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15 エドの計画と居候


「おはようございます。エド」

「お、おはよう」


 エドは黒い髪をぴょんぴょんと寝癖で跳ねさせ、眠そうな目をぐりぐりと擦った。彼は朝が弱いのかぼーっと空を見つめ何度も瞼を閉じる。


「もう少し眠っていても構いませんよ。パンが焼けるまでまだ時間はあるし……私は畑の様子と朝の掃除に出てきますね」

「わかった……」


 エドはごろんとベッドに寝転がると再び毛布をすっぽりとかぶって再び寝息を立てる。彼は城からこの森まで休みなくグランを守りながら走ってきたのだ。一日中眠っても疲れが取れ切れるかわからないくらいだろう。

 

「ピーちゃん、静かにね」


 ピーちゃんは返事をせずに羽をパタつかせると私の腕を伝って肩の上に乗っかった。ミーシャの方はとっくに朝ご飯を食べて、暖炉の前の暖かい場所で丸くなっていた。私は教会で朝のお祈りと掃除をすませ、畑で野菜を収穫した。今日は大きな茄子とトマトが収穫できたので、新しいレシピを試すことができる。

 トマトとナスといえば、昔お家で食べたラザニアが私の大好物だった。私があまりにも好きだというものだからナスが苦手なお父様もそのうち食べられるようになったと言っていたっけ。とても食べたいけれど、パスタなんてこの家にはないから我慢しなくちゃ。薄く切ったパンを代わりに挟んでオーブンで焼けば……ダメダメ、あまりにも贅沢だわ。


 収穫を終えると私はキッチンへと戻る。エドはまだ眠っているので静かに焼けたパンをスライスして昨日の残りのシチューを温める。それからスライスしたパンとトマトをソテーして新鮮なバジルを散りばめる。良い香りが漂い始めると、ベッドがぬくぬくと動き、エドが起き上がった。


「おはようございます、エド」

「おはよう」

「粗末なものですけど、朝食はいかが?」



***


「レーシアは料理がうまいんだな。トマトをこんがりソテーしてパンに乗せるとこんなに美味しいなんて知らなかったよ」

「実は、これは先代のシスターが残したレシピなんです。とは言っても、私が生まれた子爵家ではお料理を教えていただけることも多かったから、エドが知っている貴族の御令嬢とは違うかもだけれど」


 エドは口の周りについたパンの粉をさっと拭うとミルクを飲み干して「ありがとう」と微笑んだ。


「さて、これからどうするか聞かせていただいてもいいかしら?」

「僕はしばらくこの森で過ごし、都市からは完全に消息を断つ。王家の人間たちは僕が亡命したとでも思うだろう。その頃合いで、僕は信頼できる友人を訪ね国王とお兄様を糾弾する」

「信頼できる友人?」

「友人……という関係性ではあるが彼は僕の伯母、つまりは国王の姉君だよ。君も知っているだろう? 星月中央裁判所の裁判長だ」


 星月中央裁判所というのは私たちの住むフォードムーン王国と隣国のスターリッツ帝国の2国が共同で運営する完全中立機関である。この中央裁判所では他の国々との取り決めや条約などを結ぶ国際的な機関である。

 その裁判長はエドのいうようにフォードムーンの元王族。彼女の夫はスターリッツ帝国の元皇族。その他、裁判員たちは各国から集められたエリートたち。


「友人と言ったのは、彼女ら裁判官たちは中央裁判所及び星月地区に住むにあたって家族の縁を切るんだ。中立な裁判のためにね。だから今は伯母でなく友人の一人なんだ。僕は証拠をあつめ、中央裁判所で告発と調査の依頼をする。ペガサスとの盟約を破った罪を償わせるんだ」

「私は、グランの様子をみることと引きつづき森を守るわ。エド、私の力が必要になればすぐに言ってほしい」

「わかっている。すまないが、今は国境の監視が厳しくなっているはずだ。少しの間ここに居候させてほしい。僕は王子という立場だが、今は追放された身。畑仕事でも掃き掃除でもなんでも力になろう。いや、僕を使ってくれて構わない。こんなふうにお客様ではいられないからね」


 エドは私の手を握るとぐっと力のこもった眼差しをくれた。彼の強い意志がヒリヒリと伝わってくる。私も、お父様とお母様の汚名を晴らすとともにグランを傷つけたグレイブにしっかりと罪を償わせたいと思っている。それから、エヴリン様に……彼女とスペリントン家の人たちと向き合って会話をしないと。たとえ、信じてもらえなくても自分の意見を言わないと。


「わかりましたわ」

「敬語じゃなくていい、今は王子じゃない。教会に身を寄せるただの男だ」

「わ、わかったわ」

「よし、それじゃあ早速グランの様子を見に行ってくるよ」

「まって、グランの好きな食べ物は? もし倉庫か畑にあるものなら持っていきましょう。きっとお腹を空かせているはずだわ」

「君は、本当に……」


 エドがふっと眉を下げて微笑むので私も釣られて口角を上げる。ミーシャが気だるそうに返事をして、ピーちゃんが「ピピピ」となにやら主張をする。ここから、私と第二王子エドリムの同居生活が始まったのである。



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