第92話 ビール職人
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第92話 ビール職人
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九月になり、ビール職人たちの目途がついた。
そこで俺は彼らにある選択肢を提示した。
一つめ、このままロックスフォール侯爵家のお抱えビール職人になる。この場合、給料は定額で、売り上げに見合ったボーナスがある。
二つめ、独立して自分の工房を構える。この場合、全て自己責任だが、上手くいったら富豪になれるかもしれない。
三つめ、商人などの経営ができる者と手を組んで工房を運営する。この場合は職人が経営者になるのも職人に徹するのも相手との話し合い次第。
また、経営ができる者は、うちが責任を持って見つける。
「どれを選ぶのも構わないですが、二つめと三つめを選んだ場合、バルド領内で生産するビールへの特許料はとても安くなります。特許料を簡単にいうと、ビールを開発した俺への上納金のようなものだと思えばいいでしょう。バルド領以外でビールを生産したら、多くの特許料がかかると思ってください」
ビールはデウロ様の名を広げるためのものだが、バルド領の産業としても期待している。
今のバルド領は、ライトスター家の劣悪な統治のせいで経済が停滞している。
もうね、ライトスター何してくれるんだって感じだよ。
「あの、聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
十人の中で最も成長したウォッカさんだ。
「ロックスフォール侯爵様の工房で働きたいのですが、希望すれば受け入れてくださるのですか?」
「ええ、もちろんです。ただし、当家に仕えてくれるのは嬉しいですが、厳しい品質管理をしてもらいます。これはどれを選んでもしなければいけませんが、俺は特に厳しいと思ってください」
こんなこと言ったら残ってくれないかもしれないけど、生半可な心構えなら逆に要らない。他の人を育てたほうがいい。デウロ様の酒を甘く見ないでほしい。
翌日、ビール職人の三人がうちに仕え、二人が独立し、五人が経営ができる者を紹介してほしいと回答した。
そこで、事前に選定していた経営ができる人たちを集め、五人と面会してもらった。
今回呼んだ経営ができる人たちは、全部で十一人になる。バルド領の商人が三人、アクセル領の商人が四人、王都の商人が二人、ジャドーズ領(リッテンハイム男爵の領地)の商人が一人、最後に王都の法衣貴族のブラッケ子爵の四男になる。
十一人とも人柄はお爺様が問題ないと言っている。
それと、いずれもバルド領でビール工房を建てることで、事前に合意している人たちだ。
職人が作ったビールを飲んでもらい、さらに自分がどんな強みを持っているのかプレゼンしてもらう。
そしてお互いに第一から第三候補まで書いてもらい、マッチングさせる。
マッチングしたら、次は本人同士で話をする。ここが一番重要で、お互いがどういった条件を望んでいるか話し合うのだ。ここで合意できた内容で契約書を作ることになる。
職人は口下手な人もいるから、それぞれに文官をつけて最初に希望を聞いている。話し合いにも立ち会いをしてもらった。
マッチングした結果、バルド領の商人が一人、アクセル領の商人が一人、ジャドーズ領の商人が一人、王都の商人が一人、そしてブラッケ子爵の四男がそれぞれ職人と結びついた。
別に一対複数でもよかったのだけど、職人はそれぞれ違う経営者を選んだ。
独立を希望する二人には、工房を建てる土地をうちから用意すると約束している。
領境近くの場所に建てられると、領地問題が起きかねない。そういったことも配慮した場所を用意する。
さて、うちに残ってくれる三人の職人だが、ウォッカさんとベルモットさん、そしてジョニーさんだ。ジョニーさんは今回の十人の中で一番若い十九歳になる。
俺も一度バルド領にいかないといけない。そのためには学園を休まないといけない。今はそのタイミングを計っているところだ。
鍛冶師のデニスさんは銅管作成に悪戦苦闘している。もう少しかかりそうだ。
冷蔵庫を造る職人のブルーノさんは、七月の終わりにバルド領に帰っていった。
ブルーノさんもデニスさんも独立してもらうことになっているが、工房を構えるための資金を無利子でうちが支援する。
ブルーノさんは冷蔵庫と冷凍庫の販売が軌道に乗ったら、ボチボチ返してもらうことになっている。
もっとも、冷蔵庫のほうはすでに数百という注文がきているため、返済はすぐに終わるだろう。
来年一杯はうちが注文を受ける窓口をし、ブルーノさんの負担を減らしている。おかげで注文数を把握できている。それ以降は商人に任せるつもりだ。
冷蔵庫も冷凍庫も販売は順調だ。それに比例し、アイシックル鉱石の採掘量も増えている。こちらは今のところブルーノさんの工房しか取引先がないから細々としたものだ。それでも鉄鉱石を採掘するついでに採掘できるので、問題はない。
そんなある日、王城から使者がやってきた。
「国王陛下はビールなる酒を御所望にございます」
酒好きの国王はビールのことを聞きつけ、使者を寄こしたらしい。
国王は酒好きなのに肝臓が酒に弱い。だから、酒は一日にコップ一杯と制限している。それなのにビールが飲みたいと言うのだから、困ったものだ。
「ビールを美味しく飲むには、まず冷蔵庫が必要です」
「冷蔵庫のことは聞いておりますが、ビールを飲むのにどうしても必要ですか?」
「ビールを最も美味しく飲みたいのであれば、冷蔵庫は必須です」
使者に冷蔵庫の仕様書と設置費用を提示すると、陛下に伝えると言って帰っていった。
その翌日、また使者がきて冷蔵庫を王城内に設置するようにと命じられた。
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