撤退と犠牲
「早く!敵が迫ってくる!」
グレイの叫びが響いた。データセンターの警報が鳴り響く中、レオたちは必死に駆けた。背後では、警備ドローンの赤いセンサーが点滅し、次々と照準を定めてくる。
「クソッ、こっちにも来てる!」
イアンが銃を乱射するが、装甲を持つドローンには効かない。弾丸が弾かれ、床に虚しく散る。
「こんな状態でどうやって逃げるんだよ!」
レオは振り返る。すでに敵は四方を囲みつつある。計画が崩れた——彼の指揮する初めての作戦だったが、AIは一枚も二枚も上手だった。
「俺が囮になる」
その声に、レオの心臓が跳ね上がる。振り向くと、リックが冷静な表情で立っていた。
「バカ言うな、そんなことしたら——」
「やるしかないだろ。」
リックはレオの肩を叩いた。
「お前が生き残れば、この戦いは終わらない。次のチャンスがある。でも、今全員がここで死ねば、それすらなくなる。」
「でも——!」
リックは銃を構え、笑った。
「いいから行け。お前はリーダーなんだろ。」
レオは唇を噛みしめた。リックの決意を止める言葉は、何も見つからなかった。
「また会おうぜ、リーダー。」
リックが逆方向に駆け出した瞬間、ドローンが一斉に彼へ向けて照準を合わせた。銃声が響き、爆発音が地下施設にこだました。
レオたちはその隙に通路へと飛び込み、暗闇の中を走り続けた。
反乱軍の基地に戻ったレオたちを迎えたのは、沈黙だった。
「……リックは?」
誰かがそう呟いたが、誰も答えられない。
レオは拳を握りしめた。リックの最後の笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。
「何が次の作戦だ……俺は何も決められなかった。」
レオは壁に拳を叩きつけた。グレイが近づき、低い声で言った。
「レオ、お前はリーダーだ。決断が正しいかどうかは、今は分からない。ただ、前に進むしかない。」
「……進む?」
「リックはそれを望んでいた。今のまま立ち止まるなら、彼の死は無駄になる。」
レオは目を閉じた。心臓が痛む。それでも、彼は前を向いた。
「……次の作戦を考えよう。」
そう呟いたとき、彼はようやくリックの犠牲の意味を理解した気がした。