第97話 神光石
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第97話 神光石
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覇天残党の襲撃未遂があったことで、一旦ダンジョンから出ることにした。
ランクを下げた二人の覇天は、姿が消せなくなったことで逃げた。でも、あの後すぐにモンスターに食われて死んでいたよ。
「覇天はかなり始末したからな。おかげでカトリアス聖王国に入れておる者らも動きやすくなっている」
なんだ、すでにお爺様は知っていたのか。そりゃそうか。カトリアス聖王国に暗部を入れているのはお爺様だ。その情報がないわけがないんだ。
「トーマを攫おうとしただけでも許せんのに、アリューシャを攫いその記憶を奪ったのだ。本来であればカトリアス聖王国に攻め込んで三総大主教の首をこの手で取ってやりたいのだが、それでは民が苦しむ。攻め込むにしても最適な時期がある。すまないが、もう少し待ってほしい」
「いえ、俺は戦争なんて望んでないので、できるだけ皆に被害がないようにお願いします」
「うむ」
おそらく戦争は起こるのだろう。だけど、被害を少なくすることはできる。そのためにしばらくは動くことになるのかな。
さて、これでこの国の覇天は文字通り壊滅した。今後は覇天に限らずカトリアス派の進入を防ぎ、さらにはカトリアス聖王国内の情報網をさらに弱体化させていく方針だ。
あと、俺のほうも神殿のデウロ派を増やしていく。そのためにデウロ信徒になった人のランクを定期的に上昇させる。それだけでデウロ様を妄信するほど信仰してくれるんだ。
再びアリラック・ダンジョンに入った俺たちは、一層から地形把握で虱潰しに確認していった。
そして三日後、二十層で四方を壁に囲まれた部屋を発見したのだ。
壁の厚みはおよそ一メートル。ダンジョンの壁は頑丈で簡単には壊せない。
「うりゃっ!」
ベンがモーニングスターを壁に叩きつけた。
「うげー、手が痺れたー」
壁はわずかに傷ついたが、これでは穴を掘るのにどれだけの時間がかかることか。そう考えている間に壁の傷はなくなってしまった。
どうやら、自己修復する壁のようだな……。
「これは厄介ですな」
シュザンナ隊長が苦笑する。
だけど、俺には変換がある!
簡単に思いつくのは、変換・レベル一の物質変換、レベル三の場所変換(転移)、レベル六の異空間倉庫が使えると思われる。
まずは異空間倉庫にダンジョンの壁を収納できるか試してみよう。
―――異空間倉庫。
ボコッと一メートル四方の壁がなくなった。
「「「おおおっ!」」」
神殿騎士の皆さんの反応がいい。ちょっと鼻高々。
ゴゴゴゴゴッ。
「「「え!?」」」
なんと壁が埋まってしまった。
しかし、ダンジョンの壁の修復機能はえげつないな。これでは穴を通っている間に修復が発動して壁の中に埋まってしまいそうだ。
「なら、これはどうだ!」
―――物質変換!
ダンジョンの壁を扉に換えてみた。これならどうだ?
ゴゴゴゴゴッ。
「「「………」」」
まあ、そんな気はしていたよ。
「そんなわけで、素直に転移することにします」
レベルが三百になった時、消費マナ量が半減したけど、それでも多いんだよね、転移は。
「とりあえず俺だけ転移で中に入ってみます」
「お待ちください。どうか、我らを連れていっていただけませんか。何かあった時に盾となって少しは時間をかせげると思います。トーマ様ならその間に逃げることができるはずですから」
「シュザンナ隊長の気持ちは嬉しいのですが、皆さんを盾にして逃げるつもりはありません」
「ですが、それでは我らがいる意味がありません。どうか、どうか!」
その鬼気迫る表情に俺は根負けした。シュザンナ隊長は生真面目で、頑固だ。それが俺のためだから困ったものである。
「分かりました。一緒にいきましょう」
「「「ありがとうございます!」」」
「当然だが、俺たちもだよな?」
「ええ、そうね」
「もちろん一緒だよ」
ベンがニカッと白い歯を見せて笑う。そういうところが、ベンの男気を感じるところだ。
「それじゃあ、全員俺の身体に触れてください」
―――転移!
