第91話 知的財産権
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第91話 知的財産権
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ジュエリーは女性たちにとても喜んでもらえた。ティファスさんはいい仕事をしてくれたよ。
それにティアラを受け取ったローゼマリーの頬が緩んだ。今まではツンのほうだけだったけど、今回はデレをいただきましたよ!
「あ、ありがとう。でも、勘違いしないでよね!」
頬を真っ赤にしたローゼマリーは走っていった。若い女の子にはプレゼント攻撃で親しくなるのがいいと誰かが言っていたっけ?
ビール職人希望者と、冷蔵庫と冷凍庫の製作を任せる木工職人や鍛冶師が王都に到着した。
その中には、アシュード領の鍛冶師ボーマンさんに師事したデニスさんもいる。彼にはビールにとって大事なものを作ってもらうことになる。
「先ずは皆さんにビールを飲んでもらいます」
予め酒が飲めるかどうか確認している。もちろん、全員飲める。なぜか冷蔵庫職人やデニスさんも参加しているけど、気にしないことにした。
「なっ!?」
「これは!?」
「美味いっ!」
そんな声が聞こえてくる中、ジョッキを見つめている三十歳の男性がいた。
「えーっと、ウォッカさんでしたか。どうかしましたか?」
「あ、いえ、とても美味しくて感動してました! 俺じゃなかった、私にもこんな美味しい酒が造れるのでしょうか?」
「それはウォッカさんの努力次第ですが、そこまで難しいものではないので、大丈夫ですよ」
「はい。これからよろしくお願いします!」
ウォッカさんは残ったビールを一気に飲み干して、最後に大きなゲップをした。
女性もいるのだから、考えてくださいよ。
「あー、美味い! もう一杯!」
いや、ここ飲み屋じゃないから。
ビール職人の希望者には、三人の女性がいる。その一人がこのベルモットさん(二十九歳)だ。ベルモットさんを見ていると、なんかラムさんを思い出す。豪快そうな性格の人だ。
さっそくビール職人たちに仕事を教えることにした。真面目に取り組んでくれさえしたら、そこまで難しいことはない。
「いいですか、ビールでもなんでもそうですが、酒を造る際は清潔にしてください。これができない人は、ビール造りに適していませんので、辞めてもらいます」
器用とか酒造りへの意気込みも大事だが、衛生管理は何より大事なものだ。
アシュード領の酒工房は俺が細かくチェックして、そういったところを徹底した。だけど、ビール工房は彼らに任せることになる。
雑菌が混ざってビールが駄目になる程度なら構わないが、酒王のように毒が混ざっているのは駄目だ。こちらは俺の領内で造るのだから、デウロ様の名にかけてそれだけは避けなければならない。
ビール職人たちは、王都で三カ月くらい修業してもらってバルド領へ帰ってもらう。
冷蔵庫を造る職人は、冷蔵庫本体となる箱と断熱材の作り方を一通り教えたらお終いだ。こちらは大工の棟梁の下で修業をしていたので、木の加工は得意分野だ。
断熱材の作り方はそれほど難しいものではないので、研修は長くかからないだろう。
「箱に断熱材をしっかり詰めないと、経年で断熱材が下に移動し上側の断熱効果がなくなるので、気にしてください」
「なるほど、分かりました」
冷蔵庫を造ってくれる職人はブルーノさんという二十五歳の男性だ。大工の修業をしてきたブルーノさんに、木の箱についてうんちくを語る必要はない。展開図と完成図を見せたら理解してくれた。
だから、断熱材の話をメインに行う。
なんでも、そろそろ独立という頃に、この話があって応募したらしい。
「デニスさんには、銅管を螺旋状に加工してもらいます」
「らせんじょう……ですか?」
こちらも図を見せる。
「丸い形状の管をグルグルとさせるのですか」
うん、グルグルさせてください。
「やってみますが、これはなかなか難しいですね」
「ですから、ボーマンさんに腕の良い職人を紹介してもらったのです」
「そこまで言われたら、やり切らないといけませんね。しっかりやらせてもらいます」
丸い銅管を螺旋状に加工するのは簡単ではない。俺の変換なら創ることが可能だけど、それでは産業にならないのだ。
「よろしくお願いします」
最後にスライム吸熱材の作成だ。そこまで技術がいるものではないから、俺はバルド領で旦那さんを亡くした女性を集めてやってもらおうと思っている。
だからうちの老兵士から希望者を募って、手を挙げてくれたウィングルスさんに作り方を教えた。あとはウィングルスさんがバルド領に帰って女性たちに教えてくれる。
七月の残暑が厳しいある日、お爺様が城から帰ってきた。
「知的財産権の法案が通ったぞ」
今まで特許制度や知的財産権などなく、コピーしたければいくらでも出来たパクリ天国だった。
以前そのことに疑問を呈したら、お爺様もその通りだと同意してくれた。その勢いで、法整備をしたらしい。なんという行動力であり、そしてすばらしい権力だ。
「知的財産権を侵害した場合、その売り上げの全てを賠償金として支払うことになり、責任者や積極的に協力した者は、強制労働刑に処せられることになった」
売り上げの全てとなると、その店は潰れるな。それだけ厳しくしておくことで、抑止するのか。
期間は特許が認められた日から三十年。申請して特許として認められるまでにコピーされてもアウトになる。
当然ながらこの国だけの法律だ。類似品を外国から輸入した場合は、販売額の三割を特許料として支払う必要がある。
これを支払わないと先ほどと同じ刑に処せられるという、結構厳しいものだ。
ただし、国内で作ったものに関しては、知的財産権を所有する者との協議して特許料を設定することが可能だ。
知的財産権は発案者と開発者、またはその両方にあり、発案者と開発者が違う際は共に登録することで、特許料が両者に入る仕組みになっている。
「そこで馬王、アッフェルポップ、各種薬膳酒、集光ランプ、冷蔵庫・冷凍庫、それにビールを特許申請しておいたぞ」
「ありがとうございます」
神殿が絡んでいるアッフェルポップと集光ランプは、滅多なことはないだろう。誰も神殿を敵にしたいとは思わないからね。
それでも欲の皮が突っ張った人はいくらでもいるか。
特許は面倒な手続きもあるけど、産業を守るために必要なものだと思う。だから『その地の領主が産業を保護するために、活用するべし』と国王のお言葉があったらしい。
俺は特許料が欲しくて知的財産権云々と言っているのではなく、産業を興しても根づく前に潰されるのが嫌なのだ。
今回の冷蔵庫・冷凍庫とビールは特許で守られることで、バルド領の産業として根づきやすくなると思う。そうなってほしいものだ。
ご愛読ありがとうございます。
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