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24 真の聖女とエヴリンの罪

 エヴリンが森を襲撃したあの日、私が馬車に乗った後、エドはすぐに麓の村に助けを求めに行った。消火活動とそれから残った軍人たちの退散を促すことを、軍人は「国家叛逆だ」と言ったが、村人たちは「聖女のために」と協力してくれたそうだ。


 その後、スターミンクの元を訪ねエヴリンたちが川に投げ捨てた聖女の宝石を探すことをお願いした。それから、教会であの傷ついた夢見のシマエナガを連れて宝石鹿のジニの巣穴へと戻った。エドとグランはその足で星月中央裁判所で向かい、今回のことを告発した。翼を無くしたグラン、森の襲撃のみしか証拠がなかったが、その後、村人たちの証言によって「フォードムーン王家に異常事態が起きている」ことが確認でき、星月中央裁判所が正式に聞き取りにここへきたとのことだ。


「伯母さんと呼ぶのはおよし、エドリム。今はウルナ裁判長よ」


 ウルナ裁判長は私を椅子に座らせ、ハンカチをよこした。


「ありがとうございます。私はシスター・ミュゲ。前の、名前はレーシア・フレイユです」

「えぇ、大体のことはエドリムから聞いているわ。さて、エヴリンさん。貴女は『エドリムが主張する女性、絶対に聖女なんていない』とおっしゃっていたけど、どういうことかしら?」


 エヴリンは王妃の座に座ったまま顔を青くした。ぐっと眉間に皺を寄せ、言い訳を考えているようだった。


「そいつは、偽聖女よ。私が捕まえて牢屋に入れていたけれど、汚い犬の力を使って脱獄したのね。なぜならこの子はフレイユ子爵家の令嬢よ? 聖女は公爵家、または王家の人間が授かる力。彼女の出生からしてありえないのですわ」


 エヴリンは勝ち誇った顔でウルナ裁判長を見つめた。


「では、エド。彼女が聖女である証明は?」


 エドは私の方へ歩み寄ってくると、跪いて私の手の甲にキスをした。そして、私に


「あれを受け取ったかい?」

 

 と言った。私は頷いて、ポケットから七色に輝く宝石を出した。ウルナ裁判長は部下に指示し、資料を出させると私の手の中にある宝石と見比べて、頷いた。


「聖女の宝石が七色に光っているということは、彼女は聖女で間違いないと判断できるわ。エヴリンさん、反論は? 貴女は、先ほどから発言がコロコロと変わっていて全く信用ならないけれど。レーシアさんが聖女であることは認めるわね?」


 エヴリンは私をぐっと睨んだ。そして、小さく「間違いを認めるわ」と呟いた。


「では、貴女は聖女であるレーシアさんを偽の聖女だとして投獄した。その根拠は、彼女が子爵令嬢であるにも関わらず女神の啓示を受けて聖女になったことが認められなかったと? エドリムの証言では、あなたは聖女の宝石でその存在を確認したと。それはいかがかしら」


「それでも信じられなかっただけです。ペガサスの翼を落としたも聖女をつくるため。国のためだったのです。まさか、こんなことになるなんて」


「もう少し、聞き取りを続けます。まず、貴女は聖女誕生の日に聖女が都市に現れずペガサスの翼を使ってヘレナさんを聖女にしようと提案をした。そして、ペガサスの翼をグレイブ・パルヴァーが切り落とし、エドリムがペガサスを連れて逃げ出した。その後、城では毒物により国王陛下とヘレナさんが死亡。ティムロイ王子は眠ったまま。毒物については、グレイブ・パルヴァーの提案でメイドが実行犯。ティムロイ王子の昏睡については偽聖女の魔術と言っていたけれど、レーシアさんが本物の異常どう説明するのかしら?」


「それも……グレイブが勝手にやったことよ。おそらくね。彼は自分が王になりたいと願う人だったから。ほら、ペガサスを傷つけるような人間よ? それが何よりもの証拠じゃない。ねぇ、もういいかしら。ご存じでしょうけど、私は大罪人グレイブの罪を暴いた功績でティムロイ様とのご婚約が決まったのよ。彼を起こす方法を見つけて……そうだ、聖女様。ティムロイ様を直してちょうだいよ。きっと何か毒物が……」


 私はエヴリンのあまりのひどさに悲鳴に近い声をあげた。彼女のせいで傷ついた人・動物たちがたくさんいる。私の両親も、魔法生物たちも、グレイブも。


「もうやめて、エヴリン。私は投獄された時、グレイブと会ったわ。彼は貴女の指示で、全てをやったとそう言ってた。あなたは、平気で動物たちを傷つけ、私の両親を殺し、あろうことかこんなに王族の方々が亡くなって間もないというのにどうしてそこに座ることができるの?」


 エヴリンがピクリと眉を動かす。私を睨んで、それから冷静になって「ならグレイブに聞けばいいわ」と言った。


「レーシア、君が閉じ込められていた場所はどこだい? そこにグレイブもいるのかい?」


 エドが私の肩に触れ聞いたが、私は静かに首を振った。


「彼は、わたしたちを逃すため足止めをしてくれたの。あの怪我では……今頃はもう」


 それを聞いたエヴリンはクスクスと笑った。


「偽の聖女だと思ったのは彼女の出自としてあり得ないから。けれどそれはごめんなさい。私が信じるべきだったわ。その罪に関しては聖女様を城に迎え、最高級の待遇をすることで償いましょう。ペガサスを傷つけたのも毒物を持ったのはグレイブなのだし、私はただ勘違いをしてただけ。何も悪いことはしていないわ。グレイブという証人もいなければ、証拠もない。さ、こんなことは終わりにしましょう」

「エヴリン、貴女は仮にも婚約者だった殿方に罪をなすりつけて恥ずかしいと思わないの? 自分さえ良ければそれでいいの?」

「レーシア、証拠がないってことは私は無実なの。貴女は、王座を狙うエドリム王子に何か吹き込まれたのかもしれないけれど……事実なのよ。ねぇ、裁判長」


 エヴリンは不敵に笑った。

 私は、傷つけられた動物たち、そして両親とグレイブの無念を晴らすこともできない。何よりもエヴリンを野放しにしてはいけない。


「では、少しお茶でもして身辺調査の結果を待ちましょうか。エドリムさんに関しては必要ないのでレーシアさんとエヴリンさんの身辺調査をしているので」


 ウルナ裁判長はメガネを外すと椅子に腰掛けて、私にも座るように言った。


「レーシアさん。貴女、先ほどエヴリンさんに『私の両親を殺した』と言ったわね。そのことについて聞いてもいいかしら?」


「ウルナ裁判長、その話は証拠がないとして僕は話していませんでした」


 エドの発言に私も同意する。言った言わないの論争になってしまうことを「証拠」を重んじる裁判長に話すのは無駄かもしれない。


「だから、お茶にしましょうと言ったのよ。きっと貴女とエヴリンさんとの主張は異なるでしょうけれど、何があったかを知っておきたいの」


 私は、ウルナ裁判長にあの日、社交界デビューのパーティーで起こったことから順に話すことにした。



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