俺たちはその閉鎖された空間に転移した。
一応、空気があるのか心配していたのだが、問題なくあった。
その空間には巨大な水晶があった。それは高さ三メートル、太さは五十センチメートル、透明に近いピンク色をし、形は八角形で両端が尖っている。
しかも、空中に浮いているのだ。
―――情報変換。
・神光石 : デウロ神の神威が宿った石 この神光石を使徒トーマの領内にあるデウロ神殿に安置することで、トーマの力が上昇する また、神光石に祈りを捧げたデウロ信徒は神の奇跡に触れることになるだろう
「おおおおおおおおおおおおっ!」
これはすごいものだ!
「「「トーマ様!?」」」
「「トーマ?」」
俺は思わず跪いて祈ってしまった。
こんなすごいアイテムを用意してくださったデウロ様に感謝いたします!
これからも精進しますので、どうか俺を見守ってください。
【トーマよ、よくこれを発見したな】
で、デウロ様!?
【何を驚くのか。ハハハ】
驚きますよ、いきなりですもの。
【サプライズというヤツだ】
たしかにサプライズですね。それに、これまでより声が明るいように感じます。
【トーマのおかげで我への信仰心が増えてきている。この調子で頼むぞ】
もちろんです! どうか、俺を見守っていてください!
【うむ。さて、トーマ】
はい!
【この神光石を建設中の神殿に安置するがいい】
はい! あの神殿をデウロ様の神殿とし、この神光石を必ず安置します!
【この神光石を神殿に安置すると、このダンジョンはさらに深い層が解放される。トーマのレベル上げも捗るはずだ】
それはありがたいです。どのくらい深くなるのですか?
【フフフ。それはトーマが探索して調べるがいい。だが、これだけは言っておく】
ゴクリッ。
【今のレベルではとても神使らを見返すことはできぬ。いいか精進するのだ】
はい。精進します!
【以後は、この神光石を通して多少ならばこうやって話をすることができるだろう】
そうなんですね!
【だが、いつも応えられるわけではないぞ】
はい、分かりました。
あれ? そういえば、デウロ様は地上に干渉できないのではなかった?
【ハハハ。ダンジョンは地上ではないぞ。とはいえ、ダンジョンでもあまり干渉できないのは同じだ】
では、なぜ神光石を設置することができたのですか?
【神光石は元々ここにあったものだ。あの神使どもが誰も神光石に触れられぬように神光石の周囲にダンジョンを設置し、ご丁寧に誰も入れぬように壁で囲っておったのだ】
あいつら、ロクなことしないな!
いつかぶっ飛ばしてやりたい。そのためにももっとレベルを上げなければ!
あれ? 神光石を持ち出したら、ダンジョンの階層が増えるのはなぜですか?
【神光石は我の力が込められた石だ。それを封印するためにダンジョンの力の多くが割かれていた。その神光石がなくなれば、これまで使えなかった力をダンジョンが使うことができるのだ】
ダンジョンって生き物みたいですね。
【生きておるぞ】
え?
【ハハハ。人間のような生き物ではない。ダンジョンはダンジョンとしてしっかり意志があり、本来はその意志で成長するものなのだ】
そ、そうなのですね……。あの、アシュード領にできたダンジョンももっと深くなるのですか?
【なるぞ。あれはできたばかりのダンジョンゆえ、十五層で一度力を溜めにかかっておる。数年か数十年すれば再び成長を開始するであろう】
さすがに成長するとは思わなかった。
これはお父様に知らせなくてはいけないな。
【では、今回はこれでさらばだ】
ありがとうございました!
今後もデウロ様のために、信徒を増やしますので見ていてください!
デウロ様との会話を終え立ち上がると、神殿騎士たちが一心に祈っていた。
どうやら俺が祈り出したので、それに倣ったようだ。
ベンとシャーミーも祈っているが、二人は立ったままだ。
跪こうが、立ったままだろうが、デウロ様を敬う心があるなら問題はない。
皆の祈りを邪魔するわけにはいかない。しばらく待つことにした。
ご愛読ありがとうございます。
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