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25 断罪と出生

「レーシア……!」


 ウルナ裁判長に私が社交パーティーで起こったことを話し終わった頃、突然王の間の大扉が大きな音を立てて開いた。

 そこには片腕・片目を無くした満身創痍の男と動物たちが立っていた。ミーシャがこちらへ寄ってくると


「心配になって戻ったらこの男が殺されかけていたから助けた。こいつ、悪い奴じゃなかったよな? ミュゲ」


 と私に聞いた。グレイブは手の中にあの透明の宝石、宝石鹿の角のかけらを握っている。彼の頭の上には夢見のシマエナガとピーちゃんが母娘で乗っかり、マンマはスターミンクの姿のまま彼の腰に巻き付いていた。


「えぇ。これで罪の証明ができるわ! ウルナ裁判長。彼が、グレイブ・パルヴァー、先ほど、エヴリンが全ての首謀者だと言った人物です」

「ふざけるんじゃないわよ……」


 エブリンが吐き捨てるように呟き、グレイブを睨んだ。


「あなたは、グレイブ・パルヴァー公爵ですね」

「はい、えっと……証明とかっていうのは?」

「衛生兵、治療を。手短に現状を説明差し上げるわ。えっと……レーシアさん、お仲間たちに彼から離れるように言ってくれるかしら?」

「みんな、こっちでゆっくり休みましょう。お茶もケーキもあるわ」


 ミーシャをはじめとした、シマエナガ母娘、スターミンク母子がグレイブから離れると私の方へやってくる。一方で私は衛生兵と一緒にグレイブの治療にあたる。


 グレイブはウルナ裁判長から先ほどまでの流れを聞き、憤慨したり反省したりを繰り返した。


「俺がペガサスを傷つけたことは間違いありません、毒をエヴリンから支持されてメイドに渡したのも事実です。ペガサスについては亡きヘレナ様からのご指示で、その場にいた何十人もがその場面を見ているはずです。毒物に関しては……エヴリンが俺に指示を出した証拠があります」


 グレイブはウルナ裁判長の部下に耳打ちをした。ウルナ裁判長の部下はそれを彼女に伝える。


「貴方の自室の場所を教えていただけますか」

「俺の自室は騎士宮の最上階、金色のライオンのドアノブです。その部屋の中、先ほど伝えた場所に」

「すぐに調査を」


 ウルナ裁判長が命令すると、彼女の部下が走っていく。エヴリンはギリギリと音が響くほど歯軋りをを、暴れようとして何度も押さえつけられていた。


「みんな、助けてくれたのにすまない。あのペガサスを傷つけたのは俺だ。すまない」


 グレイブはケーキを楽しむミーシャたちに向かって謝罪した。ミーシャたちは何も答えず、それを無視した。答えたのは、部屋の端で座っていたヴォルフだった。通常の狼姿の彼はすくっと立ち上がると、彼に近づいて


『お主は、ペガサスを傷つけた。それは許されぬ罪だ。それは、のちほど罪を償え。だが、我々ミュゲの眷属はあの時、あの看守長からミュゲを逃したお主に感謝もしているのだ。だから、我らに謝る必要などない』

「すまない……」


「ウルナ裁判長、彼の証言通り見つかりました。エヴリン嬢のサインがついた文です。毒の隠し場所が指示されています。恋文の間に」

「なるほど、ヘレナさんの世話役として離宮……女性しか立ち入れない場所で過ごしていたエヴリンさんは恋文と称して婚約者であるグレイブさんに指示を出した。そして、貴方が実行した。間違いないわね」

「ウルナ裁判長、エヴリンさんの部屋から同じ便箋と同じ色のインクが。また、彼女が他の書類に署名したサインと一致しました」


「エヴリンさん、貴方の証言は覆ったわ。確かな証拠もある。あなたはフォードムーン国王とヘレナさんの毒殺の首謀。星月中央裁判所はエドリム第二王子の告発を受け入れます」


「いやよ、なんで……なんで全部、この女の! レーシアなんかの都合のいいように動くの? グレイブ、なんで生きてるのよ!」


「グレイブさん、エヴリさん。あなた方はこれから星月中央裁判所の留置場に収監されます。これから細かい証拠の検証や証人の尋問等が行われ、星月中央裁判所が処罰を下します。告発者のエドリムさん、この件は内乱に分類されるので、貴方が望めばティムロイ王子が目覚めてから、星月裁判所から国内の機関へ引き継ぎもできるけれど……」

「まだ、兄は目覚めていません。それに国もボロボロです。処罰のみ国内で行わせていただきたいです」


「わかりました。


 やっと話がまとまって、発狂していたエヴリンとすっかり傷が塞がったグレイブが連行されようとした時、再び王の間の大扉が開いた。


「ウルナ様、こちら資料と証人をお連れました」


 ウルナ裁判長の部下が声をかけてくると、そこにはスペリントン公爵夫妻が連れてこられていた。彼らは怯えたような表情と、どこか焦ったような雰囲気で私とエドは顔を見合わせた。


