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出発

 楽しいことを待つ時間とは結構長く感じるもので。そう、なんだかんだ言って僕も旅行を楽しみにしていた。行き先は知らされていないが必要なものを準備する時間はやはり楽しい。


 考えてみれば旅行なんて何年ぶりだろう。引っ越す前は年に一度のペースで一泊の家族旅行があったのだが、それ以降は修学旅行ぐらいしかまともな遠出はしていないことに気がついた。あの時は夜の話が楽しすぎて案の定寝不足になり、どこを観光したのか何を研修したのか思い出せないぐらいだ。あの時は誰が好きなのかとか誰と誰が付き合っているのかとかくだらない話で夜明けまでよくおきていられたなと思う。見回りの先生も巻き込んで怪談とか今考えると笑ってしまうようなことがたくさんあった。


 『そう言えば、結局行き先はどこなの??』


 出発日を来週に控えて僕はそう聞いた。何しろ近場に行くとは言え何も知らされていないのだからさすがにそろそろどの辺りなのかを聞かなければ荷造りを完成させることは出来ないと思った。山なのだろうか?それとも海??まさか隣町ってことはないだろうけど??


 「本当は当日まで言いたくなかったんだけど、しょうがない、教えてあげましょう。」


 なんでそんなに上から目線なのだ?とは言わずにおいた。そんなことを言って機嫌をそこねたら恐らく教えてもらいないだろうというのはこれまで付き合ってきた中での経験だ。


 「涼の昔住んでいたところ。ちょっと遠いかもしれないけど、一泊だし午前中に出発すればお昼ごろ着くでしょ?案内してほしいな。」


 亜紀の性格を知り尽くしていた気でいたが、さすがにこれは思いつかなかった。よくもまぁそんなことを思いつくものだと関心もしたが。


 『午前中に出発って、何時間かかるか知っているのでしょうか?おそらく、朝食前に出発しないとお昼には着きませんけど??それと確認だけど、電車ですよね??』


 車の運転が嫌いなわけではないが、旅行に関して僕は持論がある。旅行とは息抜き、気分転換に重きを置くべきで、旅行のために疲れたりって言うのがどうしても考えられない。旅行から帰ってきて、「やっぱり家が一番だよね~。」なんて言うのは間違えているとしか思えないのだ。


 「案内してって言ったよね?電車やバスは貴方の言ったところへ行ってくれるのかしら?車掌さんに『あ、そこ曲がってください』って言えるのならかまわないけど??」


 どうやら車で行くことに決定しているみたいだ。


 『…ですよね。車は行きたいところへいけるし、時間も気にしないでいいですものね。うっかりしてましたよ。』


 長丁場になりそうだ。前日は早めに寝て体調管理をしっかりしていないといけなさそうだ。


 『でも、恐らく案内はあまり出来ないと思うよ?前にも言ったけど、僕が住んでいたのは小学校低学年のころまでだし、君は信じていないけど本当にあまりその頃のことを覚えていないんだ。通っていた学校ぐらいしか案内できないと思うけど?』


 「それでもいいよ。涼の小学校の姿を少しでも想像できるようにこの計画を立てましたから。どんな小学生だったんだろうね。」


 亜紀が言うには、今思い出せなくても街並みを見れば何か思い出すでしょ?とのことだった。全然そう思わないが、ここは好きにさせておこう。それに、覚えていないとは言ってもやはり懐かしいと思える場所なのだ。小さい頃の僕は確実にそこで小学生をやっていたのだし。


 






 『いくらなんでもこの時間は早過ぎないでしょうか?世間ではまだ朝ごはんを食べている人も少ない時間ですよ?』


 「一応夏休み期間だし、何が起きるかわからないでしょ?お昼には宿にチェックインできるんだから文句言わないの。さ、安全運転でお願いします。」


 …6時前の出発だった。小学生だってまだラジオ体操にも行っていないし、カブトムシ取りに命をかける小学生だってまだ寝ているはずだ。なんだってこんな時間に出発しないといけないのだろうと、眠い目をこすりながらそれでも出発した。一応言っておくけど、亜紀は車の運転ができない。いや、できるのだがしようとしない。亜紀が車を運転しているのを最後に見たのはいつだったろう。…おそらく、僕が一足先に卒業した教習所で見かけたあの運転だろう。


 どうやって行くかは一応地図もあるし両親に道を聞いたりしておいたので恐らく問題はないだろう。今から出発すればお昼少し前にはつけるはずだ。どうやら亜紀は旅館のご飯よりも下調べした店でのランチを楽しみにしているらしい。こういうことはきちんとしているのがなんとも亜紀らしいと言うか女性らしいと言うか。


 『何となくこの辺りの風景は覚えているような気がするんだよね。ほら、そこのお店とか。』


 「よく見てる?開店セールって意味わかる?適当にもほどがあるわよ?」


 あれ?勘違い?確かに見たことがあるような気がしたのだが。


 『車の運転てなんでこんなにあくびがでるんだろう。ほら、あの人もあくびしてる。』


 「ほぉ~ね。」


 君もですね。思わず二人して自然と笑ってしまった。車での会話は尽きることはないけど、やはりお互い無言になる時間はある。そうなると普段より早起きしたこの身にはとてもつらいので音楽をかけるのだが、しばらくすると亜紀が不機嫌になる。二人でいるのになぜ音楽を聴くのか?もっと二人で出来ることをしなさいとよく怒られるのだが、さすがに何時間も話し続けるのは厳しい。こんなこと言えないが、亜紀が寝てしまうと少し僕も気が楽になるのだが残念ながらその気はないようだ。


 『ちょっと休憩入れようか。一度道筋も確認しておきたいし亜紀も疲れたろう?』


 「待ってました~。ちょっと前から我慢してたのよね。」


 『トイレ行きたいときは言えばいいのに。』


 「レディはそんなこと恥ずかしくていえないの。で、どこで休憩?いい加減限界でシートの安全が保障できなくなりつつありますけど?」


 『あれ?レディはどこへ行った??』


 など軽く漫才をしながらコンビニエンスストアで休憩することにした。こんなときコンビには便利だと思う。もちろん、トイレだけ借りるのは気がひけるのだが。


 どうやらもうすぐで僕が育った町に入りそうだった。地図を見る限りではこの辺りも何度か自転車で遠乗りしていたはずなのだがどうにも思い出せない。いや、おそらくあの当時はここにコンビニなんてなかったはずだ。うん、きっとそうだろう。


 「何独り言いってるの?何か食べ物か飲み物はいる?」


 口に出すとまた呆れられそうなので僕はごまかしつつコーラをお願いした。それにしても今日は天気がいい。昔は天気がいい日の夕方は決まって雨が降っていた気がする。覚えていないけど母がよくそんなことを言っていた。

昔は15時ぐらいから雨が降って気温が下がったりしたから今ほどは寝苦しい夜ではなかったと。

よく言う夕立って雨は今はゲリラ豪雨としてよくテレビでもニュースになっているが、こんなに降るようになったのは本当に最近なのだとよく言っていた。



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