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花影の遺言  作者: ysk
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最終章◆揺れる月影

◇東屋に刻まれた記憶◇

静寂な夜、東屋は穏やかな風に包まれる。

透真は柱の傷跡に指を滑らせ、そこに刻まれた記憶の温もりを感じ取る。

それは単なる痕跡ではなく、誰かの時間と想いが染み込んだ証。


曇った鏡の奥には、過去と現在が交差する淡い光が滲み始めていた。

透真はその揺らぎに目を細める。


紗雪が静かに息を吸い、鏡に触れた瞬間、影が微かに揺れて彼女の輪郭に寄り添う。

それは消えることのないもの——受け入れるための光だった。


彼女は春の桜、夏の雨、秋の風、冬の静けさと共に、全ての記憶を心に抱きしめる。


その瞬間、鋭く鐘の音が切り裂く。


透真の胸奥が震える。それは恐怖ではなく、深い安堵と解放の感覚。

鐘の音は、過去の鎖を解き、心の奥に眠る感情を呼び覚ます。


夜を貫く静かな音が重なり、鏡の奥の光がそっと揺れた。

その光は、過去の痛みを照らしながらも、未来への希望を含んでいる。


凛は鏡の前で立ち尽くす。


風がそっと吹き抜ける。

遠くの鐘が三度、静かに間隔をおいて響く。

彼女の胸は微かに震え、言葉が喉元までこみ上げるが、夜の静寂に溶けて儚く消えていく。

その瞳には微かな微笑が宿り、心の解放を物語っていた。


◇影の視点◇

鏡の奥から世界を見つめる影。

それは映しではなく、東屋に積み重なった記憶そのもの。


紗雪の指先が触れるたびに影は揺らぎ、透真の視線の先には影が映る。

しかし、影もまた彼を見つめ返していた。


鐘が三度鳴る。

静かに、間隔をおいて響く。


その音は、記憶の断片を呼び覚ます合図だった。

影の揺らぎが強まり、鏡の奥で眠っていた光が鮮やかに輝く。

それはここにずっと存在していた、消すことのできない時間。


鐘の音は、切なさと安らぎを織り交ぜ、心に温かな余韻を残す。


◇沈黙の終わり◇

曇る鏡は完全には晴れない。

しかし、僅かな光が差し込む。

過去を包み、未来へ導く光。


透真は目を閉じ、揺れる光と鐘の余韻を感じる。

紗雪は風の囁きに耳を澄ませ、凛は鏡をじっと見つめる。

その瞳の奥には、不安ではなく静かな確信が広がっていた。


問いは終わることなく、続いていく。

時間は揺らぎながら、ここに在る。


最後の鐘の音が静かに響き渡る。

その音色は希望の光となり、新たな時代の扉を明るく照らす。


風が吹き抜け、夜が再び訪れる。

しかし、その夜は以前とは少しだけ異なる色彩を帯びていた。


Fin.

この物語を書き上げるまでの時間は、静かに降る雨のようでした。

時に過去を揺らしながらも、確かに未来へと流れていく——そんな、しんとした流れの中で綴られた物語です。


『揺れる月影』は、過去と現在、そして未来が交差する物語。

過去とは決して消え去るものではなく、曇った鏡のように、時として真実の輪郭を揺らめかせながら、私たちのすぐ傍に在り続けます。

それでも、人はその曇りの中にかすかな光を見つけ、また一歩、前へ進んでゆく——そんな想いを胸に、筆を取り続けました。


物語を紡ぐうちに、登場人物たちの沈黙や揺らぐ時間、東屋に宿る影が、少しずつ輪郭を持ち始めました。

そして迎えた結末には、それぞれの選択と共に、「問い」が「問いのまま」で終わるのではなく、未来へと繋がっていく可能性を示すことができたのではないかと思います。


「完全な晴れではなく、それでも光が差し込む。」

そんな余韻が、この物語を読んでくださったあなたの心に、そっと残ることを願ってやみません。


ここまで共に歩んでくださったすべての方へ、心よりの感謝を。

そして、今この言葉が、あなたの記憶のどこかにそっと残りますように——


Fin.

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