ小さいから大丈夫よ〜」って言われたけど、俺の中身は81歳だ。
女風呂に入ったとき、体は何も反応しなかった。
若い人もいたけど、心は静かだった。
体が年齢に合わせて反応することに、妙な納得感があった。
体は年相応の反応を示す。
このギャップが、俺の中で不思議な感覚として残り続けた。
湯気の匂いや、風呂場の静けさが心地よかった。
おばあちゃんたちの会話を聞きながら、ぼんやりと湯船に浸かっていた。
5歳のとき、妹が生まれた。
小さな手、小さな泣き声。
俺は、妹を見た瞬間に「守らなきゃ」と思った。
前世では兄と喧嘩ばかりだった。
ゲームを奪われて、泣いたこともあった。
でも、今世では違った。
妹には優しくしたかった。
ミルクをあげる真似をしたり、絵本を読んであげたり。
妹が笑うと、俺も嬉しくなった。
「2人は仲良しね。秀咲、妹とも仲良くしてあげてね」
母にそう言われたとき、ふと前世の兄との記憶がよぎった。
――あいつ、俺のゲーム勝手に持ってったよな。
少しだけ、腹が立った。
でも、妹は違う。
要領が良くて、優しくて、そこそこ頭も良い。
前世では、俺が一人になってから、よくゴルフに誘ってくれた。
今世では、もっと仲良くなれる気がした。
そして、小学校の入学式。
式典の間、俺はずっと違和感を感じていた。
先生の話、周囲の子どもたちの反応。
すべてが幼く感じた。
――この精神年齢で入学式は、ちょっと恥ずかしいな。
でも、俺は決めた。
前世よりも頑張ろう。
今度は、もっといい人生を送ろう。
そう、心の中で強く誓った。