むっちり勇者、転生してもやっぱりダメだった
転生して一年。
この世界での私の人生は、ひとことで言えば「しんどい」だった。
異世界の森で目覚めた私は、村に拾われ、「おお、神の子! 勇者だ!」と祀り上げられた。
そう言われれば、転生者らしいし、勇者なんだと思った。
私だって、「チートスキルを駆使して世界を救って、元の世界に戻る」くらい夢見た。
……でも現実は違った。
「ファイアボール!!」
ズガァァァァン!!
「ぎゃああああああっっ!?!?!?!?」
今日も自爆。尻が燃えた。ヒール魔法で回復する前にまた転んで鼻をぶつけた。
運動神経?前世から据え置き。
体力?10分走ったら立ちくらみ。
魔法?制御できない。
剣?筋力が足りなくて振ったら肩が外れた。
おまけにむっちり体型。村の鍛冶屋には「その足で登山は無理」と断言された。
それでも頑張った。訓練した。魔王討伐にも何度も挑んだ。
けど、そのたびに返り討ち。迷子。自爆。即退却。
気づけば村人たちはため息しかつかなくなっていた。
そして、ついに言われたのだ。
「……倒すまで、戻ってくるな」
そう、追放されたのである。優しさのかけらもない笑顔付きで。
──というわけで、今私はひとりで、魔王城の前に立っている。
ノクターラ魔王城。世界最恐の存在、魔王アーヴィンがいる場所。
ここに足を踏み入れた者の大半は、二度と戻ってこないという。
「やってやる……絶対、倒す……帰ってやるんだから……!」
涙目で扉を押したら、「ギィィ……」と意外にもスムーズに開いた。中は静か。敵もいない。
「……あれ? なんか、空いてるし、敵も出てこないし……まさか、歓迎されて……る……?」
ないないないない!
でも、もう進むしかない。
転生者が、帰る方法もわからないまま。勇者としての力もないまま。
ただひとつの希望を胸に、私は魔王城の中へ足を踏み入れた。
──誰も、知らない。
その道がすでに、“魔王によって整備された愛のRTAルート”だということを。
──次回、第3話『魔王、もう限界。自ら出撃する(RTA開始)』