魔王、もう限界。自ら出撃する(RTA開始)
「……3階でまた迷ってる……愛しすぎて泣ける……でもさすがに限界だ……」
「あー、スライム踏んで滑ったか、、お前ら…!!道の端を歩けとあれほど…」
ノクターラ魔王城、最上階。
世界を震わせた“災厄の王”は、今日も水晶球を眺めていた。
中に映るのは、何度も転んで鼻血を出し、スライムに踏まれて泣きわめく、むっちり勇者・ミリア。
「可愛い……でも無理……もう無理……俺が行く……!」
バサァッ!!
黒外套を翻し、魔王アーヴィンは立ち上がる。
扉を魔力で吹き飛ばし、部下の魔族たちを前に言い放った。
「以後、全軍退避。勇者が通るルートは完全無敵状態にしておけ」
「ま、魔王さま直々にご出撃!?!?」
「これは戦ではない──愛だ」
魔王RTA、開始。
罠を消し、階段を削り、壁を壊し、自作の非常口ルートをつなげていく。
魔物たちは魔王自ら手を下して休憩所へ誘導。
「よし、ここにポーション。あそこは滑り止め設置。魔力濃度を30%下げて……」
全部、ミリアのため。
“彼女が自力で魔王城を突破したことにする”ための、完璧な舞台作り。
──災厄の王は今、
“勇者を溺愛するただの男”として、全力で恋路を整備していた。
──次回、第4話『邂逅。倒したことにされて、気絶する』