「証人?」

「はい、ウルナ裁判長。レーシア様とエヴリン様の出生調査についてでございます」


 資料を受け取ったウルナ裁判長はメガネを外し、もう一度資料をまじまじと見つめ眉をぴくりと動かした。


「なるほど。スペリントン夫妻。ここに書かれていることは事実ですか?」


 スペリントン公爵は「はい」と消え入りそうな声で言った。


「ウルナさん。一体何が?」

「エドさん、レーシアさん。それからエヴリンさん。よく聞いてください。この資料はスペリントン公爵家とフレイユ子爵家で結ばれた誓約書です。このことを口外しないことを約束したもの」


 私もエヴリンも心当たりがなく首を傾げた。


「誓約書。私、ドミニク・フレイユ子爵は以下のことを口外しないことを誓います。フレイユ家はスペリントン公爵家に生まれた忌みの目を持つ子をフレイユ家の娘として引き取り、フレイユ家に生まれた娘をスペリントン家へ引き渡します。このことは一切口外せず、我々フレイユ家はいかなることがあってもスペリントン家に引き渡した実子に対する権利を主張しません」


 ウルナ裁判長が読み終えると、空間がシンと静まり返った。


「忌みの目、とは彼女の瞳のことでしょうか?」


 エドの声に、スペリントン公爵が答える。


「あぁ、スペリントン家では従来、緑色か青色の目と決まっているんだ。赤は血を連想させ、スペリントン家にふさわしくない。だから……当時同じ頃に出産をしたフレイユ子爵家に命じたんだ。子供を交換するようにと」

「なんてひどい……、貴方たちはフレイユ夫妻から赤ん坊を奪ったのか?」


 エドはスペリントン夫妻に軽蔑の視線を向け、私を励ますようにそっと寄り添った。私は、目の前にいる二人が「実の両親だ」と言われても全く受け入れることができなかった。


「奪ったなんて言わないでちょうだい。そもそも子爵家のものは私たち公爵家のものなの。何が悪いっていうの? でも、失敗だったわ。やはり、子爵卑しい血が流れたエヴリンはこんなことをしてしまうなんてね」


 スペリントン夫人はエヴリンそっくりの口調で話す。それを夫の公爵は申し訳なさそうに見るだけだった。

「今回の出来事をご存知で?」


「貴方たちが先ほど話しているのをドアの前で聞いていたのよ。入る隙がなかったみたい、この調査員の人がそう言ってたわ」


 スペリントン夫人は私に向かってにっこり微笑んだ。


「レーシア。貴方が私の娘よ。貴方も実は公爵令嬢だったとしって嬉しいでしょう?」


 私は彼女の手を振り払った。


「私の母は、ミサ・フレイユただ一人です。父はドミニク・フレイユ。あなた方は私には何の関係もないお人。階級なんて私にはもうどうでもいい」


 そんなこと言わずに、と食い下がるスペリントン夫人をエドが間に入って止めてくれ、私はそっと後ろに下がった。「目の色」なんていうくだらない理由で、お母様は大事な赤ん坊を強引に取り上げられたのだ。生まれたばかりの子供を引き離されるなんて、母親にとってみれば死ぬような苦しみだろう。


——聖女が生まれるのは王族・公爵の令嬢


 謎がこんなにも悲しい形で解けるとは思ってもいなかった。


「いやよ……いやぁぁぁぁ!」


 驚いて体がびくりとするくらい、エヴリンが奇声を上げる。彼女はオレンジ色の炎のような赤毛をかきむしり、ぎゃあぎゃあと喚く。


「私が、子爵の娘? 私が、下級貴族の血が流れてるなんてありえない! 私が……私は、実の両親を殺した?……いや、違う! 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!」


 公爵令嬢、血筋にこだわっていた彼女にはこの事実が一番の罰になっているようだった。彼女は自身が下級貴族の出身であったこと、そして実の父親と母親であるフレイユ夫妻を自らむごたらしいやり方で死に至らしめたこと。


「スペリントン家はエヴリンの裁判が終わってからティムロイ第一王子と共に進退については考えます。ウルナさんありがとう」


 エドがそういうと、ウルナ裁判長は調査員たちと共にエブリン、グレイブを連れて王座の間を出て行った。中央裁判所の命令で騎士長より一連の流れが伝達された。


「エドリム王子、ティムロイ様が目覚めるまでの間、我々への指示をお願いできますか」


 エドはそう言われて、少しだけ悲しそうな表情をしてから


「わかった。まずはお兄様に使われた睡眠薬を特定して、医者に見せてくれ。それから、聖女様とその眷属たちを森へ送る馬車を用意してくれ」


 と言った。ティムロイ王子がペガサス襲撃の後からながらく昏睡状態にあり、今回のエヴリンの悪事とは関わっていなかった以上エドが彼を超えて王になることはない。国は救ったけれど、彼の願いは叶わなかったのだ。


「レーシア、また森で」

「えぇ、いつでも会いにきてね。さぁ、みんな森へ帰りましょう」


 エヴリンの悪事が公になっても、私のお父様もお母様も戻ってこない。恐ろしい人間の本性を何度も見てしまった。馬車が動き出す。

馬車の中、動物たちをぎゅっと抱きしめて、いろんなモフモフに包まれながら眠った。



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